監修
早坂 信哉 先生 (東京都市大学人間科学部教授、博士(医学)、温泉療法専門医)
入浴により、大きく分けて3つの健康作用が期待できるといわれています。それぞれの作用について見てみましょう。
温かいお湯に浸かることで体が温まり、血管が広がることで血行が良くなります。これにより、体の隅々まで酸素や栄養が運ばれ、新陳代謝が活発になることでリフレッシュにもつながります。
お湯に浸かると、水深が深いほど体に水圧がかかります。水圧によって血管が圧迫されることで、マッサージによる指圧を受けたかのように全身の血行が良くなります。
水中では浮力の影響を受けるため、体重は空気中に比べて約10分の1になるといわれています。お湯に浸かることで、この浮力作用により関節や筋肉の緊張が緩み、だるさや重さを感じにくくなります。
ここでは、肩までお湯に浸かる全身浴の場合の入浴方法を紹介します。安全かつ快適に入浴するために以下のポイントを押さえましょう。
お湯の温度は、40℃が基本です。人によっては少しぬるいと感じる温度かもしれませんが、年齢や体力の有無にかかわらず低リスクなところがメリットです。次に紹介する時間を守って入浴すれば十分に体が温まり、のぼせなどの体調不良を起こすリスクも回避できます。
40℃が熱くて入りづらい人は、38℃などのさらに低めの温度に設定して、自分の適温を見つけましょう。
全身浴なら10~15分で、できるだけ毎日お湯に浸かることが大切です。これくらいの時間であれば、心身に大きな負担がかかりづらく、しっかりと体が温まります。
汗を流しながら我慢して長時間お湯に浸かり続けると、のぼせやめまいなどの熱中症のような症状が現れる「入浴熱中症」になる可能性があるため、注意が必要です。体内に熱がこもり、神経障害や意識障害が起きて、溺水(できすい)※やふらつきによる転倒などの事故につながる恐れも。お湯に浸かる時間は、自分の体調とも相談しながら調整しましょう。
※溺水:水に溺れることで呼吸ができなくなり、窒息状態に陥ること。
入浴後にスムーズに寝付けるようにするには、就寝の1~2時間前には入浴を済ませておきましょう。
人間は体温が高いままでは安眠できず、眠りの質が低い状態が続いてしまいます。そこで、お風呂に入ることで体温を一時的に上げると、その約1時間半後に体温が下がっていきます。この体温が下がるタイミングでベッドに入ることが、良い睡眠をとるためのポイントになるのです。
ゆっくりお湯に浸かると、1回の入浴で700~800mLもの水分が発汗によって失われるといわれています。そのため、入浴前にコップ1~2杯分の水を飲むようにしましょう。
また、15分以上の長湯は水分不足による脱水症状を引き起こす可能性があります。特に冬場はつい長湯をしてしまいがち。入浴時間を守ったうえで、十分な水分補給をして脱水症状を予防しましょう。
温度の急激な変化によって血圧が急激に上下変動し、心臓や血管の病気が起こる健康被害のことを「ヒートショック」といいます。ヒートショックは体が寒暖差にさらされたときに起こりやすいため、気温が下がる冬の発生数が圧倒的に多くなっています。
例えば、暖房の効いたリビングから冷えた脱衣所に移動すると、寒さに対応するために血圧が上昇します。そこで衣服を脱ぎ、冷えた浴室へ入ると血圧はさらに上昇。その状態で熱いお湯に入ると、熱さでさらに血圧が上がり、その後体が急に温まるため、血圧が一気に低下します。この血圧の急降下が脳卒中や心筋梗塞のリスクとなるのです。特に5℃以上の温度差がある場合は注意が必要です。
以下のような予防法を徹底し、急激な温度変化が起きないように注意しましょう。
など
全身浴と半身浴、どちらが健康に良いのか迷ったことはありませんか?実は、全身浴のほうが温熱作用・静水圧作用・浮力作用の三大作用を効率的に得られると考えられます。そのため、肩こりやむくみ解消などの健康効果も高いといえます。
半身浴は、みぞおち辺りまでお湯に浸かる部分浴のことです。温度は38℃程度で、浸かる時間は20~30分が目安とされています。
