酸化マグネシウム?
それとも漢方?
便秘薬の種類と選び方

便秘とは「出すべきものを十分に、快適に排便できていない状態」のことをいいます。排便が毎日あっても、便が硬い、すっきりした感じがしない、お腹が痛いなどの自覚症状があれば便秘となります。

便秘を改善するためには、水分や食事を十分にとる、食物繊維を積極的に摂取する、適度な運動を行う、十分な睡眠時間を確保するといった基本的な生活習慣を整えることが大切です。それでも改善しない場合は、便秘薬を上手に使うのも一つの方法といえます。 ここでは便秘薬の種類や特徴、自分にあった便秘薬の選び方を紹介します。

監修:堀 美智子先生(医薬情報研究所 株式会社エス・アイ・シー)

便秘薬の種類と特徴

刺激性の便秘薬(刺激性下剤)

刺激性の便秘薬は、大腸を刺激し、ぜん動運動(筋肉が伸び縮みをくり返して、内容物を体外へ移動させる動き)を高めることで排便を促します。主な成分としては、ビサコジル、センノシド、ピコスルファートナトリウムなどがあります。一般的に作用が強く、即効性があり効果を実感しやすい一方で、刺激による腹痛や、連日の服用を長期間続けると効果が徐々に弱くなり便秘が悪化したりすることがあるため、用法用量を守って正しく使用することが必要です。

代表的な刺激性の便秘薬

刺激性の便秘薬は腸管を刺激して排便を促す作用があります。

ビサコジル

薬の成分が大腸を直接刺激して、腸のぜん動運動を高めることで排便を促します。ビサコジルを含む便秘薬にはのみ薬と坐薬があり、のみ薬の多くは腸溶剤(胃の中で分解されずに腸の中で働くように工夫されている)となっています。

腸溶剤は胃酸の分泌を抑える制酸剤と一緒に服用すると、胃の中で薬が溶け出してしまう可能性があるので、ビサコジルを服用する前後1時間は制酸剤をのまないようにする必要があります。また、牛乳も薬が胃で溶けてしまう可能性があるので制酸剤と同じように注意してください。制酸剤を服薬中の人や胃を摘出した人は、好ましくない作用があらわれる可能性が高まるので服用しないようにしてください。

センノシド

腸内細菌の作用によりレインアンスロンという物質に変化します。レインアンスロンは大腸の神経を刺激し、ぜん動運動を促します。菌を殺す作用のある抗生剤を服用していると腸内の細菌が死んでしまい、レインアンスロンに変化できなくなるため、便秘薬の効き目が弱くなることがあります。
尿が濃くなったり赤くなったりすることがありますが、これは薬の成分が尿と反応するためです。
母乳に薬の成分が移行し乳児が下痢になることがあるため、授乳中は服用を避けることが望ましいでしょう。

ピコスルファートナトリウム

胃や小腸では作用せず、大腸の粘膜を刺激して排便を促します。大腸からの水分吸収を抑えるはたらきもあります。腸から吸収されることはほとんどないので、授乳中にこの薬をのんでも母乳から子どもに薬の成分が移行することはありません。

非刺激性の便秘薬(機械的下剤)

非刺激性の便秘薬は、効き方が穏やかな特徴があります。大きく分けて浸透圧性下剤と膨張性下剤の2種類があります。

浸透圧性下剤 ─塩類下剤

浸透圧性下剤には塩類下剤と浸潤性下剤があります。

塩類下剤は腸内に水分を呼び込むことで便を柔らかくする作用があります。塩類下剤としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどがあります。便秘薬の効果を十分に得るためには、便秘薬はすべてそうですが、この薬は特に多めの水と一緒にのむことが望ましいといえます。

浸透圧性下剤 ─浸潤性下剤

水分を便に浸透させやすくし、便を柔らかくすることで排便を促します。浸潤性下剤にはジオクチルソジウムスルホサクシネート(DSS)があります。このタイプの下剤も多めの水と一緒にのむことで十分な効果が期待できます。

膨張性下剤

成分自体が腸の中で水分を吸収して膨らみ、便のカサを増すとともに柔らかくするのが膨張性下剤です。効果を十分に得るためには、多めの水と一緒に服用するようにしましょう。効果があらわれるまで数日かかるとされています。

膨張性下剤には、プランタゴ・オバタがあります。食物繊維が豊富なプランタゴ・オバタはオオバコ科オオバコ属の種子の皮で、食物繊維の健康食品としてもありますが、便秘を解消する薬として市販薬にも入っています。
ものをうまくのみ込めない人が膨張性下剤を服用すると、のどにひっかかったまま膨らむ恐れがあるので注意が必要です。

坐薬

肛門の中に直接入れて使用します。炭酸ガスを発生させて腸を直接刺激することで排便を促します。挿入後10~30分と比較的早く効果があらわれます。坐薬には、炭酸水素ナトリウムや無水リン酸二水素ナトリウム配合坐薬などがあります。

浣腸

肛門から薬液を直接注入して使用します。直腸粘膜に刺激を与えたり、腸の壁面を滑りやすくしたりすることで排便を促します。グリセリンなどが浣腸の成分として該当します。

自分にあう便秘薬を選ぶために

非刺激性と刺激性、どちらがいいの?

