女性の健康の悩みをフェムテックやフェムケアで緩和しよう

女性は多くの健康課題を抱えています。女性特有の初潮から閉経までの月に一度の生理、妊娠や出産はもちろん、更年期障害といった女性に多くみられる悩みなどさまざまです。それらの悩みの緩和策として、近年「フェムテック」や「フェムケア」が注目を集めています。ここでは、フェムテックやフェムケアとは何なのか、また女性の健康課題にどのように役立つのかを紹介します。

監修:窪 麻由美 先生(フィーカレディースクリニック 副院長)

女性は男性よりも多くの健康課題を抱えている

女性の一生は性ホルモンの状態によって、思春期、成熟期、更年期、老年期と年齢によってホルモン分泌量が変化し、結婚や妊娠・育児などのライフステージの変化が健康に影響を与えるケースが多いです。
また、性ホルモン分泌量の低下速度が緩やかな男性に比べ、女性は、女性ホルモンの分泌が思春期から閉経期まで、およそ1ヵ月単位の周期で大きく変動します。月経周期にともない、貧血や生理痛、頭痛などが生じやすいことは、多くの女性が実感されていることでしょう。この他に、便秘や肩こりなども、女性は男性より起こりやすいことが知られています。

女性に多くみられる健康上の悩み―症状とその原因

生理痛・月経前症候群(PMS)などの月経トラブル

■月経困難症

日常生活に支障をともなう、生理痛(下腹部痛、腰痛、頭痛など)や嘔吐の他、イライラなどの精神的な症状が現れます。
生理痛は、月経血を押し出そうとするホルモン(プロスタグランジン)の働きで起こります。生理痛でも多少の痛みは生理的な範囲ですが、生活に支障が生じている場合は、しっかりとした対策や治療が必要です。
対策としては、鎮痛剤や漢方薬、低用量ピルを用いて生理痛を減少させたり、経血量を減らしたりすることが挙げられます。副作用などもあるため、まずは医師の診察を受けることをおすすめします。

■月経前症候群(PMS)

生理にともない、肩こり・頭痛・食欲不振や過食・不眠・胸が張るといった体の症状、イライラ・情緒不安定・集中力低下といった精神的な症状が現れます。
症状は生理の3~10日くらい前から現れ、生理開始とともに軽快、もしくはなくなります。
こちらも低用量ピルを用いた排卵抑制療法や漢方薬による治療がありますが、薬によらない治療法で精神的な症状を緩和していく方法もあります。

貧血

女性は毎月の生理で出血しているため、どうしても貧血になりやすく、そのほとんどは鉄分が不足して起こる鉄欠乏性貧血です。生理のある20~40代の日本人女性の約65%が鉄欠乏性貧血、または症状はなくても検査値上は貧血の「かくれ貧血」です。これには、日本の女性は鉄分を必要量の6割ほどしか摂取していないことや、過剰なダイエットの影響も大きいと考えられます。なお、妊娠中には鉄分を多く消費するため、より鉄欠乏性貧血になりやすくなります。

肩こり

肩こりのある人の割合は、女性が男性のほぼ倍で、1000人あたり110人以上。原因はさまざまで、女性ホルモンの影響による体の不調に、デスクワークでのパソコンの長時間使用によるテクノストレスなどが重なって、肩がこりやすくなることも考えられます。また、月経前症候群(PMS)や卵巣機能の低下(更年期)の症状としての肩こりも。いったん肩こりが生じてしまうと、肩に力が入って血管が収縮し血流が悪くなり、長引いてしまうことが少なくありません。

便秘

便秘は女性に多い悩みのひとつです。女性のお腹は男性と比べて複雑で、例えば骨盤内に男性にはない子宮や卵巣が収まっているため、お腹にトラブルを引き起こしやすいと考えられています。また、さまざまな精神的ストレスで自律神経の働きが乱れ、腹痛や便秘などになりやすくなります。

さらに、生理周期の後半になると、女性ホルモンのプロゲステロンの分泌量が増え、気分のイライラや落ち込みをもたらしたり、体に水分を蓄えたりする他、腸のぜん動運動を抑えたりするため、便秘になりやすいといわれます。

便秘に関連するアリナミン製薬の製品

更年期と更年期障害

更年期は閉経の前後約5年、計10年を指し、一般的には45~55歳頃の女性に多いです。更年期には、女性ホルモンの減少にライフステージの変化が重なり、疲れやすい、汗をかきやすい、肩こり、イライラしやすい、眠りが浅いなどのさまざまな症状が現れがちで、その現れ方は人それぞれです。更年期の症状が生活に支障となるような場合を「更年期障害」といいます。

