睡眠と心身の健康

眠らないと健康に悪影響を及ぼす。裏を返せば、睡眠は私たちの健康のためにさまざまな働きをしてくれている、ということになります。主な働きについて確認していきましょう。

「疲労回復」に欠かせない 

脳と体が疲れたら、ぐっすり眠ることが大切です。その理由の1つは、睡眠と「自律神経」の関係にあります。自律神経とは脳によってコントロールされている神経で、心臓や血管の働き、また体温などを24 時間休みなく管理しています。自律神経には「交感神経」と「副交感神経」があり、その2つはシーソーのように交互に優位になるよう働きます。
「交感神経」は昼間や活動量の多い時に優位になり、脳や体を興奮状態にさせます。一方「副交感神経」は夜間やリラックスタイムに優位になり、脳や体を落ち着かせます。健康なら2つの神経は生活の中で自然に切り替えられるのですが、現代人はストレスが多く緊張感が強い傾向にあるため、交感神経が優位の状態が続きがちに。そうなると、脳と体は興奮状態が長くなり疲れきってしまいます。そこで大切なのが睡眠。眠ることで副交感神経が優位になるため、脳も体も休まって疲れを癒すことができるのです。

さらに、睡眠が疲労回復に欠かせない理由には、ホルモンの分泌も関わっています。脳には「下垂体かすいたい」という、さまざまなホルモンの働きを支配している部位があり、眠り始めの深いノンレム睡眠の間に、この下垂体から「成長ホルモン」が大量に分泌されます。成長ホルモンは育ち盛りの子どもの成長に必要なものだけではなく、実は成人の疲労回復や新陳代謝を促進する役割も担っているのです。寝不足だと疲れがとれないほか、体力の低下や肌荒れなども起きやすくなるのは、成長ホルモンが不足するためと言われています。健康のため、また美容のためにも、睡眠は重要なのです。

[参照資料]

  • 睡眠障害の対応と治療ガイドライン(じほう)
  • 図解 睡眠の話(日本文芸社)

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睡眠と免疫力、風邪の罹患などとの関係

「免疫力」をアップして強い体に

同じ環境にいても、病気にかかりやすい人とかかりにくい人がいます。それは、免疫力の違いによるものです。細菌やウイルスに感染すると、体内への侵入者を退治するために免疫物質が必要ですが、眠ることで免疫物質の働きを促進します。このことから、睡眠は病気にかかりにくくしてくれると言えそうです。
睡眠不足が免疫力の低下を招くことは、数字にも現れています。「風邪を発症するリスク」は、平均睡眠時間が7時間の人と5時間未満の人の比較では、5時間未満の人の方が4.5倍※1もリスクが高いという結果が出ています。さらに、「風邪をこじらせて肺炎になるリスク」も、睡眠時間が8時間の人と5時間未満の人の比較では、5時間未満の人は1.4倍※2もリスクが高いことがわかっています。病気にならないため、また病気を早く治すためにも、日頃からしっかり眠るように心がけたいものです。
また、免疫物質にも睡眠を促進する作用があります。風邪をひいたりインフルエンザにかかったりした時に、無性に眠くなったことはありませんか?眠くなるのは、免疫物質が正しく働いている証拠と言えます。そして免疫物質は、眠っている間にも働いてくれます。しっかり眠ることで早く回復できるのは、睡眠と免疫が密接に関わっているからなのです。

風邪の時にしっかり眠れるよう風邪薬を活用する

風邪の回復のために睡眠が大切であることは上述のとおりです。しかし、風邪をひいて眠いのに、風邪の諸症状(熱や咳・鼻水など)のせいで睡眠が妨げられてしまうことがあります。風邪の諸症状は本来、体を守るための防御反応です。でも、それにより眠れなくなると、風邪を長引かせたり重症化したりすることになりかねません。
そこで大切なのが、早い段階から風邪薬を活用して症状を抑えることです。風邪薬は病原体を排除するのではなく、つらい風邪症状をやわらげる効果があります。上手に風邪薬を活用することは睡眠をしっかりとることにつながり、早い回復が期待できるのです。
なお、風邪薬には、眠気を抑えるカフェイン類が配合されているものもあります。しっかり眠って回復を目指すという点では、睡眠を妨げるカフェイン類を含まない風邪薬を選ぶのも、1手といえるでしょう。

