更年期障害
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更年期障害

更年期障害とは、「更年期」に生じやすい、ほてりやのぼせ、冷え、イライラなどの体調不良や情緒不安定といった症状をまとめた症候群を指します。更年期とは、50歳ごろに迎える閉経をはさんだ前後5年の約10年間のことです。ここでは、専門医の監修のもと、更年期障害の原因やメカニズム、対処法などをまとめました。ぜひ更年期障害の対策にお役立てください。

小山 嵩夫 先生

監修

小山 嵩夫 先生 (小山嵩夫クリニック 院長、NPO法人更年期と加齢のヘルスケアおよび一般社団法人日本サプリメント学会理事長)

更年期障害として考えられる原因

更年期障害の原因は、女性ホルモンの一つであるエストロゲンの急激な分泌低下による自律神経の乱れが考えられます。
しかしその他にも、更年期の年代で起こり得やすい子どもの自立や夫婦関係の変化などの環境要因や、もともと持っている本人の性格などの気質要因が関係し合い、人によっては更年期障害の症状が強く出る場合があります。

身体的要因

更年期障害の原因として、まず考えられるのが、女性ホルモンの一つであるエストロゲンの分泌の急激な減少です。
エストロゲンなど女性ホルモンは、脳にある視床下部や脳下垂体からの指令を受けて、卵巣から分泌されています。
女性ホルモンの分泌量は常に脳のなかでチェックされており調整を行っています。これを「フィードバック機構」と呼びます。

更年期を迎えると、卵巣の機能が低下するため、卵巣から脳へのフィードバックが非常に弱くなり、脳は混乱しさらに指令を出し続けます。
視床下部では、自律神経の調節も行っているため、自律神経が乱れてしまい、体にさまざまな不調が現れるのです。

環境要因

また、更年期障害の原因の一つとしては、環境要因も考えられます。更年期の年代では、子どもの進学や受験、親の介護など、日常生活の変化が起こる時期です。また、キャリアアップや転職などの職場に関する環境の変化も対象といえるでしょう。
環境の変化から受けるストレスに加え、身体的要因であるエストロゲンの分泌減少が重なることで、更年期障害の症状が強く出る場合があるとされています。

気質的要因

更年期障害の原因の一つには、気質的要因も考えられます。完璧主義の方や、依存心が強い、神経質タイプなどもともとの性格や気質によって、更年期障害の症状が強く出る傾向があります。

更年期障害の症状

更年期に現れる症状のなかで日常生活にそれ程影響を与えないものを「更年期症状」といい、そのなかでも症状が重く日常生活に支障をきたす状態を「更年期障害」といいます。
更年期障害で現れる症状は実にさまざまで、人によって現れる症状が異なり、次々と新たな症状が出てくるのも特徴です。
また、医療機関で検査しても異常が見つからないケースもあり、こうした症状を「不定愁訴(ふていしゅうそ)」といいます。
更年期障害の症状の一例として挙げられるのは、以下の通りです。

症状の一例
血管運動神経系症状
  • 顔のほてり、のぼせ(ホットフラッシュ)
  • 動悸・息切れがする
  • 汗をかきやすい、寝汗
  • 冷え など
精神・神経系症状
  • 寝つきが悪い、眠りが浅い
  • 怒りやすい
  • イライラ
  • 頭痛、めまい、吐き気
  • くよくよ、うつ症状 など
運動・神経系症状
  • 疲れやすい
  • 肩こり
  • 腰痛
  • 手足の痛み など
皮膚・分泌系の症状
  • 皮膚の乾燥、かゆみ
  • 肌のハリ感の低下
  • 膣炎
  • 目の乾燥(ドライアイ) など
消化器系の症状
  • 吐き気
  • 下痢
  • 便秘
  • 胃もたれ
  • 胸やけ など
泌尿器・生殖器系の症状
  • 性交痛
  • 膣炎
  • 尿道炎
  • 頻尿
  • 尿失禁 など

血管運動神経系症状

更年期障害の症状のなかでも、ホットフラッシュや、冷えなどの症状は「血管運動神経症状」に分類されます。症状としては以下の通りです。

<血管運動神経症状の一例>

  • 顔のほてり、のぼせ(ホットフラッシュ)
  • 動悸・息切れがする
  • 汗をかきやすい、寝汗
  • 冷え

など

ホットフラッシュとは、上半身が急に熱くなる感覚のことです。感じ方には個人差がありますが、顔や首がほてり、どっと汗が出たり、赤面したような赤みが生じたりといった症状が、無意識に起こります。
また、寝汗や発汗の症状が重い場合、不快感から睡眠の質に影響したり、うつ症状が出るケースもあります。

