インタビュー つながって支える
自分らしい妊活
-正しい情報と頼れる仲間-Vol.3 妊活研究会
 東尾 理子さん、森 瞳さん

ご自身の不妊治療の経験を通じ、治療で不安に、そして孤独になりがちな人たちをサポートしたいという思いから、プロゴルファーの東尾理子さんと、NPO法人umi理事長の森瞳さんが、2021年10月、コミュニティー「妊活研究会」を立ち上げました。1周年を迎えた妊活研究会の妊娠出産を取り巻く問題に果敢に取り組むお二人に「いま」「これまで」「これから」について伺ったお話を3回にわたり紹介します。今回は第3回目、妊娠出産を取り巻く「これから」についてです。

不妊治療を取り巻く環境を整えるため、国に働きかける署名運動を開始

Vol.2では、妊活研究会の卒業についてお話しされていましたが、卒業された方たちの次なる場はあるのですか。

東尾妊活をして乗り越えてきた仲間というのは、結束力というか、仲間意識がとても強いです。そして私たちにとって、今いるメンバーは、年齢はそれほど違わないのに、わが子のようにかわいい。だから、その後も繋がる場があるといいと思い、同窓会みたいなコミュニティーをつくろうと、今、準備中です。

妊活研究会として、現在6つのテーマを中心に活動していらっしゃいますが、今後のテーマとして取り入れていきたいことはありますか。

東尾プレコンセプションケアに力を入れていきたいと思います。プレコンセプションケアとは、将来するかもしれない妊娠について考え、自分たちの体と向き合うことです。病気などで医療の力を借りて妊娠を目指す方もいらっしゃると思いますが、そうでない人たちにも少しでも知識を得てもらいたいと考えています。「男女ともに妊娠適齢期がある」、「卵子も年齢と同じだけ年を重ねている」ということをきちんと知って齢を取るのと、知らないで20歳代、30歳代を過ごすのは違うと思っています。具体的には、今、講師としてご一緒させていただいている助産師さんと一緒に、妊娠前の知識を広めていく活動を考えています。

働く女性も応援したいですね。不妊治療と働くというのは両立が難しいし、とても大変なので、サポートしたいと考えています。治療には頻繁に病院に通うなど時間も必要ですが、同時にお金も必要です。また、女性がそれまでの生活を大きく変えることなく、治療に取り組むことができれば社会にとっても有益です。治療と仕事を両立できるような会社の制度をつくる支援をしていきたいです。国も2022年4月から不妊治療と仕事との両立に取り組む企業を認定する「くるみんプラス」を始め、その認定を受けるための条件を知らない会社も多いので、そうした会社にも働きかけていきたいと考えています。

※くるみんプラス https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/kinto2/_120053/newpage_00861.html

東尾それから現在、不妊治療に関する署名活動を行っています。その一つに胚培養士さんに関するものがあります。胚培養士さんは卵子と精子を選んで受精させるなどとても大切な役割があり、実際はトレーニングを積んで行いますが、今は国家資格がありません。極端ではありますが「私がやります」と言えばできる状況です。髪を切るのに理容師という国家資格が必要ですが、人の生命を産み出すのに国家資格はありません。国家資格があったほうが胚培養士さんの地位の確立にも繋がりますし、何より私たち治療を受ける側も、トレーニングを積んでいることが確認できるような資格があれば安心です。そのため胚培養士を国家資格にという署名活動をするなど、不妊治療を取り巻く環境を整えていきたいと思います。

Vol.1で病院選びの時に、客観的な実績数が必要だとおっしゃっていましたが、それも今後の活動に入っていますか。

東尾はい。アメリカでは保健機関がほぼ全部の施設の実績を出しているので、病院を選ぶための情報収集が容易です。ある施設がいいところだけ見せようとしても、そのような公平なデータがあれば、施設の情報が偏っていないかわかります。現在、日本にはそのようなデータはなく、施設のホームページの情報につられてしまうことが多いのが現状です。患者が病院を選ぶための情報として、病院の実績をしっかり出せるような仕組みをつくりたいです。

プレコンセプションを広め、男性も一緒に不妊治療に参加する社会に

プレコンセプションケアについては、どのような形での活動を考えていますか。

プレコンセプションケアは、不妊に悩んでいる方だけでなく、その前の段階、何も知識がなくて悩みもない人も対象にするので、どの年齢からにしたらいいのか、とても難しいところですね。例えば成人式や会社の新人研修で取り上げてもらうなどでしょうか。

東尾これって、日本の性教育にあたる問題だと思っています。現在の性教育は、避妊教育が中心に感じます。もちろんとても大切ですが、避妊教育は妊娠できることが前提ですよね。生殖教育も加えてほしいと思います。
平均寿命が延びるのと一緒に妊娠適齢期も上がり、いつでも子どもが産めると思ってしまう人が増えることを懸念しています。できれば、小学生くらいからプレコンセプションケアを行う必要があると思います。

