インタビュー つながって支える
自分らしい妊活
-正しい情報と頼れる仲間-Vol.2 妊活研究会
 東尾 理子さん、森 瞳さん

ご自身の不妊治療の経験を通じ、治療で不安に、そして孤独になりがちな人たちをサポートしたいという思いから、プロゴルファーの東尾理子さんと、NPO法人umi理事長の森瞳さんが、2021年10月、コミュニティー「妊活研究会」を立ち上げました。1周年を迎えた妊活研究会の妊娠出産を取り巻く問題に果敢に取り組むお二人に「いま」「これまで」「これから」について伺ったお話を3回にわたり紹介します。今回は第2回目、妊活研究会を立ち上げるに至った「これまで」についてです。

閉鎖的になりがちな不妊治療だからこそ、リアルで人に会うことが大切

妊活研究会発足のきっかけ、経緯について教えてください。

東尾私が不妊治療を始めた時、自分に知識がないと気づいたのが、治療を始めて1年たった時でした。一応、ネットでは調べていたのですが、やはり経験している人にリアルなお話を聞きたいなと思っていました。ちょうど福岡に出かける用事があり、羽田空港の駐車場にいた時に、「不妊治療をしている人がいたら、お茶しませんか? これから福岡に行き5時くらいに着くので、お店は福岡に着いたら連絡します」とブログで発信してみました。すると、20人弱の方が集まってくださり、いろいろな話を聞くことができました。「えっ、注射って、自分で打つの?」とか、「注射って、1本1万円もするの?」など、私の知らないことを、たくさん教えてくれました。それで東京でも時間を見つけては、朝連絡をして、昼に集まるなどのお茶会を、何度か開くようになりました。

皆さん、知らない者同士で、お話は弾むものなのですか。

東尾やはり最初は、知らない場所で、知らない人ばかりなので、とても緊張される方が多いです。5、6人のテーブルに分かれ、座っていただくのですが、私が各テーブルを10分ずつぐらいで回り、皆さんとお話しするようにしています。でも、2時間もすると、どこのテーブルもとても賑やかになります。
あえてその場では自己紹介はしないことにしています。その後で、お互いに連絡先を交換する人もいるようですが、お茶会の場では見ず知らずの人たちです。だからこそ、旦那さんや家族、周囲に対する不満など、本当の気持ちをぶちまけて帰ることができます。また日頃オープンに話しにくい話題でも、子どもがほしいという共通の目標があるので、共感する部分が多く、話しやすいようです。そのため、会の終わり頃には皆さん笑顔になり、すっきりして帰られます。二次会、三次会まで行く人もいます。たまたま居合わせた方々と話が盛り上がり、元気になって、笑顔で帰っていただけるのがとても嬉しいです。
私も不妊治療のために病院を3つほど変わっていますが、2つ目の病院に通っているときに、採卵した後は1週間ぐらいおなかが痛くて、体調が優れなかったことがありました。その頃開いたお茶会に「今、採卵してきました」と言って、ふらっと来られた方がいたので、驚いて詳しく話をお聞きしました。すると、同じ治療を行っていても施設によって違う点があることが分かり、とても参考になりました。
やはり本やネットなどの情報を読むだけでなく、実際に体験者から見たり聞いたりすることで、私自身も学ぶことが多いです。不妊治療はすごく閉鎖的だからこそ、こうしてリアルで人と会い、お話しすることに意義があると思い、不定期ですがお茶会を開いていました。

