腸内環境を整える!
「腸活」におすすめの
運動と酪酸菌のおはなし

便秘をはじめ、お通じのトラブル解消など、さまざまな効果が期待できる「腸活」。ヨーグルトや食物繊維を摂るといった食生活面に話題が集中しがちですが、実は、適度な運動の習慣も腸内環境を整えるために重要なことです。
ここでは、腸の機能を左右する大腸のバリア機能と酪酸菌(らくさんきん)の関係に注目しながら、腸内環境と運動の関係や、便通を整えるために取り入れたいおすすめの運動方法について紹介します。

監修:内藤 裕二 先生 (一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会理事長/日本酸化ストレス学会理事長/京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座教授)

腸活とは?

腸活とは、腸の機能を正常に保つために腸内環境の改善を目指した活動のことです。
ヒトの腸内には1000種以上・100兆個にも及ぶ細菌がすんでおり、無数の菌たちがそれぞれのなわばりを持ちながら相互に影響し合う豊かな生態系「腸内フローラ」(腸内細菌叢)を形成しています。この細菌たちは腸内に運び込まれてきた食べ物をエサとして分解することで消化・吸収を助けてくれたり、分解の過程で生じる代謝産物によって心身の機能を左右したりと、私たちの生活に深く関わっています。
細菌のなかでもヒトにとって有益な菌たちのことを善玉菌といい、それらが生み出す酪酸(らくさん)・乳酸・酢酸といった成分は腸内を酸性にすることで有害な菌(悪玉菌)の増殖を抑え、腸の運動を活発にしてくれています。したがって、善玉菌を増やすことが便秘の解消をはじめとした、さまざまな健康面にメリットをもたらすと期待されています。

腸活で期待できる効果

腸活を通して善玉菌を増やすことで、以下のような効果を期待することが可能です。
・便秘の改善、解消(便が健康的な状態になり、おならの臭いが軽減)
・腹部膨満感(おなかの張り)の軽減
・腸内フローラと大腸のバリア機能を改善

日常的な運動で腸内環境を整える

私たちが食べ物として摂取したものは、腸のぜん動運動(収縮運動)によって奥へ奥へと運ばれ、その過程で栄養分や水分が分解・吸収されることで便となり、排泄されます。
腸のぜん動運動は自律神経の働きなどに影響されており、何らかの理由で自律神経の働きが乱れると、腸の運動は盛んになったり低下したりします。ぜん動運動が低下した場合には便が腸内に滞在する時間が長くなり、水分が必要以上に吸収された結果、便が硬くなり便秘の原因となることがあります。
腸の運動を促す効果が期待できるものとして、運動があります。アスリートの腸内環境を調査した結果、善玉菌の増加があることが報告されています。また、腸粘膜には温度、圧、化学物質など様々な刺激に対する受容体があるとされているため、運動で物理的な刺激を与えることは腸のぜん動運動の刺激につながります。
適度な運動で体に刺激を与えることで、血行の促進や自律神経の活性が促されることにより、ぜん動運動の促進や便秘解消につながると考えられます。
そんな腸の運動を促すためにおすすめしたい運動をご紹介します。

ウォーキング

ウォーキングは体脂肪燃焼や体質の改善、生活習慣病の予防に効果的な運動として広く一般に浸透しており、いつでもどこでも行うことができる手軽な手段です。
ウォーキングでは普段の歩き方とは違い、フォームを意識しながら歩くことが大切です。視線は自然に前方へむけ、背筋を伸ばして頭を空から吊り上げられているイメージで高くキープします。肘を曲げて腕を振りながら、後ろ足のつま先で地面を踏み込むようにしながら重心を前へ移動させるように歩きます。距離や時間にこだわらず、ご自身の体調や体力に合わせて、まずは継続することを目指しましょう。

ストレッチ(ストレッチング)

ストレッチによって体を動かすことで中枢神経が刺激され、神経の伝達が促進されます。
ストレッチは複数の種類に分かれており、例えば体を静止させて反動を使わずに筋肉を伸ばすスタティックストレッチ(一般的なストレッチ)、ラジオ体操に代表される、体を動かしながら行うダイナミックストレッチなどがあります。ウォーミングアップとして他の運動の前に行ったり、就寝前やデスクワークの合間など習慣的に行うことがおすすめです。

