睡眠の質の低下が
招くリスクと要因

睡眠は、時間という「量」だけではなく、「質」も非常に重要です。日常の何気ない行動や習慣が「質の良い睡眠」を妨げているかもしれません。
ここでは、睡眠の質を下げてしまう要因と、睡眠の質が保てないときに心や体に与える影響についてご紹介します。

監修:渡辺 恭良 先生(日本疲労学会 理事長、神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 特命教授、理化学研究所 名誉研究員、Integrated Health Science株式会社 代表取締役CEO)

睡眠の質に深く関係しているのは「生活習慣」「寝室環境」「ストレス」

生活習慣

人の体には「体内時計」があり1日(約24時間)のリズムをつくっています。生活が不規則だとこの体内時計が不安定になり、睡眠と覚醒のリズムに乱れが生じてしまいます。
なぜ規則正しい生活が必要なのでしょうか。体内時計は睡眠のタイミングを決めるだけではありません。睡眠に備えてホルモンの分泌や生理的な活動の調節も行っているのです。これらの準備は自分の意思ではコントロールできないものです。規則正しい生活こそが、体内時計を整え、そこにプログラミングされている睡眠を円滑に行う秘訣なのです。

寝室環境

寝室の環境も場合によって睡眠の質を低下させるストレスになることがあります。光や音が気になって眠れないケースも見られます。また寝室の温度や湿度が適切でないと安眠は得られません。
例えば、夜に明るい光を浴びることで体内時計が遅れてしまう場合があります。家庭の照明(照度100~200ルクス)でも長時間浴びると体内時計が遅れるといわれています。また、人の声は睡眠を大きく阻害する要因といわれており、テレビやラジオをつけたまま眠るのは禁物です。

ストレス

ストレスは睡眠の質にとって大敵です。ストレスによって自律神経系の交感神経系が刺激され副交感神経系よりも優位になると、脳の疲労を回復させるノンレム睡眠が少なくなってしまいます。眠気が生じづらくなり、眠ったとしてもノンレム睡眠が少ないため眠りが浅く、夜中に何度も目が覚めてしまいます。

疲れだけでなく、生活習慣病や精神面などさまざまな影響が

質の良い睡眠は疲労を解消するほかにも、ホルモンバランスや自律神経系の調整、免疫力の向上など、私たちの健康維持につながります。
逆に睡眠の質が悪くなると、体だけでなく、脳にも疲労が蓄積し、十分に活動することができなくなります。そのため記憶力、判断力、集中力などの認知機能の低下を招きます。結果、仕事や勉強、運動などのパフォーマンスが悪化するばかりか、ときには大きな事故につながる危険性もあります。
また、生活習慣病をはじめとする、さまざまな病気の発症リスクを高め、症状を悪化させることもあります。具体的な疾患は以下が挙げられます。

●肥満
睡眠時間が短くなることで食欲を抑制するホルモンであるレプチンの分泌が低下し、食欲を増進させるホルモンであるグレリンの分泌が増加します。食欲に関係するこれらのホルモンのバランスが乱れることで食欲が増進し、肥満につながりやすくなります。

●糖尿病
睡眠の質の低下は高血糖やインスリン抵抗性(インスリンに対する感受性が低下し、インスリンの作用が十分に発揮できない状態)につながり、糖尿病のリスクが高まります。

●高血圧
睡眠の質の低下から交感神経系の緊張による血圧の上昇が生じ、高血圧になることがあります。

●慢性疲労症候群
身体の診察や臨床検査では客観的な異常が認められないにもかかわらず、日常生活を送れないほどの重度の疲労感が長期間続く状態のことを慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome:CFS)といいますが、その患者さんの多くに睡眠障害が見られます。

今までの習慣を見直し、睡眠の質の向上を!

睡眠の質が悪いと、さまざまなリスクを伴うことがおわかりいただけたかと思います。毎日何気なく行っている習慣が実は睡眠の妨げになっていた、と気づいた人も多かったのではないでしょうか。質の良い睡眠をとれるようになると、パフォーマンスが上がり、充実した日々を過ごすことが期待できます。少しの工夫と心がけで睡眠の質はグッと変わるので、ぜひチャレンジしてみてください。

参考文献

・厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針2014」
(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf)
・厚生労働省「健康寿命をのばそう SMART LIFE PROJECT」
(https://www.smartlife.mhlw.go.jp/minna/sleep/kenkou)