監修
永武 毅 先生 (小田原医師会)
監修
中村 真樹 先生 (青山・表参道睡眠ストレスクリニック 院長)
風邪は、医学的には「風邪症候群」と呼ばれる、急性気道感染症に分類される疾患です。鼻・のどなどの空気の通り道(気道)にウイルスや細菌などの病原体が感染し、引き起こされた炎症を指します。風邪の原因は、約80〜90%程度がウイルス感染とされています。
熱や咳、鼻水などの風邪の症状は、病原体に対して体が自身を守ろうとする防御反応(免疫反応)から生じます。例えば、発熱は体内をウイルスが苦手とする高温の環境になるよう調節しているものだと考えられます。また、咳や痰(たん)などが出るのは、気道内に入り込んだ異物を体外へ排出しようとして起こるものです。
一括りに「風邪」といっても具体的に現れる症状は病原体によって差があり、かつ感染した人のコンディションによっても症状の現れ方や感じ方もさまざまです。
体調を崩したときに眠気を感じた経験はありませんか。それには、免疫系の働きが関係しています。
ウイルスなどの病原体が体内に侵入すると、病原体に対抗しようとすぐに免疫細胞が反応して、免疫機能が活性化されます。その結果、産生された物質(サイトカイン)の一部が、脳の眠りに関連する部分に働きかけることで深い眠り(ノンレム睡眠)を誘発するのです。
これらは、無駄なエネルギーの消費を避けて体の回復を最優先させるための措置ではないかともいわれています。
※ノンレム睡眠:REM(Rapid Eye Movement:急速眼球運動)のない睡眠であり、深い眠りで脳波活動が低下し、脳(心)が休息している状態にある眠りのこと。
健康を保つには、免疫力を維持したり、高めておくことが必要です。そのためには脳や体の疲れをとり、病気の回復を促す重要な役割を担っている睡眠は欠かせません。
また、深く眠っているとき、体内では成長ホルモンや免疫力を高めるさまざまな物質が分泌していることからも、睡眠は免疫力と密接に関係していることがわかります。実際、睡眠不足や睡眠の質が低下したことで免疫力や感染症の重症化リスクにつながる報告もあります。
ただの睡眠不足と、甘く見てはいけません。風邪などを長引かせたり重症化させないためにも、睡眠が大切なのです。
前述の通り、改めて睡眠は大切であることがわかりました。ところが、風邪の症状によって寝つけない、寝苦しいなど困った経験をしている人も多いのではないでしょうか。
眠りを妨げることもある風邪の症状について、発生する理由や対処法について解説します。
咳は気道の粘膜、神経、気管などを取り巻く筋肉などが関係して起きる現象です。特に気管支は自律神経(交感神経・副交感神経)の働きに影響を受けており、夜に咳が出やすくなる一因に昼夜で変化する自律神経の働きがあると考えられます。
自律神経には、体を活発に動かすときに働く交感神経、体を休めるときに働く副交感神経があり、両者がバランスを取りながら体の状態を調節しています。交感神経は主に日中優位となり、副交感神経は夜間に優位となります。夜、副交感神経が優位になると、気管を囲む筋肉に作用し、気管支が収縮して呼吸が抑制されます。また、冷たい空気に触れるなどで気管支が敏感に反応しやすくなり、咳が起こりやすくなります。
さらに睡眠中の口呼吸やエアコンなどの影響でのどが乾燥し、気管支の粘膜が刺激されることで咳が出やすくなることがあります。
①水を飲む
水を飲むことでのどを潤し、のどの乾燥を防ぎましょう。
②部屋を加湿する
空気の加湿ものどの乾燥対策に有効です。痰をやわらかく、出しやすくすることが期待できます。加湿器はもちろん、洗濯物や濡れたタオルを部屋に干す、カーテンに霧吹きをかけることでも湿度調整できます。
③部屋の温度を上げる
冷たい空気が刺激となることもあるため、室内の温度が低い場合には、部屋を暖かくすることもいいでしょう。特に、寒い時期には有効です。その際は、加湿も併せて行いましょう。
鼻づまりは、鼻粘膜の血流が増加し粘膜が腫れ上がることによって起こります。末梢血管は自律神経の影響を受けており、日中と夜間での自律神経の働き(交感神経と副交感神経の優劣)の変化が、夜間の鼻づまりに関係すると考えられます。
