【新しい腸活】ポイントは「腸内フローラ」だけじゃない!? 腸内環境を整えるおすすめの方法

【新しい腸活】ポイントは「腸内フローラ」だけじゃない!? 腸内環境を整えるおすすめの方法

外出を控える生活への移行やWeb・メールなどによるコミュニケーションの変化など、「新しい生活様式」が求められる今日。知らず知らずのうちにストレスを感じ、便秘・軟便・腹部膨満などの便通の不調を感じられている方も多いのではないでしょうか。
近年、腸内環境を整えることによって、便通の改善、さらには全身の健康や美容を促進しようとする「腸活」が注目を集めています。ここでは、「腸内フローラ」をキーワードに、おすすめしたい腸活のメリットや腸内環境を整えるためのポイントをはじめ、腸活のカギともいえる「大腸バリア」について解説します。


内藤 裕二 先生

監修

内藤 裕二 先生 (一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会理事長/日本酸化ストレス学会理事長/京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座教授)

腸活の基礎知識

1そもそも腸活ってどんなメリットがある?

腸はわたしたちが食べたものを消化して栄養や水分を吸収し、からだにとって不要なものや老廃物を便として体外へ排泄するための器官です。便秘や下痢といった便通の乱れは、腸がうまくはたらいていないと考えられます。

腸(大腸・小腸)の長さは約7~8メートルで、その表面積はテニスコート約1.5面分にも及びます。腸は「第2の脳」と呼ばれるほど神経系との関わりをもっていて、神経のはたらきや精神への影響との関連性も明らかになってきています。例えば「幸せホルモン」とも呼ばれる神経伝達物質のセロトニンは、その90%が腸で生み出されています。さらにこのセロトニンを原料として脳内で合成されるメラトニンというホルモンは自然な眠気を誘う作用をもっており、睡眠に重要な役割を担っています。便秘・軟便などの便通の乱れや睡眠不足が、お肌の状態と密接に関係することは、皆さんも経験されていることと思います。

このように腸は、消化・吸収・便の排泄だけでなく心身の安定、美容や健康にも関わっています。そして、腸がもつこれらの機能は腸内フローラと呼ばれる腸内環境に左右されています。これを整えるのが腸活です。腸活は、便秘・軟便のような便通改善はもちろんのこと、お肌やメンタルの健康など、様々な面に効果があると考えられています。

腸内環境を整えるには

1キーワードは「腸内フローラ」

ヒトの腸の中には約1,000種類にも及ぶ細菌が100兆個存在し、無数の菌たちが各々のテリトリーを保ちながら相互に影響し合って“お花畑(フローラ)”のように豊かな腸内環境を形成しています。これが腸内フローラという言葉の由来です。

腸内細菌はヒトが食べたものの未消化物をエサにして暮らし、その過程で様々な物質を産生します。それらの物質が腸の細胞に作用して消化・吸収を助けたり、腸から吸収され血流に乗ってからだ中へ運ばれることで全身の機能に影響したりするのです。また、体外から入ってきた有害な菌などは、少数であれば腸内フローラの菌によって排除されます。

腸内フローラを構成する菌は、人間にとって良い影響をもたらす有用菌(善玉菌)、悪い影響をもたらす有害菌(悪玉菌)、それらのいずれにも属さない日和見(ひよりみ)菌の3つに分類され、その理想的なバランスは2:1:7とされています。この比を、少ない種類の菌だけで目指すのではなく、多様な菌によって実現することが重要です。

腸内フローラのバランスが乱れると、菌の相互作用によってもたらされていた腸の様々な機能が低下し、便秘や下痢・軟便といった便通の乱れはもちろんのこと、例えば悪玉菌が増殖した場合には、悪玉菌が生み出す有害物質が腸に直接害を与えたり、からだの他の部分に悪影響を及ぼしたりすることもあります。だからこそ、菌の多様性やバランスを考慮した腸活が必要となるのです。

2腸内フローラを整えるには?

腸内フローラを整える腸活の具体的な方法は、善玉菌のエサとなるオリゴ糖や食物繊維に代表される「プレバイオティクス」の豊富な食品を摂取することです。具体的な食材だと、オリゴ糖は大豆やゴボウ、バナナなどに多く含まれています。食物繊維の中では特に「水溶性食物繊維」が善玉菌のエサとして知られており、昆布、わかめ、もずくなどの粘り気のある海藻や一部の麦類などに含まれています。また、オリゴ糖や食物繊維を含むサプリメントも多数販売されており、選択肢の一つとして考えることができるでしょう。

さらには、善玉菌そのものを摂取することで腸内フローラのバランスを補う「プロバイオティクス」も効果があります。ヨーグルトや味噌、チーズ、納豆など善玉菌やその代謝物が豊富に含まれる発酵食品を積極的に摂ることのほか、サプリメントや整腸剤による菌の摂取も有用です。

腸内フローラチェック

1便をチェックしてみよう!

