

インタビュー
つながって支える
自分らしい妊活
-“プレコン”を合言葉に、広がる世界-Vol.5
株式会社TGP
代表取締役 東尾 理子さん、
プロデューサー 森 瞳さん
ご自身の不妊治療の経験を通じ、治療で不安に、そして孤独になりがちな人たちをサポートしたいという思いから、東尾理子さんと森瞳さんがコミュニティー「妊活研究会」を立ち上げてから早3年。妊娠出産そのものだけでなく、「プレコンセプションケア(女性やカップルに将来の妊娠のための健康管理を提供すること)」に関わる問題にまで活動の幅を広げてチャレンジを続けられるお二人に、妊活研究会の現在地と妊活中に多くの方が経験される「妊活疲れ」についてお話を伺いました。今回は近年、お二人が特に力を入れて取り組まれているプレコンセプションケアについて語っていただきます。
一人ひとりの「性」や「子どもを産む、産まない」が尊重される社会に
最近は妊活当事者だけでなく、若い世代に向けた活動も盛んに行われていますね。
東尾当事者だけのサポートでは妊活を取り巻くさまざまな問題の解決には至らないとずっと感じてきたので、2024年は特にいろいろな切り口から「プレコンセプションケア」に関する活動を行いました。
「セクシャル リプロダクティブ ヘルス ライツ(以下、SRHR)」をご存じですか? 私たちには男性・女性・どちらにも属さないといった自分の「性」を決める権利があります。さらに、子どもを産む・産まないという選択肢をもっており、それらを個人としても社会としても尊重すべきであるという概念です。不妊治療のサポートをしていると、どうしても「子どもを産まなければならない」というメッセージを発信してしまっている可能性があるのですが、そうではなく一人ひとりの考え方を大切にしています、というのがベースになければならないと考えています。私たちの活動は、そのベースがあり、その上で成り立つものであると考えています。

SRHRの延長線上に、2024年に行われた「第1回リプロダクティブヘルスアワード」があったのですね。
森はい、2024年はアワードにかなり力を注ぎました。
東尾SRHRの考え方を普及するために、「リプロダクティブヘルスアワード」を創設しました。SRHRの中でも、私たち妊活研究会がこれまで特化していた部分が「リプロダクティブヘルス(生殖に関する健康と権利)」の部分だったので、それに関わる製品や企業、NPОなどの団体を表彰するイベントを行いました。SRHRを知ってもらうきっかけになればいいなということと、みんなで一致団結していきたいという一心で力を尽くしました。
森アワードの表彰式では、アワードに参加してくださった方々の熱い思いを知ることができ、私たちも大いに刺激を受けました。参加企業や団体のみなさまに、「他の企業や団体と横のつながりができてよかった」とおっしゃっていただいてそれも嬉しかったです。皆で手をつないで頑張っていこう!という流れができたことがとても有意義でした。今後も長く続けていきたいイベントです。

東尾各企業がそれぞれとても素敵な活動をされているにもかかわらず、なかなか注目されない、伝わらないという印象があったので、そこが一番の課題であると捉えています。また、アワードを通して発信したSRHRの考え方に対して、男性からも女性からも「産まなくていいという選択肢があるということを考えたことがなかった」というお声が本当に多かったので、当たり前だと思っていることが当たり前じゃないという気づきも大切であることを改めて感じました。

2024年は学校に生理用ナプキンを配布する活動も行われていましたね。
森2024年のお正月に能登半島地震が起こった際、親元を離れて避難所で暮らしている女子学生の方々が生理用ナプキンがなくて困っているという情報が、MeWプロジェクト※1を立ち上げられた大阪大学の杉田映理先生から届きました。
その時、私たちにできることはないか、ナプキン配布ができないか、ということで「寄付を集めます」「私たちが能登に生理用ナプキンを届けます」とInstagramに投稿しました。

森本当に簡単な一回きりの投稿だったにもかかわらず、60万円ぐらい寄付が集まりました。寄付金全額でナプキンを買って、杉田先生たちと協働して被災地にナプキンを届けることができました。

