顔色が悪い
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顔色が悪い

日常会話で「顔色が悪いけど大丈夫?」というフレーズがよく使われますが、その多くは顔面の血の気が少ない青白い顔色を意味していると思われます。この青白い顔色の原因は精神的ストレスから重大な疾患までさまざまで、時に、重要な健康のバロメーターになります。一方、実際に顔色の変化がなくても、「表情に元気がない、暗い」という印象を「顔色が悪い」と表現されることもあると思います。それらのことを念頭に顔色が悪くなる原因とその対策をみていきましょう。

横山 裕一先生

監修

横山 裕一先生 (慶應義塾大学保健管理センター 教授)

顔色が青白い原因は、迷走神経反射による顔の血流量の低下や循環器系の病気、貧血による血液の質の低下などが考えられる

顔の皮膚の下に血管があり、その血管を流れる血流量の低下や流れる血液の質の低下が顔色を青白くさせる原因となります。

※以下の疾患は、医師の診断が必要です。
疾患が疑われる場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

血液量の低下

ストレスと迷走神経反射

人の体は、自律神経系という交感神経と副交感神経からなるシステムでコントロールされていますが、一般的に交感神経は緊張、副交感神経はリラックスに伴い活性化されます。しかし、過度のストレス(恐怖、痛み、感情の刺激、長時間の拘束や立ち続け)または長期のストレスを受けると、迷走神経反射という副交感神経の反射が起こります。これは過剰な交感神経の緊張に対する防衛反応であるとの解釈もあります。

※迷走神経…副交感神経に分類され、内臓(胃、小腸、大腸や心臓、血管など)に広く分布し、体内の環境をコントロールしている。

この副交感神経の活性化で、心臓の働きが弱まり、全身の血管が拡張し、血圧が低下します。その結果、顔面や頭部への血液の供給が悪くなり、いわゆる、血の気が引いた状態となり、顔色は悪くなります。ストレスによる顔色の悪化の原因の一つと考えられます。
特に、迷走神経反射により、脳内の血流も不足し、めまい、頭痛、視界が暗くなるなどの症状が起こり、酷い時には意識を失います。また副交感神経の刺激は、胃酸分泌を高め、腸管運動を亢進させ、それぞれ胃痛や下痢を起こします。これらも強いストレス時によく現れる症状です。
疲労、睡眠不足、脱水、飲酒、人混みや閉鎖空間などの環境、などがこの迷走神経反射を起こり易くします。

起立性低血圧

誰でも急に立ち上がると血圧が下がりますが、その変化を頸動脈や大動脈にある圧受容体が感知します。すると、交感神経を刺激し、血管を収縮させて、血圧を元に戻します。そのシステムにより、脳や顔面への血流は一定に保たれます。しかし、このシステムに不調があると、起立時の血圧が補正されず、脳や顔面への血流が減って、ふらつきや酷い時は意識消失が起こります。起立性低血圧は加齢による自律神経系の劣化で発症しやすくなりますが、若年者でも自律神経の失調があると起こり、糖尿病に伴う神経障害、降圧剤の服用、シャイ・ドレーガー症候群という脳の疾患なども原因となります。

心臓の疾患

心臓機能の障害で顔面を含む全身への血液供給が減り、顔色が悪くなります。急性心筋梗塞、弁膜症、不整脈、動脈閉塞、心筋症などの疾患がその原因です。

循環血液量の減少

血管内の血液量が減った場合も、顔面を含む全身への血液供給が減り、顔色が悪くなります。消化管潰瘍などからの大量の出血、極度の脱水などがその原因です。

血液の質の低下

貧血

血液量が十分でも、血液中の赤血球数が減る、即ち貧血になると、顔色は青白くなります。貧血は、要因によっていくつかに分類されます。

1)鉄欠乏性貧血

肺で体内に取りこまれた酸素は赤血球の中にあるヘモグロビンという蛋白に付着し、体内の諸細胞に運ばれます。酸素は、このヘモグロビンが持っている鉄分子に付着しますが、鉄分が減ると貧血になります。
慢性の出血(消化管の潰瘍、女性では生理の出血など)が続いたり繰り返されたりすると、体内の鉄が失われ、鉄欠乏性貧血になります。
また、食事から摂取した鉄は胃の中で胃酸の働きにより、吸収されやすい形に変化します。よって、胃を切除した人も鉄欠乏性貧血になり易いことが知られています。ビタミンC が胃酸の代役をしますが、胃をすべて切除された方は、定期的な、医療機関での鉄剤の点滴による、鉄分の補充が必要です。

2)ビタミンB12 欠乏性貧血、葉酸欠乏性貧血

ビタミンB12、葉酸とも赤血球を成熟させるのに必須の因子でこれらの摂取不足は貧血を起こします。

3)赤血球の産生障害、赤血球の崩壊

血液は骨の骨髄で作られますが、骨髄の機能低下が貧血を起こします。再生不良性貧血や血液のがんの骨髄への浸潤、などが原因です。また、腎臓は、骨髄へ血液産生を促す指令を出していますが、腎不全など腎臓の疾患でその命令が発出されなくなると貧血が起こります。また、正常な赤血球が壊されてしまう溶血性貧血という貧血もあります。これらの貧血に対しては、専門的な治療が必須で、市販薬やサプリメント等による諸成分の補充療法では対処できません。

