プレコンセプションケアとは?
生活習慣を見直して
妊娠前からの
健康づくりへ

「プレコンセプションケア」という言葉をご存じですか?「プレコンセプションケア」は、将来妊娠する、しないに関わらず、妊娠できる健康な体づくりを目的としたケアのことをいいます。そのために、プレコンセプション外来といわれる、現在の体や体づくりのためのチェックを目的とした外来※1を設けている医療機関もあります。
ここではプレコンセプションケアが大切な理由、プレコンセプションケアのチェックシートと重要なポイントについてご紹介します。

※1 保険適応外となります。

窪 麻由美 先生

監修窪 麻由美 先生(丸の内の森レディースクリニック 副院長)

「プレコンセプションケア」とは?

将来の妊娠や体の変化に備えるヘルスケア

「プレ」は「~の前の」、「コンセプション」は「受胎(妊娠すること)」という意味です。「プレコンセプションケア」は、将来妊娠する、しないに関わらず、妊娠できる健康な体づくりを目的としたケアのことをいいます。海外では2006年に米国疾病管理予防センター(CDC)がプレコンセプションケアを定義し、その後、世界保健機構(WHO)がその概念を提唱するなど、本格的に推奨されてきました。日本では2015年に国立成育医療研究センターがプレコンセプションケアセンターを立ち上げました。プレコンセプションケアは将来の健康な妊娠・出産のためだけにするものではなく、自身のライフプランや将来の子どもたちの長期的な健康を考える上でも大切です。

なぜプレコンセプションケアが大切なの?

健やかな妊娠・出産のために

妊娠について考える時期に早すぎることはないとされています。プレコンセプションケアの対象は、前思春期から出産が可能な年齢(図1)にあるすべての人々であり、今妊娠・出産を計画しているかどうかは重要ではありません。また、女性に限った話でもなく、子どもを持つことが可能なすべての男女の健康増進が目的です。
日本は周産期死亡率の面から考えても、諸外国と比べて安全な出産を行うことができる環境があります。一方で、日本特有の課題もたくさんあります。具体的には、出生数の減少や妊娠高齢化による不妊治療数の増加や性教育の遅れによる低いヘルスリテラシー、子宮頸がんワクチン接種率や子宮頸がん・乳がん検診率が低いこと、葉酸含有サプリメント摂取率や低用量ピル内服率が低いことなどです。そのため、日本でのプレコンセプションケアの必要性は今後ますます高まると考えられています。

図1 女性のライフステージと出産が可能な年齢

若い頃のケア不足で後悔しないために

厚生労働省の調査によると、BMI※218.5kg/m2未満のやせの者は20代女性ではおよそ20%を占めており、他の年代に比べて高い割合です(図2)。やせた女性からは低出生体重児(出生時体重2,500g未満)が生まれやすいことが報告されています。実際に日本の低出生体重児の割合は、経済協力開発機構(OECD)に加盟する35ヵ国の平均値である6.5%と比較しても高い割合が続いています(図3)。さらに、低出生体重児は将来成人した後に肥満や高血圧、糖尿病などの生活習慣病になりやすいという問題があります。早くから健康づくりに取り組むことは、生まれてくる子どもの将来の健康のためでもあるのです。
また、やせすぎによる無月経や若い女性でよくみられる子宮内膜症は、不妊につながる可能性があります。月経は毎月のことなので不調にも慣れてしまいがちですが、月経トラブルを放置しないことも大切です。

※2 BMI(Body Mass Index)はボディマス指数と呼ばれ、体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数のことです。BMI= [体重(kg)]÷[身長(m)2]

図2 やせの者(BMI<18.5kg/m2)の割合の年次推移(20歳以上)(2009~2019年)

厚生労働省: 国民健康・栄養調査結果の概要(令和元年)

図3 出生数と低出生体重児割合の推移(2000~2018年)

厚生労働省: 人口動態統計

今から実践できるプレコンセプションケア

まずは「プレコン・チェックシート」で確認!

