生理前の便秘
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生理前の便秘

女性に多い便秘の悩み。すっきりしない日が続くのはつらいもの。特に、生理(月経、以下同様)が近づくと便秘になりやすくなるという人は多いのではないでしょうか。 今回はなぜ生理前に便秘がちになるのか、便秘対策にはどのような方法があるのかを、専門家監修のもと解説します。

内藤 裕二 先生

監修

内藤 裕二 先生 (一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会理事長/日本酸化ストレス学会理事長/京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座教授)

生理前に便秘になりやすい理由

女性は生理前でなくとも便秘になりやすい

生理前かどうかにかかわらず、そもそも女性は便秘に悩む人が多い傾向にあります。それには、以下のようなことが関係しているといわれています。

●男性に比べて臓器が密集している
女性の腹部には、胃腸などの消化器系や膵臓、肝臓といった臓器以外に、子宮や卵巣などの生殖器も収まっています。そのため、生殖器が体の外に出ている男性と比べて多くの臓器が密集した状態にあり、お腹のトラブルが起きやすい傾向があります。
また、一見すると便秘には関係のなさそうな臓器のトラブルによって便秘が起こるケースも。子宮筋腫がある場合、筋腫の位置や大きさによっては腸を圧迫し、便秘を引き起こす原因になることもあります。

●女性ホルモンの影響
生理前は、来るべき出血の時期に備えて体が水分などを溜め込みやすくなるため、大腸での水分吸収が増加し、便が硬くなり、排泄しにくくなることがあります。これには、卵巣から分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)が関係しますが、詳しくは後ほどご紹介します。

●食事量の少なさ
食事の量も排便に影響を与えます。女性は男性に比べて食事量が少なく、便として排出される絶対量が少ないことから、便秘になりやすい傾向があります。特にダイエットをしている場合、便が十分に出ないこともあるので、食事の減らしすぎには要注意です。特に、生理前の便秘には食物繊維を多く摂ることが有効なことがあります。

●排便や便意に対する意識
女性は排泄をしたり、便意を知られたりすることに恥ずかしさを感じやすいといわれています。特に他人と一緒の時には、恥ずかしさから排便を我慢する傾向が強まるようですが、普段から便意を我慢することが多いと骨盤底筋群のひとつである肛門周辺の筋肉がうまく働かなくなり、その影響で便秘を引き起こすことがあります。便意を感じたら、なるべく我慢せず、排便のリズムを整えていきましょう。

生理前は女性ホルモンが変動

先ほども説明したように、生理前の女性の便秘には女性ホルモンが影響していることがあります。
女性ホルモンは大きく2つに分類されます。ひとつは生理の直後~生理周期(図中の月経周期)の前半に分泌量が増加する、卵胞ホルモン(エストロゲン)と呼ばれるホルモンです。卵胞ホルモンには肌をつややかにしたり、血管をしなやかにしたり、骨密度を保ったりする働きがあるとされています。
便秘に関係するといわれるのは、もうひとつの女性ホルモン、黄体ホルモン(プロゲステロン)です。黄体ホルモンは、生理周期の後半になると分泌量が増え、気分のイライラや落ち込みをもたらしたり、体に水分を蓄えたりするほか、腸のぜん動運動を抑える働きもあるといわれています。生理前になると女性が便秘がちになるのには、こうした作用を持つ黄体ホルモンの分泌量の増加が影響していると考えられます。
・ほかにも便秘になりやすい理由はこちら便秘

生理前の便秘は腸活や運動、市販薬などで対処しよう

生理の前に起こりがちな女性特有の便秘は、女性ホルモンの影響が大きく、自分ではコントロールが難しいもの。しかし上手に対策すれば、快適に過ごせる可能性が高まります。生理前の便秘対策として有効性が高いとされる方法をいくつかご紹介します。

腸内環境を整える

腸内には細菌がおよそ1000種類、
100兆個も生息しているといわれています。こうした腸内細菌のうち、善玉菌と呼ばれる酪酸菌やビフィズス菌、乳酸菌の割合を増やし、腸内環境を整えることが便秘対策では重要です。

