「良い睡眠」は
メリット満載!
睡眠の質を上げる
ポイントとは?

寝ているはずなのに、疲れがとれない、仕事に集中できない、学習している内容が頭に入らない…などと悩むことはないでしょうか。もしかしたら、それは「質の良い睡眠」がとれていないためかもしれません。 今回は、なぜ睡眠の「質」が重要なのか、また質を上げることで得られるメリットを解説します。さらに睡眠の質を上げる方法もご紹介。理想の眠りを手に入れるための参考にしてみてください。

監修:渡辺 恭良 先生(日本疲労学会 理事長、神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 特命教授、理化学研究所 名誉研究員、Integrated Health Science株式会社 代表取締役CEO)

疲れと睡眠の関係

睡眠は体だけではなく脳も休める

私たちは起きている間、さまざまな肉体的、精神的活動を行っており、それに伴い「疲れ」がたまっていきます。疲れが蓄積されると脳から出される「眠りたい」という欲求(睡眠欲求)が強くなり、睡眠へと導きます。
睡眠は「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」という質の異なる2つの眠りで構成されています。レム睡眠は体は休息していますが、夢を見たり、血圧や脈拍が変動することから覚醒への準備状態にある浅い眠りです。一方、ノンレム睡眠は深い眠りで脳波活動が低下し、脳(心)が休息している状態です。
一般に、脳(心)の疲労は主にノンレム睡眠のときに、体の疲労は双方の睡眠で、特にレム睡眠のときに回復するといわれています。疲労を感じる脳は眠ることが休息の大事なポイントなのです。

睡眠は時間だけでなく、質も重要

日本の成人の睡眠時間は6時間以上8時間未満が標準的と考えられていますが、夜間に実際に眠ることができる時間(一晩の睡眠の量)は、25歳で約7時間、45歳で約6.5時間、65歳で約6時間と、加齢に伴い約30分の割合で減少するとされています。また、日の長い季節では睡眠時間は短くなり、日の短い季節では長くなる傾向にあります。
このように、睡眠時間は年齢、季節、個人差などでまちまちで、しかも思うように時間を確保できない可能性がある現代社会においては「睡眠の質」が重要になってきます。

では、どのような睡眠が「質の良い睡眠」と言えるのでしょうか。厚生労働省による睡眠の質の評価指標では以下のように示されています。
・規則正しい睡眠、覚醒のリズムが保たれていて、昼夜のメリハリがはっきりとしている。
・必要な睡眠時間がとれており、日中に眠気や居眠りすることがなく、良好な心身の状態で過ごせる。
・途中で覚醒することが少なく、安定した睡眠が得られる。
・朝は気持ちよくすっきりと目覚める。
・目覚めてからスムーズに行動できる。
・寝床に就いてから、過度に時間をかけすぎずに入眠できる。
・睡眠で熟睡感が得られる。
・日中、過度の疲労感がなく満足度が得られる。

睡眠の質を上げるメリット

疲労回復

体の中で営まれている内臓の働きや体温調節の機能などは、私たちの意思とは関係なく24時間働き続けている自律神経系によってコントロールされています。自律神経系には交感神経系と副交感神経系があり、交感神経系は緊張に、副交感神経系はリラックスに関わり、両者がバランスをとりながら健康を維持しています。
疲れると両者ともに機能が低下しますが、特に副交感神経系の機能低下が強く、交感神経系が優位の状態になります。つまり緊張パターンが強くなるのです。
そこで、体を休めようと「眠気」というSOS信号を脳から出します。この信号に従い、睡眠をとると両者のバランスは復活します。しかし眠気を押さえ込んで活動を続けると、副交感神経系の機能低下を解消できず、慢性的な疲労状態になることも。また、脳の血流も悪くなるため、集中力や判断力も欠けてしまいます。
こういった状態を回避する最も有効な手段が睡眠です。質の良い睡眠をとることで副交感神経系の機能が高まり、交感神経系とのバランスがとれることで疲労は回復に至ります。

ストレス解消

睡眠には精神的な疲労を回復する働きがあります。さらに、脳の疲労回復が期待できるので、認知機能としての集中力・記憶力・思考力が維持・調整され、ストレス解消につながります。
また、睡眠不足でストレスホルモンであるコルチゾルの分泌量を増加することが判明していますが、逆にいえば、質の良い睡眠によって、ストレスホルモンの分泌抑制につながると考えられます。

