監修
内藤 裕二 先生 (一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会理事長/日本酸化ストレス学会理事長/京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座教授)
ビフィズス菌は、ヒトや動物の腸内に棲む細菌のひとつで、「酢酸」と「乳酸」を産生し、腸内環境を改善するよい働きがある「善玉菌」として知られています。ビフィズス菌は、消化・吸収されずに生きたまま腸まで届くことで、体内で効果的に働くことがわかっています。
なお、近年の研究により、特定の種類のビフィズス菌を摂ることで、認知機能の低下を抑制する効果が確認されました。厚生労働省の研究班が2024年5月に報告した推計では、2030年には認知症患者数が523万人に、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の方が593万人になる見通しで、高齢者の3人に1人が認知症またはMCIになるといわれています。認知症対策が急務である超高齢社会の日本では、認知症との関係においても、ビフィズス菌が注目を集めています。
<将来推計グラフ>
出典:
二宮利治「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」
内閣府「令和6年版高齢社会白書」 より作成
ビフィズス菌は大腸に棲み、乳酸菌は小腸の下部~大腸に棲みついています。ビフィズス菌と乳酸菌のおもな違いは、腸の中で作り出す「酸」の種類にあります。乳酸菌はその名の通り、「乳酸」を作り出します。この乳酸は腸内を酸性にし、腸に悪い働きをする「悪玉菌」の発生を抑制して腸の調子を整えてくれます。また、乳酸菌はヨーグルトやチーズ、漬物、日本酒などの発酵食品の製造にも使われます。
ビフィズス菌と酪酸菌は、ともに大腸に棲みついている善玉菌ですが、作り出す酸の種類に違いがあります。酪酸菌は「酪酸」を作り出します。この酪酸は大腸のおもなエネルギー源であり、大腸の粘膜上皮細胞の代謝を促して酸素を消費することで、大腸の中をビフィズス菌など他の善玉菌にも棲みやすい環境にします。また、酪酸には腸内の粘液の産生を促進させて、大腸の分厚い粘液層(大腸バリア)が保たれるのを助ける、大切な役割があります。
ビフィズス菌を摂取すると、以下のような効果が期待できます。
ここ数年間のさまざまな研究により、特定の種類のビフィズス菌を摂取することで、中高年の加齢に伴い低下する認知機能の一部を維持することがわかってきました。ビフィズス菌がもたらす認知機能への作用については、後ほど詳しく解説します。
私たちの腸の中には、約1,000種類、100兆個もの腸内細菌がグループを作りながら存在しています。その様子が、いろいろな種類の花々が群生する花畑のようにみえることから、「腸内フローラ」と呼ばれています。腸内フローラを形作る細菌は、体によい影響をもたらす菌である「善玉菌」と、悪い影響をもたらす「悪玉菌」、そしてそのどちらにも含まれない「日和見菌」の3つにわけられます。
ビフィズス菌は、おもな善玉菌のひとつであり、オリゴ糖を栄養にして「酢酸」と「乳酸」を産生します。すると腸内環境が酸性に傾き、アルカリ性の環境を好む悪玉菌の増殖を抑えることができます。口から体内に入り、腸内で増えて下痢や腹痛を引き起こす、腸管出血性大腸菌(O-157 など)やウイルス性胃腸炎(ノロウイルス、ロタウイルスなど)のような腸管感染症にかかる確率を減少させてくれるのです。
また、酸には腸のぜん動運動(腸の中にあるものを、先へ先へと送り出す動き)を促して、お通じをよくするなど、腸内環境の改善効果もあるため、便秘の予防や解消にも効果が期待できます。腸内細菌たちが作り出す酸の中でも、ビフィズス菌が作り出す酢酸のような「短鎖脂肪酸」*と呼ばれる酸は、大腸のエネルギー源となって、大腸が正常に働くように助ける働きがあります。
*酢酸のほか、酪酸菌が産生する酪酸なども短鎖脂肪酸です。
ビフィズス菌には以下のような種類があり、表に記載の機能が報告されています。
ビフィズス菌の種類 |
特徴的な機能 |
ビフィズス菌 |
健常な中高年の方の加齢に伴い低下する認知機能の一部である記憶力*、空間認識力を維持する |
ビフィズス菌 |
腸内環境を良好にし、腸の調子を整える |
ビフィズス菌 |
腸内環境を改善したり、お通じを改善しておなかの調子を整える |
ビフィズス菌 |
乳児のアレルギー予防・改善の作用 |
ビフィズス菌は現在発見されているだけでも、100種類以上あるといわれています。また、よく知られている整腸作用のほか、菌の種類によって、さまざまな効果があることもわかっています。