ヨガ

ヨガは広い意味ではストレッチの一種にも含まれ、筋や関節を伸ばして柔軟性を高めることができます。ヨガにもさまざまなスタイルがありますが、例えばアメリカ発祥のパワーヨガはストレッチ運動と呼吸法の組み合わせによりかなりの運動量になり、体性神経(感覚を司る知覚神経と筋肉の収縮など身体の動きを司る運動神経の2つ)を刺激していくように考案されています。また、伝統的な瞑想法を取り入れたヨガは心身にアプローチし、自律神経を整える手法としても人気があります。

マッサージ

お腹に少し圧力をかけるようにマッサージすることで、便秘症状や排便回数・便の状態が改善するといわれています。
マッサージの方法にはさまざまなものがありますが、

①腸の内容物が進む方向に合わせて「の」の字にマッサージ
②左右の脇腹を上下に揉む
③下腹部を上に押し上げるように圧迫する
などといった方法があります。入浴中に行うと加温効果と相まって有効です。

ひねり運動

お腹を左右にひねったり伸ばしたりなどする運動は、便を排泄するためのインナーマッスルの腸腰筋(ちょうようきん)を鍛えることにつながると考えられます。3つの筋肉から成る腸腰筋は、腹筋と共に便を体内から押し出すために必要な筋肉です。ひねり運動を取り入れた腸腰筋トレーニングでおすすめなのは「バイシクルクランチ」です。仰向けに寝た状態から上体をやや持ち上げつつ足も浮かせ、自転車を漕ぐように両足を交互に胸へ引き寄せます。両手を首の後ろ側で組み、右肘と左膝、左肘と右膝が接近するように引き寄せながらゆっくりと行うと効果的です。

運動以外の腸活と腸内環境のバランス

腸内環境を整えるためには、適度な運動で自律神経を整えたりストレスを発散したりすること以外に、バランスの良い食生活によって腸内の善玉菌を増やすことが必要です。
食事等によって善玉菌を増やす具体的な方法としては、善玉菌のエサとなるオリゴ糖や食物繊維を含む食材を摂取する「プレバイオティクス」と、発酵食品など善玉菌そのものを含む食品などによって菌自体を摂取する「プロバイオティクス」の2つがあります。
腸活がうまくいっているかどうか、つまり腸内環境の状態を確認する簡単な方法は、便を観察することです。注目したいのは便の硬さ・ニオイ・色の3点。腸内フローラが良好な状態であれば、便は表面がなめらかで柔らかく、ソーセージのような形状をしており、ニオイもさほど強くありません。また、善玉菌が優勢な場合には腸内が酸性に傾くため、便は黄色や黄色味を帯びた茶色になる一方、悪玉菌が優勢になるとアルカリ性に傾き、便が黒っぽい色になります。

腸内環境の改善に必要な大腸のバリア機能と酪酸菌

大腸のバリア機能が低下することで起こるトラブル

腸内環境と便通という観点で注目したいのが、大腸に備わるバリア機能です。
腸のなかでも大腸には特に多くの細菌が棲息しているため、それらの細菌が腸の組織へ接触・侵入しないように、大腸の表面は分厚い粘液のバリアをまとっています。このバリアは有害な細菌から腸自体を保護するだけでなく、大腸を通過する便をコーティングすることで潤滑油のような役割を果たし、便のスムーズな排泄に必要です。
大腸の粘液層が減少することはバリア機能の低下を意味しています。菌から体を守ることができなくなって炎症(腸炎)を起こしたり、便の通過に支障をきたしたりすることにつながります。その結果として、下痢や軟便、便秘などといった便通の乱れが生じる可能性があるのです。

