〈話し手〉 加地 正英 Masahide Kaji(函館五稜郭病院 総合診療科 科長)
秋から冬にかけての時期は、かぜに罹りやすい季節といえます。かぜの症状は、発熱、悪寒、頭痛、鼻水、喉の痛み、咳、倦怠感……など様々ですが、普段通りの生活ができなくなってしまうものとして「発熱」があげられます。かぜをひいていよいよ熱が出てくると、学校や仕事を休むことになってしまう人は多いのではないでしょうか。かぜの時の「発熱」はどのように起こるのか、どのように対処するのがよいのか。「発熱」を適切に対処し、かぜを一刻も早く治していつもの生活が送れる方法を、加地正英先生に教えていただきました。
かぜをひくと熱が出るのはなぜ?
日本人の平均体温は36.89±0.34℃といわれています。体内ではそれよりも少し高めで、ほぼ一定に保たれています(図1)。37℃前後は、私たちが生きていくために必要なエネルギーやタンパク質をつくる酵素や、食べ物を代謝する酵素が働くのに最適な温度といわれています。それなのに、かぜをひくと熱が出て体温が平常より高くなるのは、なぜでしょうか。
かぜは主にウイルスの感染によって起こります。かぜのウイルスは人の平熱程度の温度で増殖しやすいという特徴があります。かぜをひくと熱が出るのは、体温を上昇させて、ウイルスの増殖や活動性を弱めるためなのです。また、体温が上がることによって、ウイルスをやっつける白血球などが働きやすくなり、免疫の活性化を来たします。特に体温が40℃にもなるとかぜのウイルスは増殖しにくくなると考えられています。
図1 体温の分布
當瀬規嗣著.「これならわかる要点生理学」p94-95を基に作図
発熱が起こるしくみ
体温が一定に保たれているのは、脳の視床下部が体温を調節するサーモスタットの役割を担っており、設定温度(セットポイント)を調節しているからです(図2)。発熱が起こるのは、かぜのウイルスなどに起因する発熱物質などによってこの設定温度を上げられてしまうためです。
この発熱を起こすしくみには2つの系統があります。
一つは、外因性発熱物質によるものです。ウイルスが感染すると毒素(トキシン)を出し、これが体内に侵入して発熱を起こします。これは、ウイルスの種類によっても違いがあるといわれています。熱が出やすいかぜとそうでもないかぜがあるのはこのためです。
もう一つはウイルスに感染することで白血球やマクロファージなどが活性化され、インターフェロンなどのサイトカイン*といった内因性発熱物質を作り出し、発熱を起こすというものです。
*サイトカイン:細胞が分泌する生理活性物質で、インターロイキン、腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロンγ、MIP-1など。
図2 発熱が起こるしくみ(模式図)
発熱は体の防御反応であると同時に体力の消耗にもつながる
私たち人類は、長い歴史において様々な外敵や病気と闘い続けてきました。薬やワクチンもない中で感染症になった時は、熱を出して体温を上げるという機能を獲得し、ウイルス感染などに対応して生き残ってきました。発熱は感染した時に自分を守るための自然な体の反応なのです。一方で熱が出ると、たくさんのエネルギーを消耗し、体力が奪われてしまいます。
さらに、熱にともない悪寒がしたり、頭痛、倦怠感(だるさ)といった症状も起こってきます。このような症状は、熱を上げるために、または上がった結果起こる症状であったりするのです。このように、「発熱」は体の防御反応であると同時に、逆に体に大きな負担になり悪影響を及ぼすともいえるのです。
表 発熱に多い随伴症状
熱がつらい時はできるだけ早めの対処を
それでは熱は薬をのんで下げた方がよいのでしょうか。
がまんできる範囲ならよいですが、熱がつらくて仕事ができない、学校に行けない、家族の面倒をみられないでは、社会生活に支障が出ます。
そんな時はがまんせずにできるだけ早くかぜ薬を使って熱を下げた方がよいでしょう。かぜを治すには自分の体力と免疫力でウイルスに打ち勝つことが必要です。熱が出るとエネルギーを多く使い、体力を消耗してしまいます。さらに、だるい、気分が悪いなど不快な状態が続くと、食欲が落ちたり、眠れなくなったりと、さらに体力が奪われることになってしまい、回復するのに時間がかかってしまいます。自分の体力をかぜを治すことに集中して使うためにも、できるだけ早い対処が望まれます。つまり、熱の出るかぜは熱を下げないよりも下げた方が良い時もあります。
