監修
杉田 正明 先生 (日本体育大学 体育学部 教授 (ハイパフォーマンスセンター長))
「ジョギング」と「ランニング」、それぞれの違いや特徴を整理して紹介します。
ジョギングもランニングも有酸素運動であるため、どちらも運動不足の解消や、体脂肪の燃焼、持久力向上といった効果が期待できます。
その違いは、主に運動の負荷やスピードによって区別されています。
ジョギングは快適なペースで続けやすく、健康維持や運動不足の解消を目的として行われることが多いです。一方、ランニングはジョギングに比べて強度が高く、速度も速いため、トレーニングを目的として行われることが多くなっています。
ジョギングとランニングを速度で区別するのは難しい理由があります。同じスピードでも、体力や経験によって感じる負荷は人それぞれだからです。
一般的には、ジョギングは、会話しながら快適に走れるペースで、時速6~8kmが目安です。一方、ランニングは息が弾み、会話が難しくなるようなやや負荷の高いペースで、時速8km以上が目安です。速度に合わせて、気持ち良く走れるリズムの音楽を聴きながら、走ってみるのもおすすめです。
ジョギングとランニングは、運動の負荷(強度)の違いで区別することができます。
運動強度(運動の強さ)は、メッツ(METs: metabolic equivalents)という単位で表され、この数字が大きいほど体にかかる負担が大きくなります。
メッツは、安静にしているときの酸素の消費量(=3.5ml/kg/分)を「1」としたときに、運動がその何倍のエネルギーを使うかを示しています。
▼ジョギングとランニングのメッツ
| 運動 | メッツ | ペース |
|---|---|---|
| ジョギング | 7.0 | ― |
| ランニング(134m/分) | 8.3 | 1kmあたり約7.5分 |
| ランニング(139m/分) | 9.0 | 1kmあたり約7.2分 |
| ランニング(161m/分) | 9.8 | 1kmあたり約6.2分 |
| ランニング(188m/分) | 11.0 | 1kmあたり約5.3分 |
また、ジョギングとランニングの違いには、体の代謝の仕組みが大きくかかわっています。少し難しい話にはなりますが、運動強度と血中乳酸濃度の関係でジョギングとランニングを区別することができます。

上記のグラフは、運動強度が上がるにつれて血中乳酸濃度がどのように変化するかを示しています。
緑のゾーン(ジョギング)は、乳酸がほとんど増えない有酸素運動の領域。赤のゾーン(ランニング)は、乳酸が急増する、無酸素的代謝が活発になる領域です。
境界線は「乳酸性作業閾値(にゅうさんせいさぎょういきち:LT)」と呼ばれ、ここを超えると体に負荷が大きくなります。
このため、ジョギングは健康維持や脂肪燃焼に、ランニングは持久力向上や競技力強化に適しています。
【プチメモ】乳酸性作業閾値(にゅうさんせいさぎょういきち:LT)とは?
乳酸性作業閾値とは、血中乳酸濃度が急激に増加し始める、運動強度の境界のことを指します。
運動強度が高くなると、エネルギー供給に糖代謝(解糖系)が強く関与します。解糖系は、酸素を十分に使えない条件下で働くと、ピルビン酸が乳酸に変換され、その結果、血中乳酸濃度が急増します。
・LT以下→有酸素代謝が優位で、乳酸は産生と除去のバランスが取れており、乳酸濃度はほぼ安定(ジョギング)。主なエネルギー源は、脂肪酸(β酸化)。
・LT以上→無酸素的代謝(解糖系)が活発になり、乳酸が急増する(ランニング)。主なエネルギー源は、糖質(グリコーゲン・血糖)。
運動強度が異なるということは、消費するカロリーにも違いが発生します。
消費カロリーは、「1.05 × メッツ × 時間(h)× 体重(kg)」の式で計算でき、運動時間や体重によって変動します。

