その疲れの原因は
「栄養不足」かも!?
~withコロナに
潜むリスク~

新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、私たちの日常は大きく変化しました。テレワークなどで外出する機会が減り、自宅で食事をとる機会が増えた人は多いはず。丼や麺など、1品で簡単に食事を済ませたり、偏った食生活をしていませんか? このような生活の変化で、より疲れを感じるようになったのなら…それは「栄養不足」が原因かもしれません。 今回は、現代人に不足しがちな栄養素や、その栄養素が不足していると体にどのような影響があるのかについて解説します。効率よく栄養素を摂取する食事のポイントもご紹介するので、疲労を乗り切るヒントとしてご活用ください。

監修:柴田 克己 先生(甲南女子大学 医療栄養学部 医療栄養学科 教授 厚生労働省 日本人の食事摂取基準2020策定検討会構成員)

疲れと栄養の関係

エネルギー産生の低下が疲れの原因に

体は食べ物から摂取した成分をもとにエネルギーを合成しています。そのもとになるのは糖質・脂質・タンパク質という3つの栄養素です。さらに、アルコールもエネルギー源となります。これらを分解・変換しながらエネルギーを生み出すことをエネルギー産生といい、この時ビタミンやミネラルといった栄養素が深く関わっています。つまり、エネルギー源となる栄養素だけでなく、エネルギー産生に不可欠なビタミンやミネラルも摂取しなければ、体はエネルギーを満足に得られず、それが疲れやだるさ(倦怠感)というかたちで現れるようになると考えられます。
必要な栄養素量は、年齢・性別、さらには妊娠の有無といったライフステージや、病気などの健康状態に左右されます。これらはおおむねバランスの良い食生活・食事量を実現できていれば満たせそうなものなのですが、現代人の生活は過度のダイエットや偏食、あるいはストレス解消のためのやけ食いなどによって摂取する栄養素に過不足が生じ、結果として生み出すエネルギーも不足して疲れやすいものになってしまっていると考えられます。

どんな栄養素が不足しがち?

今日の疲れがちな日本人に不足している栄養素とは、どのようなものでしょうか。厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準」をもとに、「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)や「家計調査」(総務省)からわかる日本人の食生活と比較しながら、疲れに影響を及ぼす不足しがちな栄養素を見ていきましょう。

ビタミンB1

歴史上初めて発見されたビタミンであるビタミンB1は、疲労を語る上でも極めて重要な栄養素です。その理由は、ビタミンB1が食事などによって得た糖質からエネルギーを産生するのに関与しているから。 もしビタミンB1がなければ、いくらエネルギー源となる糖質を摂取しても、エネルギーを生み出すことはできません 。つまり、エネルギー不足に陥り、疲れやすくなってしまうのです。

「国民健康・栄養調査結果の概要」(2019年分)によると、1日の平均摂取量は0.95mg(男性1.03mg・女性0.87mg)でした。
例えば、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、30~49歳において、1日あたりの推奨量は男性1.4mg、女性1.1mgであり、男女ともに推奨量を下回っています。

不足している原因は以下が考えられます。

【要因① 糖質中心の食生活】

テレワークや外出の自粛など、社会生活を営む方の多くは、“with コロナ”の生活様式で自宅での食事機会が増えています。 さらに「家計調査」 によると、米・パスタ・カップ麺・即席麺の摂取量が、2020年は2019年と比べて増えていました。ボリュームや手軽さから糖質中心の食生活になったことで、ビタミンB1の不足が危惧されます。
ビタミンB1は、糖質を分解して体のエネルギー源にする過程で必要です。体に取り込まれた糖質が多ければ、その分たくさん分解しなくてはならないため、体内のビタミンB1も大量に必要となり、不足してくる可能性があります。特に米や小麦などの穀類は、精米・精製の過程で削られることにより本来含まれているはずのビタミンB1やビタミンB2などのビタミンB群が多く失われてしまい、糖質とビタミンのアンバランスを生む要因になります。