自分の腸内フローラの状態がどうなっているのか気になった方には、便を観察するのが手軽でおすすめです。「硬さ」「ニオイ」「頻度」の3つのポイントをチェックしてみましょう。

2硬さ

便のタイプを7種類に分類した「ブリストル便形状スケール」を目安に、便の硬さをチェックしてみましょう。

理想的な便は表面がなめらかで柔らかく、ソーセージのような形状です。ドロドロとした不定形な液状の便、あるいはコロコロとした硬い粒状の便の場合には、腸内フローラに乱れがあるかもしれません。

3ニオイ

腸内フローラが良好な状態の場合には、便の臭いはさほど強くありません。しかし、腸内フローラの状態が乱れてウェルシュ菌などの悪玉菌が増えてくると、菌が作り出すアンモニアなどの腐敗物質も増加し、便の臭いが強くなるといわれています。例えばお肉ばかり食べてタンパク質や脂質を多く摂っていると、悪玉菌が活発になり便の臭いが強くなります。

4頻度

排便が週に3回以上あれば良いとされています。ただし、強くいきまないと排便できない、便を出し切れていない感じ(残便感)がするなどといった傾向がある場合には、腸内フローラが乱れている可能性があります。「硬さ」「ニオイ」も確認してみましょう。

これからの腸活

1腸活の新しい考え方「酪酸菌による大腸バリア」とは

腸(大腸・小腸)は広大な面積をもち、体外から入ってくる有害な菌・物質に常にさらされており、それらからからだを守るはたらきを担っています。特に大腸には小腸の100倍以上の細菌が棲んでいるので、有害なものから徹底的に身を守るために2層の粘液層をまとっています。この粘液層は大腸のバリア機能の1つ(以下大腸バリア)で、大腸から産生された粘液が大腸や便をコーティングし、便が直接大腸の壁に触れないようして有害な菌や物質から守るはたらきや、潤滑油のように便をスムーズに移動させるはたらきがあり、便のスムーズな通過・排泄をも助けるのです。

2大腸バリアが低下すると?

この大腸バリアに異常をきたすと、細菌と腸の表面が接近して免疫反応が生じ、炎症を起こすことがあります。さらに腸内フローラの乱れをもたらし、腸の炎症に対してますます過敏になってしまうことも報告されています。

大腸バリアが低下した状態では、粘液のバリア層が減少し、からだが有害な菌や物質から守られなくなったり、便通の乱れにつながったりする可能性があります。また、ストレスが大腸バリアを低下させる可能性も指摘されており、大腸バリアを維持することが便通の正常化やストレスの緩和に役立つと考えられます。では、大腸バリアを守るためには何が必要なのでしょうか。

大腸バリアを維持する酪酸(らくさん)

1酪酸の働きとは?

そのカギを握るのが、腸内の菌によって生み出される物質「酪酸(らくさん)」です。酪酸は大腸にとって最も重要なエネルギー源。その恩恵は多岐にわたりますが、そのひとつが大腸バリアに必要な粘液の産生を促すはたらきです。

また、酪酸は正常な便通を保つことにも貢献しているとされています。便秘の人と同様の腸内フローラを再現したマウスに対して酪酸を与えたところ、排便の頻度や便の状態、腸の動きが改善されたという実験結果が報告されています。 この酪酸が大腸の細胞に作用することで粘液の分泌を促進し、大腸の機能を支えているのです。

2酪酸を生み出すのが、第3の有用菌「酪酸菌」

大腸バリアを維持したり、排便をスムーズにしたりするのに必要な粘液の産生を促す酪酸。その酪酸を生み出すのが、腸内フローラに含まれる「酪酸菌」と呼ばれる菌です。つまり大腸バリアを維持・回復させるためには、酪酸菌の活性を考慮した腸活がおすすめです。

腸内の酪酸菌を増やすには、エサとなる食物繊維を供給してあげることが効果的です。食物繊維を豊富に含んだ食材を摂る食生活を心がけることで、酪酸菌が活動するためのエネルギー源を確保して大腸バリアの機能維持に役立てることができると考えられます。

一方で、食習慣などが原因で腸内にいる酪酸菌の数自体が少ない可能性も考えられ、そのようなときには菌そのものを摂取する「プロバイオティクス」も考えたいところです。ただ、酪酸菌は他の善玉菌と違って含まれている食材が少なく、ぬか漬けや臭豆腐くらいにしか含まれていません。ですから、酪酸菌を含んだサプリメントや整腸剤も選択肢の一つとして考えてみてはいかがでしょうか。

人体のなかで最大面積を誇る腸。そのなかでも心身の健康を大きく担う大腸の機能を整える酪酸菌は、これからの腸活のカギを握る重要なポイントです。みなさんも、酪酸菌の摂取や増殖を考慮した腸活を始めてみませんか。







※画像はイメージです

参考
Lewis SJ, et al.: Scand J Gastroenterol:32(9): 920-4.1997.
奥村龍:生化学89:731‒4,2017.
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2017.890731/data/index.html
Xiaolong Ge, et al.: Scientific Reports 7:441, 2017.
https://www.nature.com/articles/s41598-017-00612-y
宇佐美眞ほか:甲南女子大学研究紀要II 13:25-35,2019.
http://id.nii.ac.jp/1061/00001704/
Akira Shimotoyodomea, et al.: Comparative Biochemistry and Physiology Part A: Molecular & Integrative Physiology 125:525-31, 2000.(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1095643300001835