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大腸のバリア機能を維持するカギは酪酸

大腸のバリア機能では粘液を十分に分泌してもらうことが、バリア機能を維持する秘訣になります。そのカギを握っているのは、「酪酸(らくさん)」という物質です。 酪酸は腸内細菌の一種 酪酸菌(らくさんきん)が腸内に運び込まれた食物繊維を発酵・分解する過程で作り出される、短鎖脂肪酸の一種です。大腸にとって重要なエネルギー源であり、大腸の粘膜を構成する細胞(粘膜上皮細胞)が必要とするエネルギーのうち、約60~80%は酪酸によってまかなわれています。大腸の粘膜上皮細胞は水分・ミネラルの吸収や粘液の分泌を担っていることから、大腸粘膜の機能に対する酪酸の貢献度は非常に高いといえるでしょう。実際、酪酸を投与することによって大腸の粘液分泌が促進されるという報告*1や、便秘の患者さんと同じ腸内フローラを再現したマウスに対して酪酸を与えると排便の頻度や便通の状態、腸の動きが改善されたという報告*2があげられています。すなわち、大腸のバリア機能を正常に保つためには、酪酸を無視することはできないのです。

*1 Shimotoyodome, et al.: Comparative Biochemistry and Physiology Part A:
Molecular & Integrative Physiology 125(4): 525-531, 2000.
*2 Ge, et al.: Scientific Reports 7: 441, 2017.

運動も腸活になる!! 酪酸菌と運動の関係

大腸が必要とするエネルギーの源である酪酸。その酪酸を生み出すのは、腸内フローラを構成する有用菌(善玉菌)「酪酸菌(らくさんきん)」です。この酪酸菌を増やすことが、大腸のバリア機能を維持し、便通を正常に保つことに役立つと考えられます。
腸内の酪酸菌を増やすには、酪酸菌のエネルギー源を適切に補給することが重要です。酪酸菌は水溶性食物繊維をエサとして活動することで酪酸を産生しているため、食物繊維を豊富に含む食材を摂る食生活を心がける「プレバイオティクス」の実践が、既に腸内にいる酪酸菌を活発にさせ大腸の機能維持に貢献すると考えられます。
また、運動習慣を改善することが腸内の酪酸菌を増やすことに役立つ可能性があります。
座っていることが多い生活が中心の方を対象に、有酸素運動を週3回、30分から60分まで段階的に運動の激しさを上げながら6週間継続していただいた試験では、腸内フローラの構成に変化が見られ、酪酸を生み出す細菌の数が増加することがわかりました。また、その後で運動量の少ない生活習慣に戻ると、腸内フローラの様相が元の状態に戻っていくことも報告されています*3。このことは、継続的な運動習慣が酪酸菌を増やすことにつながる可能性を示唆しています。

*3 Allen, et al.: Medicine & Science in Sports & Exercise 50(4): 747-757, 2018.

【まとめ】運動も重要な腸活。自分に合った腸活のスタイルを

本記事で紹介してきたように、腸内環境を改善するためには、バランスのとれた食生活や運動習慣による腸活が大切です。
一方で、偏った食生活などが原因で、腸内にいる酪酸菌の数自体が既に少なくなっている可能性も考えられます。こうした場合には、酪酸菌そのものを摂取するプロバイオティクスも有力な選択肢となるでしょう。ただし、ヨーグルトなどポピュラーな発酵食品によく含まれる他の善玉菌と違って、酪酸菌を含む食材は種類が少なく(ぬか漬けや臭豆腐など)、食事を通して日常的に摂取することには難しさを伴います。手軽に菌を摂取する方法として、整腸薬や酪酸菌を含むサプリメントの活用もおすすめです。
ご自身に合った腸活ライフのヒントとしてぜひお役立てください。

【参考】

・高野正太:日本大腸肛門病学会雑誌72(10):621-627,2019.
・安藤朗:日本内科学会雑誌104(1):29-34,2015.
・宮本,et al.:化学と生物55(4):278-284,2017.
・奥村龍:生化学89(5):731-734,2017.
・Shimotoyodome, et al.: Comparative Biochemistry and Physiology Part A: Molecular & Integrative Physiology 125(4): 525-531, 2000.
・Ge, et al.: Scientific Reports 7: 441, 2017.
・Allen, et al.: Medicine & Science in Sports & Exercise 50(4): 747-757, 2018.

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