軟便

「お腹がゆるくなる」という言葉があるように、ふとした折に便が柔らかく水っぽいものになったり、いつもより排便の回数が多くなったりすることがあります。少しくらいの変化なら気にはならないでしょうが、数日続いたり、症状が悪化したりすることも考えられます。 ここでは、「軟便」とはどのようなものか、原因や考えられる疾患、軟便の予防法・対処法などを紹介します。

監修 : 内藤 裕二 先生(京都府立医科大学大学院 医学研究科 教授)


軟便とはどういう状態?

1軟便の症状

軟便とは一般に、「便が柔らかく形状があいまいなものになる」、「排便の回数が増える」といった状態をいいます。その程度の強いもの(便に固形物が見られず水のような液状になる、1日に何度もトイレへ駆け込まなければならなくなる)が下痢だとするならば、それよりも軽度の状態を軟便ということができるでしょう。

消化中の食べ物は本来、腸の中を通り過ぎる過程でゆっくりと時間をかけて水分を吸収され、適度な硬さを持った便となります。しかし、何らかの原因によって、消化中の食べ物が腸の中を速く通り過ぎてしまい水分が十分に吸収されなかったり、腸の組織から細胞内の液体がにじみ出てしまうなどといったことが起こった結果、便中の水分量が多くなる・排便回数が増えるといった軟便の症状が起こります。

軟便の原因には日常生活における食習慣や疾患、薬の副作用などさまざまなものがあり、原因によって治療や対処法は異なります。

2軟便と下痢の違いとは?

下痢をしているときには水っぽい、便秘気味なときには硬くてコロコロといったように、便通の状態は便の形状・水分の含有量からうかがい知ることができます。
図はブリストル便形状尺度と呼ばれるもので、便の状態を評価する際の目安となるものです。理想的な便は表面が滑らかで柔らかなソーセージ状。不定形の便(柔らかく形状があいまいな)であれば軟便傾向、それよりも水っぽい(形があいまい)ようであれば下痢傾向にあり、柔らかさがない(硬い)ようであれば便秘傾向にあると考えられます。Type7は病気の可能性もあるので、自己判断せずに医師に相談しましょう。

便に含まれる水分量の違い
【水分量】
通常:約70~80%程度
軟便:約80~90%(泥状便)※図type6
下痢:90%以上(水様便)※図type7
下痢に関連する情報はこちら。下痢

日常生活から考えられる軟便の原因

1食べ物や食生活

食習慣や特定の食べ物が便の性状に影響を与えることがあります。
例えば以下のような点に注意しましょう。

<食あたり・水あたり>

いわゆる「食中毒」で、食べたり飲んだりしたもののなかに有害な微生物や化学物質が含まれていたときに起こる健康被害です。代表的な症状に腹痛、便通異常(下痢や軟便等)、嘔吐といった胃腸障害や発熱があります。O157(病原性大腸菌の1種)やノロウイルスなど、社会問題になることも多く、また旅行者が海外でかかる病気の原因で一番大きなものも食べ物・飲み物といわれています。

<食物アレルギー>

ある特定の食べ物を食べたり、それに触れたりした後に症状が現れるものです。症状としては皮膚症状(かゆみ、赤み、じんましん等)、呼吸器症状(くしゃみ、鼻水、息苦しさ等)、粘膜症状(充血、かゆみ、腫れ等)、神経症状(頭痛、意識もうろう等)、そして消化器症状として下痢や軟便、吐き気・嘔吐、血便といったものが、1つまたは複数現れます。人によってアレルギーを引き起こす食べ物はさまざまであり、症状も多様です。

<暴飲・暴食>

食べ過ぎた翌日に下痢や軟便が起こる方が多いといわれていますが、そのほとんどは暴食で消化不良を招いたことによるものだといわれています。また、アルコールの刺激によって下痢や軟便が起こることもあります。そのような場合は、通常1~2日程度で症状がおさまります。過度なアルコール飲酒後に経験する下痢や軟便は、消化機能が低下している可能性もあり、膵臓機能の低下の可能性もあります。