それではどんな薬で対処するのがよいでしょうか。一般的なかぜであればまずはOTC医薬品のかぜ薬で対処する方法があります。OTC医薬品のかぜ薬によく配合されている解熱成分としては、非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)とアセトアミノフェンがあります。
イブプロフェンはNSAIDsの一種で、生理活性物質であるプロスタグランジンの合成を阻害することで解熱作用を示します。抗炎症作用も示すため、同時に起こってくるほかの症状にも効きます。例えば喉が腫れて痛む時にも症状を和らげてくれます。アセトアミノフェンは、子どもの解熱にも以前からよく使われている成分です。NSAIDsとは異なる機序で解熱作用を示し、比較的副作用も少なく胃にもやさしいので高齢者にも勧められます。NSAIDsのみでは胃が荒れることがありますが、イブプロフェンとアセトアミノフェンの両方が配合されている場合、イブプロフェン単独よりも胃への負担が軽減されます。
ドラッグストアには様々なOTC医薬品のかぜ薬が販売されています。症状別に成分が強化されたものなどもありますので、どれがよいかわからない時には、店頭で薬剤師や登録販売者に相談して、自分に合ったものを見つけるとよいでしょう。
なお、持病に高血圧や糖尿病、心臓や腎臓の病気がある方、高齢者のほか、発熱が3日以上続く場合や、いったん熱が下がったのにまた熱が上がる場合は、単なるかぜではない場合も考えられるので医療機関を受診しましょう。
かぜを治すために必要なこと
かぜを治すために一番大切なことはつらい症状に対処をして「体を休ませること」です。できるだけ横になって休養し、睡眠時間を十分にとりましょう。
なぜ休養と睡眠が大切なのかというと、かぜをひいた時には余分なエネルギーをできるだけ使わないことが重要だからです。そういった意味から、高熱や生活に支障が出るような発熱は、放っておくのではなく下げることが回復への近道といえます。動物は体調が悪い時にはじっと動かずに寝ています。それが一番効果的であることを本能でわかっているからです。
そして体力をつけるためには、水分補給や栄養も必要です。特に熱が出て汗をかいた時には脱水になりやすいので注意しましょう。
また、食事は消化しやすいものをとり、おかゆやスープなど食事からも水分がとれるようなメニューがおすすめです。
このように、熱がつらい時はがまんせずに早めにかぜ薬を服用し、しっかり休養と栄養をとって体力を温存することで、かぜを長引かせずに早く治すことができるのです。
特定の医薬品購入に対する「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)」が、2017年1月1日から始まりました。
「セルフメディケーション税制」では、健康診断などを受けている人が、対象となる市販薬を購入すると所得控除を受けられます。市販薬などで自ら手当てすることは、自分の健康維持や生活の質の改善に役立ちますし、日本の医療費の削減にもつながります。
対象になる市販薬(要指導医薬品および一般用医薬品)を年間12,000円以上購入すると、12,000円を超えた部分の金額(上限金額:88,000円)について所得控除を受けることができます。
注意:従来の医療費控除とセルフメディケーション税制を同時に利用することはできません。
控除額の大きい方をお選びください。
●セルフメディケーション税制を利用できる人
以下の3点の事項の全てに該当する人です。
・所得税、住民税を納めている。
・1年間(1~12月)に健康の維持増進および疾病の予防への取り組みとして申告予定者が一定の取り組みを行っている(特定健康診査、予防接種、定期健康診断、健康診断、がん検診)。
・1年間(1~12月)で、対象となるOTC医薬品を12,000円を超えて購入している(扶養家族分を合算)。
※申告予定者は、1月1日~12月31日の1年間で、対象となるOTC医薬品の購入合計金額をレシート(領収書)で確認することになります。
●セルフメディケーション税制の対象製品
対象になるのはOTC医薬品(要指導医薬品および一般用医薬品)のうち、医療用から転用された特定成分を含むスイッチOTC医薬品です。約1,500品目(平成30年7月現在)あり、下記のマークが目印です。
※本マークは、一般社団法人 日本OTC医薬品情報研究会 の登録商標です。
注意:申告のために、ドラッグストアや薬局等で対象の市販薬を買った時の領収書・レシートが必要です。確定申告の時期(2月中旬〜3月中旬)まで、保管しておきましょう。
健康サイト「セルフメディケーション税制」https://alinamin-kenko.jp/kenkolife/kusuri/tax_deduction.html