風邪の症状や花粉症、鼻炎などによって、鼻粘膜が腫れて粘りのある鼻水がつまり、息苦しさや不快感をともなう「鼻づまり」は大人でも子どもでもつらく、つらい症状はできるだけ早く治したいものです。また、鼻づまりは風邪や鼻炎の症状だけでなく「いびき」の原因にもなることがあります。そこで専門医の監修のもと、鼻づまりの原因やメカニズム、解消法などをまとめました。ぜひ鼻づまり対策にお役立てください。
監修
永武 毅 先生 (桜みちクリニック 院長)
鼻の粘膜の腫れや粘りのある鼻汁などによって鼻腔(鼻の穴からのどに到達する空間)が狭くなり、空気の通りが悪く、鼻呼吸が十分に行えなくなった状態を鼻づまり(鼻閉)といいます。その原因はさまざまです。
「鼻風邪」と呼ばれる急性鼻炎などでは、最初に水のような鼻水が出ますが、2~3日経つと粘り気を帯びてきます。粘り気のある鼻水が鼻の中にたまることで炎症を起こし、鼻の粘膜が腫れて鼻がつまってきます。
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ウイルスや、アレルギーを引き起こす抗原(花粉やハウスダスト)が鼻の中に付着すると、鼻の粘膜の血流が増加して滞り(うっ血)、粘膜が腫れ上がります。すると鼻腔が狭くなり、鼻づまりが起こります。
鼻づまりは夜間の方が起こりやすくなります。血流は自律神経の影響を強く受けており、日中と夜間で自律神経の働き(交感神経と副交感神経の優劣)に変化があることが、夜間の鼻づまりに関係すると考えられます。
日中は交感神経が優位に働くため鼻粘膜が腫れていない状態なのですが、夜になると副交感神経が優位となり、血管が拡張されることで粘膜が腫れ、鼻づまりの症状が起こりやすくなるのです。
また、気温が低い時には冷気による刺激が副交感神経に影響し、鼻水の分泌が促進されると考えられています。夜間に室温が低い場合には、冷たい空気が鼻づまりの要因になっていることも考えられます。
鼻腔を左右に分けている軟骨を鼻中隔といいます。日本人はこの鼻中隔が左右どちらかに曲がっている人が多く、軽いものを含めると成人の80〜90%にも上るといわれます。日常生活に不便がなければ気にする必要はありませんが、大きく曲がっていたりすると鼻の穴の通気が悪くなり、鼻づまりが生じます。特に片側にだけ鼻づまりが強い場合は、鼻を左右に仕切る軟骨に歪みが生じている可能性があります。
鼻の三大症状として知られているくしゃみ、鼻水、鼻づまりは、ウイルスや細菌、ダニや室内のホコリなどの異物に対する防御反応の現れです。くしゃみや鼻水が異物を外に出そうとする反応であるのに対し、鼻づまりは鼻をつまらせてこれ以上の異物を体の中に入れないようにしています。
また、子どもや精神障害のある方の場合、鼻の中に異物を入れてしまうことがあり、その異物による刺激と感染が原因となって鼻づまりになることがあります。
※以下の疾患の中には、医師の診断が必要なものもあります。症状が続くなど心配な場合には、早めに医師の診断を受けましょう。
ウイルスや細菌が原因で、上気道(鼻、のどなど)に炎症を起こす病気の総称です。症状は鼻水、鼻づまり、くしゃみ、のどの痛み、咳や痰、発熱などさまざまです。安静にすれば1週間くらいで自然に治りますが、下気道(気管や気管支)に炎症が広がると、気管支炎や肺炎などに移行して重症化する場合もあります。
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鼻粘膜におけるアレルギー反応によって、くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどが生じる、鼻の代表的なアレルギー疾患の一つです。一年中症状が見られる通年性と、ある特定の季節に症状が現れる季節性に分けられます。季節性アレルギー性鼻炎は、アレルギーを引き起こす原因物質の多くがスギやヒノキなどの花粉であるため花粉症と呼ばれています。花粉に対して過剰な防御反応が起きてしまい、鼻粘膜が腫れ上がって鼻づまりが生じやすくなります。また、通年性のアレルギーの原因には、例えばハウスダストなどがあります。