一般的なジョギングの強度7.0メッツで計算すると、体重50kgの人が30分行った場合、消費カロリーは約183.75kcal(おにぎり約1個【約100g】分)になります。
一方、ランニング(139m/分)、9.0メッツで計算すると、同じく体重50kgで30分行った場合の消費カロリーは約236kcal(ご飯茶碗約1杯【約150g】分)になります。
ジョギングの心拍数は、最大心拍数の60~70%が目安とされており、ランニングの場合は最大心拍数の70~85%が目安とされています。
最大心拍数の目安は、「最大心拍数=220-年齢」の計算で算出でき、ジョギングよりランニングのほうが心拍数が高く、体への負担も高くなります。
ジョギングとランニングの違いは、下記の表の通りとなります。
| ジョギング | ランニング | |
|---|---|---|
| 目的・効果 | 健康維持、ストレス解消 | 心肺機能向上、持久力強化といったトレーニング |
| 速さ | 会話しながら快適に走れるペース | 息が弾み、会話が難しくなるペース |
| 強度(METs) | 約7.0 メッツ 会話可能 |
約9.0 メッツ 息が上がる |
| 消費カロリー(例) | 体重50kg・30分で約 183.75kcal |
体重50kg・30分で約236kcal |
| 心拍数目安(%) | 最大心拍数の60~70% | 最大心拍数の70~85% |
| 向いている人 | 初心者・シニア・ストレス解消を求める人 | 本格的な体力強化や競技志向の人 |
ジョギングとランニングのメリットは下記の通りです。
| ジョギング | ランニング | |
|---|---|---|
| メリット | ・ランニングに比べ体への負荷が軽く、長時間続けやすい ・初心者やシニアも無理なく取り入れやすい |
・ジョギングに比べ体への負荷がかかるため、効率良く多くのエネルギーを消費できる ・心肺機能・持久力を効率的に鍛えられる |
ただし、ジョギングはランニングに比べて、エネルギーの消費効率が落ちるので、ダイエット目的の場合や、アスリートのトレーニングとしては、負荷が足りない場合も。また、ランニングは体に負荷がかかりやすいため、久しぶりの運動として行う場合、しっかり準備運動をしてから走るようにしましょう。

ジョギングは、ランニングよりも負荷がかからずゆっくりであるため、「走る」運動を行う際の入口として、運動不足の解消やストレスの発散を目的とする人、運動初心者、運動を無理なく続けたいシニア層におすすめの運動です。
一方ランニングは、持久力をつけたい人、マラソンなどの大会出場を目指す人などに向いているでしょう。また、ジョギングに比べ、消費カロリーが高く、ダイエットを目的とする場合は、運動強度が高いランニングのほうがおすすめです。
ジョギングやランニングの効果を高め、安全に運動を続けるためには、いくつかのポイントを意識することが重要です。ここでは主な例を紹介します。

ジョギング・ランニングの前後は、怪我を防止するために、ウォームアップ(準備運動)と、クールダウン(整理運動)を行うことが重要です。
走る前にストレッチなどの準備運動を行うことによって、筋肉や関節の可動域が広がります。ひじを広げる、腕を上下に振る、腰をツイストするように動かすなどして、肩甲骨と骨盤が十分に動くように刺激を与えましょう。
運動中に収縮と弛緩(しかん)を繰り返して緊張している筋肉は、運動後もその状態が続いています。運動後は、体温や心拍数の低下に合わせて、時間をかけてゆっくりと筋肉を伸ばすことを意識すると効果的です。