そのお茶会で、東尾さんと森さんが出会ったのですか。

東尾はい。青山のお茶会で、瞳さんが「私、いま病院から来たんです。私はもう閉経すると言われました」といって現れました。その時、お話したのが最初です。

その日、検査結果を聞いたら、AMH(アンチミューラリアンホルモン)値(卵巣年齢検査値)が低く、「私は子どもを産めないかもしれない」と絶望して泣いていました。そんな時、インターネットで「AMHが低い」とか「不妊治療」とかで検索していたら、お茶会がその日、青山であることを知り、その足で参加しました。
そして「私はAMHでこんな数字が出ちゃったんです」と言ったら、「私もAMHが低い」「私も」「私も」と、AMH値が低い人のオンパレードみたいな感じで、「えっ、AMHが低い人って、こんなにいるんだ。AMHが低くても不妊治療ができるんだ」という気持ちになり、本当に救われました。それから理子さんがお茶会を開く時は、全部ではないですが、時間を見つけて伺うようにしました。そうすると結構、同じメンバーがいたりして、そこで仲良くなった人もいて、そのメンバーと一緒に卵子の老化を考える会「NPO法人umi」をつくりました。

東尾さんが開かれていたお茶会が、妊活研究会に発展していったのですか?

東尾私も瞳さんも、子どもができて、それからも細々とお茶会はしていました。ただ、不妊治療をしている人にとって、ある意味、子どもができた人にはあまり会いたくないということもあると思い、次第にお茶会も開かなくなりました。そのようななか、COVID-19が感染拡大し、リアルのお茶会は感染拡大防止という意味でも開催できなくなりました。では、久しぶりに会員制の音声配信サービスを利用してお話ししてみようかということになり、お話会を開いてみました。すると、初めて福岡でお茶会を開いてから10年が経ち、治療は進歩しているのに、悩みは相変わらずで、皆さん、その当時の私たちと同じだと感じました。そこで私たちは、本格的に妊活のための活動を始めてみようと思い、2021年10月に「妊活研究会」を発足しました。

私たちの根本は、このような活動をしなくても、悩みなく子どもができて、もし治療するとしても正しい情報を適切に得ることができ、早く子どもをもつことができ、子育てに使う時間を長くしてほしいという思いがあります。だから私たちはこの問題を社会問題としてとらえています。

東尾取材先で先生方から、「あなたたちは子どもをもつことができたのに、まだこういう活動を続けているの?」と言われますが、私たちとしてはやっと本格的な活動にたどり着いたという感じです。

妊活研究会の活動は扉を開けたばかり。社会を変えていかなくては!

妊活研究会の活動を開始してちょうど1年になりますが、手応えとしてはいかがですか。

私たちとしては、まだまだ道の途中です。社会を変えていきたいという想いで、扉を開けたばかりという感じです。

東尾妊活研究会を卒業される方が、「すごく支えになった」と言ってくださるのは嬉しいし、活動の支えになっています。「この場でしか言えないことがたくさんあったし、この場でしか学べないことがあったから、妊娠は本当に妊活研究会のおかげです」と、卒業した方だけでなく、卒業していない方にもそう言っていただけることに、やりがいを感じています。

「卒業」という形もあるのですね。妊娠されて残っている方はいらっしゃるのですか。

東尾妊娠するとどうしても、書き込みが「妊娠しました」という話題になってしまうので、会員様への配慮としてご卒業という形をとっています。

会の発足から1年が経ち、妊娠される方も増えてきて、今までアクティブに発言したり、参加したりしていた方のなかには、嬉しくて報告したくなる方もいます。でも、一方で妊娠できなかったり、今日流産してしまったりという方もいるなか、他人の妊娠が喉から手がでるほど羨ましい方もいます。そういう方は、羨ましいという気持ちを言うことができない、素直に祝福できない自分を責めるという状態は、健全ではないと思います。そのように感じるような場をつくらない、あくまで妊娠を希望している人へ配慮した場にしなければいけない、という責務を私は感じています。ただでさえ、芸能人の妊娠報告や知人からの年賀状で傷ついている人たちにこの場だけでも心をこわばらせずに過ごしてほしいと思っています。妊娠12週を過ぎたら、卒業証書をお渡しさせていただいています。もちろん、講座を聞いたり情報を得たりすることは可能ですが、発言の際には配慮してほしいということです。

(取材日時:2022年12月20日 取材場所:カフェ ベルアメール)

Vol.3では妊娠出産を取り巻く「これから」についてお伺いします。2023年7月14日に更新予定です。