監修
内藤 裕二 先生 (一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会理事長/日本酸化ストレス学会理事長/京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座教授)
協力
京丹後市健康長寿福祉部健康推進課
便秘解消に効果的な食べ物について知る前に、なぜ便秘になってしまうのか、その原因を改めて確認しておきましょう。
便秘とは「出すべきものを十分に出せていない、快適に排便ができていない状態」のことをいいます。
便秘の大きな原因の一つが、便が大腸にとどまる時間が長くなることです。食べたものが消化・吸収されて、直腸へ押し出されると便意が起こります。
ところが、大腸のぜん動運動※が低下して、便が大腸内を通過するのに時間がかかると、水分が通常よりも多く吸収されて便が硬くなり、快適な排便ができにくくなります。
したがって便秘の解消や予防には、腸(特に大腸)のぜん動運動を活発にすること、水分を多く含んだ健康的な便にすることが必要といえます。
ここでは便秘の解消、つまり腸の自然な動きを促して、適度に水分を含んだ自然に排出されやすい便にするために必要な要素をご紹介します。
※ぜん動運動:腸が伸び縮みを繰り返して、腸内の内容物を移動させ体外へ排出する動き。
まず知っておいていただきたいのが、慢性的な便秘でも、食べ物や飲み物などでは解消できない便秘があるということです。
慢性便秘は、原因によって大きく「機能性便秘」と「器質性便秘」の2つに分けられます。
機能性便秘は腸に異常が認められないにもかかわらず起こる便秘です。機能性便秘の解消法の一つとして、食生活などの生活習慣に気をつけることが挙げられます。
一方で器質性便秘は、大腸の狭窄や形態的な変化などによって通過障害が起こる便秘です。器質性便秘の治療には原因となる疾患の治療が必要であるため、食生活の改善では便秘の解消が見込めません。突然の排便障害とともに、腹部膨満感、腹痛、嘔気・嘔吐などが生じた場合には、器質性便秘が疑われます。
機能性便秘解消のためにはまず、食事・運動・睡眠の習慣を改めることが大切です。水分摂取や十分な食事量、食物繊維の積極的な摂取、適度な運動や睡眠などの基本的な生活習慣を心がけることで、大腸のぜん動運動が促されて、自然なお通じにつながると考えられます。
その他に知っておきたいのが、腸内フローラです。腸内フローラとは、腸内細菌の群のことを指します。腸内細菌が菌種ごとに集まって、腸の壁にびっしりと張り付いている様子がお花畑(フローラ)のように見えることから、そう呼ばれています。
腸内細菌は、体に有用な働きをしてくれる善玉菌(有用菌)、有害な働きをする悪玉菌(悪用菌)、善玉菌と悪玉菌のどちらか優勢な方に味方をする日和見(ひよりみ)菌の3つに大きく分けられます。3つの腸内細菌のおよその割合は、善玉菌:日和見菌:悪玉菌=2:7:1といわれています。
善玉菌の数が増えると、腸内で「発酵」が起き、体に良い働きをしてくれる酪酸(らくさん)などの短鎖脂肪酸や乳酸といったさまざまな物質が産生され、悪玉菌の働きを抑えることができます。なかでも酪酸には腸管細胞を刺激し、ぜん動運動を強める作用があります。
また、腸内細菌の多様性を保つことも重視されるようになっており、腸の健康維持には、1,000種類以上存在するといわれる腸内細菌の中の、より多くの種類がお腹の中で共存していることが大切です。
したがって便秘の解消には、生活習慣を整えることに加えて、腸内フローラのバランスと多様性を保つことも重要といえます。
乳酸菌やビフィズス菌、酪酸菌といった善玉菌は、生きたまま腸にたどり着いて健康に良い働きをします。このような生きた善玉菌は「プロバイオティクス」と呼ばれます。プロバイオティクスを含む食品を食べることで、善玉菌を体内に直接取り込んで、腸内環境を整えて便秘の解消につなげることができます。
水溶性食物繊維やオリゴ糖などは、小腸で消化・吸収されることなく大腸まで届き、善玉菌のエサ(プレバイオティクス)となって、間接的に善玉菌を増やす働きをします。すると、増えた善玉菌によって腸の運動が促されたり、悪玉菌の割合が減ったりするため、結果として便秘の解消につながります。
生きた善玉菌とそのエサとなる物質を同時に摂取して、腸内の善玉菌を増やす方法もあります。プロバイオティクスとプレバイオティクスの両方の考え方を合わせたこの方法は「シンバイオティクス」と呼ばれます。
食物繊維は、大腸のぜん動運動を促すことと、腸内細菌(善玉菌)のエサになることの2つの視点で、便秘の解消に欠かせない栄養素で、以下の2つに分けられます。
水に溶けにくく、便の量を増やして腸管を刺激し、腸のぜん動運動を促し、便通を促す働きをする性質があります。ただし、摂りすぎると便が大腸を通過する時間が長くなり、便秘を悪化させてしまうこともあるので、注意が必要です。