中でもビフィズス菌MCC1274は、健常な中高年の方の加齢に伴い低下する認知機能の一部である記憶力*、空間認識力を維持する働きが報告されています。
*見たり聞いたりした内容を記憶し、思い出す力のこと
近年、腸内細菌を含めた「腸」と「脳」が密接に関連していることが明らかにされてきました。これを「脳腸相関」と呼び、腸内細菌と認知症を含めた「脳の健康」の関連に注目が集まっています。
2020年に、日本人80名を対象とした臨床試験の結果が論文として発表されました。それによるとMCI(軽度認知障害)と疑われる50~79歳の健常者に対して、ビフィズス菌MCC1274またはプラセボ(偽薬)を16週間摂取してもらった結果、ビフィズス菌MCC1274 には中高年の加齢に伴い低下する認知機能の一部である記憶力、空間認識力を維持する働きが確認されました。
続いて2021年12月には、名古屋市立大学大学院医学研究科神経生化学分野の道川誠教授らにより、ビフィズス菌MCC1274がアルツハイマー病に与える影響についての論文が発表されました。アルツハイマー病は、日本の認知症の半数以上を占める疾患であり、65歳以降に発症率が増加します。原因は脳内にアミロイドβというたんぱく質が蓄積すること。本論文中では、ビフィズス菌MCC1274をアルツハイマー病モデルマウスに経口摂取させると、アミロイドβの産生や沈着を低下させることが見出されました。その結果、アルツハイマー病態の発症および進行が抑制され、記憶障害を予防できることが確認されました。
また、2022年4月には、順天堂大学大学院医学研究科ジェロントロジー研究センターの研究チームが論文を発表。本論文では、ビフィズス菌MCC1274の経口摂取により、MCIの方の認知機能の改善および脳の萎縮の進行を抑える効果が確認されました。さらに腸内フローラにおけるビフィズス菌の占める割合を調べてみると、認知機能が低い方ではMCC1274を含むビフィズス菌の割合が低いこともわかりました。認知症は段階的に進行し、MCIから認知症に移行する方は年間で10~30%といわれています。MCIの段階で適切な治療や認知症予防へつなげることは、とても重要なのです。
これらの数々の研究において、MCC1274が認知機能に作用を及ぼすメカニズムとしては、おもに次の3つが考察されています。現在も研究は進んでいるので、近い将来、驚くような画期的なメカニズムが明らかになるかもしれません。
ビフィズス菌MCC1274が認知機能にもたらす影響については、大学だけでなく、多くの民間企業等においても研究が進められています。今後研究が進めば、認知症という大きな社会課題を解決するために重要な役割を果たすことが期待されます。
ビフィズス菌に限らず、健康食品の摂り方は、吸収の面から食後の摂取が効果的とされています。また、のみ忘れを防ぐためにも、毎日同じ時間帯に摂取することをおすすめします。毎日3食の食後のうち、摂取しやすいタイミングを選んで習慣化するとよいでしょう。
ビフィズス菌の効果や摂り方について、よくある質問とその答えを以下にまとめました。
ビフィズス菌は一般的に、摂取を始めると1週間くらいで腸内で検出されるようになり、一方で摂取をやめると数日で体外に排出されてしまう性質があります。そのため一度にまとめて摂取するよりも、毎日少しずつでも継続して摂り続けると効果的です。まずは1ヵ月を目途に毎日摂り続けてみて、効果が感じられたら継続することをおすすめします。
ビフィズス菌は一定時間経つと体内から排出されます。体内に蓄積されていくことはないので、必要以上に摂り過ぎても問題になることはありません。
乳酸菌とビフィズス菌、酪酸菌の3つは、どれも腸内環境を良好に保つためには欠かせない善玉菌です。ご自身がもともと持つ腸内フローラの構成や体調などの状況により、どれを摂取すべきかは変わってきます。例えばビフィズス菌の特定の種類(MCC1274などが含まれるブレーベ種)は、乳幼児期には多く腸内に生息しているのに、加齢に伴い減少していくことがわかっています。ライフステージに応じた摂取を心がけることが重要です。また、自分の腸内にどの細菌がいるのかを把握するのは難しいため、上記の3つを含め多様な菌をバランスよく摂ることが重要です。加えて酪酸菌は食ベ物から摂取することが難しいため、いま腸内に棲んでいる酪酸菌を増加させるために、酪酸菌のエサとなる食物繊維も摂るようにしたいものです。1種類の菌だけをかたよって摂取することがないように意識し、朝食では乳酸菌を意識して乳製品や発酵食品を摂る、夕食後は酪酸菌とビフィズス菌を摂るために健康食品を活用するなど、時間や摂り方を工夫するようにしましょう。