その他

その他、やせ過ぎ、冷え症、甲状腺疾患、骨粗鬆症(こつそしょうしょう) 、認知症、抑うつなども、女性に多い症状や病気として挙げられます。また、男性にはなく、女性だけの健康課題として、外陰部や女性器のトラブル、例えば陰部のかゆみや痛み、性交痛・性交後出血などが更年期に現れやすく、「閉経関連尿路生殖器症候群(GSM)」と呼ばれています。

女性が直面しやすい妊娠関連の課題

避妊

避妊の方法として国内では男性のコンドーム利用が多いですが、最近では女性自身の避妊/妊娠の希望に基づき低用量ピルやミレーナ(避妊リング)の使用も増えています。低用量ピルを上手に使うと、月経のタイミングを調整できたり、生理痛を軽くしたりすることが可能です。これらは、月経過多や生理痛などの月経困難症にも使用されます。

妊活・不妊症

妊娠を希望し妊活する場合は、まず基礎体温を測り記録することから始めてみましょう。基礎体温は、朝目覚めたら布団の中で、体をできるだけ動かさないで測ります。
月経周期にともなう基礎体温の差は0.3~0.5℃ぐらいのわずかなものですから、毎日一定の条件で測定しないと変化がわかりません。低温期から高温期に移ると、排卵が起きたと判断できます。なお、最も妊娠しやすいのは、排卵日の3日前から当日の間といわれています。
このような妊娠しやすいタイミングに性行為をしても妊娠に至らない場合は、ご夫婦で不妊治療を考えても良いでしょう。

一定期間、一般的には1年(年齢によりさらに短縮する場合もあり)、避妊せずに性交を行っているのに妊娠しない場合、不妊症と考えられます。なお、不妊はすべて女性の問題のように思われがちですが、実際は女性と男性の原因が30%ずつで、残りは不明とされています。

女性に多い健康課題を緩和するには

食事・運動・休養

健康の維持・増進には、性別にかかわらず、食事と運動、そして休養(睡眠)が基本であり、「健康の三要素」とも呼ばれます。女性の健康作りも、これらを見直すことからスタートすることが大切です。

とくに若い女性で問題になりやすいのが「食事」で、食事の量が足りずにやせ過ぎていることが少なくありません。やせ過ぎは冷え症や貧血、便秘、ホルモンバランスの乱れなど、さまざまな健康課題を引き起こすことがあります。さらに不妊にもつながり、生まれてくる子どもの生活習慣病のリスクを高めてしまったり、高齢になってからは骨粗鬆症(こつそしょうしょう)になりやすくなってしまうと考えられます。

サプリメントや市販薬の利用

忙しい毎日を送っている女性の中には、食事をしっかり食べたくても時間がないという方も少なくないでしょう。また、毎日栄養バランスを考えた食事を作るのは手間もかかりますが、食事をあくまでも主とした上で、不足しているビタミンやミネラルなどを、サプリメントやビタミン剤で補うという方法もあります。

何かはっきりした病気があり、そのために現れている症状であれば、医療機関で症状に適した薬を処方してもらうことをおすすめします。しかし、疲れや便秘などの一時的なものなら、市販薬で対応するのも良いでしょう。また、病院で検査をしてもどこもおかしいところがないのに、不快な症状がいくつも重なるような状態が続く…といった不定愁訴には、漢方薬などで対処する方法もあります。とくに更年期のそのような症状には、複数の生薬が配合された漢方薬がよく使われています。

なお、妊娠中や妊娠している可能性のある場合は、市販薬やサプリメントの利用の前に、必ず医師または薬剤師に相談してください。

医療機関を受診

どんな症状であっても、慢性的に続く場合や、徐々にひどくなっていくような場合には、医療機関を受診して診察を受け、原因を特定してもらった上での治療が必要です。無理にがまんしたり、忙しさを理由に受診を先延ばししたりしないようにしましょう。

フェムテックやフェムケアなど、その他の対処法

その他、健康上の悩みへの取り組みとして、ヨガや気功、アロマセラピー、ツボ押しなどをセルフメディケーションとして試してみるのも良いでしょう。
ただし、ここまで解説してきたことの多くは、どれも大切ではあるものの、男性にもあてはまることも多く、「女性の健康のため」に特化した対処法ではありません。それに対して近年、「フェムテック」や「フェムケア」と呼ばれる、女性の健康課題への解決を目的とした製品やサービスが提案されるようになり、注目を集めています。

フェムテック、フェムケアとは? なぜ注目されているの?