水に溶けて、腸内の善玉菌を増やしたり、便をやわらかくしたりして排便をスムーズにするのが、水溶性食物繊維の特徴です。また、善玉菌の栄養源となり、腸内環境を整えるプレバイオティクスでもあります。
また、食物繊維には上記の他、摂取量によって腸内フローラを変動させたり、不足すると大腸のバリア機能を低下させたりするとの報告もあり、便秘の解消だけでなく、腸の健康を保つためにも重要な役割を持っていることがわかります。
便秘の解消におすすめの食べ物をご紹介します。
便秘の解消に欠かせない栄養素である食物繊維は、野菜をはじめとした植物性の食材に多く含まれています。
果物、繊維のやわらかいにんじんやキャベツなどの野菜、海藻類などには、水溶性食物繊維に分類されるペクチンやアルギン酸などが、根菜類やきのこ類、たけのこなどの繊維の硬い野菜、豆類などには、不溶性食物繊維に分類されるセルロースやリグニンなどが、それぞれ多く含まれます。
便秘の解消には、不溶性と水溶性の食物繊維をバランス良く摂取することが大切であるため、どちらかに偏らないよう工夫すると良いでしょう。その他、1日のうち1食の主食を玄米ごはん、麦ごはん、胚芽米ごはん、全粒小麦パンなどの食物繊維が豊富な食材に置き換えたり、切り干し大根のような水溶性と不溶性の食物繊維がギュッと凝縮された食材を使ったりするのも、効率的な食物繊維の摂取に有効です。
味噌やしょうゆ、ぬか漬け、キムチ、納豆、チーズ、ヨーグルトなど発酵食品にも、生きた善玉菌であるプロバイオティクスが含まれます。
特に納豆は、発酵によって腸内の善玉菌を増加させる働きに加え、原料の大豆には不溶性・水溶性どちらの食物繊維も多く含まれていて、腸内環境の改善に有効な食品といえます。
また、ぬか漬けには、大腸内の悪玉菌の発育を抑えて、善玉菌が棲みやすい環境に整える働きを持つ、酪酸を産生する酪酸菌も含まれています。その他ヨーグルトには乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌が多く含まれています。
ただし、摂取したプロバイオティクスは、その多くが腸内で定着・増殖することなしに便中に排泄されるため、継続的に摂ることが必要です。毎日続けて食べて、生きた善玉菌を腸に補充していきましょう。
オリゴ糖は、善玉菌のエサとなるプレバイオティクスの一種です。大豆、たまねぎ、ごぼう、ねぎ、にんにく、アスパラガス、バナナなどに多く含まれているので、これらの食品を積極的に摂るとオリゴ糖も摂取でき、間接的に善玉菌を増やすことにもつながります。
その他、特定保健用食品(トクホ)として市販されているオリゴ糖を利用するのも良いでしょう。野菜などの食品から摂取するよりも、効率的に摂ることができます。
便秘の解消におすすめの飲み物をご紹介します。コンビニやスーパーなどで購入しやすいものがほとんどなので、気軽に試してみてください。
大腸には、食べ物や飲み物から摂取した大量の水分が流れ込みますが、その大半は大腸を通過する際に吸収されてしまいます。そのように便が腸の中を進んでいく途中で、水分が吸収されて少なくなり、便が硬くなることも便秘に強く関係しています。
そのため、まずは水や白湯をこまめに飲んで、水分不足による便秘を防ぎましょう。水分をしっかり摂っておくと、大腸で吸収されても便の中に水分が残り、やわらかく、排出しやすい便になります。
キウイフルーツ、りんご、いちご、みかんなどの果物には水溶性の食物繊維が多く含まれています。そのため、例えばこれらの果物をミキサーなどでジュースにすると、食物繊維と水分が一緒に摂取できて、便秘解消におすすめの飲み物になるでしょう。
特に、バナナは食物繊維だけでなくオリゴ糖も含んでいます。毎日の食事に上手にプラスして、不足しがちな食物繊維と水分を効率良く摂取していきましょう。
発酵食品である甘酒には、善玉菌のエサになるオリゴ糖、食物繊維が含まれています。甘酒は冷やしても温めてもおいしく飲めるので、季節を問わず取り入れることができます。
京都府京丹後市は「長寿のまち」として、さまざまなメディアで注目されています。
京丹後市の高齢者の方がなぜ長寿なのか、その理由を探るべく、2017年から京都府立医科大学と京丹後市立弥栄病院で共同研究が進められています(京丹後長寿コホート研究※)。その結果、京丹後市の高齢者の方は腸内フローラが優れていること、また京都市内の住民の方と比べて、酪酸菌が多いことが発見されました。そこで食生活に注目して、さらに調査を進めたところ、酪酸菌の生存に欠かせない食物繊維の摂取がポイントであることがわかってきました。
今回は、長寿のまちである京丹後市で食されている、さまざまな料理のレシピが掲載された『京丹後百寿人生のレシピ』から、食物繊維を手軽に摂取できるレシピをご紹介します。