動脈血酸素飽和度の低下

血液中の赤血球は肺で酸素を受け取り、その酸素を体全体の細胞に届けていることを説明しましたが、赤血球が酸素をどれだけ取り込んでいるかは動脈血酸素飽和度の測定で知ることができます。尚、この指標はパルオキシメーターという装置に指を差し込むだけで簡単に測定できます。

肺を通過した赤血球は、心臓から動脈血として全身に送られますが、各組織に酸素を渡した赤血球は酸素飽和度が低い静脈血として肺に戻ってきて再度酸素を受け取ります。よって、肺の障害、心臓の障害、また、血管の奇形などで動脈血と静脈血が混ざってしまうと動脈血酸素飽和度は低下します。この動脈血酸素飽和度が減少すると、顔を含む皮膚全体が青白くなり、状態が悪化すると紫色になってきます。これをチアノーゼといいます。チアノーゼは酸素不足の危険な状況のサインですので、早急な医療機関への受診が必要です。

動脈血酸素飽和度を下げる諸疾患

肺疾患 肺炎、気管支喘息、肺気腫、肺梗塞など
動脈と静脈の異常交通
心疾患 心不全など
その他 肋骨骨折などによる呼吸障害

顔色が紫色(チアノーゼの疑い)になるようであれば、速やかな医療機関の受診が必須です。

※以上の疾患は、医師の診断が必要です。
上記疾患が疑われる場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

ストレスで顔が赤くなる場合のメカニズムは?―戦闘モードの反応

ストレスが強すぎたり、長く続いたりすると迷走神経反射が起こり、顔色が悪く(青白く)なることは前項で触れたとおりです。しかし、ストレスに対して顔色が赤くなる場合もあります。この違いは何でしょうか?

例えば、格闘技を観戦していると、ゴングが鳴る前に選手の顔面が紅潮してくる光景をよく見ますが、これは、人間が本能として持つストレス反応、即ち、敵に対峙した時の「視床下部―下垂体―副腎系」の活性化の兆候の一つです。
この系では、視床下部がストレスを感知すると下垂体を刺激し、下垂体から副腎に指令が発出され、副腎からアドレナリンやノルアドレナリンが放出されます。アドレナリンは心臓の機能を高め、血液の拍出量を増やし、脈拍を速くします。また、ノルアドレナリンは交感神経の緊張を高め、全身の血管を収縮させ、血圧を上昇させます。
しかし、筋肉や心臓の血管はこの交感神経による収縮作用をあまり受けず、結果として両臓器への血流は増え、戦闘に適した状態になります。尚、顔面にも同様の血管があり、それが、戦闘態勢時の顔面紅潮に関与していると考えられています。人前で失敗しストレスを受けた時に、急激に脈拍が早まり赤面するのも同様の反応です。

顔色が暗い原因は、疲れや生活習慣の乱れなどが考えられる

疲労の蓄積、寝不足、二日酔い、など生活習慣の乱れ、脱水、また、ストレスの蓄積や、うつ状態などでも、顔の色自体は変化がないのに、顔色が悪いと言われてしまうことがあります。実際は顔色が暗い、覇気がない、元気がない、というような意味と思われます。

顔色の悪さへの対処(一度は医療機関受診を)

貧血の種類によっては市販の薬を使うこともできる

偏った食生活によっても発症する貧血(鉄欠乏性貧血、ビタミンB12や葉酸の欠乏による貧血)の発症を未然に防ぐには鉄分を含む鉄剤、鉄分の吸収を高めるビタミンC、血液を造るのに重要なビタミンB12や葉酸などのビタミンB群、の服用が推奨されます。但し、鉄は過剰摂取すると肝障害を起こしますので、注意が必要です。
健康診断などですでに貧血と診断されている場合は、貧血の原因に合致した治療が必要です。一度医療機関を受診して、どの貧血であるのか診断を受けて、市販薬の使用が可能との判断を医師からもらったら服用を始めてください。
例えば、毎回の生理の際に、出血で鉄欠乏性貧血になることがわかっておられる方は、症状に併せた市販の鉄剤服用も推奨されます。
しかし、一度、診断を受けても、別の原因が加わる可能性もあるので、市販薬でなかなか自覚症状(息切れ、疲れやすさ、集中力の欠如など)が改善しない場合は、やはり医療機関を受診してください。

貧血で顔色が悪い場合に必要な栄養素
鉄分
葉酸・ビタミンB12などのビタミンB群(造血に関わる栄養素)
ビタミンC(鉄分の吸収を高める栄養素)

顔色の暗さへの対処

普段は健康だったのに、忙しい仕事が続いたなどのイベントを機に疲労が蓄積し、覇気がなくなり、顔色が暗くなっておられる方は、休息の確保、十分な水分補給、正しいリズムの生活習慣(睡眠、食事、運動など)の回復、ストレスが強い場合はその対策を行う、などが肝要です。

