音を感じる器官である内耳の感覚細胞は、加齢とともに徐々に数が減っていきます。そのため、高齢になると聞こえにくくなるのが老人性難聴です。初期には高音域が聞こえにくくなり、しだいに中音域、低音域へと難聴の範囲が広がっていきます。キーンという高音の耳鳴りをともなうこともあり、これらの症状は通常両耳に起こります。
突発性難聴
突然、片方の耳に激しい耳鳴りと難聴が起こる疾患で、約半数が回転性のめまいをともないます。金属音、電子音のような耳鳴りが特徴で、重症化した場合は耳がまったく聞こえなくなることもあります。めまいの発作は一度きりで繰り返すことはありません。ウイルス感染や内耳の血流障害が原因ともいわれていますが、正確な原因は分かっていません。また、過労やストレスが引き金になることが多いといわれています。
急性及び慢性化膿性中耳炎
細菌やウイルスに感染し、中耳に炎症が起こる疾患で、急性中耳炎では風邪やインフルエンザなどの感染症の後に発症することが少なくありません。中耳に膿が溜まり、その膿が出口を求めて鼓膜を押すために強い耳の痛みと難聴が生じ、発熱をともないます。鼓膜が破れると、粘液性から黄色っぽい膿性の耳だれが出ます。慢性化膿性中耳炎では難聴と慢性的な粘液性あるいは膿性の耳だれが特徴です。
滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)
鼓膜の奥(中耳)に溜まった液体が長時間排出されないままになっている慢性の炎症疾患のことです。成人では耳管の疾患に続いて、また幼小児では中耳炎の治療を途中でやめてしまった時に多く起こります。主な症状は耳詰まり感、難聴、耳鳴りです。滲出性中耳炎は痛みや耳だれがないので放置してしまうケースがしばしばあるので要注意です。
真珠腫性中耳炎(しんじゅしゅせいちゅうじえん)
鼓膜の一部が奥に入り込んで、そこに垢や老廃物がたまって塊が形成されます。その塊が真珠のように見えることから真珠腫性と呼ばれています。腫瘍と間違われやすいのですが、腫瘍ではなく炎症性の疾患です。主な症状は耳だれと難聴ですが、初期の段階ではみられません。たまった塊に細菌感染が起こると膿や血液の混じった耳だれがみられるようになり、痛みが強くなります。治療しないと重度の難聴や顔面神経麻痺、髄膜炎を起こすことがあります。
耳管狭窄(きょうさく)症
耳と外の気圧を調整している耳管の内腔が狭くなって働きが低下するのが耳管狭窄症です。耳管の働きが低下すると、鼓膜が振動しにくくなり難聴になり、軽い耳鳴りや耳が詰まった感じや低音の耳鳴り、自分の声がこもって聞こえるなどの症状があらわれます。のどや鼻に炎症が起きたときや、飛行機に乗ったときの急激な気圧の変化などが原因で起こりやすくなります。
耳硬化(じこうか)症
中耳や内耳の骨に異常が生じ、音の振動が十分に内耳に伝わらなくなる疾患です。多くは両耳に難聴があらわれ、徐々に聞こえにくさが増していき、耳鳴りをともなうこともあります。以前は日本では少ない疾患でしたが、食習慣の欧米化によって、日本でも発病数が増加しています。耳硬化症は、手術で聴力改善が得られる数少ない難聴の一つです。
メニエール病
自分や周囲がぐるぐる回るめまいと、どちらか一方の耳にだけ起きる耳鳴り、そして難聴の3つが同時に起こる疾患です。その他に強い吐き気や嘔吐をともなうこともあります。難聴は、とくに低い音が聞き取りにくくなる特徴があります。過労やストレスが引き金になることがあります。放置すると耳鳴り、難聴が進行します。
聴神経腫瘍
脳腫瘍の一種で、脳から耳に繋がっている聴神経に発生する良性の腫瘍です。はじめは軽い耳鳴りがあって、次第に強くなっていくのが特徴です。また、片方の耳の後ろに痛みを感じたり、軽いめまいがあらわれることもあります。腫瘍が大きくなると、難聴が出現し腫瘍を切除しても聴力がおとろえたままになったり、顔面神経麻痺が起こることがあります。
外リンパ瘻(ろう)
飛行機に乗っているときやいきんだときなど、中耳の鼓室という部分や脳内の圧力が急激に変化して、内耳の窓にあたる膜が破れて中耳に内耳のリンパ液がもれる疾患です。破れるときに、ポンと音が聞こえることがあります。これが外リンパ瘻です。耳が詰まった感じや難聴、キーンという音や金属音、電子音のような耳鳴り、めまいなどの症状があらわれます。
耳性帯状疱疹(ラムゼイ・ハント症候群)
帯状疱疹ウイルスが内耳や顔面神経に感染する疾患です。はじめに耳痛や頭痛が起こり、次いで耳の穴の近くに痛みをともなう小さな赤い発疹や水疱が多くあらわれます。そして、回転性の激しいめまいと耳鳴り、難聴が起こり、さらに、顔がこわばったり、目を開けたり閉じたりできなくなるなどの顔面神経麻痺があわれるのが特徴です。