withコロナ時代の疲れ。
どのように
付き合っていけばよい?
(疲れのメカニズム編)

新型コロナウイルスによって、生活が激変した2020年。外出の自粛、テレワークによる在宅勤務や会議のオンライン化、自宅学習などが求められました。しかし状況は刻一刻と変わり、その日々の変化になかなか追い付けず、さまざまな場面で疲れを感じる人も増えたようです。
そこで今回は、疲労研究の第一人者である渡辺恭良(わたなべやすよし)先生に、疲れのメカニズムとwithコロナ時代における疲れとの付き合い方についてお話を伺いました。

(話し手)
渡辺恭良 先生(理化学研究所 生命機能科学研究センター 健康・病態科学研究チーム)

withコロナ時代のニューノーマル疲れについて

コロナ禍でストレスを感じている人が増えている?

(聞き手)
私も毎日生活していると、周りから不調についてよく聞きますし、「ニューノーマル疲れ」という言葉もメディアで耳にします。また、とある調査によれば、テレワーク開始後その3分の1の方が不調を感じている、というような結果もでています。その主な不調で一番多いのが肩こり、次に精神的なストレス、そして腰痛という順番だったようです。

やはり、ニューノーマルな生活習慣によって精神的なストレスを感じている人は増えているのでしょうか?

(渡辺先生)
『ココロの体力測定2020』(メディプラス研究所)というアンケート調査のストレスチェックの項目では、高ストレス者から低ストレス者までを分析したグラフが掲載されています。そのパーセンテージを見てみると、実は高ストレス者が劇的に増えているわけではなかったのです。

問題は「低ストレス者」という、ストレスの少ない人が減ってきているということ。そしてそこに全国的な差があることがわかったのです。首都圏や大阪、兵庫など、感染者が多い地域ではストレスの少ない人が減っており、確実にストレスを感じている人が増えています。
逆に、地方の方は、在宅ワークや自粛によって自然と触れ合う機会が増えたことで、健康の度合いが高くなり、ストレスが解消されている人も多いようです。しかし全体的には、感染に対してストレスを感じている人は増えてきていると言っていいでしょう。

ストレスの原因は大きく2つ ~生活習慣の変化と精神的負荷~

(聞き手)
低ストレスだった方が減ってきているということは、やはり生活環境の変化が一番でしょうか?

(渡辺先生)
そうですね、生活環境の変化に起因するものが大きいと思います。
在宅で長時間同じ姿勢を保つこと、体を動かす機会が少なくなり運動量が激減したこと、そして慣れない働き方などがあげられると思います。

しかしストレスに関しては、精神的な部分のほうが大きいと思います。「いつどこで感染するかわからない」「仕事を続けられないのではないか」「いつ元の学校生活に戻るのか」といった不安からくる精神的ストレスです。
そして、そのストレスを発散する場が失われていることも大きいでしょう。会食、旅行などのイベントごとを楽しむ機会が減っていますよね。休暇を取っても日常が大きく変化するわけではない、ということもストレスを貯め込む要因として考えられます。

そもそも、疲れはどうやって感じる?

疲れのメカニズムとは

(聞き手)
先生、そもそも疲れはどうやって起こるのでしょうか。

(渡辺先生)
私たちが日々活動しているのは、細かく見ると細胞一つ一つが働いていることによって成り立ちます。その体の細胞がオーバーワークすると、活性酸素(酸化ストレス)が増加し、その酸化ストレスが細胞を障害すると疲労を感じる原因の一つになります。
そのときに、障害された細胞を修復するためのエネルギーが低下していると、疲労(感)が残ってしまうのです。

修復エネルギーは3大栄養素から代謝を受けて作られますが、その代謝を助けるのに必要不可欠なのがビタミンB群で、特に重要な糖質からエネルギーを作るのを助けるのがビタミンB1です。ですから、ビタミンB1は疲労を蓄積させないために重要な栄養素なのです。