【要因② “家飲み”機会の増加によるアルコール摂取量の増加】

総務省統計局の「家計調査(家計収支編)」によると、2020年の2人以上の世帯における酒類への1カ月あたりの消費支出(年平均値)は、新型コロナウイルスの感染拡大前である2019年と比べて約16%増加していました。コロナ禍の生活の影響で、自宅でお酒を飲む人が増加傾向にあります。
実は、アルコールの摂取もビタミンB1の必要量を高め、結果的に不足に拍車をかけてしまうことがあります。体の中へ取り込まれたアルコールは、主に肝臓で分解され、エネルギーとなります。この過程で2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)エー・エル・ディー・エイチ・ツーという酵素が必要となるのですが、分解すべきアルコールの量が多すぎる場合にはALDH2だけでは分解が追いつかなくなり、ビタミンB1を必要とする酵素で分解し始めます。加えて、アルコールはビタミンB1の吸収に悪影響を与えるため、多量のアルコール摂取が体内のビタミンB1の不足に拍車をかけてしまいます。

【要因③ ビタミンB1の特性】

ビタミンB1は水溶性のため、調理で食材内から外の水へ溶け出してしまうことが多く、また調理前に行う水洗いの工程でも失われてしまいます。さらに、ビタミンB1は加熱調理によって失われる割合が大きいため、例えば「ゆでる」調理は食材内に残るビタミンB1の量に大きな影響を与えます。

ビタミンB2

ビタミンB2もビタミンB1と同様に糖質など体内で利用しエネルギーを生み出す仕組み(代謝)に深く関わるほか、脂質の代謝にも不可欠な栄養素です。不足すればエネルギー不足による疲れなどはもちろんのこと、口内炎、口角炎や皮膚炎を招いてしまう恐れがあります。
「国民健康・栄養調査結果の概要」(2019年分)によると、1日の平均摂取量は1.18mg(男性1.24mg・女性1.12mg)でした。
例えば、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、30~49歳において、1日あたりの推奨量は男性1.6mg、女性が1.2mgであり、男女ともに推奨量を下回っています。

不足している原因は以下が考えられます。

【要因① 慢性的に不足気味】

ビタミンB2については、国民全体が数ヵ年にまたがって不足気味の状態が続いていると考えられます。次のグラフは直近4年の「国民健康・栄養調査」から、ビタミンB2の平均摂取量をグラフにまとめたものです。

[出典]厚生労働省「国民健康・栄養調査」,平成28年-令和元年調査報告書を基に作成
(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html)

不足しがちな理由にはさまざまなことが考えられますが、例えば、ビタミンB2を豊富に含む牛乳の消費量が落ちたことが挙げられます。農林水産省が公表するデータによれば、牛乳の1人あたり年間消費量は1990年代前半をピークに減少傾向にあり、多少変動しながらも、おおよそでピーク時の7割強程度にとどまっています 。これは一例にすぎませんが、こうした食生活の推移も一因になっている可能性があります。

【要因② ビタミンB2の特性】

ビタミンB2も、ビタミンB1と同様に水溶性ビタミンに分類されます。そのため、やはり水洗いやゆで調理などで、調理時に食材と触れる水の中へ流出してしまう性質があります。一方で、ビタミンB1と比べて加熱自体で失われる割合は少ないという特徴があるので、食材に残ったビタミンB2とゆで汁へ溶け出した分とを合計すると、ほとんど減っていないという報告もあります。

カルシウム

健康な骨の維持に不可欠な栄養素として有名なカルシウム。実は骨以外にも、筋肉をスムーズに動かすことを助けているほか、血液の循環やホルモン放出の促進などにも携わっています。さらには脳・神経と体の各部位との連絡に関与しています。このような特徴から、カルシウムは肉体機能維持や心身の健康に広く関わる栄養素であるといえます。
「国民健康・栄養調査結果の概要」(2019年分)によると、1日の平均摂取量は505mg(男性517mg・女性494mg)でした。
例えば、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、30~49歳において、1日あたりの推奨量は男性が750mg、女性が650mgであり、男女ともに推奨量を下回っています。

