監修
内藤 裕二 先生 (一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会理事長/日本酸化ストレス学会理事長/京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座教授)
監修
大月 直美 先生 (株式会社THF取締役 健康運動指導士)
食事によって腸内の善玉菌を増やし、腸内環境を整えることは便秘の予防や対策において重要なポイントとなります。そのためにまずは、腸内の善玉菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖を意識的に摂取していきましょう。
食物繊維には不溶性と水溶性の2種類があり、それぞれ異なる働きをするので、両方をバランスよく摂ることが大切です。一方オリゴ糖は、一度に大量に摂取すると下痢を起こしたり、おなかが張ったりすることがあります。1日の摂取量は2~10gを目安にしてください。
働き:便のかさを増やす、腸壁を刺激してぜん動運動を促す
多く含む食べ物:ごぼう、大豆、いも類、りんご、きのこ、バナナなど
働き:便のスムーズな排出を促す
多く含む食べ物:こんにゃく、みかん、豆乳、押麦、ライ麦パンなど
多く含む食べ物:大豆・たまねぎ・ごぼう・ねぎ・にんにく・アスパラガス・バナナなど
腸内環境を整えて便秘を解消するには、腸内にもともと存在する善玉菌を増やす方法のほかに、善玉菌そのものを食べ物から摂る方法があります。
代表的な善玉菌はビフィズス菌、乳酸菌、酪酸菌。ヨーグルト、キムチ、納豆、みそ、しょう油、チーズ、ぬか漬けなどの発酵食品や調味料に多く含まれています。ただ、酪酸菌や乳酸菌は一定期間だけしか腸内に存在できないため、できるだけ毎日継続して摂取し、補充していくことが大切です。
大変な時は、サプリメントや整腸薬を活用するのも手です。
脂質を適度に摂ることで、脂質に含まれている脂肪酸が大腸を刺激し、排便が促されます。
ただし、自律神経の乱れなどにより腸のぜん動運動が不規則になり、便秘と下痢を繰り返す過敏性腸症候群の症状がある人は、腸への刺激を避けるため、脂質の摂取は控えたほうがよいでしょう。
こまめに水分を補給することも、便秘解消の大切なポイントです。体が脱水状態になると、大腸にとどまった便からも水分が吸収され、便が硬くなってしまいます。そうして硬くなった便を排出するのは困難で、便秘を引き起こしがちです。無理に排出しようとすることで肛門が傷つくリスクもあります。そうしたリスクを防ぐためにもぜひ、こまめな水分補給を行っていきましょう。
便秘解消におすすめの食べ物についてはこちらもチェック 便秘解消におすすめの食べ物とは?腸活食材を使用したレシピや飲み物もご紹介
ウォーキングは特別な道具も必要なく、手軽に始めることができる、おすすめの運動です。
しかし「ただ歩くだけ」では、十分な効果は得られません。大切なのは、フォームを意識して歩くこと。
意識するポイントは視線、腕振り、足を前方へ振り出すことの3つです。視線は自然に前方に向け、頭のてっぺんから糸でつり上げられているようにイメージして背筋を伸ばします。そして肘を曲げて大きく腕を振りましょう。
後ろ側の足で地面を蹴って、腸腰筋(ちょうようきん;腿と骨盤をつなぐ筋肉)を意識して足を前方に振り出しながら歩くと、運動の効果を得やすくなります。
筋力の不足によって便秘になることもあります。そのため、トレーニングで筋力を鍛えることも便秘解消につながる大切な手段といえます。
便秘解消のために特に注目したいのは、腹筋と腸腰筋という2つの筋肉です。
腹筋は肛門に圧力をかけて便を押し出すために重要な働きをするほか、腹筋を鍛えることで腹部の血行が促され、胃腸の動きが活発になることも。
