食習慣や特定の食べ物が便の性状に影響を与えることがあります。
例えば以下のような点に注意しましょう。
<食あたり・水あたり>
いわゆる「食中毒」で、食べたり飲んだりしたもののなかに有害な微生物や化学物質が含まれていたときに起こる健康被害です。代表的な症状に腹痛、便通異常(下痢や軟便等)、嘔吐といった胃腸障害や発熱があります。O157(病原性大腸菌の1種)やノロウイルスなど、社会問題になることも多く、また旅行者が海外でかかる病気の原因で一番大きなものも食べ物・飲み物といわれています。
<食物アレルギー>
ある特定の食べ物を食べたり、それに触れたりした後に症状が現れるものです。症状としては皮膚症状(かゆみ、赤み、じんましん等)、呼吸器症状(くしゃみ、鼻水、息苦しさ等)、粘膜症状(充血、かゆみ、腫れ等)、神経症状(頭痛、意識もうろう等)、そして消化器症状として下痢や軟便、吐き気・嘔吐、血便といったものが、1つまたは複数現れます。人によってアレルギーを引き起こす食べ物はさまざまであり、症状も多様です。
<暴飲・暴食>
食べ過ぎた翌日に下痢や軟便が起こる方が多いといわれていますが、そのほとんどは暴食で消化不良を招いたことによるものだといわれています。また、アルコールの刺激によって下痢や軟便が起こることもあります。そのような場合は、通常1~2日程度で症状がおさまります。過度なアルコール飲酒後に経験する下痢や軟便は、消化機能が低下している可能性もあり、膵臓機能の低下の可能性もあります。
<人工甘味料>
ソルビトール、マンニトール、キシリトールといった糖アルコールは、腸から消化・吸収されにくいことから低カロリーであるため、人工甘味料としてシュガーレスの飴・ガム・飲料などに利用されています。消化されにくいこれらの物質は大腸まで容易に届き、そこに蓄積されて大腸による水分吸収を妨げ、結果として軟便や下痢といった水分量の多い便の原因になる可能性があります。
ただし、糖アルコールによる軟便や下痢は一過性の場合が多く、一度に多量摂取しない限り安全性に問題はないとされているため、国内では一般食品素材として多くが扱われています。
人工甘味料による便通異常の起こりやすさには個人差がありますが、もともとの腸内環境に要因(参照:腸内細菌叢(腸内フローラ)の乱れ)があることが明らかになってきています。
ストレス
「ストレスでお腹が痛い」という話を耳にされたことがある人もいるかもしれませんが、精神的ストレス・肉体的ストレスにさらされることで便通の乱れを生む可能性があります。
ストレスは脳視床下部からのホルモン分泌に影響を与え、その影響として大腸の動き(収縮運動)の活性化や腸内環境の変質をもたらすことが示唆されています。腸の運動が活発になると便通の輸送スピードも上がることから、水分吸収のための十分な時間が取れなかった便は水気が多くゆるいものになると考えられます。
病気や薬の服用
何らかの疾患の治療中で薬を服用している場合には、その薬の副作用で軟便・下痢などの便通異常が起きている可能性があります。例えば細菌の増殖を抑えたり死滅させたりする抗菌薬は、腸の中にすむ細菌たちの数も減少させてしまうことがあり、その結果として腸による水分摂取が阻害され、水分の過剰なゆるい便をきたしてしまうのです。慢性の下痢になった場合には、2~4週間以内に飲み始めた薬がないかチェックしてください。胃薬であっても下痢気味になることがあります。
腸内細菌叢(腸内フローラ)の乱れ
ヒトの腸の中には約1,000種以上もの細菌が約100兆個も生息しており、無数の菌たちがなわばりを持ちながら相互に影響し合う、豊かな生態系を形成しています。細菌たちがつくるこの腸内環境を腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう;腸内フローラ)といい、ヒトはこの細菌たちの力を借りながら食べ物から栄養を摂取・吸収しています。
腸内フローラの生態系は菌たち自身のはたらきでうまく維持されていて、例えば体外から入ってきた病原菌などは、少数であれば腸内にすむ菌たちによって排除されます。ところが、何らかの理由でこの腸内フローラのバランスが崩れると、菌の相互作用によって支えられていた腸のさまざまな機能が低下し、結果として便秘・軟便・下痢といった便通異常が生じてしまうのです。これまで見た人工甘味料やストレス、抗菌薬が要因となる便通異常についても、実は腸内細菌と関連があることがわかってきています。
大腸のバリア機能の低下
腸の内側(食べたものなどと触れ合う、管の内側)はテニスコート約1.5面分にも及ぶ、皮膚よりも広大な表面積を持っています。その広大な面積は常に、食べ物にまぎれて口から侵入してくる細菌・ウイルスなどにさらされ続けています。また、外敵だけでなく、腸にはそもそも無数の細菌がすみついており、しかも大腸には小腸の100倍以上の菌が棲息しています。そのため大腸は、内と外、両方の脅威から体を守らなければなりません。
大腸は身を守るために分厚い粘液の層をまとっていて、これが「バリア」となって腸の組織内へ細菌が侵入するのを阻止しています。さらに、このバリアは便通にとっても重要で、便が大腸を通過する道中でこの粘液がまとわりつき、コーティングすることで通りをよくし、スムーズな通過・排泄を助けています。何らかの理由によってこの粘液層のバリアが失われると、腸は細菌に対して直接さらされることになり、炎症(腸炎)が起こりやすくなった結果、便通の異常につながると考えられます。