監修
井上 雄一 先生 (睡眠総合ケアクリニック代々木(医療法人社団絹和会) 理事長、アジア睡眠医学会 理事長)
むずむず脚症候群は、その名の通り、むずむずという異常感覚が脚に現れる病気です。特徴的な自覚症状は、以下の4つ。
<むずむず脚症候群の特徴的な自覚症状>
症状が現れると、絶えず脚を休まず動かさずにはいられなくなるため「レストレスレッグス(restless legs)症候群」とも呼ばれます。ただし、脚ではなく、腕や体に症状が現れる患者さんもいます。
この病気は、17世紀には既に知られていました。ただ、1940年代に病気として概念がまとめられるまでは、「霊が患者の脚に入り込むようなもの」といった解釈もされていたようです。
患者さんが訴える「異常感覚」とは
などさまざまです。患者さんによっては脚の中が泡立つ、だるい、重いといった表現をすることもあります。
このような症状のため、しばしば睡眠障害が併発し、精神的にもつらい状態に置かれてしまっている患者さんも少なくありません。
なお、日中でも、映画館や電車の中など、動きたくても動きにくいという状況で、症状が現れることがあります。
むずむず脚症候群の詳しい原因はまだわかっていません。
現在のところ、脳内神経伝達物質ドパミンの作動経路の障害や、鉄の代謝異常などの関与が考えられています。
この病気は中年期以降に多いものの子どもにも現れることがあり、子どもの場合は特に、鉄欠乏の影響が大きいといわれています。
その他、以下のような関連が知られています。
むずむず脚症候群の患者さんは、男性よりも女性が1.5~2倍多いとされています。どの年代でも起こり得るのですが、高齢者では若年者に比べて短期間で悪化する傾向があります。
若年の症例では、家族内での発症が多いことから、遺伝的なことも関係していると考えられます。
喫煙やカフェイン、アルコールの摂取が、この病気のリスクを押し上げていることが知られています。特に妊婦さんでは、喫煙やアルコール摂取、鉄分不足との関連が強いことが報告されています。
妊婦さんのむずむず脚症候群患者は一般人口の2~3倍多く、慢性腎不全の患者さんには2~5倍多いとされています。
また、パーキンソン病患者さんの10~15%はむずむず脚症候群を併発していて、軽症段階またはパーキンソン病を発症する前に発症することが多いようです。
なお、妊娠中に発症した場合、多くは出産とともに治まりますが、後年において再発することがあります。
鉄分が不足している人、および、鉄分不足を起こしやすい胃切除後の患者さんに、この病気が多い傾向があります。
また、因果関係は解明されていませんが、ドパミン合成にかかわるビタミンB6や葉酸などのビタミンB群の不足も、影響する可能性が指摘されています。
最近の研究では、むずむず脚症候群を訴える妊婦さんにおいてビタミンD欠乏状態が関連しているとの報告がされています。
むずむず脚症候群は、発症や症状の強さに何らかの別の病気や状態の関連がある二次性の場合と、そのような病気や状態がない一次性(特発性)の場合があります。
後者の特発性のむずむず脚症候群は、子どもや比較的若い時期に発症した患者さんに多いことが知られています。前者(二次性)については、既に解説したように、妊娠や腎不全、鉄欠乏などと関連して発症することが少なくありません。
むずむず脚症候群の症状には、喫煙やカフェイン、アルコールの摂取などが関係していますが、病気のおおもとは、脳内神経伝達物質であるドパミンの作動経路の障害などが考えられ、その治療には医師の診断のもと医薬品の適切な使用が重要です。そのため、気になる症状があれば、まず医療機関を受診してください。
診察の結果、むずむず脚症候群が疑われる場合は、鉄欠乏の有無や腎機能を調べる検査が行われます。一旦、治療薬の服用を開始し、症状の改善があるかどうかをみて改めて診断するという方法がとられることもあります。
むずむず脚症候群の原因のおおもとと考えられている、脳内神経伝達物質ドパミンの作動経路の障害に対しては、ドパミンの作用を助ける薬が処方されます。また、てんかんの治療薬や、神経障害による痛みに対する治療薬なども、よく処方されます。
鉄欠乏が確認された場合は、その治療のために鉄剤が処方されます。鉄剤は服用後すぐに効果があらわれるのではなく、鉄が補充されていくことにともなって、症状がゆっくり改善してきます。この他、ビタミンDが不足している人にはビタミンD製剤が処方されたりもします。
治療は病院での治療薬が中心となるものの、症状との関連がある生活習慣の改善も大切です。
例えば、喫煙やカフェイン、アルコールの摂取などは、なるべく控えたほうが良いでしょう。また、鉄分やビタミンB群、ビタミンDなどが日ごろの食生活で不足している場合は、それらを多く摂るようにしましょう。食生活で栄養が十分に摂れないといった場合は、市販のビタミン剤やサプリメントを活用するのも一手です。
睡眠環境の改善も大切なポイントです。コーヒーや紅茶、緑茶、チョコレートなどに含まれるカフェインには覚醒作用があり、寝つきを悪くしたり、眠りを浅くする恐れがあります。また、飲酒によるアルコールの摂取は、一時的に寝つきを促進するものの、夜間後半の眠りが浅くなってしまうため、注意が必要です。
もし、むずむず脚の症状に悩む時間帯が決まっているのであれば、可能な範囲で就寝時刻を変更し、その時間帯には症状にとらわれないように趣味などに没頭してみると良いかもしれません。
入浴やマッサージによって、むずむず感が抑えられることもあるので、試してみましょう。脚の熱感が強い場合は、冷たいシャワーで冷やしたり、足元にアイス枕を置いたり、冷却剤を貼ったりすると症状が和らぐことがあります。
脚のむずむずした不快な症状やちくちくした痛みなどが続き、むずむず脚症候群かな?と感じたときには、睡眠専門外来や内科(神経内科)、精神科の受診を検討すると良いでしょう。
むずむず脚症候群は睡眠関連運動障害の一つで、睡眠と深くかかわりがあるため、主に睡眠障害を専門としている病院や精神科で治療されることが多い病気です。その他、ドパミン神経の機能低下や、鉄欠乏が原因とされている背景から、神経内科や内科でも診断・治療が行われています。
治療薬も保険適応のものもあるため、まずは、上記の専門医の受診をおすすめします。
むずむず脚症候群の患者さんは、そのつらい症状のために、うつ傾向になったり、子どもの場合は注意欠陥多動障害(ADHD)と間違われたり、発達に影響が生じることもあります。また、症状や不眠にともない交感神経が優位な状態が続くことが関係して、血圧が高くなったり、心臓病や脳卒中のリスクが高まる可能性も指摘されています。そのような影響を生じさせないためにも、おかしいなと思ったら早めに受診をして、つらい症状をコントロールしましょう。
・臨床精神医学47(3),2018「むずむず足症候群に対するドパミンアゴニスト」
・井上 雄一【著】「脚がむずむずしたら読む本」メディカルトリビューン社
・日本神経治療学会「標準的神経治療:レストレスレッグス症候群」2012
・「良い睡眠」はメリット満載!睡眠の質を上げるポイントとは?
https://alinamin-kenko.jp/tokushu/suimin_sitsu/merit.html
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