ストレスと疲労・痛みの関係

(聞き手)
オーバーワークで体に負荷が蓄積してくると、疲労が現れるということですね。

(渡辺先生)
例えば精神的なストレスで心身に負荷がかかると、それに対処するために体が戦闘態勢を整えようとします。脳から脳下垂体へのCRH(コルチコトロピン遊離ホルモン)、脳下垂体から副腎皮質へのACTH(アドレノコルチコトロピックホルモン)、そして、副腎皮質からコルチゾールというホルモンの分泌もそのひとつ。コルチゾールは代謝を促進しエネルギーを作るために働いたり、抗炎症などに働く一方、「ストレスホルモン」とも呼ばれ、免疫力を低下させたりもするのです。

また、ストレスによってアドレナリンやノルアドレナリンが分泌されます。これらは血管を収縮させ血行障害を引き起こすことも。血行障害は例えば肩こりや腰痛などの痛みに関わることもあるのです。
コルチゾールやアドレナリン・ノルアドレナリンなど、本来は体の中で重要な働きをするものですが、ストレスによって過多な状態が続くことが問題です。これらは体にさまざまな不調を招くので、ストレスは早めに対処することが大切でしょう。

withコロナ時代を意識した疲労対処法

ポイントは疲労に対する予防と抗疲労成分

(聞き手)
では、疲労を溜め込まないために、意識して取り入れるべき生活習慣を教えてください。

(渡辺先生)
基本的には、睡眠、バランスのとれた食事、適度な運動といった規則正しい生活で自律神経系を整えることが大切です。

活動をするために交感神経系の活動を上げることは大事ですが、あまり長く働かせ続けると、坂道をムチ打ってのぼり続けるようなものです。
だからこそ、無理をせず休息する=リラックスすることで、また坂道を登ろうとする力を回復させることが必要なのです。自分なりのリラックス法を常日頃から準備しておくとよいでしょう。

(聞き手)
必要な栄養素を意識的に補うことはどうでしょうか?

(渡辺先生)
疲れに対して予防的に対処することは必要ですね。そういった点で、バランスのとれた食事や、不足した栄養素を補ってあげることも非常に大事です。内側からストレスに対処することや、抗疲労に役立つものを摂取していくことは、withコロナ時代に求められることですね。

(聞き手)
具体的には、どのようなものがよいでしょうか?

(渡辺先生)
免疫系に働くポリフェノールや、抗酸化作用があるビタミンC, E, β-カロテン、還元型コエンザイムQ10、システイン、イミダゾールジペプチド、アスタキサンチンなど。それと疲労回復に役立つビタミンB群やα-リポ酸、パントテン酸、亜鉛、鉄分も必要です。それから希少な金属イオンであるバナジウムやセレンなども意識するとよいでしょう。

(聞き手)
現われてしまった疲れに対しては、いかがでしょうか?

(渡辺先生)
抗疲労成分というものも研究で明らかになっています。例えばフルスルチアミンがあります。これはエネルギー代謝(TCAサイクル)において重要なビタミンB1の誘導体というもので、ビタミンB1を改良したものです。薬の成分としてのみ用いられるものです。
ビタミンB1は食事だけで補おうとすると、どうしても不足しがちです。ビタミンB1には一度にたくさんとっても、吸収される量に限度があることが知られています。ビタミンB1誘導体であるフルスルチアミンはより体に吸収されやすく改良されたもので、体の中で「活性型ビタミンB1」を生成し、疲労の回復を助けます。

渡辺先生から読者へのメッセージ

withコロナ時代における、疲れとの付き合い方

(聞き手)
最後にwithコロナ時代において、疲れとの上手な付き合い方を指南していただけますか?

(渡辺先生)
前述のとおりストレスは疲れの原因になりますから、ストレスに直面しそうな場面について前もってシミュレーションしておくことです。たとえば密な集団の中に行かなければいけないとき、通勤電車に乗るとき、ストレスを軽減するためにどんな行動をするか想定しておくのです。こういったことは非常に重要だと思います。

(聞き手)
それが自分を守ることになるのですね。

(渡辺先生)
はい。そしてもう1つは情報の取捨選択です。withコロナ時代は、正しい情報の収集が肝になります。さまざまな情報が出てきますが、不必要に惑わされてはそれもストレスにつながります。ご自身が信頼できる人やメディアを、しっかりと選択することが必要です。
正確な情報を素早くキャッチすることで、疲れに対して予防的に対処しておきたいものです。