[参照資料]

※1 Sleep. 38(9) 1353–1359. 2015

※2 Sleep. 35(1) 97-101. 2012

  • 睡眠障害の対応と治療ガイドライン(じほう)
  • 図解 睡眠の話(日本文芸社)

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「肥満」や「生活習慣病」のリスクを低減

夜更かししていると口がさびしくなって、つい何かを食べてしまうことはありませんか?実は、これには食欲を支配するホルモンが関係しています。
食欲には「増進させるホルモン(グレリンなど)」と「抑制するホルモン(レプチンなど)」があり、どちらかが優位になることで食欲の強さが決まります。睡眠時間が足りないとグレリンが増える一方で、レプチンが減少。つまり、睡眠不足は食欲を増進させるのです。実際に寝不足の人は肥満傾向にあると言われています。
睡眠不足が肥満につながる原因は、ほかにもあります。それは、眠れないために溜まっていく疲労感。疲れがとれないと昼間も活動的になれないため、運動量が減って太りやすくなってしまうというわけです。

さらに、睡眠不足の人は血糖値が慢性的に高くなる「糖尿病」や血圧の高い状態が続く「高血圧」、心臓を取り巻く血管が突然つまる「心筋梗塞」などの生活習慣病にかかるリスクが高いことがわかっています。よく眠ることはこれらの病気の予防にもなり、また睡眠不足だった人がよく眠ることで、生活習慣病を改善する場合もあります。

[参照資料]

  • 睡眠障害の対応と治療ガイドライン(じほう)
  • Newton 増刊vol.9(2021年11月増刊)「睡眠」
  • ニュートンムック 別冊Newton「睡眠の教科書」
  • 図解 睡眠の話(日本文芸社)
  • e-ヘルスネット「睡眠と生活習慣病の深い関係」
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-008.html

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「うつ病」と睡眠の関係

今では珍しい病気ではなくなったうつ病。日本において100人のうちおよそ6人が、一生のうちにかかると言われています※1。そしてうつ病の人のおよそ9割が、不眠に悩んでいることがわかっています※2
気分が落ち込むことは誰にでもありますが、「うつ病」とは精神と体どちらにも症状が現れる病気です。十分な睡眠をとると心身の疲れが癒やされるはずですが、気分がすぐれない状態が続く、食欲がなくなる、あらゆることへの関心が極端に薄くなる、以前は好きだったことも楽しめなくなる…などの症状が現れると、うつ病が疑われます。
近年、うつ病と不眠の関係についての研究が進められています。不眠に悩む人はその3年以内にうつ病になる可能性が4倍高まり、不眠が1年以上続いた場合には40倍に高まると報告されています※2
うつ病予防のためには、普段から質の良い睡眠をとることが基本。そしてうつ病にお悩みの方は、少しずつでも良質な睡眠がとれるよう生活のリズムを整えていくことが大切です。

[参照資料]

※1 厚生労働省健康局「健康づくりのための睡眠指針 2014 」

※2 日本心身医学会総会「睡眠障害の社会生活に及ぼす影響」

  • 睡眠障害の対応と治療ガイドライン(じほう)
  • 睡眠のなぜ?に答える本(ライフ・サイエンス)
  • Newton 増刊vol.9(2021年11月増刊)「睡眠」
  • ニュートンムック 別冊Newton「睡眠の教科書」

コラム仕事も学問も「休む」が勝ち!?

寝る間を惜しんで仕事や勉強を頑張っても、しっかり眠らないと次の日はボーッとしがちに。徹夜の次の日には、単純な計算でも間違えることが多くなることがわかっています。
睡眠はミスを防ぐだけではありません。記憶力の向上にも、睡眠が関係していると聞いたことはあるでしょうか?学習したことは、脳の「海馬かいば」で情報整理され、「大脳皮質だいのうひしつ」に送られて記憶として定着します。その伝達が行われるのが、眠り始めの深いノンレム睡眠の時。仕事や勉強で成果をあげるなら、睡眠を適切にとることが大切なのです。

[参照資料]

  • 睡眠障害の対応と治療ガイドライン(じほう)
  • 図解 睡眠の話(日本文芸社)
  • ニュートンムック 別冊Newton「睡眠の教科書」