監修
友野 なお 先生 (睡眠コンサルタント、株式会社SEA Trinity 代表取締役)
「暑くて寝られない」という状態は、気温が高いことで体の熱がうまく放散されず、眠りが妨げられることが影響しています。
眠りには、深部体温(人体の深い部分の体温)の変化が関係しており、深部体温は1日の中で変化しますが、毎日午前4~5時ごろに最も低くなり、午後7~8時ごろに最も高くなるのが一般的です。そして、午後9時以降になると徐々に低下し、それとともに入眠が促されていきます。
しかし、周囲の気温が高いと体の熱がうまく放散されず、深部体温が低下しにくくなって、眠りが妨げられます。それゆえ、気温が高く暑い時期は寝られなくなるのです。
暑くてなかなか寝られないときに快眠のカギとなるのが体温調節。体から熱が放散されやすい状況をつくることが重要です。
体内時計と呼ばれる「概日リズム(サーカディアンリズム)」を整えるとともに、深部体温が調節されやすくなる環境をつくり、快適に眠るためのさまざまな工夫をしていきましょう。
暑いときに後頭部を氷枕などで冷やすと不快感が軽減し、眠りやすくなるという研究報告があります。
室温30度のときに後頭部を冷却することによって、後頭部の温度が26度まで下がったときに、リラックスしていることを示す脳波=アルファ波が確認される他、耳の内部の温度が下がって発汗量が減少するという報告も示されています。
神経が集中している首ではなく、後頭部を冷やすようにすると快眠につながりやすいでしょう。
寝室の温度は高すぎても低すぎても眠りの妨げになることがわかっています。
暑くて寝られないだけでなく、室温が低すぎて寒さを感じる場合も、体が体温を維持しようとして皮膚から熱が放散されにくくなり、睡眠に影響を与えるようです。
厚生労働省が提唱する「睡眠指針12箇条」によると、寝室で寝具やパジャマを使用した状況であれば、室温は概ね13~29度、湿度は40~60%程度の範囲に収まるよう推奨されています。ただし、28度を超えると眠りにくくなるという報告もあるため、まずは室温28度を超えないように設定してみると良いでしょう。
温度や湿度の感じ方には個人差があるため、必ずしもこの範囲に収まらないケースもあります。上記の数値を目安にしつつ、ご自身が快適と感じる環境に整えていきましょう。
快適な眠りのためには布団内部の温度も重要です。
快適な眠りが得やすくなると推奨されている布団内部の温度は、33度前後とされています。
室内の温度や湿度に合わせて、寝具の厚さや種類などを変えて、寝具内の温度を調節していきましょう。
快適な眠りのためには、最初にもお話ししたように深部体温を下げる必要があります。深部体温を下げる方法は大きく二つ。一つは皮膚の温度を上げること、もう一つは汗をかいて蒸発させることです。
体温調節は寝ている間も行われるため、睡眠中も発汗があり、水分が失われます。水分補給が適切に行われていないと睡眠が妨げられる他、脱水状態になるリスクが高まります。
それゆえ、寝る前にはコップ1杯程度の水を飲むことが推奨されています。寝る前の水分補給は、脱水だけでなく、脳梗塞の予防にもつながります。暑い夏には、就寝中に脱水が起こりやすく、また夜間には血圧が下がってしまうため、血流が滞って血管が詰まりやすくなります。そういった観点からも寝る前に水分補給を行うようにしましょう。
夕方以降の昼寝やカフェインの摂取は控えると良いでしょう。
昼寝(日中の短時間睡眠)は「シエスタ」や「パワーナップ」とも呼ばれ、集中力の向上などの効果があるとされていますが、夜間の睡眠への影響が大きくなり、思うように寝つけない原因となります。
一方カフェインは、眠気覚ましにも使われる、覚醒作用のある成分です。
カフェインの代謝には個人差がありますが、1日あたり400mgを超える大量摂取や夕方以降に100mg以上の摂取をすると、睡眠に悪影響を与えるといわれています。コーヒーや茶葉を使用したお茶(緑茶、ほうじ茶、紅茶、ウーロン茶など)、栄養ドリンク、エナジードリンクなどに含まれていることが多いです。
夕方以降は昼寝やカフェインの摂取は避け、水分を摂るときは、水を中心に、茶葉を使用していない麦茶、そば茶、黒豆茶、とうもろこし茶、カフェインレスのハーブティーなどを飲むようにすると良いでしょう。なお、栄養ドリンクはノンカフェインのものもあります。栄養ドリンクの用法・用量である1日1回服用を守って適切に摂取しましょう。
寝る前に入浴すると、体からの熱の放散が促され、眠りにつきやすくなる効果があるといわれています。
なかでもおすすめのタイミングは、就寝の1~2時間前。このタイミングで入浴すると、入浴しなかった場合に比べて眠りにつきやすくなることが報告されています。