副鼻腔は鼻腔の周りの骨の中にある空洞で、薄い紙のような粘膜に覆われ、自然口と呼ばれる穴で鼻腔に通じています。副鼻腔炎は細菌などで鼻腔の粘膜に炎症が起こり、副鼻腔に炎症が広がって内部の粘膜が厚くなったり、分泌物が多くなったりする病気です。急性副鼻腔炎と慢性副鼻腔炎(蓄膿症とも呼ばれます)に分けられ、通常は鼻風邪などで急性副鼻腔炎が生じ、症状が3ヵ月以上続いて炎症がひどくなると慢性副鼻腔炎となります。特徴的な症状は鼻づまりと鼻水です。鼻づまりは鼻腔内の粘膜が腫れたり、慢性副鼻腔炎の場合は鼻茸(後述)というポリープができたりすることで現れます。
鼻腔を左右に分ける鼻中隔がどちらかに曲がっていたり、突起を形成していたりする状態にあって、鼻づまりなどの症状が伴う場合を鼻中隔弯曲症といいます。一般的に鼻腔が狭くなった方で鼻づまりが現れますが、反対側の広くなった鼻腔内の突起(鼻甲介)が厚くなって、そちらの方で鼻づまりが生じることも少なくありません。鼻がつまると細菌が繁殖しやすくなるため、副鼻腔炎の原因になったり、アレルギー性鼻炎の悪化を招いたりすることもあります。鼻中隔の軟骨や頭蓋を構成する骨の発育速度の違いから生じると考えられています。
鼻茸は、鼻腔や副鼻腔内にできるゼラチンのような腫瘤で、慢性副鼻腔炎の10~20%に生じます。良性のポリープなのでがん化を心配する必要はありませんが、鼻茸が大きくなって鼻の穴やのど側に飛び出すと鼻づまりがひどくなり、鼻呼吸が困難になったり、ふさがれた副鼻腔内で炎症が悪化して合併症を招いたりすることがあります。鼻茸が生じる原因は明らかになっていません。
※以上の疾患の中には、医師の診断が必要なものもあります。症状が続くなど心配な場合には、早めに医師の診断を受けましょう。
子どもの場合は、大人よりも鼻腔が狭く、少量の鼻汁でも鼻がつまりやすくなります。慢性的な鼻炎で鼻粘膜が腫れたり、アデノイド(咽頭扁桃)肥大があると鼻づまりを起こします。また、鼻づまりは子どものいびきの原因になるとの報告もあります。鼻づまりがつらいことを訴えられない年齢の場合、大人が気づいてあげることが大切です。鼻水が出る鼻づまりの場合は、鼻を上手にかむ習慣をつけたり、難しい場合は鼻水吸引器を活用するのもよいでしょう。
鼻は匂いなどを感じる感覚器としての機能のほかに、息を吸ったり吐いたりする呼吸器系統の入り口としての役割があります。呼吸で空気を体に取り込む際に、鼻はホコリや細菌を取り除くとともに、冷たい外気を温めてから体に取り入れるという働きを担っているのです。
ところが、鼻づまりになって口での呼吸(口呼吸)が増えると、空気がそのまま体内に入るため、のどが乾燥したり、乾燥した空気でウイルスが繁殖しやすくなったりして、のどや扁桃に炎症が生じるなど感染症のリスクが高まります。鼻による呼吸(鼻呼吸)では乾燥した空気が肺に直接入ることがなく、風邪をひきにくくなります。口呼吸の原因となる鼻づまりを放っておかないようにすることが大切です。
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鼻づまりの解消が期待できる対処法をご紹介します。すぐにできるものばかりですので、ぜひ参考にしてみてください。ただし、鼻づまりの症状が長引いたり、ひどく苦しい時は医師に相談しましょう。
室内が乾燥していると、鼻水の水分が奪われてしまったり、気道の粘膜が持つ防御機能が低下してしまいます。加湿器を使って加湿する、または濡れた洗濯物やタオルを部屋に干したりカーテンに霧吹きをかけるなどして、室内の湿度を調整するとよいでしょう(湿度の目安:50~60%)。
寒い季節に鼻づまりが増えるのは、血行不良により鼻の粘膜に血液がたまってしまい、鼻の中の空気の通り道が狭くなるからです。鼻を温めることで血行が改善し、鼻づまりが解消されることがあります。例えば、お湯で温めた蒸しタオルを鼻の上に当てると、蒸気が鼻の中に取り込まれ、鼻の通りが良くなります。
