睡眠のメカニズム

私たちは、なぜ眠らなくては生きていけないのでしょうか。その答えに近づくために、まずは「睡眠とは何か」について解説していきましょう。

睡眠は「体内時計」にコントロールされている

目覚ましをかけていなくても、いつも起きている時間帯に目が覚める。また、いつも寝る時間が近づいてくると眠くなる。人間には、ほぼ1日周期の体内時計が備わっていて、そのリズムに沿って生活しています。睡眠も覚醒も、さらに脈拍や血圧、体温など体の機能の多くも、この体内時計により支配されています。

なぜ1日周期なのでしょうか。それは地球の自転に影響を受けているからです。ところが、「人間の体内時計の1日」は、「地球の自転の1日」よりもわずかに長いことがわかっています。放っておくと、日々ズレが大きくなっていき、眠くなる時間がどんどん遅くなる…ということになりかねません。
そんなズレを解消してくれるのが光です。とくに強いエネルギーを持つ朝の光には、体内時計を早める働きがあります。目から光が入ると情報が脳に伝わり、眠りへ導くホルモンである「メラトニン」の分泌が抑制されるため、スッキリ覚醒することができます。つまり、朝日が体内時計を早め、地球のリズムに追いつかせてくれるのです。
このメラトニンは、太陽の光を浴びてからおよそ15時間後に分泌量が増えていくことがわかっています。夜になると自然に眠くなるのは、メラトニンがたっぷり分泌されるから。そこで注意したいのが、夜に見る光です。なかでもパソコンやスマートフォンの液晶画面に使われているブルーライトは意外に強い光なので、寝る前に見るとメラトニンの分泌が抑制されて眠りを妨げてしまいます。

ところで、朝食は毎日摂っていますか?体内時計は脳だけでなく内臓にも関係しているため、朝に食事することで体内時計のズレをリセットしてくれます。朝気持ちよく起きるなら、太陽をしっかり浴びて、朝食をきちんと摂ることをおすすめします。

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「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」

睡眠時間が特に短いわけではないのに、朝起きるのがつらい、また起きてもぼんやりしてしまう…ということはありませんか?それは、眠りが深い時に無理やり目覚めさせられたせいかもしれません。
眠りの深さには「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」の2種類があります。「ノンレム睡眠」は、脳を休ませるための深い睡眠で、3つのステージに分けられています。「レム睡眠」は体を休ませるための浅い睡眠です。
眠ったらすぐにノンレム睡眠のステージ1に入り、どんどん深くなってステージ3に達した後、レム睡眠に移ります。起きるまでにノンレム睡眠とレム睡眠が交互に現れるのですが、このセットは「睡眠サイクル」と呼ばれています。1サイクルは、およそ90分間。一晩の睡眠中に4~6回繰り返されますが、起きる時間が近づくほどノンレム睡眠は浅めに、レム睡眠の時間は長くなっていきます。
スッキリ起きられるのは、レム睡眠やノンレム睡眠でも浅めのタイミング。「睡眠時間は90分の倍数の時間が良い」と聞いたことがあるかもしれません。これは睡眠サイクルが根拠になっていますが、どなたにも当てはまるわけではありません。睡眠サイクルの時間には個人差があるうえ、その日の体調によっても異なります。

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睡眠の「質」とは?

あまり眠れなかった日のことを思い出してみてください。ずっと眠気が取れない。気分が上がらない。注意力が散漫になる。怒りっぽくなる。人によってさまざまですが、睡眠が不足すると脳の疲れが十分に取れず、日常生活に悪影響を及ぼしてしまいます。
また睡眠時間は十分でも、寝不足の時と同じような症状が現れることもあります。睡眠は量だけではなく、質も大切。質の良い睡眠とは、スッと眠れて、スッキリ目覚めることができ、そして日中に強い眠気がないことです。
実は、睡眠の質には脳が深く関わっています。脳は眠ることで休むことができますが、脳には眠りへ導く働きもあることがわかっています。つまり、健全な脳により眠ることができ、眠ることで脳が活性化するのです。この循環により、睡眠の質が保たれています。

睡眠のメカニズムは複雑なので、「こうすれば必ず睡眠の質が良くなる」ということはありません。逆に、睡眠の質を下げる原因はたくさんあります。大きく関係しているのは、「ストレス」「生活習慣」「寝室の環境」の3つと言われています。
ストレスを受けると、脳が活動モードに入るため、しっかり休んでくれません。イライラして眠れない日を経験した人は、多いのではないでしょうか。また、毎日寝る時間帯が違うなど、不規則な生活習慣が身につくと体内時計がズレてしまい、体が自然に眠る準備をしてくれなくなります。そして寝室の環境については、湿度や温度、光などが関係しています。暑過ぎたり寒過ぎたり、また明る過ぎたりするとスムーズに眠りにつけません。ということは、これらに気をつけることが、睡眠の質を上げるヒントになると言えます。

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現代人と睡眠?