「プレコン・チェックシート」はすべての妊娠可能な年齢の女性とそのパートナーに向けて、確認しておいたほうがよい内容をまとめたものです。
まずは実践できている項目をチェックしてみましょう。チェックの入らなかった項目については、できることから始めて、1つずつ実践できる項目を増やしていきましょう。

―プレコン・チェックシート(女性用)―

  • ☐ 適正体重をキープしよう。
  • ☐ 禁煙する。受動喫煙を避ける。
  • ☐ アルコールを控える。妊娠したら禁酒する。
  • ☐ バランスの良い食事をこころがける。
  • ☐ 食事とサプリメントから 葉酸を積極的に摂取しよう。
  • ☐ 150分/週運動しよう。 こころもからだも活発に。
  • ☐ ストレスをためこまない。
  • ☐ 感染症から自分を守る。(風疹・B型/C型肝炎・性感染症など)
  • ☐ ワクチン接種をしよう。(風疹・インフルエンザなど)
  • ☐ パートナーも一緒に健康管理をしよう。
  • ☐ 危険ドラッグを使用しない。
  • ☐ 有害な薬品を避ける。
  • ☐ 生活習慣病をチェックしよう。(血圧・糖尿病・検尿など)
  • ☐ がんのチェックをしよう。(乳がん・子宮頸がんなど)
  • ☐ HPVワクチンを接種したか確認しよう。
  • ☐ かかりつけの婦人科医をつくろう。
  • ☐ 持病と妊娠について知ろう。(薬の内服についてなど)
  • ☐ 家族の病気を知っておこう。
  • ☐ 歯のケアをしよう。
  • ☐ 計画:将来の妊娠・出産をライフプランとして考えてみよう。

―プレコン・チェックシート(男性用)―

  • ☐ バランスの良い食事をこころがけ、適正体重をキープしよう。
  • ☐ たばこや危険ドラッグ、過度の飲酒はやめよう。
  • ☐ ストレスをためこまない。
  • ☐ 生活習慣病やがんのチェックをしよう。
  • ☐ パートナーも一緒に健康管理をしよう。
  • ☐ 感染症から自分とパートナーを守る。(風疹・ B型/C型肝炎・性感染症など)
  • ☐ ワクチン接種をしよう。(風疹・おたふくかぜ・インフルエンザなど)
  • ☐ HPVワクチンをうとう。
  • ☐ 自分と家族の病気を知っておこう。
  • ☐ 計画:将来の妊娠・出産やライフプランについてパートナーと一緒に考えてみよう。

出典: 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター

毎日の生活習慣を見直そう

✔ 栄養バランスを見直す

バランスの良い食事とは、主食・主菜・副菜が揃っている食事のことです。農林水産省の調査(食育に関する意識調査報告書 令和5年3月)では栄養バランスを考えた食事を1日2回以上とれている日がほとんどない、もしくは週2~3日の人の割合は20代で58.8%であり、半数以上が栄養バランスの偏った食生活を送っていることが分かりました。また、エネルギーのもととなる穀物の摂取量は20~40代の女性で減少しており、十分にエネルギーを摂取できていない現状があります。加えて、先進国の食事は肉類や精製された穀物、糖質、脂質が多い反面、ビタミン、ミネラルが不足しがちであることにも注意が必要です。妊娠前から栄養バランスの良い食生活を意識し、実践してみましょう。

✔ 感染症を予防する

性感染症は10~20代で多くみられます。妊娠中の感染は不妊症や流早産、母子感染のリスクがあるため、性感染症スクリーニング(ブライダルチェック)もプレコンセプションケアの大切な要素です。項目としては、クラミジア、淋菌、梅毒、HIVの4疾患が推奨されています。パートナーが検査や治療を怠ると再感染のリスクになるため、性感染症に関するプレコンセプションケアはパートナーも一緒に取り組まなければ効果がありません。
性感染症の他にもウイルスが母子感染で胎児に感染し、赤ちゃんに影響を及ぼす感染症として、風疹、麻疹、水痘、おたふくかぜがあります。確実な予防のため、妊娠を考える段階でこれらのワクチンを過去に2回接種しているか、確認しておきましょう。

✔ 適度に運動し、適正体重を守る

適正体重がどのくらいかご存じですか?BMI18.5kg/m2以上25kg/m2未満が適正体重といわれています。妊娠前の肥満は不妊、妊娠後の肥満は妊娠合併症のリスクになります。肥満者(BMI≧25kg/m2)の割合は年代が上がるにつれて増加するため、晩婚化に伴い出産年齢が上がっている日本においては妊娠を目指す女性や妊婦における肥満者の割合は今後も増える可能性があります。また、妊娠前のBMIや妊娠中の体重増加は生まれてくる子どもにも小児期肥満や高血圧、脂質異常、インスリン抵抗性などの長期的な影響をもたらします。反対に妊娠前の体重管理や身体活動量の多さが妊娠合併症や早産、死産のリスクを低下させたデータもあり、妊娠前にライフスタイルの見直しや運動習慣を身につけることが大切です。WHOでは1週間に150分程度の運動を推奨しています。男性も肥満が精子の質や量に影響を及ぼし不妊の原因になること、子どもの慢性疾患のリスクになることが報告されていますので、適度な運動を心がけましょう。