<人工甘味料>

ソルビトール、マンニトール、キシリトールといった糖アルコールは、腸から消化・吸収されにくいことから低カロリーであるため、人工甘味料としてシュガーレスの飴・ガム・飲料などに利用されています。消化されにくいこれらの物質は大腸まで容易に届き、そこに蓄積されて大腸による水分吸収を妨げ、結果として軟便や下痢といった水分量の多い便の原因になる可能性があります。
ただし、糖アルコールによる軟便や下痢は一過性の場合が多く、一度に多量摂取しない限り安全性に問題はないとされているため、国内では一般食品素材として多くが扱われています。
人工甘味料による便通異常の起こりやすさには個人差がありますが、もともとの腸内環境に要因(参照:腸内細菌叢(腸内フローラ)の乱れ)があることが明らかになってきています。

2ストレス

「ストレスでお腹が痛い」という話を耳にされたことがある人もいるかもしれませんが、精神的ストレス・肉体的ストレスにさらされることで便通の乱れを生む可能性があります。
ストレスは脳視床下部からのホルモン分泌に影響を与え、その影響として大腸の動き(収縮運動)の活性化や腸内環境の変質をもたらすことが示唆されています。腸の運動が活発になると便通の輸送スピードも上がることから、水分吸収のための十分な時間が取れなかった便は水気が多くゆるいものになると考えられます。

3病気や薬の服用

何らかの疾患の治療中で薬を服用している場合には、その薬の副作用で軟便・下痢などの便通異常が起きている可能性があります。例えば細菌の増殖を抑えたり死滅させたりする抗菌薬は、腸の中にすむ細菌たちの数も減少させてしまうことがあり、その結果として腸による水分摂取が阻害され、水分の過剰なゆるい便をきたしてしまうのです。慢性の下痢になった場合には、2~4週間以内に飲み始めた薬がないかチェックしてください。胃薬であっても下痢気味になることがあります。

4腸内細菌叢(腸内フローラ)の乱れ

ヒトの腸の中には約1,000種以上もの細菌が約100兆個も生息しており、無数の菌たちがなわばりを持ちながら相互に影響し合う、豊かな生態系を形成しています。細菌たちがつくるこの腸内環境を腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう;腸内フローラ)といい、ヒトはこの細菌たちの力を借りながら食べ物から栄養を摂取・吸収しています。
腸内フローラの生態系は菌たち自身のはたらきでうまく維持されていて、例えば体外から入ってきた病原菌などは、少数であれば腸内にすむ菌たちによって排除されます。ところが、何らかの理由でこの腸内フローラのバランスが崩れると、菌の相互作用によって支えられていた腸のさまざまな機能が低下し、結果として便秘・軟便・下痢といった便通異常が生じてしまうのです。これまで見た人工甘味料やストレス、抗菌薬が要因となる便通異常についても、実は腸内細菌と関連があることがわかってきています。

5大腸のバリア機能の低下

腸の内側(食べたものなどと触れ合う、管の内側)はテニスコート約1.5面分にも及ぶ、皮膚よりも広大な表面積を持っています。その広大な面積は常に、食べ物にまぎれて口から侵入してくる細菌・ウイルスなどにさらされ続けています。また、外敵だけでなく、腸にはそもそも無数の細菌がすみついており、しかも大腸には小腸の100倍以上の菌が棲息しています。そのため大腸は、内と外、両方の脅威から体を守らなければなりません。
大腸は身を守るために分厚い粘液の層をまとっていて、これが「バリア」となって腸の組織内へ細菌が侵入するのを阻止しています。さらに、このバリアは便通にとっても重要で、便が大腸を通過する道中でこの粘液がまとわりつき、コーティングすることで通りをよくし、スムーズな通過・排泄を助けています。何らかの理由によってこの粘液層のバリアが失われると、腸は細菌に対して直接さらされることになり、炎症(腸炎)が起こりやすくなった結果、便通の異常につながると考えられます。

