ショートスリーパーとは?睡眠時間や健康への影響、睡眠障害などとの違いを解説

ショートスリーパーとは?睡眠時間や健康への影響、睡眠障害などとの違いを解説

「ショートスリーパー」と聞くと、短時間睡眠でも支障なく日常生活を送ることができるイメージを持つかもしれません。もし、睡眠時間を削っても何も問題がないのであれば、自由に活動できる時間が増え、より充実した人生を送れるように感じますが、実際のところはどうなのでしょうか?

ここでは、医学的に考えられている"真の"ショートスリーパーとそうでない方との違いや、睡眠時間を削ることの健康や生活への影響、睡眠を削りたくないのに眠れなくなる「睡眠障害」などとの違いも解説します。
中村 真樹 先生

監修

中村 真樹 先生 (青山・表参道睡眠ストレスクリニック 院長)

ショートスリーパーとは?

「ショートスリーパー」とは、直訳すると「短時間睡眠者」になります。ただ医学的には、単に「睡眠時間が短い方=ショートスリーパー」というわけではありません。まずは、医学的な意味の“真の”ショートスリーパーについて解説します。

医学的な意味での“真の”ショートスリーパー

以下の項目に該当する場合に、“真の”「ショートスリーパー(短時間睡眠者)」と判断されます。

  • 目覚まし時計を使わずに毎朝自然に短い睡眠時間(6時間未満)で目が覚め、日中の精神機能※1への影響や眠気が現れない。
  • 休日も平日同様に短い睡眠時間で自然に目覚め、睡眠時間が短いことの理由が本人の努力や生活上の必要性によるものでない。
  • 何らかの病気(双極性障害※2など)や薬の副作用によるものでもない。

このような定義に当てはまる方は、非常に少ないと考えられおり、カリフォルニア大学の研究グループの報告によると、ショートスリーパーの発生頻度は10万人に約4人とされています。

“真の”ショートスリーパーは、子どものころから

  • 同世代の子より睡眠時間が短い
  • 目覚まし時計なしで早起きし、昼寝をしない子が多い
  • 短い睡眠時間で自然にすっきり目覚めることができる

といった特徴があります。近年では、このような方の体質に遺伝的な関連があることがわかってきました。

※1 意識、記憶、知覚、思考、感情、意欲、自我意識などの機能

※2 自分ではコントロールできないほど気分が高揚する(軽)躁状態や、ひどく気分が低下した抑うつ状態を繰り返す病気のこと。躁状態のときは睡眠欲求がなくなり、短時間睡眠になりやすくなる

ショートスリーパーは、努力してなれるものではない

上記のような“真の”ショートスリーパーの定義に当てはまらない(努力でなろうとしている)方のなかにも、平日夜間の睡眠時間が6時間未満の方は少なくありません。厚生労働省が行っている令和元年の「国民健康・栄養調査」の報告(以下、「国民健康・栄養調査」)によると、睡眠時間6時間未満の方が男性では37.5%、女性は40.6%も占め、さらに5時間未満という方も同順に8.5%、9.1%と、10人に1人近くに上ります。
ただし、その大半は、以下のような理由で睡眠時間が短い、つまり、睡眠不足の状態にある人だと考えられます。

  • 仕事や勉強などのために十分な睡眠時間が確保できない。
  • ショートスリーパーを目指して努力している。
  • 昼寝の影響で夜間のまとまった睡眠時間が短くなっている(分割睡眠)。
  • 心身の不調をきたしている。

実際、「国民健康・栄養調査」で睡眠時間が5時間未満と回答した方のなかで、「睡眠に不満を持っていない」と答えたのは18.7%に過ぎず、5~6時間の方でも31.4%でした。また、たとえ本人は睡眠に不満がないとしても、睡眠不足であることを自覚できていない方も少なくありません。

※令和2~3年の「国民健康・栄養調査」は新型コロナウイルス感染症パンデミックのため中止されました。

努力によって、ショートスリーパーになろうとすることの弊害

努力して短時間睡眠を継続することによって、日々のパフォーマンスが低下し、結果として労働時間が増えてしまうことがあります。

例えば、5時間睡眠を続けると、パフォーマンスが通常よりも40%ほど低下するため、8時間分の労働を行う場合、単純計算で13.3時間かかってしまうのです。

こういったことから、睡眠不足は日本の労働生産性の低下の原因の一つとされています。

睡眠時間とショートスリーパー

日本人の睡眠時間と労働生産性

日本人は世界的にみて睡眠時間が短いことが知られています。

国際比較データをみると、睡眠時間の長い米国人よりも、男性は約80分、女性は約100分も短いことがわかります。

睡眠時間の国際比較
内閣府男女共同参画局コラム1(図5)睡眠時間の国際比較をもとに作成

前項で述べた通り、「国民健康・栄養調査」の結果では、睡眠時間6時間未満の方が約4割を占め、5時間未満の方も1割近くに至ります。日本は世界有数の「短時間睡眠国」といえるでしょう。年齢層別にみた場合、とくに男性は30~50代、女性は40~50代で短時間睡眠の方が多い傾向があります。