✔ 禁煙する・受動喫煙を避ける

妊娠中の喫煙は流産、早産、胎児発育不全などに関与することに加え、子どもの乳幼児突然死症候群や将来の肥満、心血管系リスクを上昇させます。また、男女問わず喫煙は不妊の原因にもなりますので、妊娠前から禁煙しましょう。受動喫煙※3であっても同様のリスクがあるため、妊娠中は周囲の協力も欠かせません。

※3 本人は喫煙しなくても他人が吸うたばこの煙を吸ってしまうこと。

✔ アルコールを控える

厚生労働省が示す、適度な飲酒量は、1日に純アルコールで20g程度(ビール500ml)です。妊娠中にアルコールを摂取すると、胎盤を通って赤ちゃんに影響し、胎児性アルコール症候群の原因になります。胎児性アルコール症候群は目や鼻の奇形、胎児の発育不全、中枢神経障害などが起こるとされています。摂取しても問題のないアルコール量については確かな基準がありませんので、妊娠を考えたときからアルコールは控えるようにしましょう。

✔ ストレスをためない

現代はストレスが多く、心の不調を抱えてしまいがちです。まずは自分がストレスを感じていることに気付くことが第一歩です。ストレス解消法は人それぞれですが、体に空気をたくさん取り入れながら行う散歩やランニング、サイクリング、ダンスなどの有酸素運動がおすすめです。また、もやもやした気持ちを抱えて苦しいときはそれを紙に書き出してみたり、気分に合う音楽を聴いたり、思い切りカラオケで発散するのもストレス解消になるでしょう。笑ったり、意識して深い呼吸を行ったりするのも効果的です。普段から自分なりのストレス解消法を見つけておきましょう。

✔ 十分な睡眠時間を確保する

理想的な睡眠時間は6~8時間とされています。睡眠は心身のメンテナンスに欠かせません。睡眠の質を高めることは疲労回復だけではなく、ホルモンバランスを整えたり、さまざまな病気を予防したりすることにつながります。

積極的に摂りたい栄養素をチェック

✔ 炭水化物

炭水化物は、ごはんやパン、麺などに多く含まれますが、前述したように若い女性を中心に穀物の摂取量は減少しており、十分な炭水化物、つまりエネルギー摂取ができていない現状があります。妊娠中は妊娠前に比べて必要なエネルギー量が増加するため、妊娠前から意識的に主食を摂取することが望ましいです。3回の食事で十分な量の主食をとれない場合は、間食におにぎりを食べるなど工夫してみましょう。
炭水化物の一種である食物繊維の摂取量も目標量に達していません。食物繊維を積極的に摂取することは生活習慣病の重症化予防において重要と考えられています。

✔ たんぱく質

たんぱく質を含む食品というと、主菜である魚や肉、卵、大豆などが思い浮かぶかもしれませんが、穀物にも含まれています。穀物由来のたんぱく質摂取量は全体のたんぱく質摂取量の2割を占めるため、穀物もしっかり摂るようにしましょう。また、魚、肉、大豆では含まれる栄養素が異なるため、特定の食材に偏らず、さまざまな組み合わせで摂取するのがポイントです。

✔ 葉酸

ビタミンB群の1つである葉酸は、ほうれん草や枝豆、アスパラガスなどに含まれており、DNA合成や細胞分裂に働きます。日本人女性に不足しがちなビタミンであり、実際、20、30代女性のいずれにおいても実際の摂取量は推奨量に達していません。胎児の先天性異常である「神経管閉鎖障害※4」を予防するためには、妊娠に気付く前の段階から葉酸を十分に摂取することが大切です。具体的には通常の食事に加えて、サプリメントや強化食品などで400μg/日摂取することが推奨されています。

※4 胎児の神経管ができるときに上手くつながらない先天性異常

✔ 鉄分

鉄分はあさりやレバー、牛肉などに含まれるミネラルであり、血液の原料となって貧血予防に働きます。酸素を運搬するため、妊娠期は妊娠前よりもさらに多くの鉄分が必要になります。しかし、20、30代女性のいずれにおいても実際の摂取量は推奨量に達していません。鉄を多く含む食品を組み合わせて十分に摂取するようにしましょう。