日本人、とくに働き盛りの世代は十分に睡眠がとれていません。世界の多くの国の平均睡眠時間は8時間を超えていますが、日本人で25~54歳の仕事を持つ人(在宅勤務以外)の、平日の平均睡眠時間は7時間14分※1
「平日に眠れない分、休日にたっぷり寝ているから問題ない」という人もいるかもしれません。でも、慢性的な睡眠不足は、1日や2日たっぷり眠ったくらいでは解消できないのです。睡眠不足が続くと、注意力の低下や体のだるさなどさまざまな不調を感じがちですが、そのほかにも太りやすくなる、免疫力が下がり気味になる、また生活習慣病を発症しやすくなるなど、健康面で大きなリスクが生じると言われています。

そして、睡眠不足は睡眠に関する問題の一つに過ぎません。現在、さまざまな種類の睡眠障害が確認されており、日本人に多いのは不眠症や睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシー、レストレスレッグス症候群などです。それぞれについて簡単に説明しましょう。

<不眠症>

なかなか寝つけない、眠りが浅く夜中に何度も起きてしまう、朝早くに目が覚めて二度寝できないなどの問題があり、だるさを感じたり集中力や食欲などが低下したりする不調が現れる病気が不眠症です。原因は解明中ですが、前向きな気持ちを高めることに関わる脳内神経伝達物質「ドーパミン」が、何らかの理由でバランスを崩していることが関係していると考えられています。どうしても眠れない日は誰しもが経験することですが、夜間の不眠が続き、日中に心身の不調があって生活の質が低下していることが認められると、不眠症と診断されます。

<睡眠時無呼吸症候群>

睡眠中にしばしば呼吸が止まってしまう病気です。眠っている間は舌まわりの筋肉がゆるみますが、ゆるんだ筋肉が気道をふさぐことにより酸素を取り込むことができず、体は低酸素状態に。一方、脳は酸素を取り込むために呼吸しようとします。その際に筋肉を動かすので、睡眠が中断されてしまうのです。この状態が頻繁に繰り返されると、睡眠の質が悪くなり、慢性的な睡眠不足となって、判断力や集中力が低下するなど生活に影響が及びます。
自分では気づきにくいのですが、大きないびきをかくため、家族など一緒に寝ている人から指摘されることが多いのも特徴。夜間に長時間酸欠状態になることから、高血圧や糖尿病などの生活習慣病が引き起こされやすくなるので注意が必要です。日中の眠気が強い、いつもだるいなどの症状があれば、早めに医師に相談することをおすすめします。

<ナルコレプシー>

日中に眠気を感じることは誰にでもありますが、会話している時や運転中、危険な作業中など、通常なら考えられないような場面でも、耐え難い眠気におそわれて眠ってしまうのがナルコレプシーという病気です。目を覚まし続ける役割を持つタンパク質が、体内で作れなくなっているのが原因と考えられています。睡眠と覚醒がたびたび入れ替わりやすく、睡眠中に突然目が覚めることも。また、笑いや喜び、怒りなど感情が大きく動くと、発作的に筋肉が脱力する場合もあります。薬で症状をやわらげることはできますが、まだ根治できる治療法は見つかっていません。

<レストレスレッグス症候群>

夕方の安静時や夜にかけて、脚に「ムズムズする」「痛がゆい」「虫がはうような感じ」など、脚を動かさずにはいられない異常な感覚が湧き上がってくる病気で、「むずむず脚症候群」とも呼ばれています。寝つきが悪くなり、寝つけても睡眠が浅いため、日中の強い眠気や過眠にもつながってしまいます。患者さんは男性よりも女性に多く、重要な原因の一つは鉄欠乏性貧血。ほかにも、妊娠中の人、慢性腎不全で人工透析を受けている人、パーキンソン病の人がかかりやすいと言われています。

[参照資料]

※1 総務省「令和3年社会生活基本調査」

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コラム明日早いのに眠れない!

子どもの頃、遠足などワクワクするイベントの前日に眠れなかったことはありませんか?明日が楽しみ過ぎるあまり脳が興奮状態になってしまい、体が睡眠モードに入ってくれないためです。
また、「明日は朝が早いから、いつもより早く寝よう」と思ってベッドに入っても、まったく眠れなかったという経験を持つ人もいるでしょう。これにも理由があります。実は、いつも寝る時間の2~4時間前は、最も眠りにくい時間帯なのです。ベッドの中で眠れないと焦るようなら、一度ベッドから出て眠気が訪れるのを待つことをおすすめします。睡眠時間が短くなりますが、スムーズに眠れる時間に寝た方が睡眠の質は守られやすくなります。

[参照資料]

  • 睡眠障害の対応と治療ガイドライン(じほう)
  • 図解 睡眠の話(日本文芸社)