肥満防止

睡眠と肥満には密接な関係があります。睡眠時間が短くなると、食欲を抑制するレプチンというホルモンの分泌が減少し、食欲を増進させるグレリンというホルモンの分泌が増えることが判明しています。さらに炭水化物の多いスナックの摂取が30%増加したことも報告されました。つまり、睡眠時間が短いと食欲に関係するホルモンのバランスが乱れ、食欲が増進し肥満につながりやすくなるのです。
反対に睡眠の質が上がることで、食欲に関するホルモンの分泌バランスが適正に維持され、余計なエネルギー原料の摂取を防ぐことができます。結果、肥満防止につながるといえるでしょう。

健康維持

生活のリズムが整いやすくなり、体内のホルモンバランスや自律神経系が整うので、健康維持につながる効果が期待できます。また、心の健康にもつながります。

美容効果

入眠直後に訪れる深い眠り(ノンレム睡眠)の間に成長ホルモンの分泌が高まります。この成長ホルモンは健康だけでなく、肌に嬉しい皮膚の修復や新陳代謝を活性化する働きがあるのです。さらに皮膚のハリを保つ、しわを減らすなどの働きもあるので、アンチエイジングにも欠かせません。
つまり、質の良い睡眠によって美容効果も大いに期待できるのです。

睡眠の質を上げるポイント

生活習慣

睡眠の質を上げるためには生活習慣は重要な要素です。その生活習慣には2つの役割があります。1つは直接的な役割で、運動や入浴のように習慣そのものが質の高い睡眠をもたらす場合です。もう1つは間接的な役割で、1日(約24時間)のリズムをつくる体内時計を24時間にきっちりと調節すれば、規則正しい睡眠習慣が身につき睡眠の質が向上します。具体的な方法もご紹介しましょう。

●生活サイクル/就寝・起床時間は一定に
睡眠と覚醒は体内時計で調整されています。週末の夜ふかしや休日の寝坊、昼寝のしすぎは体内時計のリズムを乱すので注意が必要です。平日・週末にかかわらず、就寝と起床は同じような時刻にする習慣を身に付けましょう。

●朝の光を浴びる
体内時計は朝起きて太陽の光を体に受けることでリセットされ、リズムを刻み始めます。朝起きたらカーテンや雨戸を開けたり、少し外に出るなど、朝の光を浴びましょう。朝起きてから14時間が過ぎると眠気を生じるという報告があります。つまり朝寝坊をした場合は、それだけ眠くなる時間が遅くなることになります。

●入浴は寝る直前は避け、ぬるめのお湯にゆっくりと
良い眠りを得るためのコツは、睡眠前に副交感神経系を活発にさせることです。入眠の30分以上前(できれば1時間以上前)にぬるめのお風呂にゆっくり入り、心身の緊張をほぐします。半身浴は心臓への負担も少なく、副交感神経系を優位にさせ、睡眠の質を向上させることがわかっています。

●適度な運動
適度な運動を習慣づけることも大切です。運動は午前よりも午後に、軽く汗ばむ程度に行うのがよいとされています。ほど良い肉体的疲労は心地良い眠りを生み出します。激しい運動はそれ自体が刺激になって逆に寝付きを悪くするため、注意しましょう。負担にならない程度の有酸素運動を長く継続することが効果的です。

●ストレスの発散
睡眠にとってストレスは大敵です。音楽、読書、スポーツ、旅行など、自分に合った趣味を見つけて上手に気分転換をはかり、ストレスをためないようにしましょう。

食習慣

質の良い睡眠のためには、食生活も非常に大切です。次のような食生活を心がけてみてください。

●朝食をとる
簡単なものでもよいので栄養バランスを考えて、食べるようにしましょう。朝の目覚めを促し、睡眠と覚醒のリズムにメリハリをつけることができます。

●寝る前の夜食は控える
消化活動が入眠を妨げるので控えましょう。ただ、ほんの少量のチョコレートなどは睡眠にも良いと考えられています。いつも寝ている時間に食事をとると体内時計が乱れてしまいます。

●カフェイン摂取は就寝3〜4時間前までに
カフェインには覚醒作用があり、寝付きを悪くしたり、眠りを浅くする恐れがあります。また利尿作用があり、夜中に目が覚める原因にも。摂取する場合は就寝3〜4時間前までに。カフェインに弱い人は、午後3時以降カフェイン摂取を控えたほうが良いでしょう。

●寝酒も避ける
アルコールは寝付きを促進するものの、一時的な効果です。カフェイン同様、寝ている途中で覚醒することが増え、眠りが浅くなり、熟睡感が得られなくなってしまいます。