軟便を伴う疾患

※以下の疾患は、医師の診断が必要です。下記疾患が心配な場合には、早めに医師の診断を受けましょう。

1過敏性腸症候群

大腸の病気ではない人で、お腹の痛みがあったり、
調子が悪かったり、下痢・軟便・便秘など排便の異常が長く続くといった場合に最も考えられる病気がこの過敏性腸症候群です。
腸は食べたものを肛門に向かって移動させるために収縮運動(ぜん動運動)をしていますが、この運動は脳と腸の間で神経を通じた情報交換によって制御されています。つまり腸が動き、脳は神経を通じてそれを監視・制御しています。ところがストレスを受けるとこのぜん動運動が激しくなるとともに、脳は腸が受ける刺激に対して敏感になってしまいます。そのため過敏性腸症候群の患者さんは排便回数の乱れ(増減)や便の変化(柔らかくなったり硬くなったりする)といった便通の異常に加え、健康な人には問題にならない小さな刺激にも敏感になり、弱い刺激で腹痛を感じるようになってしまうのです。
この疾患・症状に関連する情報はこちら。過敏性腸症候群

2潰瘍性大腸炎

大腸に炎症が起きて粘膜が部分的に欠けてしまうことで、患部がえぐれ(潰瘍;かいよう)たり、ただれ(びらん)ができてしまったりする病気です。症状としては下痢・軟便や腹痛、および便に粘液と血液が混じったもの(粘血便)が出るといったことが起こり、ひどい時には1日に10回以上も粘血便や血便が出るようになります。
正確な原因はわかっていませんが、遺伝的な要因や免疫機能のトラブルのほか、食生活や腸内フローラなども発症に関係すると考えられています。比較的20代の若い人に発病することが多いものの、どの年齢層でも発病の可能性がある疾患です。
症状が良くなったり悪くなったりを繰り返す性質があるため、長期的な治療が必要な病気です。また、炎症が広がる過程でさまざまな合併症を起こすこともありますが、ほとんどの場合は適切な治療により普通の生活が送れるようになります。

3乳糖不耐症、消化管アレルギー

乳糖不耐症とは、いわゆる「牛乳を飲むとお腹がゆるくなる」ことです。ミルクに含まれる糖質(乳糖)を分解する酵素(ラクターゼ)のはたらきが弱いために、乳糖を消化・吸収できず、下痢・軟便を起こす疾患のことをいいます。遺伝子の異常で生まれつきラクターゼのはたらきが低い人がいるほか、ウイルス・細菌などによる感染性の腸炎によっても起こることがあります。また、大人になるにつれてラクターゼのはたらきが低下して症状が現れるようになることがあり、日本人を含むアジア人にはよく見られる疾患です。

消化管アレルギーは食物アレルギーの1種で、その人にとってアレルギーの原因となる食物を摂取してからしばらくして、嘔吐や血便、ひどい下痢や軟便などが起こります。新生児・乳児に多いものですが、1990年代終盤から急増傾向にあり、他の年齢層でも見られる疾患です。成人の腹部不定愁訴のなかにはアレルギーによるものが意外に多いことがわかってきました。消化管アレルギーが疑われる場合は、一度、医師に相談してみてください。

日常でできる軟便の予防

1食事改善(腸内環境を整える)

便通異常の要因として腸内フローラの関与が
続々と明らかになっていることから、腸内細菌を念頭に置いた「腸活」に注目が集まっています。腸内にいる無数の菌は人間にとって有益な善玉菌、害をもたらすことがある悪玉菌、そのいずれにも属さない日和見菌(ひよりみきん)の3つに分けて考えられており、代表的な善玉菌である酪酸菌(らくさんきん)、乳酸菌、ビフィズス菌の数を増やすことが腸内環境を整えることにつながると考えられます。
善玉菌を増やす具体的な方法としては、善玉菌のエサとなるオリゴ糖や食物繊維などを摂取する「プレバイオティクス」のほかに、善玉菌自体を摂取する「プロバイオティクス」という方法も効果が期待されています。この2つを意識しながら、暴飲・暴食を控えてバランスの良い食生活を心がけるのがおすすめです。