●善玉菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖を積極的に摂る
善玉菌を増やすために欠かせないのが、エサになる食物繊維やオリゴ糖。
善玉菌を増やすことは、腸内環境を整えて便秘改善に役立つと期待できます。食物繊維は不溶性と水溶性の2種類に分けられ、それぞれ異なる働きをします。

不溶性食物繊維
便のカサを増やすほか、腸壁を刺激してぜん動運動を促す。
多く含む食べ物:ごぼう、大豆、いも類、りんご、きのこ、バナナなど
水溶性食物繊維
硬くなった便に水分を呼び込み、排泄しやすくする。
多く含む食べ物:こんにゃく、みかん、豆乳、押麦、ライ麦パンなど
オリゴ糖
便を緩めにする作用と腸の動きを活発にする。
多く含む食べ物:たまねぎ、ごぼう、大豆などの豆類、バナナ、ブロッコリーなど

●酪酸菌や乳酸菌などの善玉菌を直接摂取
ヨーグルト、納豆、キムチ、チーズといった発酵食品に含まれる乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を直接摂り、腸内環境を整える方法もあります。オリゴ糖や食物繊維を一緒に摂取するとより効果的に。乳酸菌を含み、腸のぜん動運動を活発化させるヨーグルトに、食物繊維が多くオリゴ糖も含むきな粉をトッピングしたきな粉ヨーグルトは効率的に摂取しやすいメニューの1つです。
ただし、酪酸菌や乳酸菌は一定期間だけしか腸内に存在できないため、できるだけ毎日摂取し、補充していく必要があります。酪酸菌を含む食材は少ないので、サプリメントや整腸薬を活用するのも手です。

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食生活の工夫

また、不規則な食事や乱れた食生活が原因で便秘になることもあります。
まず実践してもらいたいことは、毎日朝食を食べる習慣です。朝、空っぽの胃を食事で満たすと大腸のぜん動運動が起きやすくなります。
また、便秘対策にはバランスのとれた食事を摂ることも大切です。脂質に含まれる脂肪酸は大腸を刺激し、便秘の改善効果が期待できるため、適度に摂取することが推奨されています※。中でもオリーブオイルは便をやわらかくし、コーティングして滑りをよくする効果のあるオレイン酸が含まれています。さらに、ダイエット目的で糖質制限(糖質の量を減らすこと)は、便秘の場合、おすすめできません。その理由は、糖質制限のために炭水化物を制限することが多く、結果的に炭水化物に含まれる食物繊維が制限されてしまうためです。
また食事量が少なすぎると、便秘を引き起こす要因になるので、注意しましょう。

※便秘の種類によって、脂質の摂取を避けたほうがよい場合があります。
痙攣(けいれん)性便秘が疑われる人は注意してください。
・痙攣(けいれん)性便秘とは?腸内環境を整える!「腸活」におすすめの運動と酪酸菌のおはなし

水分補給はこまめに、たっぷりと

しっかり水分を摂ることで体の脱水を防ぎ、大腸での水分吸収を減少させることができるので、結果的に排泄しやすい軟らかい便になります。硬くなった便を無理に排泄しようとするのは困難ですし、肛門が傷つくリスクもあるので、こまめな水分補給は大切です。
また、朝起きてすぐに冷たい水または牛乳を飲んでみてください。腸が刺激されて活動が活発になり、排便を促す効果が期待できます。

適度な運動や体操・ストレッチで腸を刺激

運動は腸に刺激を与え、便を押し出す力に重要な腹筋などを鍛えることで排便力向上も期待できるので、便秘改善に非常に有効です。
特に、直接お腹をひねるような運動は、便を排泄するためのインナーマッスルの腸腰筋(ちょうようきん)を鍛えることにつながると考えられ、腹筋と共に便を体内から押し出すために必要な筋肉です。スポーツやエクササイズでは、テニスやゴルフ、ピラティスがおすすめ。体をひねる・ゆらすフラダンスやベリーダンスも効果的といわれています。

「運動」といわれると身構えてしまう人、もしくは時間がない人におすすめなのが『ラジオ体操第一』です。数分でお腹をひねる運動や全身をバランスよく動かすことができ、きっちり行うとそれなりの運動量になります。

また体操やストレッチも同様の効果が期待できます。
・腸内環境を整える!「腸活」におすすめの運動はこちら腸内環境を整える!「腸活」におすすめの運動と酪酸菌のおはなし

