症状別対策BOOK
胃の働きやトラブルについての基礎知識をご紹介します。
胃痛
「口」で噛みくだき、混ぜ合わされた食べ物は、「食道」というトンネルを通って、強力なミキサーであり、また食べたものを一時的に蓄えておく貯蔵庫でもある「胃」へ運ばれます。そこで胃の“ぜん動運動”によって、塩酸と同じくらいの強い酸である胃液と混ぜ合わされ、消化され、殺菌されて「小腸」へと送られます。
小腸というのは十二指腸から空腸、回腸へと続く細長い管状の臓器です。食べ物は十二指腸で消化酵素によってさらに消化され、吸収され易い形に変えられて空腸から回腸へと送られます。そこを“旅”する間に栄養素はどんどん吸収され、この小腸で栄養素の約90%が吸収されます。
そして大腸は、消化・吸収された食べ物の“残り物”を送る“運搬車”の働きをしています。この大腸で残り物から水分やミネラルが吸収され、残りカスで固形状の糞便が形成されて肛門から排泄されるのです。
<ぜん動運動とは>
読んで字のとおり(蠕動) 、ミミズなどの虫が収縮と弛緩を繰り返しながら前進する動きと似ていることからそう呼ばれています。
消化管の筋肉の収縮によるくびれが波のように伝わり、ふくらんだり縮んだりしながら食べ物を先へ先へと送っていくのです。つまり、胃だけではなく小腸、大腸を含め消化管全体にみられる筋肉の収縮運動のことです。
胃液には粘液・胃酸・たんぱく質の分解を行なう消化酵素(ペプシンなど)が含まれています。胃酸は細菌など微生物の増殖を防止したり、食物を溶かして消化酵素の働きを促す役割などがあり、トイレ用洗剤に含まれる塩酸と同じくらい酸性が強く、茶褐色の十円玉は10分もするとピカピカになってしまいます。
胃液の分泌量は普通、1日3リットル程度といわれています。若い人は濃くて分泌量も多いのですが、加齢とともに胃酸は薄くなり、量も少なくなります。ですから年を取ると消化が悪くなるのです。
強い酸で胃の組織が傷つけられないのは、胃壁を覆う胃粘膜の表面から出る粘液によって、胃が溶けないよう守られているからです。また、粘液の中には胃酸を中和する物質などがあり、それらによって酸が中和されているのです。
このように胃は、胃酸やペプシンなど胃粘膜を傷つける攻撃因子と、それらの攻撃因子から胃粘膜を守る防御因子とのバランスを保つことによってコントロールされているのです。ところが、何らかの刺激によってこのバランスが崩れると、胃粘膜が傷ついて潰瘍などになり易くなるのです。例えば、不規則な生活やストレス、非ステロイド性消炎鎮痛剤など(頭痛薬、生理痛薬、風邪薬など)の薬、あるいはお酒の飲み過ぎによっても粘液の抵抗が弱くなります。
胃酸の分泌は脳、胃、十二指腸の連携によって調節されています。まず、おいしい食べ物を見たり、においを嗅いだりすると、その刺激が大脳から自律神経系を介して胃に伝わり、胃酸の分泌を促します。
また、食物が胃に入ってきて、直接胃壁を刺激することでも胃酸は分泌されます。
胃での消化が終わって食物が十二指腸にうつると、今度は胃酸の分泌が抑制されます。さらに、人間の体には胃酸の分泌のセルフコントロール機能が備わっています。いうならば、胃の中にコンピュータがあって、胃酸の分泌も抑制もオートセンサーで全てコントロールされているのです。
消化が悪く、胃の中に食べ物がいつまでも残っているように感じるために、食後いつまでたっても胃がすっきりしない状態。ストレスや睡眠不足など様々な原因で起こります。
みぞおちの辺りが焼けるように感じることで、胃液が食道に逆流し、食道の粘膜を刺激して起こります。胃酸の濃度が高いときに起こる症状ですが、無酸症でも胸やけが起こる場合があります。
消化・吸収できる能力以上のものが胃腸へ入ると、そのしわよせがどこかに出てきます。「食べすぎ・飲みすぎ」は症状ではありませんが、これらが胃もたれや胃痛の原因になりますし、食べ物が胃や腸の中で充分に消化されずに発酵したりすると、お腹が張ったり下痢などを起こします。
ストレスや不安による場合の他、食事環境も原因のひとつです。とかく忙しい人は仕事に追われて、詰め込むだけの食事になりがちですが、楽しく食事するという習慣をつけることが大切です。
ただ、いつまでも続く場合には胃腸だけでなく、他の病気が原因であることも考えられるので要注意です。
腐ったものを食べたり、お酒を飲み過ぎたりしたとき、あるいは不快な臭いをかいだときに、むかついたり、吐いたりするのは、正常な体の防御反応です。しかし、ひっきりなしに吐き続ける場合は、他の病気が疑われるので要注意です。
癌や潰瘍で胃の出口が詰まっているときは、毎日決まった頃に食べたもののほぼすべてを吐くことがあります。また、食後すぐ吐くのは胃に潰瘍がある場合が多いので検査が必要です。
1日に何回か大量に吐くのは自分の消化の限界を超えているということです。
胃の中に飲み込んだ空気や、食べたものが発酵してできたガスが口へと出てくるものです。サイダーやビールのガスが出てくることもあります。げっぷのにおいは、食べたもののにおいがほとんどですので、とくに気にする必要はありません。
胃や腸の働きが弱く、食べたものが消化されないとお腹が張ったり、もたれたりします。
また便秘などによって腸内にガスがたまったとき、あるいは食べ物と一緒に飲み込んだ空気が胃や腸にたまることによってもお腹が張ります。
胃腸の粘膜には痛みを感じる知覚神経がないので、患部自体が痛むということはなく、その刺激が、背骨の神経を刺激することで、他のところに痛みが放散されるのです。
例えば、右側の肋骨の下辺りが痛む場合は「十二指腸や胆のうの病気」、みぞおちの辺り(心窩部)だと「胃の病気」、左脇腹の上部とおへその少し上の左よりだと「膵臓の病気」、下腹部だと「大腸の病気」というように、痛む場所によってトラブルを起こしている臓器が推測できます。
胃痛