ワーキングメモリとは、周りから得た情報を短時間で認識し、それを正しく処理して行動に移す能力で、短期記憶を保ちながらそれをベースに行動する力のことです。
ワーキングメモリは、「耳で聞く情報の記憶」、「目で見る情報の記憶」、「長期記憶や耳・目からの情報の統合的な保持」の3つの役割と、それらをコントロールする司令塔から成り立っています。
ワーキングメモリは効率的でミスのない業務遂行には重要であり、ビジネスパーソンにとってはパフォーマンスなどに関わり得る大切な要素です。また、日常生活でも「今お米を何杯まで入れただろうか?」といった何気ない所で発揮されており、個人差はあるものの運動機能や軽度の認知機能低下と関わりが深いと考えられています。子どもの場合は学業成績や授業中の集中力、落ち着きなどとも関連すると示唆されています。また、発達障害の子どもたちは、ワーキングメモリに課題があることがあります。たとえば、ADHD(注意欠如・多動症)を抱える子どもは「耳で聞く情報の記憶」と「目で見る情報の記憶」が苦手なことが報告されています*。ただし、ワーキングメモリが低いからといって必ずしも発達障害というわけではありません。
ワーキングメモリを調べる方法としては、ワーキングメモリ自体を調べるテストと、ワーキングメモリを含む知能検査があります。
ワーキングメモリを鍛えるのは難しいといわれていますが、困りごとを減らす工夫はできます。手順を1つずつ明確に説明してもらう、タスクや持ち物のチェックシートを使う、業務・勉強中は周囲の刺激を遮る環境を作るなど、その人の苦手な要素に応じてそれらを補うさまざまな工夫が考えられます。
*湯澤正通. 発達心理学研究. 30(4), 188-201, 2019.