身近で手軽な運動の1つ、ランニング。健康増進を目的としたスポーツとして、多くの市民ランナーが日ごろから走っています。今回の試験では、ランニングを継続的に行っている人を対象に、フルスルチアミン配合製剤を服用した際のコンディション指標を評価しました。その結果、ストレスを軽減する可能性が示されたのです。体内へのビタミン吸収量との関係など、試験結果について解説します。
市民ランナーのコンディション課題とフルスルチアミンの可能性
公園に行けばランニングをしている人を見かけ、フィットネスジムに行けばランニングマシンで走っている人を見かけ、ランニングはとても身近な運動の1つです。日本の市民ランナー数は、約750万人といわれています*1。市民ランナーの走る目的は、健康維持、シェイプアップ、リフレッシュ、仲間とのコミュニケーションなど様々ですが、適度な強度・距離・頻度で、無理なく継続をすることが重要です。しかし、例えば運動に不慣れな人が急にランニングを始める場合や、日ごろから運動をしている人でもマラソン大会などに向けて張り切ってランニングの距離を増やしたり、強度を上げたりした場合には、疲労が生じ、一時的にコンディション(体調)を崩してしまう可能性もあります。
*1 「2024年 20歳以上のジョギング・ランニング実施者の推計人口」公益財団法人 笹川スポーツ財団調べ
https://www.ssf.or.jp/thinktank/sports_life/data/jogging_running.html
このようなコンディション低下時には、運動の負荷を下げることや入浴、マッサージなど、様々な対策がありますが、対策の1つに、ビタミン含有製剤を服用して、身体の内面から、疲労の回復やコンディションの維持・改善を図ることが挙げられます。「ビタミン」と言っても、全部で13種類もあります。このうち、疲労の回復に特に関与するのは、ビタミンB群であり、それは体内でのエネルギー産生・代謝に必須だからです。ビタミンB1は特に炭水化物からのエネルギー産生に、B2は脂質の代謝に、B6はタンパク質の代謝に、重要な働きをしています。
実はビタミンB1には弱点があり、食事から摂取する場合、まず加熱や水洗いによって失われやすく、また水溶性のため体内で蓄積できず、1回の摂取で吸収される量にも限界があります。これらの弱点を改良した医薬品成分が「ビタミンB1誘導体 フルスルチアミン」です。ビタミンB1と比べて、体内に吸収されやすく、体中の各組織によく行き渡り、各組織で活性型のビタミンB1を産生して、疲労の回復などによく働きます。
フルスルチアミン配合製剤の服用により、ストレスが軽減
今回の研究では、市民ランナーを対象に、フルスルチアミンを含むビタミン含有製剤を服用した際の、コンディション指標への影響を探る試験を実施しました。試験対象となったのは、19名の健康な男性市民ランナーで、2週間の事前観察期間と4週間の製剤服用期間を設定しました。製剤は、フルスルチアミン、ビタミンB2・B6などのビタミンB群を含む製剤です。服用期間中は、毎朝、食後に製剤を服用しました。コンディション指標は、主観的指標としてHooperの質問票*2を、客観的状態として安静時心拍数や心拍変動についてスマートウォッチを装着して測定・評価しました。また、服用した製剤に含まれる各ビタミンが、体内にどれほど吸収されたのかを確認するために、2週間おきに採尿日を設け、尿中ビタミン排泄量から体内への各ビタミン吸収量の推計値を得ました。
*2 Hooper & Mackinnon (1995) によって開発された、主にスポーツ現場で疲労やストレスなどのコンディションを検査するために用いられる、自己申告式の質問票
4週間の服用期間後、Hooperの質問票による「ストレス」の値が低下しました。また、服用期間の前後で、尿中のビタミンB1・B2・B6排泄量が増加し、各ビタミンの体内への吸収が確認されました。これらの指標の関係性を解析したところ、尿中のビタミンB1およびB6の増加と、ストレスの低下との間に、負の相関が認められました(図1および2)*3。なお、そのほかのトレーニング指標などについては、変化は示されませんでした。
*3 統計解析手法であるCook's distanceを用いて外れ値を除外した分析結果
すなわち本研究により、フルスルチアミンおよびビタミンB6を含むビタミン含有製剤の服用が、市民ランナーのストレス軽減に寄与する可能性が示唆されました。
図1 ビタミンB1の吸収量増加とストレス低下の関係
図2 ビタミンB6の吸収量増加とストレス低下の関係
市民ランナーにおけるストレス軽減の意義
今回の試験では、心拍変動などの客観的な数値には大きな変化がなかった一方で、ランナー本人が感じる「ストレス」に改善が見られました。「気のせいではないか?」と思われるかもしれませんが、実はスポーツ科学の分野では近年、この主観(本人の感覚)が改めて重要視されています。アスリートを対象として行われた研究を統合的に分析した報告によると、血液検査や心拍数などの客観的な数値よりも、選手自身が感じる「気分」や「ストレス」といった主観的な感覚の方が、コンディションの変化をより鋭敏に反映すると示されています*4。 すなわち、「検査数値は正常だけども、なんとなく体が重い、気分が乗らない」といった感覚は、数値にはまだ表れていない体のSOSサインかもしれないのです。今回の試験で確認された「自覚的なストレスの低下」は、そうした見えない不調を防ぎ、ランニングを健康に・長く・楽しく継続していくための重要な変化である可能性が考えられます。
*4 Saw, A. E., Main, L. C., & Gastin, P. B. (2016). Monitoring the athlete training response: subjective self-reported measures trump commonly used objective measures: a systematic review. British journal of sports medicine, 50(5), 281–291.
この研究は、比較対照群(プラセボ群)を設けない実生活下での検証であったため、試験結果に対する環境要因や思い込み効果の影響を除外することはできません。しかし、単に服用前後でストレスの数値が良くなった、だけでなく、「ビタミンB群が体内に多く吸収された人ほど、ストレスの改善幅が大きかった」という相関関係が確認されたことは、フルスルチアミンなどのビタミンB群がコンディション改善に寄与する可能性を示唆するものです。ランニングを継続的に取り組んでいるランナーは、それぞれが社会生活とのバランスや、ランニング強度、天候など、様々なストレスを受けながらランニングを継続しています。そのような市民ランナーにおいて、ビタミン含有製剤が自覚的なストレスを低減する可能性が示されたことから、今後のさらなる研究発展が期待されます。
※試験実施機関:株式会社ユーフォリア
文献:Fuminori Takayama, Yoshihito Tomioka, et al. Sport Performance & Science Reports - 2026 August, 315, v1
https://sportperfsci.com/perceived-stress-and-related-conditioning-indices-following-fursultiamine-and-b-complex-supplementation-in-recreational-runners-a-single-arm-pilot-study/
監修者プロフィール

氏名:富岡 義仁
インディアナ州立大学にてアスレティックトレーナーの資格(ATC:Certified Athletic Trainer)を取得。帰国後、富山大学医学部に編入。医師免許取得後、複数の高校・大学の部活動チームにてチームドクター・トレーナーを務める。IOC(国際オリンピック委員会)公認スポーツドクターの資格も有し、東京2020オリンピックでは最年少で選手村ドクターを務めた。整形外科専門医かつATCかつIOC公認スポーツドクターの資格保持は日本初。