貧血はなくとも、血行が悪く、顔色が悪くなっている場合は、血行を良くするビタミンEの服用がすすめられます。

近年の研究で、抗うつ分子のセロトニン(タンパク質)の合成にビタミンB6が重要であることがわかってきました。本分子の合成のために、タンパク質とビタミンB6の十分な摂取がうつ病の未然予防のためにすすめられます。

しかし、すでに「うつうつした気分」が晴れない時は、なかなか良い生活習慣のリズムが作れません。また、実際にうつ病になってしまっていると睡眠、食事、運動とも病気のためになかなか改善ができません。速やかな医療機関への受診をおすすめします。

疲労が蓄積している時は、休息、睡眠、食事といった生活習慣を見直し疲労をとることが基本です。疲労対策に効果的とされるビタミンB群やビタミンCの摂取もすすめられます。
特にビタミンB1は疲労回復ビタミンとも呼ばれ、糖質からエネルギーを作り出すことに欠かせません。また、神経の情報伝達にも関与しています。ビタミンB1が不足していると、細胞のエネルギーが不足状態に陥り、だるさを感じたり、神経痛や肩こりが現れることもあり、なんとなく元気が無い、といった顔色の暗さに関わっている可能性も考えられます。
尚、うつとの関係で紹介したビタミンB6も、タンパク質からのエネルギー産生や赤血球の産生にも関わっているため、日頃から補うことで健康維持をサポートします。

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顔色の悪さを予防する生活習慣

貧血を防ぐ食事

毎日の食事の中で、ヘモグロビンの主成分である鉄分や良質なタンパク質を多く摂りましょう。鉄分は赤身の肉や魚、レバー、アサリ、卵黄、ホウレンソウなどに、良質なタンパク質は牛肉、豚肉、豆類などに多く含まれています。まずは食べ物から摂ることを意識することが良いでしょう。また、鉄分の吸収を高めるビタミンCの豊富な野菜や果物もバランス良く摂りましょう。

<鉄分やタンパク質を多く含む食材の例>

鉄分 赤身の肉、魚、レバー、アサリ、卵黄、ホウレンソウ など
タンパク質 牛肉、豚肉、豆類 など

近年、鉄過剰症による肝障害が注目されています。その診断を受けた場合は、鉄制限が治療の中心になります。また、糖尿病や高中性脂肪血症に罹患している場合は過剰な果物の摂取が病気を悪化させることがあります。治療中の病気がある場合は、市販薬との飲み合わせなどについて自分での判断が難しいため、主治医との相談が必要です。また、健康診断で何らかの懸念が指摘されている場合も同様です。安易に自己判断せず、心配な場合はまずは医療機関で相談しましょう。

迷走神経反射を防ぐ生活習慣

迷走神経反射は、疲労、睡眠不足、脱水、飲酒、人混みや閉鎖空間などの環境で起こり易くなることを説明しましたが、これらを避けることが重要です。
適度な運動と良い睡眠は、自律神経のバランスを保つことに有益です。
また、運動は、血管を取り囲む内皮細胞から、一酸化窒素(NO)という血管拡張分子の放出を促すことで、血行を良くして、顔色を良くする作用もあります。
冒頭で、迷走刺激反射は過度なストレスへの反応ということを説明しましたが、運動で体を鍛えると、過度なストレスの閾値を上げ、迷走神経反射を起こりにくくすることができる可能性があります。ホラー映画などで暴漢や恐ろしいクリーチャーなどに襲われた時、警察官やレスラーなどのストレス耐性が強そうな登場人物が顔面を赤くしながら戦うシーンや、反対にひ弱な一般人が、その恐怖のストレスで迷走神経反射を起こし、青ざめて失神してしまうシーンを見たことがあるかも知れませんが、あながち間違ってはいないと思います。

体を冷やさない生活習慣

体を冷やすと皮膚の血行が悪くなります。冷房の効いた部屋で長時間過ごすことや、冷やした食べ物などには注意が必要です。ぬるめのお風呂にゆったりとつかったり、しょうが入りの飲み物で体を温めたりして、冷えを防ぎましょう。また入浴は、副交感神経を刺激し、ストレスで交感神経優位になった自律神経のアンバランスの改善に役立ちます。

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プチメモ顔色が良くなる首と頭のマッサージ

顔色が良くなる首と頭のマッサージ

冷えによって全身の血行が悪くなると、顔にくすみやクマがあらわれます。そのようなときは、首のマッサージをしてみましょう。首は頭部へ血液を送る大事な場所。首の筋肉が緊張していると、顔への血流が滞りやすくなります。オイルを手にとり、親指をのぞく4本の指で、首のつけ根から上に向かって優しくマッサージしてください。左右、4〜5回ずつ繰り返します。また、頭皮のマッサージもおすすめです。頭頂部にある百会(ひゃくえ)というツボは自律神経とも直結しているので、マッサージのときにこのツボを刺激するとより効果的です。

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