※京都府立医科大学と京丹後市立弥栄病院とが共同研究をしており、2032年までの長期計画で丹後地域の65歳以上の1千人を健康調査し経過観察している。家族構成や生活習慣から血液の分析や腸内フローラ、骨密度まで約2000項目を調べている。
切り干し大根は、京都府京丹後市の郷土料理にもよく用いられている食材です。切り干し大根には、腸内細菌のエサとなって善玉菌を増やす水溶性食物繊維と、便のかさを増やす不溶性食物繊維の両方が多く含まれています。この優秀な腸活食材「切り干し大根」を使用したカレーのレシピを、書籍『~今に活きる~京丹後百寿人生のレシピ 第4版』からご紹介します。
このレシピは、『~今に活きる~京丹後百寿人生のレシピ 第4版』(発行:京丹後市健康長寿福祉部健康推進課)に掲載されています。『京丹後百寿人生のレシピ』には長寿地域「京丹後市」の郷土料理や、腸活食材を使用したレシピが多数掲載されていますので、チェックしてみてください。
便秘の解消には、食生活を以下のように見直すことも大切です。
便秘解消には、規則正しい食生活が重要です。
3食のなかでも特に、朝食を摂ることは大切です。朝食によって腸が刺激され、排便が促されます。胃―結腸反射と呼ばれています。朝食後に時間が取れるように、早起きしましょう。
時間に余裕をもって起床し、きちんと朝食を摂ることで大腸を動かし、便意を促してあげましょう。
食事の量が少ないことで、便の量が減って排便回数が減少し、便秘につながるケースがあるため、ある程度の食事量を確保することが必要です。
例えば、食事量を減らすダイエットを行ったとします。最初は一時的に体重が減少するものの、便の量が減って腸への刺激が低下するため、便秘になりやすくなります。
しっかりバランス良く食べた方が、適切な排泄につながって便秘も解消されやすくなり、なおかつダイエットにも結びつきやすいといえるでしょう。
減量目的で、脂質(油)の摂取を制限している方もいるでしょう。しかし油分には、腸での潤滑油となって便を排出しやすくする働きがあります。油を使った食事を摂取することは、便秘の解消につながりやすくなります。まずは、スプーン一杯のオリーブオイルを摂取することを試してみてください。
ただし、摂りすぎは禁物です。油分を摂りすぎると下痢になってしまったり、肥満や脂質異常症を生じさせたりすることがあります。くれぐれも適量を心がけましょう。
便秘が続いてつらい場合、市販薬を使って排便を促すのも解決策の一つです。
便秘薬には、腸の運動を促進するタイプ(刺激性)と便をやわらかくするタイプ(非刺激性)のものがあります。自分に合った効き目のものを使うとともに、食事や生活習慣の改善を並行して行い、解消を目指すのが良いでしょう。
また、漢方の便秘薬を使って便通を整える方法もあります。漢方医学をもとに処方された便秘薬には、大腸の働きを促す生薬や、大腸の運動を調整して腹痛を緩和する生薬など複数の生薬が配合されており、便通の改善を含めて、総合的に体のバランスを整えることが可能です。
ただし、刺激性の便秘薬を長期間連続して服用し続けると、薬の刺激に体が慣れて効きにくくなってきてしまう場合もあります。用法・用量を守って服用しましょう。
また、酪酸菌や乳酸菌、ビフィズス菌などが配合された整腸薬も、便秘の際に使用できます。特に、酪酸菌を含む食材はほとんどないため、酪酸菌を摂取したい場合は市販の整腸薬などを使用することも選択肢に加えると良いかもしれません。整腸薬は、腸内環境を整えることで便秘の解消につなげる他、日ごろの便通を整える効果も期待できます。悩みに合わせて上手に活用し、対処していきましょう。
便秘に加えて、強い腹痛や吐き気・発熱などをともなったり、便に血が混ざったりといった器質性便秘のような症状がみられる場合は、重度の疾患の疑いもあります。心当たりがあれば、すぐに医療機関を受診するようにしましょう。「たかが便秘」と侮らず、適切に医療機関を頼ることも大切です。
なお、受診の際には
・便秘がはじまった時期
・排便の頻度
・便の状態(量や色、硬さ、かたちなど)
・肛門の違和感や異常(かゆみ、痛み、出血などがないか)
・利用している健康食品、サプリメント
などを医師に伝えると、スムーズな治療につながりやすいでしょう。
~今に活きる~京丹後百寿人生のレシピ 第4版 京丹後市健康長寿福祉部健康推進課2022
すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢 内藤裕二 羊土社 2021
酪酸菌を増やせば健康・長寿になれる 内藤裕二 あさ出版 2022
人生を変える賢い腸のつくり方 内藤裕二 ダイヤモンド社 2016
慢性便秘症診療ガイドライン 日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会 2017
e-ヘルスネット 厚生労働省
一般社団法人 日本臨床内科医会ホームページ