排便のリズムをつける

便意がなくても毎日決まった時間にトイレに行くと、徐々に排便のリズムが整い、便秘の解消につながることがあります。
タイミングは、朝食の後がおすすめです。起床後の水分補給や朝食の摂取によって胃腸が活性化するなど、便意が起きやすい条件が揃っています。「絶対に出そう」と気負わず、「出たらラッキー」と気楽に考えましょう。

市販薬を上手に取り入れる

自然な排便がなかなか促されない場合は、便秘薬で排便をコントロールするのもひとつの方法です。
市販の便秘薬を使う場合、便秘の状態や特徴、自分の体質・生活習慣などを考慮し、自分に合ったものを選ぶことが大切です。便秘薬は「刺激性」と「非刺激性」に大きく分かれます。刺激性は文字通り、腸に刺激を与えて腸の動きを活発にする作用がある便秘薬のことです。すみやかに効くという特長がありますが、人によっては腹痛や下痢が起こる場合も。一方、非刺激性の便秘薬は、腸に水分を集めて便を軟らかくしたり、便をふくらませたりすることで排便を促します。
生理前などの限られた期間だけに起こる便秘に対しては、刺激性の便秘薬を使ってすっきりするのが適していることもあるでしょう。しかし、刺激性便秘薬に頼りすぎてしまうと、自然な排便のリズムが乱れてしまう可能性が考えられます。その場合は非刺激性の便秘薬や、腸内環境を整える効果がある酪酸菌や乳酸菌が含まれた整腸薬、または刺激性成分を含みつつ、おだやかなお通じが得られやすい漢方製剤の便秘薬を使うのもよいでしょう。自分に合ったタイプの便秘薬を選び、上手に取り入れてみてください。
・便秘薬の種類と選び方はこちら酸化マグネシウム?それとも漢方?便秘薬の種類と選び方

参考文献
・厚生労働省 2019年国民生活基礎調査の概況・統計表
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/index.html
・厚生労働省研究班監修 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ
https://w-health.jp/
・厚生労働省 e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
・厚生労働省 スマート・ライフ・プロジェクト
https://www.smartlife.mhlw.go.jp/
・若菜宣明 他:性周期における主観的排便意識と客観的便形状の変動 日本健康医学会雑誌26 (4)222-231, 2017
・公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会 一般の皆さまへ
https://jsgo.or.jp/entry_general/
・一般社団法人 日本女性医学学会 よくある女性の病気
https://www.jmwh.jp/n-yokuaru.html
・公益社団法人日本薬学会 健康豆知識
https://www.pharm.or.jp/mame/index.shtml
・井上裕美 他:病気がみえる vol.10 産科:メディックメディア(2018)

プチメモ妊娠や更年期の便秘も女性ホルモンの影響

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生理前だけでなく、妊娠中や閉経前後の更年期にも便秘に悩まされることがあります。それまで便秘に悩んだことのなかった人でも、この時期にはつらい思いをすることがあるようですが、そこにも一部、女性ホルモンが関わっています。

新女性医学大系 第32巻産褥(2001)P.28 図10:総編集 武谷雄二:中山書店 より改変

妊娠中の便秘は、生理前の便秘と同様、女性ホルモンの一種である黄体ホルモンの影響により、腸のぜん動運動が抑えられます。さらに黄体ホルモンの分泌量は妊娠経過が進むにつれて増加、妊娠週数の経過とともに大きくなった子宮に腸が押されることで動きが制限され、ますます便秘になりやすくなる傾向があります。

更年期になると女性ホルモンの分泌が低下するため、妊娠中や生理前のような黄体ホルモンの直接的影響によって便秘になることは少なくなるでしょう。しかし一方で、女性ホルモンの低下やストレスが自律神経に影響を与え、便秘を引き起こすケースが考えられます。そのほかに食事量、特に食物繊維の減少や肛門周辺の筋力の低下なども、更年期の女性の便通に影響を与えている可能性があります。

女性は人生の長期にわたって、女性ホルモンの影響を受けやすく、便秘をはじめとしたさまざまな不調に悩まされる期間も長くなることが考えられます。対策して、できるだけ快適な日々を過ごせるとよいですね。