妊娠後期はいつから?症状やおすすめの過ごし方、臨月について知っておこう

妊娠後期に入ると、お腹が大きく目立つようになり、ひと目で妊婦さんとわかるようになります。自分の子どもにもう少しで出会えるという期待が膨らむのと同時に、分娩や出産後のことなどの不安が募ってくる時期かもしれません。大切なこの時期の過ごし方を解説します。

監修:窪 麻由美 先生(フィーカレディースクリニック 副院長)

妊娠後期とはいつから?

妊娠第28週0日以降を医学的に「第3三半期」と呼びます。この第3三半期が一般的に「妊娠後期」の目安とされています。
妊娠後期は、赤ちゃんにとっては発育の仕上げの時期にあたります。一方でママの体も分娩の準備が進みます。妊娠後期の後半にあたる37~41週が「正産期」。つまり、37週以降なら、いつ赤ちゃんが生まれてもおかしくありません。

妊娠後期の赤ちゃんの状態は?

妊娠後期になると、赤ちゃんはママのお腹の中から外へ出ても生活できるようになるための、発育の最終段階に入ります。胎動も活発になり、赤ちゃんがお腹の中で動くのを、ママもはっきり感じることができるようになるでしょう。
この時期の妊婦健診では、超音波検査によって、赤ちゃんの発育状況や異常の有無などを詳しく確認していきます。
そして妊娠第10カ月(36~39週)に入るころには、赤ちゃんはすべての器官形成が完了しています。このころになると赤ちゃんは一段と大きくなって、子宮内で動けるスペースが減るために、胎動は減ってきます。

■妊娠後期の赤ちゃんの大きさの目安

妊娠第8カ月(28~31週)。胎児は身長約40cm、体重約1,500g(31週のおわり頃)。
妊娠第9カ月(32~35週)。胎児は身長約45cm、体重約2,000g(35週のおわり頃)。
妊娠第10カ月(36~39週)。胎児は身長約50cm、体重約3,000g(39週のおわり頃)。

ママの体も分娩の準備に入る

一方、ママの体も妊娠後期に入ると分娩に向けた変化が起きてきます。たとえば、「頸管の熟化」といって、子宮頸管(しきゅうけいかん)が柔らかく、そして短くなるという変化が生じます。そして「児頭の下降」、つまり赤ちゃんの頭が下のほうへ降り、骨盤内へと移動してきます。
妊娠後期は身体的には安定している時期といえます。ただし、体重増加が著しくなって、大きくなったお腹のために姿勢が崩れたりしやすくなります。そのため、筋力が低下していると、腰痛などの不快な症状が現れやすい傾向があります。妊婦体操(※)などで体力低下を防ぎましょう。
また、そろそろ分娩を見据え、仕事をしている場合は産休の申請を考えましょう。里帰り出産の場合は、早めに計画しておいてください。

※妊婦体操とは、妊娠に必要な体力や柔軟性をつけ、妊娠中の腰痛を予防したりお産を楽にすることを目的としたもの。

妊娠後期に起きるママの体調の変化は?

妊娠第8カ月(28~31週)

妊娠後期には赤ちゃんが急に大きくなるため、ママの血液の量も増加します。しかし血液の成分(赤血球など)は急には増えないため、妊娠28週ごろから水血症(血液が薄まった状態のこと)になる可能性が高くなります。その結果、貧血症状や浮腫み(むくみ)が現れやすくなります。
30週ごろには羊水の量が800mlのピークに向かい、心拍数も高くなります。なお、動悸や息切れが起こりやすくなったり、眠りが浅くなることもあります。

妊娠経験のある女性を対象に行った調査では、妊娠後期の悩みとして、「眠りが浅い」が3位に挙げられています(※)。お腹が大きくなってくると、仰向けでは寝にくくなりますし、赤ちゃんの覚醒リズムに合わせて夜間に目覚めてしまうこともあります。横向きになって抱き枕を抱いたり、クッションを両足の間に挟んだりと工夫してみましょう。また、日中に適宜、昼寝をとるのもおすすめです。