ジョギング・ランニングの効果を高めるためには、正しいフォームを意識することが重要です。
まずは背筋をしっかり伸ばし、体の中心がまっすぐ保たれるよう意識しましょう。走っていると次第に視線が下がってしまいがちですが、目線が落ちると背中が丸まり、フォームが崩れる原因に。正しい姿勢を保つためにも、視線はまっすぐ前方に向けて走るようにしましょう。
上半身は腕を自然に振る程度で、無理に力を入れる必要はありません。余分な力が入ると疲れやすくなってしまうため、リラックスすることが大切です。
足は体の重心の真下に着地させることをイメージし、難しい場合は接地時に腰を前に出すことを意識すると良いでしょう。重心の真下で接地できている場合、重心が上下せず安定します。
足を重心より前に出して着地することは、「オーバーストライド」と呼ばれています。オーバーストライドでは、つま先付近で毎回減速する必要があり、筋肉への負担が大きく、損傷のリスクが高まるため注意が必要です。
正しいフォームで走ることで、疲れにくくなり、怪我の防止にもつながります。
ジョギング・ランニングの効果をしっかり得るためには、「心拍数」を意識することが大切です。
心拍数が高すぎても低すぎても、有酸素運動としての効果が十分に発揮されません。まずはウォームアップで、心拍数をゆるやかに上げ、その後ジョギングを通じて徐々に上げていきましょう。運動中の心拍数は、ジョギングの場合は最大心拍数の60~70%程度、ランニングの場合は最大心拍数の70~85%が適切とされています。
トレーニング後はクールダウンを行い、心拍数を徐々に落ち着かせてください。走りながら心拍数を確認できるウォッチやアプリを活用するのもおすすめです。特に長距離を走る際は、ペースを安定させることを意識しましょう。無理をせず、自分に合ったペースを保つことが大切です。
ジョギングやランニングの1回の時間は、目的によって異なりますが、30分から1時間程度を目安にすると良いでしょう。
脂肪燃焼効果を狙う場合は、ゆっくり長く走ることが重要です。なお、脂肪燃焼のためには、最低20分以上続けると良いと記載されることがありますが、運動中の脂質酸化は、時間とともに増加する傾向はあるものの、“20分未満では脂肪が燃えない”という明確な閾値(いきち:境目となる値)は存在しません。
夜に外を走る場合は、視認性の低下による事故リスクが上がるため、明るい色のランニングウェアを選んだり、反射材やライトを使用し、安全に走れる準備をしましょう。
初心者などで慣れないうちは無理に毎日走らず、2~3日置きに走るようにすると続けやすいでしょう。
また夏など暑い時期は、朝や夕方といった涼しい時間帯を選ぶようにしてください。冬は朝や夜の冷え込む時間は避け、日中の暖かい時間に運動するように心がけると良いでしょう。
ジョギングやランニングを行う際は、下記をしっかり補給するように心がけましょう。