繰り返しになりますが、睡眠不足はパフォーマンスの低下につながります。日本人の睡眠不足は、日本の労働生産性の低下の原因にもなりかねないのです。

ロングスリーパー(長時間睡眠者)について

短時間睡眠者をショートスリーパーと呼ぶ一方で、睡眠時間が長い方、一般的に9時間以上の方は「ロングスリーパー(長時間睡眠者)」と呼ばれます。

努力によるショートスリーパーは、寝不足による健康リスクが高いことを示すさまざまなデータがありますが、実はロングスリーパーも疾患の発症や死亡のリスクが高いことが知られています。この原因は明確ではないものの、既に何かしらの疾患があるために長い睡眠を必要としている、つまり因果の逆転の可能性も指摘されています。

また、大規模な睡眠関連の調査では、自己申告に基づき睡眠時間を把握することが多く、この自己申告の睡眠時間が長すぎる場合、不良な健康状態と関連していることも示唆されています。

なお、厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」では、睡眠時間が長くなりがちな高齢者に対して、「長い床上時間は健康リスクとなるため、床上時間が8時間以上にならないことを目安に、必要な睡眠時間を確保する」ことが掲げられ、推奨されています。

ショートスリーパーの著名人はいる?

「ショートスリーパーだったのでは?」といわれる著名人として、ナポレオンやエジソン、レオナルド・ダ・ヴィンチなどが挙げられます。ただし、ナポレオンやエジソンについては、短時間の仮眠を繰り返し取っていたことがわかっており、必要に迫られて(努力して)睡眠時間を削っていたのではないかともいわれています。

体内時計と睡眠の関係

最適な睡眠のリズムは人それぞれ

最適な睡眠のリズムは人それぞれ

ショートスリーパーやロングスリーパーの方がいるように、睡眠のリズムには個人差があり、どういった睡眠が最適かは人によって異なります。

1日は24時間ですが、人の身体の状態もそれにあわせて約24時間の周期で変化しており、それを「概日リズム(サーカディアンリズム)」、あるいはもっと簡単に「体内時計」と呼んだりしています。睡眠ももちろん、この概日リズムの影響を受けるため、人によって最適な睡眠のリズムが異なるのです。

例えば、朝が得意な方を「朝型」と呼び、その反対の方を「夜型」と呼ぶことがありますが、これには遺伝が半分程度関係しているとされています。日本人では、強い朝型5.9%、朝型22.0%、中間型41.0%、夜型22.7%、強い夜型8.4%にわけられているという報告もあります。ただし、遺伝的な背景の関連が半分ということは、残りの半分は生活環境で決まるともいえます。
なお、概日リズムが1日24時間から長い方向にずれている方は、夜型になりやすい傾向があるようです。

不規則な生活や夜更かしによって、眠りのリズムが乱れてしまうと、心身のリズムも乱れ不調をきたしてしまいますので、規則正しい睡眠が大切です。

ショートスリーパーに関するQ&A

ショートスリーパーになる方法はある?

ショートスリーパーは元々の体質なので、努力してもショートスリーパーにはなれません。“真の”ショートスリーパーは、睡眠時間が短くても目覚まし時計なしで自然に目覚め、日中に眠くならないのが特徴。目覚ましを使用して4~5時間で起きようと努力している段階で、既にショートスリーパーではないのです。無理に睡眠時間を削りショートスリーパーになろうとすることで、パフォーマンスの低下や心身への悪影響が指摘されています。

ショートスリーパーは身体に悪い?健康や寿命との関わりは?

ごくわずかな“真の”ショートスリーパーは、短時間睡眠でも十分に休息することができます。

一方で、睡眠時間を削ってショートスリーパーになろうとすることで、パフォーマンスの低下、心身への悪影響が指摘されています。睡眠時間と健康や死亡リスクに関する、いくつかのデータをご紹介します。

短時間睡眠と身体的健康リスクの関係

睡眠時間が極端に短いことによって、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心疾患、脳血管疾患などの発症リスクが高まることが明らかになってきています。

例えば、米国の女性医療専門家71,617名を対象とした10年のコホート研究では、睡眠時間5時間以下の方は、冠動脈疾患の相対危険度が1.82倍という報告がされています。
また、ドイツの6,896名を対象としたコホート研究では、心筋梗塞の発症リスクが睡眠時間8時間以上と比べて、5時間以下では2.98倍という研究結果も。