不足している原因は以下が考えられます。

【要因① 慢性的に不足気味】

最新の統計においてカルシウムの摂取量が推奨量を下回っていることは先ほど紹介した通りです。さらにいえば、カルシウムの摂取量は年々減少傾向にあります。
次のグラフは、1970年以降のカルシウム摂取量(男女)を約10年おきにまとめたものです。このグラフからも明らかなように、この半世紀、日本人は継続的にカルシウム不足に陥っているのです。

[出典]国立健康・栄養研究所 健康日本21(第二次)分析評価事業Webサイト「調査内容の変遷:栄養摂取状況調査」を基に作成
(https://www.nibiohn.go.jp/eiken/kenkounippon21/eiyouchousa/koumoku_eiyou_chousa.html)

栄養不足によって起きる身体への影響

【ビタミンB1】疲れやだるさをはじめ、集中力の低下も

体が食べ物を通して得た糖質からエネルギーを生み出すのに不可欠の栄養素であるビタミンB1。同時に中枢神経や末梢神経の機能を正常に保つ役割も担っています 。そのビタミンB1が不足した場合、糖質をエネルギー源としている脳や神経に影響が現れ 、疲れや倦怠感(だるさ)など、体調・気分が優れないと感じる ようになってしまいます。また、頻繁なオンライン会議やスマートフォン・パソコンを長時間操作する今日の生活では眼精疲労なども懸念されます。ビタミンB1は、目の正常な働きにも深く関係しているため、不足すると視神経や眼球運動に支障が出ます。

【ビタミンB2】エネルギー不足だけでなく、皮膚や粘膜にもトラブルが

体が糖質・脂質・タンパク質からエネルギーをつくり出す仕組みに深く関わるビタミンB2。この役割から考えて、ビタミンB2の不足は体がうまくエネルギーを得られず、疲れなどを感じるようになります。
また、ビタミンB2には粘膜の保護といった働きもあり、不足すると口内炎・口角炎・舌炎、脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)などを引き起こす可能性があります。

【カルシウム】骨が弱くなるだけでなく、運動能力低下も

カルシウムは人が生きていくためのさまざまな調節に関与する重要な栄養素であり、その不足は心身の不調をもたらします。
例えば、血液中のカルシウムが少なくなると、体は骨から血液へカルシウムを溶け出させることで血中のカルシウム濃度を保とうとします。この時、骨から溶け出ていくカルシウムが多くなると骨がもろくなってしまい、さらに、弱った骨を補おうと無意識に筋肉・関節へ負担をかけてしまい、腰痛・背中の痛み、他にもさまざまな場所の関節に痛みが生じることがあります。

不足しがちな栄養素を上手に摂取するには?

【ビタミンB1】ニンニクやタマネギを一緒に摂って吸収率アップ

ビタミンB1は、最も摂取量が多い糖質のエネルギー産生に関わる栄養素。そのため、必然的に損失量も多くなるので、毎日効率的に摂取しないと不足状態に陥りやすいのです。
ビタミンB1は肉類・魚類・豆類・穀類・種実類(ナッツやゴマのようなかたい殻・皮に包まれているもの)に多く含まれています。穀類は特に精錬・精米前のものの方がビタミンB群を豊富に含んでいるため、例えばお米なら精白米ではなく玄米のようなものがいいでしょう。
ビタミンB1を効率的に摂取するポイントは2点。食材の組み合わせと調理方法です。
1点目は、食材をニンニクやタマネギと一緒に食べること。これらに含まれるアリシンという物質はビタミンB1(ビタミンB1の化学名をチアミンといいます)と結合することで,より体に吸収されやすいアリチアミンというものになります。吸収率を高めるためにこれらの食材と組み合わせた食事がおすすめです。
2点目は先ほど紹介したように、ビタミンB1は食材から水に溶け出しやすく、熱にも弱いという特性を持っています 。そのため煮る調理法よりも、例えばフライパンで短時間焼く、油で素揚げをするといったような、水によらないごく短い加熱時間の調理法であれば食材中に残るビタミンB1の量が多いと考えられます。
とはいえ、すべての食材にこのような調理法が適するとは限りません。食事を工夫しつつも、不足が気になる時はビタミン剤を活用してみるのもいいでしょう。