なお、熱の放散を促すには、一度しっかりと体を温めることが大切です。暑い時期もできるだけシャワーで済ませず、ぬるめで良いので湯船につかることを心がけましょう。
快適な室温は、前述の通りですが、深夜でも外気温が25度を下回らない熱帯夜が続く夏は、エアコンを用いて寝室の室温を涼しく維持しましょう。上昇した室温をエアコンで快適な温度にするには、一般的に30分程度かかるといわれています。少なくとも寝る30~40分前には寝室のエアコンをつけ、室温が28度以下になるよう調整すると良いでしょう。
寝る予定時刻の約2時間前から照明の照度を落としたり、スマートフォンやタブレット、パソコンなどの使用を控えたりしておくと、スムーズに眠りにつきやすくなると考えられています。
就寝の約2時間前から、概日リズムに関連するホルモンであるメラトニンの分泌が始まるため、それ以降に照明やスマートフォンなどの強い光を浴びると、メラトニンの分泌が抑えられ、入眠の妨げになってしまうことが報告されています。
寝る前には強い光を浴びないように気をつけてみましょう。
睡眠対策には、体内時計を整えることも大切です。
起きてから朝日の強い光を浴びると体内時計がリセットされ、概日リズムが整います。日中に光を多く浴びることは、夜間のメラトニン分泌量を増加させ、眠りにつきやすくなる効果も期待できます。
目覚めたら部屋に朝日を取り入れ、日中はできるだけ日光を浴びるよう意識していきましょう。
基本的には主食・主菜・副菜を中心にさまざまな食品を取り入れ、バランス良く食べて健やかな体を保つことが良い睡眠をとることにつながりやすいといえます。
なお、2021年に行われた調査によると、日本人の平均睡眠時間はOECD(経済協力開発機構)に加盟している33カ国の中で最も短いなど、十分な睡眠時間が確保できているとはいいにくい状況です。できれば、病気のリスクが低下するといわれている7時間前後、毎日眠れれば良いのですが、さまざまな事情で難しいこともあるでしょう。
そんなときには疲労回復を促す栄養素や成分を摂取し、疲労が回復しやすくなるような工夫をすることも有効です。
ビタミンB群(B1、B2、B6)、ビタミンB1を体内により吸収されやすい形にしたフルスルチアミンなどは、疲れの回復に効果的で睡眠の質の向上も期待できると考えられます。
最近ではアミノ酸の一種であるグリシンが睡眠に関与するともいわれています。
エアコンは室内の温度調整がしやすく、暑くて眠れないという悩みの解決に適したツールです。
しかし、いくつか使用時に注意が必要なポイントもあります。以下の点に注意して、エアコンをより快適に使っていきましょう。
省エネなどの観点からエアコンの設定温度を「28度」にすることが推奨されていますが、この数値はあくまで目安で、必ず28度でなければいけないということではありません。
また、冷房の設定温度を28度にしても、室内が必ずしも28度になるとは限りません。設定温度が28度でも「暑い」と感じる場合は設定温度を下げたほうが良いこともあります。
温湿度計で室温をこまめにチェックし、適切な温度を保つようにしましょう。特に高齢者は暑さを感じにくくなっているため、皮膚感覚で判断せずに、温湿度計で確認することが大切です。
室温と併せて、部屋の湿度を下げることも重要です。日本の夏は気温だけでなく湿度も高いため、除湿をして体感温度を下げることも可能です。
エアコンの除湿機能を使ったり、除湿機を併用したりすると室温を下げすぎずに体感温度を下げる効果が期待できるでしょう。
エアコンの冷気に直接当たり続けると体が過度に冷えてしまうことがあります。
エアコンの風向きを上側にしたり、自動調整機能を使用すると、エアコンの冷気が体に直接当たるのを防ぐことができるため、おすすめです。
扇風機をエアコンと一緒に使って、空気の流れをつくるのも良いでしょう。
エアコンのフィルターにほこりや汚れがついているとエアコンの機能が低下する他、体調悪化につながることが考えられます。フィルターは2週間に一度程度、掃除しましょう。
良い睡眠をとるには、睡眠の量(睡眠時間)と質(睡眠休養感)の両方が満たされることが大切です。
夏場は暑さなどの影響で寝苦しく、睡眠の妨げになることがあります。今回ご紹介した対策をヒントに、快適な睡眠環境づくりができるのが理想です。
<暑くて寝られないのを防ぐ!夏の睡眠環境を最適に整えるためのポイント>
暑くて眠れないときには、後頭部を冷やすのも効果的です。
「たっぷり寝て、ゆっくり休んだ」と実感でき、日々の健康維持につながるような睡眠環境を整えていきましょう。