精神・神経系症状

更年期障害の症状には、寝つきの悪さに関するものや、イライラしやすいなどの「精神症状」に分類されるものがあります。症状としては以下の通りです。

<精神症状の一例>

  • 寝つきが悪い、眠りが浅い
  • 怒りやすい
  • イライラ
  • 頭痛、めまい、吐き気
  • くよくよ、うつ症状

など

不眠は、自律神経が不安定になることで睡眠を司る間脳が影響を受けて引き起こされると考えられます。
また、イライラや不安などは、適応障害などの疾患でも現れますが、更年期障害で精神症状が現れる場合もあると知っておくことで、対処方法も変わるでしょう。

運動・神経系症状

更年期障害の症状には、肩こりや腰痛などの「運動・神経系症状」に分類されるものがあります。症状としては以下の通りです。

<運動・神経系症状の一例>

  • 疲れやすい
  • 肩こり
  • 腰痛
  • 手足の痛み

など

肩こりや腰痛など、体や神経系の症状は、単独で現れることは少なく、ほてりや冷えといったほかの症状と一緒に現れることが多いようです。
デスクワークで長時間座り続けている方も似たような症状に悩まされることが多いため、更年期障害の症状と気がつかないうちに、症状を重くさせている可能性もあります。

皮膚・分泌系の症状

更年期障害の症状のなかには、肌や粘膜への影響を感じる場合もあります。症状としては以下の通りです。

<皮膚・分泌系の症状の一例>

  • 皮膚の乾燥、かゆみ
  • 肌のハリ感の低下
  • 膣炎
  • 目の乾燥(ドライアイ)

など

女性ホルモンの一つであるエストロゲンには、皮膚組織の弾力を保つ成分であるコラーゲンやエラスチンという繊維を増やす働きがあります。
エストロゲンの分泌量が下がると、皮膚や粘膜が乾燥し、かゆみが出たり、肌のハリ感の低下を感じたりします。また、ドライアイを訴える方もいます。

消化器系の症状

更年期障害の症状として、消化器などに症状が現れる場合もあります。症状としては以下の通りです。

<消化器系の症状の一例>

  • 吐き気
  • 下痢
  • 便秘
  • 胃もたれ
  • 胸やけ

など

エストロゲン分泌の急激な減少に伴い、自律神経のバランスが乱れると消化器系の機能が低下し、吐き気・下痢などの症状が現れる場合があります。

泌尿器・生殖器系の症状

更年期障害の症状として、泌尿器や生殖機器系の症状が現れる場合もあります。症状としては以下の通りです。

<泌尿器・生殖器系の症状の一例>

  • 性交痛
  • 膣炎
  • 尿道炎
  • 頻尿
  • 尿失禁

など

エストロゲンの分泌が低下すると、皮膚や粘膜が乾燥するようになり性交痛や膣炎などの問題を感じやすくなる方もいます。
また頻尿や尿失禁の原因の一つは、閉経によって、尿道を締める働きのある女性ホルモンの分泌が低下することだと考えられています。
その他にも閉経後には泌尿器が縮む(委縮する)ことに伴って、骨盤内の臓器を支える筋力が低下し、尿もれや過活動膀胱などにつながる場合もあります。
そのため、外出に不安を感じる方もいます。

更年期障害の症状チェックシート

更年期障害は、症状の種類にも重さにも個人差があります。症状が重く日常生活に支障をきたすときは「更年期障害」として対処の対象になります。
更年期特有の症状にお困りの場合は、以下の『QOLセルフチェックシート』を活用してみてください。『QOLセルフチェックシート』は、更年期症状の指標の一つであるSMIスコア(簡略更年期指数)を利用するものです。
合計点数が26~65点では、生活習慣の改善を含めて市販薬などを用いた対処が可能、66点以上では専門の医療機関への受診が検討されます。

QOLセルフチェックシート』

症状
あまり時間をかけずに、直感的につけてください。
症状の程度(点数)
なし
①顔がほてる 10 6 3 0
②汗をかきやすい 10 6 3 0
③腰や手足が冷えやすい 14 9 5 0
④息切れ、動悸がする 12 8 4 0
⑤寝つきが悪い、眠りが浅い 14 9 5 0
⑥怒りやすく、イライラする 12 8 4 0
⑦くよくよしたり、憂うつになる 7 5 3 0
⑧頭痛、めまい、吐き気がよくある 7 5 3 0
⑨疲れやすい 7 4 2 0
⑩肩こり、腰痛、手足の痛みがある 7 5 3 0