●睡眠の質向上に期待できる栄養素をとる
質の良い睡眠のために、栄養も意識しましょう。睡眠によいと考えられる栄養素とその栄養素を多く含む食品をご紹介します。

睡眠の質向上に期待できる栄養素

働き 含まれている食材
ビタミンB1 糖質をエネルギーに変える際に必要。不足すると糖質をエネルギー源としている脳や神経に影響を及ぼす 豚肉、うなぎ、玄米、豆類など
ビタミンB2 脂質の代謝を促進し、エネルギーを産生し疲労回復に役立つ レバー、納豆、卵、のり、チーズなど
ビタミンB6 睡眠の開始やノンレム睡眠の中でも深い睡眠を調整するセロトニンの合成に関わる マグロ、カツオ、ヒレ肉(牛・豚)、バナナなど
カルシウム 興奮している神経を鎮静化する効果がある 大豆、枝豆、いわし、牛乳、チーズなど
マグネシウム 筋肉の収縮を制御し、緊張した体を緩和させ、リラックスさせる 青のり、わかめ、昆布、ピーナッツ、玄米、大豆など
アミノ酸グリシン 寝付き、眠りの深さ、睡眠の満足感、日中の眠気などに関与する 豚肉、ホタテ(煮干し)、するめ、大豆など
アミノ酸トリプトファン 眠り・癒しに必須のセロトニンの原料となるほか、セロトニンからさらに、「体内時計ホルモン」として睡眠・覚醒のリズムを生み出すメラトニンも作る 牛乳、ナッツ、マグロ、鶏肉など

注:これらの栄養素の中には過剰摂取のリスクにより摂取上限量が設けられているものがあります。

上記の表の中にあるビタミンB1は不足しがちです。水溶性なので調理工程で失われやすく、また体内に吸収されにくいという性質があるためです。日本人の毎日のビタミンB1摂取量の統計では、潜在的に不足している人が大部分であると考えられています。とくに、若年層に摂取不足が多いという統計もあります。

そんな時はビタミンB1の弱点を改良し、以下のような特徴を持つビタミンB1誘導体「フルスルチアミン」をビタミン剤から補給するのも手段の一つです。

[特徴1]ビタミンB1に比べて小腸などの消化管からの吸収がすぐれている。
[特徴2]筋肉や神経などの組織へよく移行する。
[特徴3]エネルギーの産生を助け、神経などの働きを正常に保つ補酵素「活性型ビタミンB1」に多く体内で変換される。

睡眠環境

眠りやすい環境をつくると、睡眠の質はグッと上がります。ポイントは「寝具」「温度・湿度」「光」です。
●寝具
体への負担が少ない寝姿勢(寝相)を保つことができ、保温性と吸湿性・放湿性の良い寝具が快眠への条件です。以下を意識して、選ぶと良いでしょう。
・自分の体型に合う、首や肩に無理のない枕
・適度な硬さの敷き布団やベッドマット
・フィット感がある掛け布団

●温度
室温は、冬季は20℃前後、夏季は26℃前後、湿度は40〜70%程度に保つのが良いといわれます。冷暖房器具を上手に使いましょう。

●光
夜の明るすぎる光は体内時計を乱す原因になります。白っぽい昼光色ではなく、夕日色のようなやわらかい光の照明がよいとされています。

睡眠の質を上げて、毎日を元気に!

睡眠の質を上げると、さまざまなメリットが得られます。質の良い睡眠のためには、生活習慣・食生活・睡眠環境のいずれも大切です。これらの中に睡眠を阻害する何らかの課題があるなら、解決に向けて検討してみましょう。ただ、毎日の生活の中で全てを一気に解決しようとするのは難しいこと。焦らずに、一つひとつ検討しながら、日々の生活を少しずつ整えていきましょう。
もし努力しても改善しないという場合は、何らかの疾患が隠れていることがあります。早めに医療機関に相談しましょう。

参考文献

・渡辺, et al: BIO Clinica 34(14): 4-5, 2019.
・渡辺恭良ほか「おもしろサイエンス 疲労と回復の科学」日刊工業新聞社(2018)
・厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針2014」
(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf)
・厚生労働省「健康寿命をのばそう SMART LIFE PROJECT」
(https://www.smartlife.mhlw.go.jp/minna/sleep/kenkou)
・厚生労働省 中央労働災害防止協会「selfcare こころの健康 気づきのヒント集」
(https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/101004-9.pdf)