半身浴は、全身浴に比べてお湯の量も、お湯に浸かる体の体積も半分になるため、三大作用とそれによる健康効果も半減してしまいます。
ただし、心臓や肺に疾患のある人や全身浴をすると息苦しく感じる人は、全身浴だと体への負担が大きい可能性があるため、半身浴のほうが良いことも。その他、お風呂でゆっくり過ごしたい人には、半身浴が向いているでしょう。
なお、健康状態などによってはお湯に浸かること自体を避け、シャワーのみで済ませたほうが良いこともあります。入浴方法の選択に悩む場合は、医師と相談しましょう。
では、入浴によって得られる効果とは、どのようなものがあるでしょうか。体の不調やストレスなどに悩んでいる人は、チェックしてみてください。
温かいお湯に浸かると、筋肉や腱、靭帯などが緩み、神経の過敏性が抑えられます。また、温熱作用で新陳代謝が活発になることも相まって、肩こり、腰痛、体のこわばり、痛みが解消しやすくなります。
入浴の温熱作用によって血流が良くなることで、筋肉の疲労回復につながります。ただし、激しい運動をした直後は入浴を避けましょう。特に湯が熱いと入浴によって心拍数が増加し、血圧が過度に上昇した後、血圧が急低下することがあるので危険です。必ず運動後30分から1時間は休憩し、水分補給をしてから入浴してください。
入浴によって血行が促進されて体が温まると、自律神経にも作用をもたらすため、リラックス効果・ストレス解消につながるとされています。
自律神経には、心身を興奮状態にして活動的にする「交感神経」と、心身をリラックス状態にして休息させる「副交感神経」があり、両者がバランスを取りながら心身の健康を維持しています。40℃までの熱すぎない温度で入浴することで、副交感神経が優位になり、リラックスしやすくなります。
また、入浴時にお気に入りの香りがする入浴剤を利用することで、よりリラックス効果を高めることができるかもしれません。
長時間立ちっぱなし、座りっぱなしの状態でいると、ふくらはぎを中心とした足に血液やリンパ液などが溜まり、むくみにつながります。
入浴で体が温まると血流が良くなるうえ、足に水圧がかかることで血液や体液が上半身へと押し上げられるため、むくみの解消に役立ちます。
シャワーで済ませがちな暑い時期こそ、夏バテ予防に入浴がおすすめ。その理由には、屋外の暑さと屋内のエアコンなどの涼しさによる寒暖差の影響で疲れやすいことが関係しています。
人は外気温に対して、体温を一定に保とうとするための体温調節を自律神経が行っています。この体温調節にはエネルギーが必要です。寒暖差によって頻繁に体温調節が必要になると、エネルギーの消耗が激しいうえに、自律神経の働きが乱れて体の不調が現れやすくなります。
そこで注目したいのが入浴です。お湯に浸かって体を温めると、血流が良くなり、体の筋肉がほぐれて副交感神経が優位になります。これにより、日中の寒暖差により生じた自律神経の乱れを整えてくれるのに役立ちます。
サウナは80~100℃ほどの熱気浴です。個人差はありますが、サウナによる効果は、体が温まることで血管が拡張し、血行が良くなることによる疲労回復・肩こり解消、高温の空気が全身の皮膚を刺激することによるストレス解消など、さまざまなものが挙げられます。
特に、体を温めるとHSP(ヒートショックプロテイン)が増加し、これが体に好影響を与えるとされています。HSPとは、細胞が強いストレスにさらされたときに多くなるタンパク質の1つ。細胞は高熱だけでなく疲労、血管の詰まり、虚血状態、紫外線などさまざまなストレスによっても損傷を受けますが、HSPはその損傷を受けた細胞を修復する働きがあります。
ただし、サウナによる効果はまだ研究途上で、分かっていないことも多いのだとか。同じく、どの程度のリスクがともなうのかも検証段階で、実際にサウナでのやけどやめまい・意識障害の事故も報告されています1)。