以下に紹介するような簡単な腹筋運動を、毎日少しずつでよいので続けていきましょう。
腹筋とともに便の排出に関わるのが、腿と骨盤をつなぐ腸腰筋という筋肉です。この筋肉を鍛えることで腸が刺激されやすくなり、便秘解消の効果が期待できます。
腸腰筋を鍛えるには「もも上げ」のように、太ももを上半身に近づけるように持ち上げる動作がおすすめです。たとえば仰向けに寝た状態で、上体と足を軽く持ち上げて浮かせ、自転車を漕ぐように両足を交互に胸へ引き寄せる「バイシクルクランチ」(イラスト参照)や踏み台昇降(背筋を伸ばして立ち、脚を大きく上げて踏み台に昇ったり降りたりを繰り返す運動)などを行うとよいでしょう。
ヨガには腹筋や腸腰筋などの、お腹周りの筋肉を刺激するポーズがあり、それらを行うことによって前述の筋トレと同様の効果を得ることが期待できます。
また、伝統的な瞑想法を取り入れているヨガは心身にアプローチし、自律神経を整える働きがあるといわれています。したがって自律神経の乱れによって生じている便秘の改善効果も期待できます。おすすめのポーズをいくつかご紹介しましょう。
①うつ伏せから両足を腰幅に開き、足の甲を床につけます。
②肩の下に手のひらをつき、脇をしめて肘を少し浮かせ、額を床につけます。
③息を吸いながら手で軽く床を押し、背骨を一節ずつ起こします。
④背骨を長く保ち、目線を斜め上に向けて3呼吸ほどします。
⑤うつ伏せに戻ります。
腰や背中に痛みがある人は、上半身を反りすぎないよう、可能な範囲で行ないましょう。
①手足を楽に広げて、仰向けになった状態から足を閉じ、両足の膝を胸に近づけるように腕で抱えます。
②額に膝を近づけて背中を丸め、その姿勢でお腹の動きを意識しながら、ゆっくりと最低3呼吸します。
③膝を抱えていた腕を放して、再び両手両足を広げ、楽な姿勢でゆっくりと数回、深呼吸をします。
『ラジオ体操第一』は1回3分程度で行うことができ、時間がない人でも取り組みやすい運動です。短時間で、便秘解消に効果的なお腹をひねる動きはもちろん、全身の筋肉をバランスよく刺激することができます。
ほかにはストレッチを目的とした体操もおすすめです。特におすすめなのが腸腰筋のストレッチです。血行の促進や自律神経が活性化されることにより、腸のぜん動運動が促され、便秘の解消効果が期待できます。
仰向けの状態で片膝を抱えて行うストレッチ①や、片膝立ちで前方の足に体重を乗せて行うストレッチ②などを行い、便の排出に関わる筋肉を刺激していきましょう。
手足から体の中心に向かって、皮膚を直接刺激し、血液やリンパ液の流れをよくすることで筋肉などにも効果が期待できるマッサージ。便秘に悩んでいる場合、お腹に少し圧力をかけるように力を入れながら、①「の」の字を描いたり、②脇腹を揉んだり、③下腹を下から上に押し上げたりするようにマッサージをすると、便秘症状や排便回数・便の状態が改善するといわれています。気付いた時にやってみましょう。
腸内環境を整える運動についての記事はこちら 腸内環境を整える!「腸活」におすすめの運動と酪酸菌のおはなし
ツボ押しは東洋医学で行われる治療法のひとつです。ツボは筋と筋、筋と骨の間など全身に360カ所以上存在するとWHOでも定義されていて、ツボを押すことでさまざまな医療効果が期待できるといわれています。便秘解消に効果があるといわれている全身のツボを紹介しましょう。
へそから下方1.5寸のところにあり、便の停滞に効くツボといわれています。
(1.5寸は約4.55センチメートル)
ウエストラインから指4本分下で背骨から左右へ指2本分のところにあるツボです。「大腸の気が背中に注入される場所」といわれています。
「腎臓の気が背中に注入される場所」といわれています。