言葉の意味

「フェムテック(FemTech)」とは、英語の女性‘Female’とテクノロジー‘Technology’を組み合わせた造語です。2012年頃に、欧米のベンチャー投資の世界で使われ出しました。ある起業家が月経管理アプリ開発の資金調達のためにこの言葉を利用したところ、急速に資金が集まったといわれています。現在でも定義は定まっていませんが、女性特有の健康課題をテクノロジーで解決する製品やスマートフォンアプリなどや、女性の悩みを解決するようなさまざまな活動も含めてフェムテックとされています。

「フェムケア(FemCare)」は、英語の女性‘Female’とケア‘Care’を組み合わせた造語です。フェムテックがテクノロジーを用いている製品やサービスに限定されるのに対して、フェムケアはそれに限らず、さまざまな製品やサービス全般を指すことが多いようです。

フェムテックやフェムケアが注目される理由

女性の健康課題、例えば生理や性行為の悩みなどは、これまで人と語ることがタブー視されていましたが、近年はSNSなどの通信環境が整い、女性が声を上げやすくなってきました。また、実際に製品やサービスを利用する際にもさまざまな方法で利用できるようになりました。

「女性の健康課題は社会の課題である」と考えられるようになってきたことも背景にあるでしょう。経済産業省の試算によると、女性の生理関連の労働損失は年4,911億円、生理による経済負担は年7,000億円に上ります。また、女性特有の健康課題により職場で困っている女性は52%と半数以上おり、何かをあきらめなければならないと感じた経験をした人も43%を占めるという調査結果があります。加えて、女性特有の健康課題が解決された場合、仕事のパフォーマンスは41%上がるというデータもあります。

このような社会的な認識の高まりを背景に、内閣府が2021年に策定した「女性活躍・男女共同参画の重点方針」には、「フェムテック製品・サービスの利活用を促す仕組み作りを支援する」と明記されています。女性の健康上の悩みを社会全体で解決しようという機運が、一気に高まりつつあるようです。

フェムテック・フェムケアの製品やサービス

生理(月経)関連

■生理を快適にすごす

月経カップ・・・腟内に折りたたんで挿入するシリコン製のカップです。ナプキンの蒸れによる不快感や、経血の臭いが漏れたりする心配がなくなります。着けたままトイレや入浴も可能で、繰り返し使えるため経済的です。

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吸水ショーツ・・・吸水と防水、臭い予防などの機能を兼ね備えたショーツです。ナプキンがいらないためデリケートゾーンがかぶれにくく、繰り返し使えるというメリットもあります。フェムテック/フェムケア関連製品の中心的存在です。
一方で、生理の出血量が多い過多月経の人などは、このような便利な製品によって、子宮筋腫などの疾患を見逃してしまうといったことが起こらないとも限りません。フェムテック製品を賢く利用するとともに、定期的に婦人科検診を受けることも習慣としましょう。

■生理痛をやわらげる

ピルのオンライン診療・・・ピルは避妊目的だけでなく、生理痛の緩和やPMS治療にも有効です。従来は医療機関に足を運んで処方してもらうのが一般的でしたが、最近はスマートフォンなどを介したオンライン診療が普及してきました。
オンラインであっても、自分の症状をしっかりと伝え、使い方などをきちんと理解した上で使用しましょう。

鎮痛薬・・・もちろん薬局・ドラッグストアで購入できる鎮痛薬も、生理痛の緩和に有効です。薬剤師に相談しながら、自分にあったものを選んで使いましょう。

■生理周期を把握する

生理周期・基礎体温アプリ・・・生理の周期を予測・管理するスマートフォンアプリは、フェムテックの先駆けのような存在です。生理の始まりを予想できると、その時期を快適にすごすためのスケジュール調整ができるでしょう。また、生理周期の乱れを知ることは、病気の早期発見につながります。妊娠を意識し始めたら、基礎体温も記録できるアプリが良いでしょう。

避妊関連

■アフターピル

性行為の後72時間以内に服用すると、妊娠の成立を防ぐように働く薬です。ただし、効果は100%ではなく、また性行為の前に飲んだ場合は効果がありません。処方せんが必要な薬で、オンライン診療も行われています。

■子宮内避妊器具

子宮内に入れて妊娠を防ぐ器具です。現在は、子宮内膜の増殖を抑えるホルモンを放出する合成樹脂でできた医薬品扱いの製品(ミレーナ)もあり、月経過多や月経困難症の治療目的の場合は保険が適用されます(避妊目的では自由診療)。最長5年間、避妊効果が続きます。挿入前には検査を、挿入後は定期的に受診する必要があります。