日中は体を活発に動かすときに働く交感神経が優位に働くため、鼻粘膜の末梢血管が収縮している(腫れていない状態)ですが、夜になると体を休めるときに働く副交感神経が優位となり、末梢血管が拡張されることで粘膜が腫れて、鼻づまりの症状が起こりやすくなります。
また、気温が低いときには冷気による刺激が副交感神経に影響し、鼻水の分泌が促進されると考えられています。夜間に室温が低い場合には、冷たい空気が鼻水・鼻づまりの要因になっているかもしれません。
①鼻を温める
鼻を温めることで血行がよくなり、鼻づまりを軽減できる可能性があります。
②部屋を加湿する
室内が乾燥していると、鼻水の水分が奪われて硬くなってしまうことがあります。加湿器を使って加湿する、または濡れた洗濯物やタオルを部屋に干したり、カーテンに霧吹きをかけるなど、室内の湿度を調整するといいでしょう。
③体を温める
体全体を温めることで血流を良くして体温を上げることで、鼻づまりが軽減されやすくなります。特に首や手首・足首を意識的に温めるのがポイントです。
風邪を早く治す鍵は体力の回復と、ウイルスと闘うために免疫力を高めることです。そのために必要な対処やポイントをご紹介します。
風邪をひいているときは、発熱に伴い汗をかくことで、体内の水分が不足しがちに。水分不足は脱水症へ進んでしまう危険性もあるので、こまめに水分補給しましょう。特に子どもと高齢者は脱水症に陥りやすいので、注意してください。水を飲んでもむせてしまう場合があるので、こまめに、少しずつ、ゆっくり摂ることを意識します。
また、痰を伴う場合は、水分を摂ると痰がやわらかく、出しやすくなるので、不快感の軽減などに役立ちます。
発汗によって水分と共にミネラルも失われてしまうことから、経口補水液やスポーツドリンクなど、水分・ミネラルの吸収効率に優れたものを利用するのがおすすめです。
風邪の症状によって失われた体力を補い、体本来の免疫力を発揮するためにも栄養は大切です。ただし、風邪をひくとエネルギー消費が高まる一方、消化・吸収能力が低下しています。胃腸に負担をかけない食事を心がけてください。
食欲がある場合は、抵抗力を高めるタンパク質を含む卵入りのおかゆやうどんなどを。食欲がない場合はスープや冷たい果物などが良いでしょう。またはドリンク剤やサプリメントに頼るという方法もあります。ビタミンを多く含み、水分補給も兼ねられるゆず茶やしょうが紅茶もおすすめです。口にしやすい食事で栄養補給に努めましょう。
睡眠は脳や体の疲れをとり、傷ついた細胞を修復するために必要不可欠な休息です。風邪をひいたときも余分な体力の消費を抑えることで、体が本来持っている免疫力を発揮することに役立っています。
しかし、前述のような咳や鼻づまりなどの症状で眠りを妨げられてしまうことも。つらいときは、市販のかぜ薬を賢く取り入れ症状を緩和し、しっかりと眠りましょう。
残念ながら、風邪には特効薬がありません。市販の風邪薬は病原体を排除するのではなく、熱や咳・鼻水などのつらい風邪の症状をやわらげる「対症療法」の薬です。
本来、風邪の諸症状は、病原体に対抗して自身を守るために体が行っている防御反応です。とはいえ体が頑張りすぎてしまうことでかえって体力を消耗してしまい、風邪が長引いたり悪化したりしてしまう可能性も。体の負担を軽減して十分に免疫力を発揮するためにも、早い段階から症状を抑えることが重要です。
各風邪薬に配合されている有効成分によって、効き方や効果を発揮する症状は異なります。つまり、症状に合う成分を選ぶのがコツです。症状別にどのような有効成分が良いのか具体的に解説します。
解熱鎮痛成分(発熱を鎮め、痛みをやわらげる成分)
体温を調節する仕組みや痛みを伝達する仕組みに作用することで、発熱や頭痛をやわらげる働きを持つ成分の総称です。
<代表的な成分例>
イブプロフェン、アセトアミノフェンなど
鎮咳成分(咳を抑える成分)
咳を司る中枢神経系に働きかけることで、咳の発生を抑える働きがあります。
<代表的な成分例>
デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、ジヒドロコデインリン酸塩、ノスカピン、など