ウエストの1番細いところの高さ、背骨から指2本分外側のところにあるツボです。
なお、背中のツボを刺激する場合、自分ではなかなか正しい位置を押すことができません。できれば誰かに押してもらうか、硬式のテニスボールを背中と壁や床との間に挟み、ツボを刺激する方法がおすすめです。
第1指(親指)と第2指(人差し指)骨の間にあり、谷のようになっているところにあるツボです。
膝の端から指4本分下。スネの骨の外側のくぼんだところにあるツボです。
足の人差し指の外側にあるツボで、胃につながる道といわれています。
ツボ押しを行う際は力加減や行う時の体調、タイミングなどに注意が必要です。
まず力加減ですが、力任せに押すのではなく、痛気持ちいいと感じる程度の強さで行います。押す時間は1回6秒程度にしましょう。
また以下の場合はツボ押しを控えましょう。
起床時に冷水や冷たい牛乳を飲むと、腸を刺激し、排便を促す効果が期待できます。朝起きてすぐに水分を摂取する習慣を取り入れていきましょう。
朝食を摂ることで腸が刺激され、腸のぜん動運動が起きやすくなり、排便も促されます。
便意がなくても毎日決まった時間にトイレに行くと、徐々に排便のリズムが整い、便秘の解消につながることがあります。特におすすめのタイミングは朝食の後です。排便の有無を気にせず、まずは毎日同じタイミングでトイレに行くことから始めましょう。
腹式呼吸とは、鼻から息を吸ってお腹を膨らませ、口から息を吐く時にお腹を凹ませる呼吸の方法です。
腹式呼吸には腹筋や横隔膜を刺激して腹腔の内圧を高める働きがあり、それによってスムーズに便を送り出すことが可能になり、排便しやすくなります。また腸が刺激され、便意が起こりやすくなるという効果も期待できます。気が付いた時に行い、便秘の解消をねらっていきましょう。
便意があるにも関わらず、排便を我慢することが習慣的に続くと、便意が起こりにくくなり、便秘を引き起こしてしまう可能性があります。「忙しい」「周囲の目が気になる」などを理由に、便意を我慢しないようにすることも大切です。
ストレスは自律神経の乱れを生じさせ、便秘の原因になることが少なくありません。運動する、趣味に没頭するなど、自分なりのストレス解消法を見つけ、上手にストレスを発散する習慣をつけていきましょう。
ストレスに関する記事はこちら ストレス
時には市販の便秘薬に適切に頼ることも必要です。
ただし、ひとくちに便秘薬といっても、いくつかの種類があるため、自分の便秘のタイプに合ったものを選ぶのがおすすめです。
便秘薬は大きく「刺激性」と「非刺激性」に分かれます。刺激性は腸を直接刺激し、便秘の解消を促すので効果を感じやすく、一時的な便秘(急性の便秘)に有効です。一方、非刺激性の便秘薬は便の水分量を増やす作用があり、コロコロした硬い便になりやすい慢性便秘の人に向いています。
そのほかに複数の生薬が大腸の働きを促したり、大腸の運動を調整したりして総合的に働き、自然に近いお通じを促す漢方薬の便秘薬もあります。
また乳酸菌や酪酸菌が配合された整腸薬は便秘の改善だけでなく、日ごろの便通を整える効果も期待できます。
常に薬に頼り過ぎてしまうと自然な排便リズムに支障をきたす場合もありますので注意しながら、自分に合った便秘薬を選び、適切に活用していきましょう。
便秘解消のために、普段の生活で取り入れやすい方法・工夫を中心にご紹介しました。
さまざまな方法があるので、すべてを今日から行動に移すのは難しいかもしれません。ですが、できる範囲で少しずつ取り入れていけば、便秘の改善につながっていくでしょう。ただし、効果には個人差があり、また、あらゆる対処法を試しても効果が得られない場合は、医療機関で受診することも考慮ください。
スムーズな便通を促し、快適な毎日を送るためのヒントとして、紹介した方法をぜひ役立ててください。