妊娠前・妊活中

■排卵日予測検査薬・妊娠検査薬

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排卵日予測検査薬は、最も妊娠が成立しやすい排卵日を、尿の中のホルモンの濃度から予測することができます。子どもがほしいカップルや、計画的な子作りを考えている女性を中心に利用が広がっています。
妊娠したかどうかは妊娠検査薬で調べられます。妊娠が成立した後に分泌されるホルモンをチェックする仕組みで、尿をかけるだけで判定可能。陽性の反応が出たら産婦人科を受診しましょう。
どちらもドラッグストアなどで購入することができますが、使い方については薬剤師などによく相談しましょう。

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■不妊治療サポートアプリ

不妊の治療は計画的に進めていく必要があります。医師の診察を受けて不妊の原因をしっかり特定し、それにあった治療や対策が求められます。通院も欠かせませんし、お金の問題も気になるところ。
不妊治療サポートアプリは、不妊治療に欠かせないさまざまな大切なポイントを確認できたり、治療のアドバイスをしてくれたり、ときには不妊治療中の他のカップルと支え合ったりすることのできる機能が付いたものです。検索すると、複数のアプリがヒットするので、見比べて使ってみましょう。

妊娠中から産後

■助産師などによるサポートアプリ

妊娠から出産、産後のケアまで、助産師をはじめとする専門スタッフがオンラインでサポートしてくれるアプリがあります。妊娠、出産には医療機関の受診は欠かせませんが、受診すべきかどうか迷うような症状が現れたときや、仕事と育児の両立などの悩みが発生したとき、心強い支えになってくれるかもしれません。なお、近年では、更年期症状のケアや育児の相談、子どもの性教育など、「妊娠・出産」にとらわれない新しいスタイルのサポートを確立しているアプリもあります。

■ビタミン剤

妊娠前から妊娠初期には、赤ちゃんの脳や脊髄の発達のために、ビタミンB群の一種である葉酸が必要です。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」でもサプリメントなどを利用して積極的に取り入れることを推奨しています。一方、ビタミンAについては過剰摂取が先天異常につながる可能性があるとされているので注意が必要です。
なお、妊娠中は赤ちゃんの栄養が、また産後には母乳を作る栄養が必要なため、妊娠中から授乳中はビタミンを含む栄養素を多めに摂る必要があります。妊娠初期にはつわりのために食事量が減る方も多いですが、サプリメントやビタミン剤、ゼリー飲料などを上手く活用して必要な栄養を摂りましょう。

■電動搾乳機

母乳を集める搾乳機の歴史は古く、19世紀には手動のものがすでにあり、電動タイプも今から約30年前に登場しています。昔は搾乳中に手で押さえていなければなりませんでしたが、現在は搾乳中にも両手が塞がらず、他のことをできるタイプが増えています。

その他

■更年期障害

最近ではイソフラボンが腸内細菌によって変化した、エクオールという成分が注目されています。エクオールには女性ホルモンであるエストロゲンによく似た作用があり、更年期に多いホットフラッシュ(突然熱くなって汗が出る)や、肩・首のこりに有効とされています。さらに、骨粗鬆症や動脈硬化を抑える作用も期待できるとされています。

また、更年期障害の諸症状に対しては、古くから漢方薬が使われており、医療機関での処方薬だけでなく、市販薬にも更年期障害に有効な漢方薬があります。漢方薬には血のめぐり、水分代謝や乱れた自律神経の働きを整えてくれるものがあり、更年期特有の不定愁訴に効果があるとされています。

もっと毎日を快適にすごそう!

現代の女性が生涯で経験する生理の回数は、450~500回といわれ、昔の女性の数倍~10倍近くに増えているといわれます。また、かつての女性は家事中心の生活だったのに対して、今はそれらに加え男性と同じように働きつつ、生理や避妊または妊娠、更年期といった女性特有の健康課題と付き合っていかなければいけません。
みなさんも、介護や育児のために、家族を医療機関へ連れて行く機会はあっても、自分自身のために受診することは少なく、がまんを続けていたりしませんか?まずは、気になる症状があったらがまんせずに医療機関を受診するようにしましょう。その上で忙しい中でフェムテック/フェムケア製品やサービスを上手に活用し、自分を労わる気遣いをしていきましょう。

参考文献

1) 女性の健康相談ヘルスケアラボ 厚生労働省研究班
https://w-health.jp/introduction/lifestage/
2) 働く女性の健康応援サイト 一般財団法人 女性労働協会内 (厚生労働省委託事業)
https://joseishugyo.mhlw.go.jp/health/health-issues.htm
3) 厚生労働省「厚生労働白書(平成19年版)」
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/07/dl/0201.pdf
4) 日本女性心身医学会/一般のみなさまへ/女性の病気について/月経困難症(月経痛)
https://www.jspog.com/general/details_67.html