気管支拡張成分(気管・気管支を拡げる成分)
交感神経系を刺激して気管支を拡張させることで、呼吸を楽にして咳の症状をやわらげる働きがあります。
<代表的な成分例>
dl-メチルエフェドリン塩酸塩など
去痰成分(痰の切れを良くする成分)
気道の粘膜から分泌される粘液の量や質に影響を与え、痰を排出しやすくする働きを持つものの総称です。
<代表的な成分例>
グアイフェネシン、L-カルボシステイン、ブロムヘキシン塩酸塩など
抗炎症成分(炎症による腫れをやわらげる成分)
体内において炎症に関わる物質の作用を抑えることで、気道の炎症を抑え、のどの腫れ・痛みをやわらげる働きがあります。
<代表的な成分例>
トラネキサム酸、グリチルリチン酸など
副交感神経遮断成分(鼻水の分泌を抑える成分)
神経伝達物質の一種、アセチルコリンの働きを抑えることで、鼻水の分泌を抑えます。
<代表的な成分例>
ヨウ化イソプロパミド、ベラドンナ総アルカロイドなど
抗ヒスタミン成分(くしゃみや鼻水を抑える成分)
神経伝達物質の一種であるヒスタミンの働きを抑えること(抗ヒスタミン作用)で、くしゃみや鼻水といった症状を抑えます。
<代表的な成分例>
ジフェンヒドラミン塩酸塩、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩、など
交感神経興奮成分(鼻粘膜の充血を取り除き、鼻づまりをやわらげる成分)
交感神経を刺激して鼻粘膜内の血管を取り巻く筋肉を収縮させることで、鼻粘膜の充血や腫れを取り除き、鼻づまりを改善する働きがあります。
<代表的な成分例>
プソイドエフェドリン塩酸塩など
鼻粘膜の細胞などでつくられる神経伝達物質の一種「ヒスタミン」。ウイルスの刺激によって放出されたヒスタミンが粘膜にある受け皿(受容体)に結びつき、知覚神経や血管に作用して、くしゃみや鼻水・鼻づまりなどの鼻症状を引き起こします。
ジフェンヒドラミン塩酸塩は、このヒスタミンが受容体と結びつく前に受容体と結合することでヒスタミンの働きを妨げ、鼻症状を抑える「抗ヒスタミン成分」の一種です。
一方でヒスタミンには脳の下部にある睡眠・覚醒を司る部位に働きかけ、覚醒の維持・調節を行う役割があります。抗ヒスタミン成分は、この働きも妨げるため、副作用として眠気を促すことがあります。ジフェンヒドラミン塩酸塩は、抗ヒスタミン成分の中でも特にこの中枢作用が強いとされています。
【注意点】
・風邪薬を服用後、乗り物・機械類の運転操作を行う可能性がある方は、眠気を促す成分を含む製品を避けるなど製品選びに注意し、服用後には他の方に運転・操作を代わってもらうなどしましょう。
・母乳を通して乳児に昏睡を生じる恐れもあるため、授乳中の女性も服用または服用後の授乳を避ける必要があります。
また服用によって、めまい、頭痛・頭重感などを感じる、口の渇き、悪心、嘔吐などの症状が見られたら副作用の可能性があるので、使用を中止してください。
風邪薬の中には、眠気を抑える作用がある成分が配合されていることもあります。
例えばカフェイン類(カフェイン・無水カフェイン・安息香酸ナトリウムカフェインなど)には、解熱鎮痛成分と一緒に働くことで痛みをやわらげる作用が強まるという働きがある一方、眠気を抑えてしまうことがあるのです。
しっかりと睡眠をとって体力の回復に努めるという点では、睡眠を妨げる成分を含まない風邪薬を選ぶのも1つの手といえるでしょう。
※市販薬各製品の効能・効果についてはパッケージや添付文書に記載されている事項を確認し、用法・用量を守って正しく使いましょう。また市販薬を5-6回使用しても症状がよくならない場合には服用を中止し、その製品の添付文書やパッケージなどを持って医師、薬剤師または登録販売者に相談してください。
・薬の上手な使い方
出典元、参考情報
・睡眠医療12(3):353-359,2018.
・睡眠医療10(1):27-33,2016.
・Sleep 35(1): 97-101, 2012.
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