【ビタミンB2】汁ごと食べられる調理法で栄養を逃さない

ビタミンB2も、ビタミンB1と同じく肉類・魚介類・豆類・種実類のほか、乳製品や藻類(海藻など)、卵などに豊富に含まれています。また、ブロッコリーやほうれん草といった野菜も、ビタミンB2を多く含む食材の1つです。
先ほど、ビタミンB2はビタミンB1に比べてやや加熱に強いと紹介しました。ビタミンB1同様、ビタミンB2も水には溶け出しやすい栄養素なので、例えば食材をゆでてしまうとゆで汁の中で大量に流出してしまいます。しかし、ビタミンB2の場合はビタミンB1よりもある程度加熱に耐えられるため、ゆで汁の中にしっかりと残り続けてくれるのです。そのためビタミンB2を効率的に摂取する方法としては、焼く・揚げるなどといった調理以外に、汁ごと食べられるような料理で摂取するという方法が考えられます。また、チーズやヨーグルト、牛乳などは調理せず手軽にビタミンB2を摂取できるのでおすすめです。

【カルシウム】吸収率を左右する組み合わせに注目。乳製品がうってつけ

カルシウムは魚介類・藻類・乳類・豆類・種実類に多く含まれています。特に牛乳・乳製品などの乳類はカルシウムの効率的な摂取におすすめです。
このとき注意したいのが、食材同士よりも、カルシウムと他の栄養素の組み合わせ。例えばほうれん草に多く含まれるシュウ酸、豆類・穀類に多いフィチン酸などはカルシウムの吸収効率を悪くしてしまう性質があります。いずれの食材もカルシウム自体は多く含んでいるのですが、同じく含む別の成分の影響で、食材からの吸収率は乳類に比べて高くありません。
反対に、効率的な吸収のためになる栄養素としてはビタミンDがあり、カルシウムの吸収に不可欠なものです。ビタミンDは魚介類・卵類のほか牛乳・乳製品に多く含まれており 、このような点からも牛乳・乳製品はすぐれたカルシウム供給源といえるのです。
また、カルシウムは加熱調理で失われる割合も比較的少ないため 、牛乳・乳製品が苦手という方は料理に混ぜて活用してみてもいいでしょう。

栄養は継続が大切。無理せず、できることから実践!

これまで、疲れがちな現代人に不足しがちな栄養素とその特徴・効率的な摂取方法を紹介してきました。こうした情報を活用して献立(食材・調理法)を工夫していけば、バランスの良い食生活が実現でき、不足しがちな栄養素も効率良く摂取していけることが期待できます。
とはいえ、ただでさえ多忙な“with コロナ”時代の生活。毎日摂取栄養素量を計算し、食材を考え、調理法も変えて......というのはなかなかに難しいものがあります。
効率的な栄養のためには、無理のない方法で継続することが大切です。ビタミン剤なども賢く活用しながら、自分なりの続けやすい栄養素摂取を心がけましょう。
また、自身は十分な栄養素を摂っているはずなのに、一向に疲れが取れない、体調が回復しないという方は要注意です。無理をせず、近くの医療機関へ相談してみましょう。

参考文献

・厚生労働省「国民健康・栄養調査」,平成28年-令和元年調査報告書
(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html)
・厚生労働省 「日本人の食事摂取基準」策定検討会:「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書.
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html)
・文部科学省 科学技術・学術審議会 資源調査分科会:日本食品標準成分表2020年版(八訂).
(https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html)
・渡辺恭良:日本生物学的精神医学会誌24(4):200-210,2013.
・小島,et. al.:ビタミン91(1):1-27,2017.
・小島,et. al.:ビタミン91(2):87-112,2018.