刺激性の便秘薬(刺激性下剤)と非刺激性の便秘薬(機械的下剤)がある便秘薬。刺激性の便秘薬は腸を直接刺激するため作用が強く、効果を感じやすいため、旅行に行ったり数日排便がないなど一時的な便秘に使用します。腹痛や下痢があらわれることもあります。また、長期間連続して服用を続けると薬が効きにくくなることがあるため、用法用量を守って正しく使用することが大切です。

非刺激性の便秘薬は、便の水分量を増やす作用があるので、ウサギの糞のようなコロコロした硬い便の人に向いています。頻度は低いものの腹痛や下痢などの副作用があらわれることもあります。

非刺激性の便秘薬の中でも酸化マグネシウムなどのマグネシウム製剤には、高マグネシウム血症という副作用を起こすことがあります。高マグネシウム血症は、血液中のマグネシウムの濃度が高くなることでさまざまな症状が起こるもので、初期症状としては、吐き気、嘔吐、立ちくらみ、めまい、脈が遅くなる、皮膚が赤くなる、力が入りにくくなる、体のだるさ、傾眠(眠気でぼんやりする、うとうとする)などがあげられます。医療用医薬品の酸化マグネシウム製剤では定期的に注意喚起が出されており、市販薬でも同様の注意が必要です。このような症状が見られた場合にはすぐに医療機関を受診してください。

高マグネシウム血症は、腎機能に障害のある人、腎機能が低下している人にあらわれやすいとされていますが、高齢者にもあらわれやすいという特徴があります。また、抗生物質、骨粗しょう症の薬、カルシウム製剤、ジギタリス製剤、鉄剤はマグネシウム製剤と一緒に服用すると、薬の働きが悪くなったり、好ましくない症状があらわれたりすることがあるので注意が必要です。医師の治療を受けている方は相談してください。

便秘薬の分類 注意点
刺激性 ・腹痛や下痢があらわれることもある
・連日服用を長期間続けると薬が効きにくくなることがあるため、用法用量を守って正しく使用する。
非刺激性
(酸化マグネシウム)
・腎機能が低下している人・高齢者も注意が必要(高マグネシウム血症を発症するリスクがあるため)。
・吐き気、嘔吐、立ちくらみ、めまい、脈が遅くなる、皮膚が赤くなる、力が入りにくくなる、体がだるい、傾眠などの症状がみられた場合にはすぐに医療機関を受診する。
・長期服用には注意が必要。用法用量を守って正しく使用する。

漢方便秘薬のメリット

漢方の便秘薬は、大腸の働きを促す生薬や、大腸の運動を調整して腹痛を緩和する生薬など複数の生薬が入っているので、総合的に働くという特徴があります。便秘薬によっては抗生剤を併用すると効果が悪くなることもあるのですが、複数の生薬が配合されている漢方便秘薬は大腸内の細菌に良い影響を及ぼし、抗生剤の腸内細菌への影響が少なくなることが知られています。

便秘に効く漢方薬には大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)、麻子仁丸(ましにんがん)、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)などがあります。
漢方は効果があらわれるまで時間がかかるというイメージがあるかもしれませんが、風邪や便秘に使う漢方薬では比較的効果が早くあらわれるものもあります。

便秘薬によっては「のんだら、いつお通じがくるか不安」と服用をためらうこともあるでしょう。例えば、大黄甘草湯は、個人差がありますが服用してから約8~10時間後に自然に近いお通じが得られ、寝る前にのめば翌朝に排便が得られるため排便のタイミングをつかみやすく、生活のペースを乱すことが少ないといえるでしょう。

さいごに

自分にあった便秘薬を選ぶには

生活習慣の見直しや、バランスのとれた食事、適度な運動、十分な睡眠などを心がけたものの便秘の改善が見られないようであれば、便秘薬の使用も一つの選択肢になるでしょう。

便秘薬を選ぶ際には、便秘の状態(一時的なのか慢性的なのか、便の形や硬さ、排便の間隔など)や便秘薬の特徴(刺激性/非刺激性など)、自分の体質・生活習慣なども考慮して自分にあったものを選ぶことが大切です。

もし使用中の薬がある場合は、薬剤師や登録販売者に相談しましょう。 なお、便秘薬を使用してもなかなか便秘が改善しない場合は、他の病気が隠れている可能性もありますので、医師の診断を受けましょう。

※画像はイメージです