同アンケートでは、妊娠後期の悩みのトップに「不安」が挙げられました。妊娠は女性にとって極めて大きいライフイベント。妊娠中に生活習慣や価値観が変化したり、出産後の育児や生活の心配などによって、漠然とした不安を抱きやすいものです。このようなときは、心置きなく話せる身近な人や助産師さん、自治体が用意している妊婦相談窓口などへ相談しましょう。最近ではLINEや電話で産婦人科医や助産師さんに相談できる産婦人科オンラインなどもあるので、上手に活用してみてください。

2番目に多かった悩みは「お腹の張り」。妊娠後期には多くの妊婦さんがお腹の張りを感じますが、そのほとんどは心配ないものです。体を動かしすぎない、冷やさない、横になるなどの対策で、いくらか楽になるでしょう。ただし、お腹の張りが生じる間隔が短くなってきたり、持続時間が長くなったり、痛みや出血などの他の症状もともなうようなら、受診するか病院に連絡をとりましょう。

※「妊娠中の症状と対策に関するアンケート」調査概要より

妊娠第9カ月(32~35週)

子宮はより大きくなり、お腹も大きくなるため、運動不足になりがちです。そしてこの時期は、女性ホルモンの一つ、プロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌量が最も増え、そのホルモンの影響と運動不足が重なり、便秘になりがちです。
お腹の張りを感じやすくなったり、子宮に圧迫されて胃が苦しくなったり、おりものが増えたりするのもこの時期に多い症状。分娩まであと約1カ月。医師や助産師のアドバイスを生かしながら乗り切りましょう。
妊娠第9カ月には、子宮と膣をつなぐ子宮頸管が少しずつ柔らかく短くなっていき、分娩への備えが始まります。そろそろ分娩をイメージして体位を検討したり、呼吸法を習い始めましょう。

妊娠第10カ月(36~39週)、臨月

「臨月」といわれる妊娠10カ月。36週以降はそれまで妊婦健診が2週に1回程度から週1回と、より頻繁になり、内診も行われます。
このころには、血液の量が最大になって水血症の傾向が強まり、それにともなう貧血症状や心拍数の高い状態が持続します。また、前月に引き続き、下腹部の張りや、子宮収縮にともなうおりものが多くなりがちです。分娩が近くなったサインとして、おりものの中に少量の血液が混ざる、いわゆる「おしるし」がみられることもあります。
一方、赤ちゃんの頭の位置が下がることによって胃の圧迫が減るため、それまでよりも食事を多く食べられるようになる人もいます。他方、下腹部の圧迫によって頻尿になったり恥骨が痛むこともあるようです。
血圧のコントロールや浮腫み(むくみ)の管理のために、食事の塩分を控えるようにしましょう。

妊娠後期に気を付けたいことは?

体調管理

妊娠後期に入ると、胸やけや胃もたれといったつわりに似た症状、俗にいう「後期つわり」を感じる人もいます。また、赤ちゃんが急に大きくなり、体重も増加してきます。運動不足になりがちなので、体力や筋力が低下しないよう、適度な運動を心がけましょう。
ただし、激しい運動は避けてください。切迫早産のリスクを高めかねません。また、お腹の張りを引き起こすことがある体の冷えに気を付け、ストレスを溜めないようにしましょう。
運動以外にも、食事については栄養バランスに配慮して、体調管理に努めましょう。
また、妊娠後期にはおりものが増えたり、色やにおいが変わったりすることがあります。心配のない場合もありますが、いつもより明らかに色やにおいが違う場合や、かゆみがある場合は、カンジダ腟炎などの感染症かもしれません。主治医に相談すれば速やかに薬を処方してもらえますので、気になる人は早めに受診しましょう。

貧血や便秘の対策

ここまでにも何度かお話ししたように、妊娠後期は血液量が増えて血液成分が薄まるために、貧血傾向になります。貧血の程度の指標であるヘモグロビン値が適正でない場合、低出生体重児出産や早産リスクが高まるので気を付けましょう。
貧血対策として、鉄分の多い食材はおすすめです。また、造血作用のあるビタミンB6・B12や葉酸を多く含む食材も積極的に摂り入れましょう。さらに、ビタミンCには鉄の吸収を助けてくれる働きがあります。
それでも足りない場合は、鉄剤が処方されます。しかし鉄剤の副作用で便秘になりやすくなることがあります。もともと妊娠後期には、黄体ホルモンの増加や、子宮が大きくなること、および運動不足などの影響によって、便秘になりやすいものです。適度な運動をし、食物繊維を摂って、便秘対策をしておきましょう。