※複数症状がある項目については、どれか一つでも症状があてはまればチェックしてください。

監修:小山嵩夫先生(小山嵩夫クリニック 院長)
日医雑誌109 : 259 , 1993

更年期障害の対処法

更年期障害の対処をするにあたり大切なのは、エストロゲン分泌の急激な低下に基づくさまざまな不調の集合体であると知っておくことです。
更年期障害のさまざまな症状は、医療機関で検査をしても異常が見つからないケースもあり、症状に対する複数の薬を服用しても症状が改善せず、複数の病院に通ったり、通院が長引いたりするケースがあります。
女性の平均寿命が平均86歳といわれるなか、50歳を超えた女性は約40年をいかに元気に過ごすかがポイントとなるでしょう。
更年期障害の対処を検討するときには、一つの症状だけを見るよりも、環境要因や気質的要因などを含めた全体を見ることで、更年期や更年期以降を上手に過ごすヒントにつながります。

食生活を見直す

食生活を見直すことは、更年期や更年期以降の健康を維持するために必要な対処法です。
大豆製品に含まれるイソフラボンは、女性ホルモンと同様の作用があります。また、カロリーも低く、カルシウムも豊富なため、意識的に摂取したい食品といえるでしょう。
併せて、更年期以降の健康を保つためにも、肥満を予防することが重要です。食事は腹八分目にし、なるべく間食は控えるようにしましょう。その他、下記を参考に食生活を見直してみましょう。

<食生活のポイント>

  • さまざまな食材を組み合わせ、多種類の食材を摂るようにする
  • 1日の摂取カロリーは1500~1800kcal程度にする
  • 肉や油を控え、魚や野菜、豆を多く摂る
  • カルシウムを多く含む食事を摂る(1日600mg以上、牛乳やししゃも、小松菜、じゃこ、ごまなど)
  • 大豆製品を積極的に摂る
  • 体の酸化を防ぐ抗酸化物質を積極的に摂る(レモンやいちごなどに多いビタミンCや、緑黄色野菜やナッツ類に多いビタミンE、赤ワインやココアに含まれるポリフェノールなど)
  • 食物繊維を多く含む食事を摂る
  • 塩分を控える
  • 間食は1日100kcal程度にする

運動をする

食事とともに大切なのが、運動です。運動には、肥満や便秘を防ぐだけでなく、ストレスの解消や、骨を丈夫にするといった効果もあります。
運動量の基準としては、息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分行うのがよいとされており、具体的には、ウォーキングやボウリング、ゴルフ、器具を使わない自重トレーニングが挙げられます。
しかし、運動を全くしない人がいきなり運動習慣をつくることは難しいので、ストレッチ程度の軽い運動を、日常生活のなかで10分程度取り入れることからはじめると、習慣として取り入れやすいでしょう。
また、ウォーキングも負荷が少なく、いつでもできる運動なのでおすすめです。歩く際には胸を張って背中を伸ばし、自然に腕を振るようにします。さらに、足は腰から出すように意識し、歩幅を大きく、かかとから着地するようにします。
昼間の適度な運動や、就寝前の軽いストレッチ運動などにより、よい睡眠へつながります。

市販薬を服用する

更年期障害の症状を穏やかにする対処法としては、市販薬の服用も挙げられます。
市販薬を購入する場合は、一つの症状だけを見て、頭痛だから頭痛薬、下痢や便秘に整腸剤といったように症状に対する薬を選択するのではなく、更年期障害の可能性が考えられる場合は、他の体全体の症状も見て市販薬を選択するといいでしょう。
例えば、漢方薬があります。更年期障害の代表的な漢方としては、加味逍遥散 (かみしょうようさん)、当帰芍薬散 (とうきしゃくやくさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)が挙げられます。その他、血のめぐりをよくして体を温める「四物湯(しもつとう)」や、水分代謝や自律神経の働きを整える「(りょうけいじゅつかんとう)」を組み合わせた「連珠飲(れんじゅいん)」などもあります。
漢方薬を服用する際は、薬剤師や登録販売者に相談するのもよいでしょう。

更年期障害に関連するアリナミン製薬の製品

医療機関を受診する

症状がつらく、日常生活にも支障をきたすような場合は、自分一人で悩まずに、専門医に相談しましょう。更年期専門外来を設けている医療機関もあります。
減少したエストロゲンを補充する治療(ホルモン補充療法:HRT)は、医療機関の受診により受けられます。
また、うつ症状や不眠などの精神症状がつらいときは、医療機関で医師の診断後、向精神薬などが処方されることもあります。その他、更年期障害の症状緩和に、カウンセリングや心理療法も有効とされています。
症状がつらい場合は、かかりつけの婦人科の専門医に相談しましょう。

プチメモ症状が重い場合は、他の病気も疑ってみましょう

症状が重い場合は、他の病気も疑ってみましょう

ほてりやのぼせの症状は、高血圧や心臓疾患、甲状腺に機能異常をきたすバセドウ病でも現れます。
頭痛は脳の病気や高血圧、めまいはメニエール病など、更年期障害と同じ症状が出る疾患も多く存在します。
重い症状に悩まされたときは、早めに病院で検査してもらいましょう。