ジョギングやランニングの最中は、体温が上昇し、汗をかくことが多いです。脱水症状を避けるため、こまめに水分補給を行うようにしましょう。その際、スポーツドリンクや麦茶などで、水分だけでなく、ミネラルも一緒に補給するよう意識することが大切です。
空腹での長時間・高強度のような激しい運動によって急激にエネルギーを消費すると、低血糖の症状を引き起こす可能性があります。低血糖になると、パフォーマンスの低下に加え、頭痛やめまい、手の震え、脱力感などが生じる場合も。
さらに、糖質や脂質などのエネルギー源が不足した状態で走り続けると、筋肉の材料であるアミノ酸を使ってエネルギーを補おうとします。これは糖新生と呼ばれる仕組みで、結果的に筋肉が落ちる原因にもなってしまいます。
糖質は主にご飯やパン、麺類などの主食に含まれています。ジョギングやランニングを行う前に、エネルギー源となるこれらの糖質を、適切な量摂取することが大切です。
60分以上のジョギングやランニングでは、運動を行う1~4時間前までに、体重1kgあたり1~4gの糖質(体重50kgの場合、50~200g)を摂ると良いとされています。
ビタミンB1には、糖質の代謝をサポートする働きがあり、エネルギーを作り出す際に必要不可欠なビタミンが不足すると、疲れやすくなります。そのため、糖質と一緒に、豚肉や大豆などの食材に含まれるビタミンB1を摂取することも意識できると良いでしょう。
ただし、ビタミンB1は、体内で吸収されにくいうえに、水溶性で加熱や水洗いによって失われやすく、体内に蓄積できないため、食事からの摂取だけでは、十分な量を確保しにくい特徴があります。
その弱点を補う成分として、「フルスルチアミン(ビタミンB1誘導体)」というものがあります。
フルスルチアミンは、ビタミンB1に比べて腸からの吸収が優れており、筋肉や神経によく行き渡り、体内で効果を発揮する活性型ビタミンB1に多く変換されます。食事からの摂取が難しい場合は、ビタミンB1を含むドリンク剤やゼリー飲料などもあるので、上手に活用するのもおすすめです。
ジョギング・ランニングの効果を高めるには、服装選びも大切です。
普段着や、一般的なスニーカーでも走ることができますが、可能であれば、走りやすいスポーツ用ウェアとシューズを着用するのがおすすめです。ウェアは、軽量で動きやすく、防風性や撥水性、UVカットなどの機能を備えたものを選ぶと良いでしょう。
シューズに関しては、特に初心者の場合は、クッション性の高いものを選ぶことで、膝や腰への負担を軽減し、怪我のリスクを抑えることができます。また、サイズが合っていないと、体に負担がかかってしまうため、かかとをしっかり合わせた状態で履き、つま先に適度な余裕があるか、横幅がきつすぎないか、しっかりとチェックしてください。
ジョギングやランニングは、継続することが重要です。体に変化があらわれるまでに、ある程度の時間がかかることも多いため、まずは3日間続け、その次は1週間続けてみる、といったように、小さな目標から始めて、習慣化を目指しましょう。
またジョギング・ランニングの目的を明確にすると、走るモチベーションを保ちやすくなります。ジョギング・ランニング専用の記録アプリやウォッチで、距離・時間・心拍数を管理するといった工夫もおすすめです。
ジョギングやランニングを行うメリットは大きいですが、やり方を誤ると怪我や体調不良につながる可能性も。特に初心者やシニア層は、自分の体調や環境に合わせて、注意深く取り組む必要があります。誤ったフォームは怪我につながるため、正しいフォームを意識して走るようにしましょう。
毎日のように長距離を走っていると、筋肉や関節に負荷がかかって怪我につながる他、心臓や血管などの体の内側にも負担がかかって、損傷や炎症が起こることもあります。個人の体力によって、どの程度の頻度が適度なのかは変わってきますが、健康のためには無理をせず、運動を楽しむことが大切です。
また、走るコースの地面によって、足への負担も変わってきます。アスファルトは足への負担が大きいため、たまに土や芝生などのコースも取り入れるようにすると良いでしょう。
夏に運動をする際は、熱中症、脱水に十分注意するようにしてください。こまめに水分・塩分を補給し、帽子をかぶって、通気性の良い服装で行うようにしましょう。
冬の場合は、寒さの影響で血圧が上がりやすくなり、心臓に負担がかかることがあります。また、寒いと筋肉が硬くなり、怪我をしやすくなることも。しっかりと防寒対策をして体を冷やさないよう心がけ、運動前には、ストレッチや体操でしっかり体を温めるようにしましょう。

ジョギングとランニングは、ダイエットや生活習慣病の対策など、健康な体づくりにつながります。運動強度が異なるため、健康維持やストレス解消を目的とする場合などはジョギング、持久力アップやマラソン大会への出場を目指している場合などはランニングと、自分に合ったほうを選択しましょう。これまで運動をしてこなかったり、久々に行う人は、まずはジョギングから始めて、徐々にランニングに移行するのがおすすめです。
また、ジョギングやランニングする際は、エネルギーを消費するため、いつも以上に栄養・水分補給が重要になってきます。ビタミンやミネラルなどの栄養も含むドリンク剤や、ゼリー飲料などを上手に活用しながら、ランニングやジョギングを習慣にして、健康な毎日を目指しましょう。
参考文献
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」