妊娠後期に必要な微量栄養素

妊娠後期には、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素の必要性が高いことをお話ししてきました。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、ビタミンなどの摂取推奨量を示しています。

例えば、ヒトの視覚・聴覚・生殖等の機能維持、成長促進、皮膚や粘膜の保持などに関与するビタミンA。しかしビタミンAを妊娠初期に過剰に摂取することで赤ちゃんにとってリスクになることも考えられるため、その摂取推奨量は、妊娠初期~中期は付加量(※)ゼロです。しかし、後期になると摂る量を少し増やすことを推奨しています。また、ビタミンB群も、妊娠中には多めに摂るように付加量が示されています。気になる方はチェックしてみましょう。
その他、葉酸やビタミンCも妊娠中には多く摂取する必要があります。共に体内に溜めておくことができない水溶性ビタミンなので、毎日の摂取を心がけましょう。

しかし、妊娠後期には大きくなった赤ちゃんに胃が圧迫されて、食事を十分とれないことがあるでしょう。そのような場合は、サプリメントやビタミン剤の利用について、医師に相談するのも良いでしょう。

※付加量:妊娠中に適切な栄養状態を維持し正常な分娩をするために、妊娠前と比べて余分に摂取すべきと考えられる量のこと。

妊娠高血圧症候群と妊娠糖尿病

妊娠中に高血圧になった場合や、妊娠前から高血圧だった場合(高血圧合併妊娠)を「妊娠高血圧症候群」といいます。妊娠中期までの経過が順調でも、妊娠後期に妊娠高血圧症候群になることもあります。自覚症状はほとんどありませんが、赤ちゃんの発育が悪くなったり、分娩時に子宮の壁から剥がれて外に排出されるべき胎盤が、妊娠中や分娩前に剥がれてしまう「常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)」、また早産のリスクが高まるとされています。
妊娠高血圧症候群の治療には、減塩や降圧薬などによる対症的な治療が行われますが、安静にすることがとても重要です。ママや赤ちゃんの状態によっては、人工的な早産(陣痛を誘発したり帝王切開)が検討されます。

一方、妊娠中の血糖値が、糖尿病の診断基準には至らないものの基準値より高い状態になった場合を「妊娠糖尿病」といいます。妊娠中の血糖管理が不十分だと、巨大児出産や難産などのリスクが高まるため、食事や運動に気を付け、必要ならインスリン治療によって、血糖値をしっかりコントロールしましょう。なお、妊娠前から糖尿病であった場合や糖尿病の診断基準を満たす高血糖の場合は「糖尿病合併妊娠」といい、厳格な血糖コントロールを維持したうえで計画的な妊娠を目指します。

早産・切迫早産

冒頭でお話ししたように、妊娠後期の後半にあたる37~41週が「正産期」。この正産期より前、妊娠22週以降37週未満に分娩に至った場合が「早産」です。とくに32週未満の早産児は合併症のリスクが高かったり、34週以降の早産児では、生存率は正期産児とほぼ同等で合併症の頻度がやや高いといった報告もあります。
妊娠後期の早い段階の妊婦健診で、「頸管の短縮」あるいは「内子宮口の開大傾向」などがみられた場合、早産のリスクが高い「切迫早産」と診断されます。つまり、切迫早産とは、早産になる可能性がある状態のことです。子宮収縮や出血が繰り返し起きたり、おりものの増加がみられたりします。
切迫早産から早産になるのを防ぐ一番の対策は、安静にして子宮の収縮を抑えることです。切迫早産の程度次第で、入院も必要とされます。

乳房のケア

妊娠後期になったら、出産後の育児についても、より具体的に考え始めましょう。
たとえば、乳首が埋もれている場合(陥没乳首または扁平乳頭)、生まれた赤ちゃんが母乳を吸うことができません。そのような場合には妊娠中に乳頭マッサージを行って、乳頭を突出させるようにします。
ただし、乳頭マッサージによる刺激で子宮収縮が起きることがあるため、切迫早産といわれている妊婦さんは行わないようにしましょう。