短時間睡眠と精神的健康や死亡のリスク

睡眠不足は、うつやADHD(注意欠如・多動性障害)、認知症のリスクを高めることも知られてきています。
公立中学校/高等学校の日本人生徒18,250人(12~18 歳) を対象とした横断研究では、睡眠時間を8時間±30分を基準としたとき、将来「うつ」を発症するリスクが、睡眠時間が5時間程度だと3倍以上になることが報告されました。
また、世界各国で行われた研究のメタ解析では、6時間未満の短時間睡眠の方は死亡リスクが有意に高いことが示されています。

※複数の研究結果を統合して解析する統計学的手法です。

また、今、日本で増加しているとされる「発達障害」や「うつ」が、幼少期からの睡眠不足に関係し、「認知症」が労働世代(20~60代)での睡眠不足によって誘発・悪化していることを示唆する論文も発表されています。

その他

その他にも、短時間睡眠で肌のツヤが失われたり、快活さがなくなり周囲の方にマイナスの印象を与えやすくなったり、主観的年齢が高くなる(実際の年齢よりも老けたように感じる)ともいわれています。

ショートスリーパー・睡眠不足の違いは?主な睡眠障害についても紹介

混同されやすいショートスリーパー、睡眠不足の違いは下記の通りです。

分類 ショートスリーパー 睡眠不足
医学的な“真の”ショートスリーパー 努力によってショートスリーパーになろうとしている人 睡眠欲求はあるのに睡眠時間を確保できていない人 睡眠障害のある人
原因や理由 遺伝的な背景が大きいと考えられている 仕事や勉強、遊びなどの目的達成のために、自分には短時間睡眠のほうが良いと考え、日常的な睡眠時間を意図的に減らしている 睡眠時間を十分確保できていない、または睡眠環境、生活習慣、嗜好品の影響 睡眠を妨げるさまざまな病気(次項「主な睡眠障害」参照)
症状や生活への影響 現れない 睡眠不足の状態に体が慣れてしまい、その影響を自覚できなくなることが多いが、寝不足による心身の疲弊は蓄積していく 活動している時間帯(主に日中)の眠気、精神的・身体的パフォーマンス・作業効率の低下、ミスや交通事故などのリスク上昇 「睡眠不足」の症状に加えて、睡眠障害の原因疾患の症状

主な睡眠障害

不眠症は、睡眠環境は適切なのになかなか寝つけない(入眠障害)、夜間に途中で何度も起きる(中途覚醒)、朝早く目が覚める(早朝覚醒)、眠りが浅くてぐっすり眠った感じがしない(熟眠障害)などの症状が現れる病気です。うつ病や不安症などの精神疾患を併発することもあります。

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸停止が繰り返される病気で、肥満の方に多く、その場合はいびきで気付かれることがよくあります。肥満でない方でも、あごが小さい場合や甲状腺機能低下症、更年期が原因になることもあります。なお、睡眠時無呼吸症候群は、高血圧や脳卒中、心筋梗塞、心不全などの循環器疾患や、糖尿病などのリスクとも関係のあることが知られています。

むずむず脚症候群は、じっとしていると、脚がむずむずするため、絶えず脚を動かさずにはいられない病気です。困ったことにこの症状は夜間に強まりやすいため、睡眠が妨げられてしまいます。

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睡眠障害をきたすその他の病気として、概日リズムが徐々にずれていってしまう「概日リズム睡眠覚醒障害」や、夜間に十分に睡眠が確保されているにも関わらず日中に強い眠気が現れる「ナルコレプシー」などが挙げられます。

日中の眠気や疲労感を覚えたら…

ショートスリーパーだと思っていたけれど、日中に眠気を感じたり、疲労感を覚える場合には、“真の”ショートスリーパーではなく寝不足状態であり、交通事故や仕事のミスを起こしやすい状態になっている可能性が高いといえます。心身の不調を招いてしまう前に、睡眠時間を十分確保し、睡眠の質を高めるようにしてください。

深い睡眠を得るには日中に適度な運動を心がけるとともに、栄養バランスが取れた食事に気をつける必要があります。睡眠に必要なセロトニンやメラトニンの合成や代謝に関わるビタミンB6、マグネシウム、ナイアシン(ニコチン酸アミドとニコチン酸の総称)なども意識して摂取できると良いでしょう。

睡眠に必要なセロトニンやメラトニンの合成や代謝に関わるビタミンB6、マグネシウム、ナイアシン

日々の食事からこれらの栄養素を摂取していくと同時に、栄養補助食品や栄養ドリンクなどを用いて不足分を補っていくことも選択肢となります。日中の眠気や疲労感は体が回復を求めているサインです。十分な睡眠の確保とバランスの取れた栄養補給で、疲労に対し、適切な対策を行うことが重要です。

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ただし、このような対処を行っても睡眠不足が続く場合や、睡眠障害に該当するような気になる症状がある場合は、医療機関を受診するようにしてください。

参考文献

厚生労働省 健康づくりのための睡眠ガイド2023
https://www.dietitian.or.jp/trends/upload/data/342_Guide.pdf