男性は100人に1人が無精子症だとか、女性の早期閉経についてなど、若いうちから知識が得られるような環境を整えたいと思います。

東尾私はそうした知識、情報をトイレットペーパーに書き込みたいと思っています。公共トイレのトイレットペーパーに使ってもらうとか。そうでもしないと、意識していない人には届かないですよね。

トイレットペーパー作戦、いいですね(笑)。妊娠するために自分の体の状態を知ることはとても大切なことですが、その手段として排卵について知ることも重要な要素の一つです。排卵日を知るための方法として、基礎体温の計測、排卵日予測検査薬などがあります。基礎体温の計測では、低温期から高温期の移行で排卵があったことを確認できます。一方、排卵日予測検査薬では排卵日前に急速に増加するLH(黄体形成ホルモン)を尿から検出することができるので、排卵前に排卵日を予測することができるのです。今、妊娠検査薬は薬局の店頭でスムーズに買うことができますが、排卵日予測検査薬は薬剤師さんと対面でやり取りしないと買えません。しかし、それは女性にとってはハードルが高いです。それが今はインターネットでも買えるようになっています。インターネットでも薬剤師さんとのやり取りで行われる、購入にあたってのチェック項目はありますが、それでも対面でないことで、かなりハードルは下がったと思います。そういったことも知らない方が多いので、ぜひ伝えていきたいです。
そもそも、排卵日予測検査薬は妊活において、とても重要なアイテムの一つなのですが、妊娠検査薬に比べると認知度が低いですよね。外見は妊娠検査薬とよく似ていて、尿をかけるだけで検査ができるので、簡単です。通常数日間にわたって検査を行うので、排卵日前後で数本使用することになります。これを毎回ドラッグストアで薬剤師さんとのやり取りをすると思うと少し抵抗があります。インターネットで購入できるようになって助かった方も多いのではないでしょうか。こういったちょっとしたハードルを少しずつクリアしていく、サポートができるといいなと思っています。

不妊治療において、排卵日予測検査薬がネットで買えることを知らないことも一つの障壁になっていると思いますが、他に障壁になっていることはどのようなことでしょうか。

もう生まれた時からではないでしょうか。そもそも私を育ててくれた親も妊活について知識がありません。私たちの親の世代はベビーブームで2、3人の子どもを産んで、結婚したら子どもができるのが当たり前でした。その人たちに育てられた私たちは、妊娠適齢期を過ぎていても、子どもをつくることがどれだけ大変かを理解しないままでいます。最近、やっと妊活という言葉が社会的にも浸透してきましたがまだまだです。だから、今の世代は生まれた時から障壁がたくさんあるのではないでしょうか。
妊活については、男性の当事者意識が低いことが障壁の一つになっていると思います。それで2022年10月の妊活研究会1周年目のイベントをきっかけに、男性だけのお茶会を開催しました。男性にも妊活に一緒に取り組んでもらいたくて、男性不妊専門の先生に入っていただき、12月に開いたテーマが、「自分の精子に自信がある男が多い件」でした。

東尾とても好評でした。不妊治療自体、女性がやるものだという感じですよね。私が不妊治療中の時、メディアは「不妊治療中の妻、プロゴルファー東尾理子」とは書かれていましたが、「不妊治療中の俳優、石田純一」とは1度も書かれていません。同じ記事でも全然書き方が違います。市民講座で500人ぐらいのカップルが来ていて、「不妊治療している方はいますか?」と聞いたら、夫が女性の手を持って、挙げさせた人がいました。男性も不妊治療に主体的に参加できる社会に変えていくような活動もしていきたいと考えています。

いろいろなお話、想いを聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

不妊治療をされている方には、笑顔で主体的に治療してもらいたいと思っています。インターネットの情報に振り回されたり、落ち込んだりせずに、機会があれば、ぜひ私たちのお茶会にいらしてください。同じ悩みを抱える仲間がたくさんいます。
また、部下や家族、親戚で治療している、あるいは子どもがいない周囲の方を優しく見守っていただけたらと思います。
見えない悩みやつらさがあることを想像してほしいです。社会で見守ることができる環境ができれば、なおいいですね。

東尾自分の人生、生活を自分の選択で一つひとつ積み重ねていって、振り返ってみると、「あの時、こうすればよかった」と思うことがあるかもしれません。でも、そのときはそのときのベストを尽くしているはずだから、そのことに自信を持って、これからもご自身の人生を楽しんでくださいね。
(取材日時:2022年12月20日 取材場所:カフェ ベルアメール)