前駆陣痛と陣痛の見分け方

出産が近づくと、分娩1週間前から前日ごろにかけて、子宮収縮にともなう軽い陣痛のような痛みを生じる「前駆陣痛」が現れることがあります。この前駆陣痛は、分娩につながる陣痛とは違って、痛みを生じる間隔や持続時間が不規則です。多くの場合、分娩に至らずに治まります。
それに対して分娩に至る陣痛は、前駆陣痛と異なり規則的に痛みが生じます。初めは30分おきぐらいで、徐々に間隔が短くなっていき、痛みも強まります。
陣痛の間隔が10~15分おきになったら、夜中であっても病院に連絡をとってください。

破水したらどうする?

陣痛が訪れる前に破水した場合を「前期破水」といいます。陣痛にともなう破水はもちろんですが、前期破水であってもすぐに病院に連絡をとってください。状態によっては直ちに入院となります。なお、医師の診察を受ける前の入浴は控えましょう。お湯が子宮内に入り、赤ちゃんに感染症を引き起こしてしまう可能性があるからです。
少量の破水では、尿漏れやおりものと区別がつきにくいこともあります。不安であれば、迷わず病院へ連絡しましょう。

妊娠後期にやることリスト

入院に備える

お勤めをしている人は妊娠後期に入ったら、産休を申請する時期や入院の時期を考えましょう。家のこととしては、臨月に入るころには入院期間中に備えて、家事をパートナーなどに託しておきましょう。
また、もしも急に受診することになった場合に備えて、病院までの移動手段を確保しておくことも大切です。確実に運転を頼める人を決めておいたり、かかりつけの病院や出産予定日などを事前に登録しておけば、いざという時に素早くタクシーで病院へ向かうことができる「陣痛タクシー」(マタニティータクシーと呼ばれる場合もある)に申し込みをしておくのも良いでしょう。

分娩に関する希望を医師に確認する

立ち合い分娩、無痛分娩、早期母子接触(カンガルーケア※)、母子同室などの希望があれば、早めに医師に相談してください。施設によって、対応できる場合とできない場合があります。

※出生直後の赤ちゃんとママの皮膚接触のこと。赤ちゃんの体温が保持され、呼吸や循環が安定しやすくなると考えられている。

出産後のプランも考えておく

もし、まだ決めていないのなら、生まれてくる赤ちゃんの名前を考えておきましょう。出生届は誕生日を含めた14日以内の手続きが義務づけられています。出産後はなにかと慌ただしくなるものです。出生届以外にも、児童手当の申請などの必要な手続きの方法を、あらかじめ確認しておいたほうが良いでしょう。

家の中で赤ちゃんが過ごす場所を決めたり、抱っこ紐やベビーカー、チャイルドシートなど移動に使うものを買っておいたり、保育園の下調べなども、出産前の時間のある時にしておいたほうが安心です。また、夫婦で協力して育児を行うために、育児教室には早いうちから、パパと一緒に参加することをおすすめします。

新しい家族と幸せな生活を育もう

1年近くにわたる妊娠期間の最終段階にあたる妊娠後期。もうすぐ、そのゴールを迎えます。そしてそれは、家族が1人増えた新たな生活のスタート。大きな喜びと少しの不安を、パートナーや身近な人と分かち合いながら、たくさんの幸せを育んでいってください。

参考文献

1) 医学書院「標準産婦人科学 第4版」
2) メディックメディア「病気がみえる 産科 第4版」
3) 学研プラス「最新版 らくらくあんしん妊娠・出産」
4) MCメディカ出版「正常の確認と異常への対応を極める!妊婦健診と保健指導パーフェクトブック」
5) 内外出版社「新装版 プレ妊娠編から産後編まで!産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK」

※「妊娠中の症状と対策に関するアンケート」調査概要
・調査対象:マイナビウーマン会員 妊娠後期(8ヶ月以上)~出産経験のある女性100名
・調査期間:2021年6月2日(水)~2021年6月14日(月)
・調査方法:『マイナビウーマン』会員アンケート(WEB)
・調査機関:株式会社マイナビ