サウナの提供施設が推奨する入浴法を守ることはもちろん、高血圧や循環器疾患などの持病がある人、何らかのけがによって痛みや腫れがある人、普段健康な人でも体調が優れないときは、無理にサウナには入らないようにしましょう。
1)消費者庁公表資料「サウナ浴での事故に注意 ― 体調に合わせて無理せず安全に ―」,2024
入浴そのものによって三大作用を得られ、効果が期待できますが、さらに入浴剤をプラスすることで、体を温める温熱作用や皮膚の汚れを落とす清浄作用を高めたり、特定の疾患への効能も期待できることがあります。
また、「一番風呂は体に悪い」と言われることがあります。一番風呂とは、浴槽にお湯をためてから誰も入っていない状態のお風呂のこと。このお湯(水道水)に含まれるわずかな塩素が、人の肌にはピリピリとした刺激になることがあります。入浴剤には塩素を中和する成分やさまざまなミネラルが配合されているため、塩素の働きが弱まり、刺激が抑えられることで、一番風呂のお湯を和らげる効果が期待できます。
なお、入浴剤の多くは、お湯の色を変えたり、良い香りがしたりするので、見た目や雰囲気を楽しみ、よりリラックスするために使っても良いでしょう。
入浴剤は大きく「雑貨」、「浴用化粧品」、「医薬部外品(薬用入浴剤)」の3つに分類されます。それぞれ配合成分や使用目的が異なります。
香りや色などの雰囲気を楽しむためだけの入浴剤。効果・効能などをうたうことが認められていない入浴剤は、すべて雑貨扱いになります。
浴用化粧品には、美容目的とした成分が配合されています。特定の症状や疾患に効果があるものではありませんが、「汚れを落とすことにより皮膚を清浄にする」「皮膚をすこやかに保つ」「皮膚にうるおいを与える」など、作用が穏やかなものが化粧品に分類されます。
医薬部外品には、有効成分が配合されています。製品によっても異なりますが、主に以下のような効果効能を訴求する製品が見受けられます。
例:疲労回復、肩こり、神経痛、腰痛、あせも、うちみ、しっしん、しもやけ、痔、冷え症、リウマチ、ひび、あかぎれ、にきび
この3つのうち、浴用化粧品、医薬部外品の2つは、その安全性や有効性について医薬品医療機器等法による規制を受けています。使用する際は記載の使い方を守りましょう。正しく使うことで効果が得られます。疲労回復や肩こり、腰痛などの解消を期待して入浴剤を選ぶなら、ラベルやパッケージに「医薬部外品」の表記がある製品がおすすめです。
入浴剤に含まれる成分によっても、得られる効果は多少異なります。医薬部外品に使用される主な成分は、温泉由来成分や酵素、保湿成分、薬用植物由来成分があります。それぞれの成分とその効果を見ていきましょう。
タンパク質分解酵素、パパイン、パンクレアチンなどの酵素を配合したもの。皮膚への刺激が少なく、皮膚を清浄にすることで入浴効果を高めます。
セラミド、米胚芽油、エステル油、スクワラン、ホホバ油、ミネラルオイル、植物エキス、米発酵エキスなどの保湿成分を主に配合したもの。保湿成分配合で、入浴中にスキンケアを行えます。
入浴剤の成分として用いられる薬用植物は、チンピ、タイム、ショウブ、ゆず、ヨモギ、ハッカ葉などが挙げられます。日本には、端午の節句のショウブ湯や、冬至のゆず湯などの入浴習慣がありますが、実はこれらに使われているのも薬用植物です。薬用植物を刻んで入れたもの、抽出した薬用植物のエキスを使用しているものなど、配合の仕方は製品によってさまざまです。他にも、ニンニクの成分とビタミンB1を結合させた「ニンニクB1エキス」を配合する製品もあります。
働きは薬用植物によって異なりますが、例えば、保湿効果を得られる3つの薬用植物由来成分を紹介します。
入浴にはさまざまな効果が期待できますが、その効果を最大限に得るためには、正しい方法で、できるだけ毎日の入浴を習慣化することが大切です。期待する効果に応じて半身浴を取り入れたり、入浴剤を入れたりするのもおすすめです。その際、薬用入浴剤を選べば、より高い入浴効果を期待できるでしょう。疲労や肩こりなどが悪化する前に、適切な入浴でケアをしていきましょう。