✔ カルシウム

カルシウムは乳製品、緑黄色野菜、豆類、小魚などに多く含まれます。妊娠中や出産後は母体からカルシウムが失われるため、妊娠前からの積極的なカルシウム摂取が望まれます。乳製品の摂取量は学校給食がなくなる15歳以降、急激に減ってしまうことに加え、日本人女性のカルシウム摂取量は少ない状況が長期に渡り続いています。さまざまな食品を組み合わせて、カルシウム摂取量を増やすように心がけましょう。

✔ ビタミンB1

ビタミンB1は豚肉や大豆、玄米、ナッツ類に多く含まれており、糖質からエネルギーをつくり出したり、神経の正常な働きを保ったりするのに必要なビタミンです。妊娠すると通常時よりも多くエネルギーが必要になるため、ビタミンB1の必要量も増えます。しかし、若い女性の摂取量は推奨量に到達していません。体内に貯蔵できないため、定期的に摂取し続ける必要があること、加熱により失われやすいことに注意が必要です。
食事からの摂取が難しい場合には、サプリメントや市販のビタミン剤などを利用するのも1つの方法です。

✔ ビタミンC

ビタミンCは果物や野菜などに多く含まれており、皮膚や細胞のコラーゲンを合成するのに必要なビタミンです。大気汚染や紫外線によるダメージから細胞を守ったり、植物性食品からの鉄の吸収を促し、病気から体を守るための免疫系の働きを助けたりするのにも働きます。しかし、若い女性の摂取量は推奨量に到達していません。たばこを吸っていると吸っていない人よりもより多くのビタミンCが必要になります。ビタミンCが含まれている食品は生で食べられるものが多いので、比較的摂取しやすいビタミンです。さまざまな食品を食べることで十分量を摂取するようにしましょう。食事からの摂取が難しい場合には、サプリメントや市販のビタミン剤などを利用するのも1つの方法です。

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定期検診を受け、病気が見つかったら早期治療を

✔ 子宮頸がん検診を受けましょう

子宮頸がんのほとんどは、ヒトパピローマウイルス(HPV)と呼ばれるウイルスの感染が原因であり、性交渉によって感染します。子宮頸がんはワクチン接種と定期的な検診で予防が期待できるがんですが、日本のワクチン接種率は諸外国に比べて低く、年間約1万1,000人※5が子宮頸がんと診断されています。特に20~30代の女性の子宮頸がんが増えています。ワクチンを接種しても感染が100%防げるわけではありませんので、定期的に検診を受け、異常が見つかったら精密検査を受けることが大切です。

※5 国立がん研究センター がん情報サービス: 「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)全国がん罹患データ(2016~2019年)
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html(2024年1月19日閲覧)

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✔ 生活習慣病をチェックしましょう

糖尿病や高血圧などの生活習慣病がないか、定期健診で確認しましょう。これらの疾患がある場合、合併症予防のために計画的に妊娠する必要がありますし、妊娠に向けて治療を行っていて服用している治療薬がある場合は、治療薬の見直しが必要なケースがあります。

✔ 歯科検診を受けましょう

歯周病にかかっていると、低出生体重児および早産のリスクが高くなるとされています。また、妊娠すると女性ホルモンの影響で歯肉炎になりやすいことが知られています。妊娠前から定期的に歯科検診を受け、口腔内を清潔に保つことを心がけましょう。

✔ 甲状腺の病気を持っている場合

未治療や治療をしていてもコントロールできていない甲状腺疾患(甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症)を持っている場合、流早産、妊娠合併症、低出生体重児などのリスクがあります。治療によってこれらのリスクが改善することが分かっているため、妊娠前からきちんと治療しておく必要があります。

まとめ

将来の健康な妊娠・出産のためだけではなく、自身のライフプランを描くことや未来の子どもたちの健康にもつながるプレコンセプションケア。健康的な生活習慣を身につけることは単に健康を維持するだけではなく、思い描いた人生をおくることにもつながります。妊娠・出産について不安がある場合は、プレコンセプション外来を受診し相談してみるのも1つの方法です。今までの生活習慣を急に変えるのは難しいことですので、できる範囲で一つひとつ取り組んでいきましょう。

参考文献

1) 厚生労働省: 妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針 ~妊娠前から、健康なからだづくりを~ 解説要領(令和3年3月)
2) 厚生労働省: 国民健康・栄養調査結果の概要(令和元年)
3) 厚生労働省: 日本人の食事摂取基準(2020 年版)
4) 農林水産省: 食育に関する意識調査報告書(令和5年3月)
5) 日本産科婦人科学会: 子宮頸がん予防についての正しい理解のために(第4版)