2体を冷やさない

体の体温調節機能がうまくはたらかないことによる「冷え」が、軟便・下痢のような症状につながることがあります。体温は自律神経のはたらきで一定に保たれていますが、寒暖差が大きい環境では自律神経がうまくはたらかなくなり、自力でうまく体温を調節できなくなってしまうのです。体を温める寒暖差の対応や冷たい飲み物を摂り過ぎないようにして、体を冷やさないよう注意しましょう。

3ストレスをためない

ストレスが胃腸の機能や腸内環境の変化の要因になることから、日常的に適度なストレス発散を行うようにしたいものです。
おすすめは簡単な運動。30分程度の間全身のストレッチ運動をした結果、脳波や心拍数に好影響がありリラクゼーション効果があることが示唆されています。このように運動には自律神経の活動へ影響を与えると考えられ、リラクゼーション効果によるストレスの発散に役立つ可能性があります。

軟便が気になるときの対処法

1自宅でのセルフケア

<消化に良いものを食べる>

軟便や下痢といった症状が出ているときには、なるべく腸にやさしい食品を選びながらバランスの良い食生活を心がけるのがいいでしょう。消化されにくい食物繊維の多い食品や、脂肪分・油分の多い食品、香辛料や酒類は避けたほうが良いと考えられます。食物繊維は善玉菌のエサになるため重視したいところですが、既に症状が強く出ている際には腸への負担を考慮する必要があるでしょう。

<水分補給を心がける>

軟便・下痢が起きているときは、腸からの水分吸収が低下しているため、体が水分不足を起こしてしまう可能性があります。脱水症状を起こす恐れもあるため、こまめな水分補給を心がけましょう。腸からの水分吸収が弱まっているので、水と電解質(ミネラル分等)が体に吸収されやすいよう調整された経口補水液などの活用がおすすめです。

<体の「冷え」対策>

体の「冷え」が軟便の要因になっていると感じる場合には、血行を良くしたり冷えをやわらげたりするようなセルフケアがおすすめです。服装・エアコンや飲み物などを活用して体を温め、寒暖差を緩和すると良いでしょう。

<整腸薬の服用>

軟便やお腹が張る感じ(腹部膨満感)が気になる場合には、整腸薬を活用してお腹をケアするのも1つの手です。大腸のバリア機能に必要な粘液の分泌を促す酪酸を生みだす酪酸菌(らくさんきん)や、腸内フローラの整備に貢献する乳酸菌、乳酸菌など他の善玉菌が増えるのを助ける糖化菌などを含んでいるものが候補に挙げられます。
ただし、市販の整腸薬は多量の摂取で効果が上がったり、食中毒・感染性の腸炎など疾患を治療したりするものではありません。適切な使用を心がけましょう。

<止瀉薬(ししゃやく;下痢止め薬)の服用>

軟便の症状が気になるときや下痢に発展しているときなどは、脱水症状を起こす可能性があることから、症状がつらいときには止瀉薬(下痢止め薬)の使用も考えられます。ただし、細菌・ウイルスが原因で症状が起こっている場合、頻回な排便は本来それらの病原体を体外へ排泄するための体の自然な反応です。無理に排便を抑えることは病原体を体内に留まらせることにつながる可能性もあることに注意しましょう。

2医療機関の受診

便の色や形、排便の回数が通常と異なる状態が何日も続く、市販薬を服用後数日経っても改善が見られないといった場合には、何らかの疾患が隠れている可能性も考えられます。かかりつけ医への相談や内科・胃腸科・消化器科がある医療機関の受診などを検討してください。

参考
・日本消化器病学会Webサイト「患者さんとご家族のためのガイド」(2021年9月4日閲読)
https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/
・Hattori, et. al.: Nutrients 2021, 13, 2029.
・安藤朗:日本内科学会雑誌104(1):29-34,2015.
・奥村龍:生化学89(5):731-734,2017.

プチメモ--

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