森ナプキン配布の活動は単にナプキンをお届けするだけでなく、性教育を行うきっかけにもなりました。これまで子どもたちを対象にいわゆる避妊教育だけではない、どうしたら妊娠するのか、何歳まで産めるのかなど生殖教育を行いたいと考えてきました。しかしながら、そういったテーマの授業がこれまで行われてこなかったこともあり、なかなか受け入れてもらえませんでした。ところが、ナプキンをお届けしたことを通して私たちの活動をご理解いただくことができ、学校で性教育、生殖教育の授業を実施することができるようになったのです。

東尾性教育を授業として行うことに加えて、ナプキンと一緒に届けるディスペンサー※2に貼るステッカー制作も行いました。性や生殖に関して知っておいてほしい知識を、医師監修のもと、メッセージとしてステッカーに落とし込んでいます。ステッカーは小学生から大人向けまで、対象にあわせて30種類作りました。


森ナプキン配布を行ったのは小学校、中学校、高校、大学、全部で12校です。ナプキンの数にすると23万枚にも及びました。

※1 MeWプロジェクト:MeWとは Menstrual Wellbeing by/in Social Designの略。生理用品の無償提供用のディスペンサーの開発・設置の実証実験を通じて、日本における月経(生理)の諸課題について研究を行っている。(https://mewproject-osaka-u.jp/)
※2 ディスペンサー:ここではトイレに設置する、ナプキンを1枚ずつ供給するための装置のこと。
東尾さんのプロゴルファーとしてのご人脈を生かした、チャリティも行ったそうですね。
東尾はい、私はプロゴルファーとしての社会貢献の形を模索していて、ナプキン配布の活動をしながら、何かできることはないかと考えていました。アメリカのゴルフトーナメントは地域社会や慈善活動に積極的に貢献しています。日本で行われるトーナメントにも、もう少し社会性を持たせられたらよいのではという思いが元々ありました。「CAT Ladies 2024」内でNPO法人TGPのチャリティテントを設置させていただき、私物のゴルフグッズやトーナメントに参加する選手のサイン入りボールなどが当たるチャリティくじを販売しました。

東尾さらに、トーナメントを主催する日本キャタピラー合同会社と連携し、女子プロゴルファーがバーディやイーグルを達成すると、それが被災地への寄付金に変わるという企画も実施しました。選手が頑張れば頑張るほどチャリティにつながるため、選手にとってモチベーションになりますし、トーナメント自体もよい雰囲気になりました。金額に関してはスポンサー企業におまかせしたのですが、3日間のトーナメントで、最終的に400万円ぐらいの金額にまで膨らみました。チャリティで集まったお金について、当初はトーナメントが行われている地域の学校にナプキンと性教育を届けることに使いたいと考えていましたが、2024年は自然災害の影響を受けた金沢や秋田などの地域への支援が中心になりました。

ナプキン配布の活動に関しては、新しい企画も進められているそうですね。
東尾はい、「Four for One Smile(フォー・フォー・ワン・スマイル)」という企画です。企業に向けて、「職場の女子トイレに生理用ナプキンを設置し、学生さんたちの支援につなげませんか?」という提案を行うものです。職場や店舗のトイレに設置したナプキンが4枚使用されるごとに、学生さんに1枚が寄付されるという仕組みです。職場のトイレにナプキンがあれば不測の事態に備えることができ、職場環境や生産性の向上にもつながりますし、寄付によって未来を担う若い世代への支援も可能になります。
森ナプキンのディスペンサーに貼ったステッカーでプレコンセプションの知識を伝えることができますし、何より生徒さんはナプキンがトイレにあることをとても喜んでくださっています。学校の保健室にはナプキンが常備してありますが、わざわざ取りに行かなければなりません。実際に設置してみると先生たちが想像していた以上に稼動している、という驚きの声も届いています。

東尾いまナプキン配布はすべて寄付、チャリティで行っていますが、10年後ぐらいにはトイレにトイレットペーパーがあるように、女子トイレにはナプキンが当たり前にある社会になってほしいなというのが私たちの願いです。これまでの活動を通して強く感じていることは、月経(生理)やPMS(月経前症候群)※3、不妊治療や更年期は連続して考えるべきものだということ。入り口が不妊治療だとハードルが高い部分がありましたが、ナプキン配布をきっかけに社会全体が女性の体に目を向ける機会を増やせたらいいなと思っています。(Vol.6に続く)
※3 月経(生理)の前に現れる心と体のさまざまな不調をいう。

(取材日時:2025年1月28日 取材場所:LATTE GRAPHIC 自由が丘店)