寒冷の刺激によって鼻水の分泌が顕著になることが知られており、中には鼻づまりの症状が現れる場合があります。これに対処するには、体が感じる寒暖差をなるべくなくすことです。寒い野外では首元をマフラーやスカーフで温めたり、手首・足首を冷やさないようにするのがポイントです。特に首には太い血管が通っているので、首を温めることで顔まわりの血流が促され、症状が起こりにくくなります。
鼻づまりや鼻水などの鼻症状に効果が期待できる代表的なツボを紹介します。
小鼻の横端と頬骨の間にあるツボです。指で触ると少しくぼんでいて、押すと少し痛みを感じ、皮膚の下に骨があることが分かります。鼻水の分泌を抑え、鼻の通りを良くする働きがあります。
「迎香」より少し上の、小鼻の上端と頬骨の間にあるツボで、「迎香」と同じく鼻づまりや鼻水の改善に良いといわれています。
鼻から離れている部位にも鼻の症状に有効なツボがあり、親指と人差し指の骨が描くV字の谷間にある「合谷」はその代表格です。
「迎香」を押す場合、左右のツボの位置に両手の人差し指を当て、静かに押して指を離すことを繰り返します。また、目尻りに向かって軽く押し上げるような気持ちでマッサージするのも効果的です。手にある「合谷」は電車での移動中やデスクワークの間などに、周りに気付かれずにいつでも刺激することができます。
体の側面を圧迫すると、その反対側にある交感神経が刺激され鼻の通りが良くなることがあります。液体の入ったペットボトルやボールなどをわきに挟んで20~30秒間、グッと力を入れることにより、多くの場合、数十秒も経たないうちに鼻が通ったという感覚を味わうことができます。注意する点は、つまっている鼻の穴と反対側のわきの下を刺激すること。両方がつまっている場合は、片方ずつ交互に行ってみてください。
鼻づまりへの対処に活用できる市販薬は大きく分けて内服薬と外用薬の2種類で、内服薬には鼻炎薬、総合風邪薬、漢方薬があり、外用薬には点鼻薬(鼻に注入して直接粘膜に成分を届ける薬)があります。それぞれ効き方や特徴に差があるので、症状や状況に応じて使い分けることをおすすめします。
以下は、市販薬の主な種類と有効成分を内服薬・外用薬別にまとめました。選ぶ際の参考としてご活用ください。
内服薬(鼻炎薬、総合風邪薬)の主な働き
主な種類 | 働き |
---|---|
交感神経興奮成分 | 交感神経の働きを促し、鼻粘膜の血管を収縮させることで、腫れと充血を抑える。 |
副交感神経遮断成分 | 副交感神経の働きを抑制し、鼻水の分泌やくしゃみを抑える。 |
抗ヒスタミン成分 | アレルギー症状を引き起こすヒスタミンの働きを抑える。 鼻水/鼻づまりを改善する、くしゃみを和らげる。 |
・交感神経興奮成分
働き:交感神経の働きを促し、鼻粘膜の血管を収縮させることで、腫れと充血を抑える。
主な成分:プソイドエフェドリン塩酸塩
・副交感神経遮断成分
働き:副交感神経の働きを抑制し、鼻水の分泌やくしゃみを抑える。
主な成分:ヨウ化イソプロパミド、ベラドンナ総アルカロイド
・抗ヒスタミン成分
働き:アレルギー症状を引き起こすヒスタミンの働きを抑える。
鼻水・鼻づまりを改善する、くしゃみを和らげる。
主な成分:d-クロルフェニラミンマレイン酸塩、メキタジン、ジフェンヒドラミン塩酸塩、フェキソフェナジン塩酸塩、エピナスチン塩酸塩、ロラタジン
外用薬の種類と主な働き
主な種類 | 働き |
---|---|
抗ヒスタミン成分 | アレルギー症状を引き起こすヒスタミンの働きを抑える。 鼻水/鼻づまりを改善する、くしゃみを和らげる。 |
抗アレルギー成分 | 免疫反応などに関わる細胞からアレルギー物質が出るのを抑え、アレルギー反応を起こりにくくする。 |
交感神経興奮成分 | 交感神経の働きを促し、鼻粘膜の血管を収縮させることで、腫れと充血を抑える。 |
殺菌消毒成分 | 鼻腔内を清潔にし、鼻づまりなどの緩和を助けたり、細菌による二次感染を防ぐ。 |
副腎皮質ステロイド | 抗炎症作用により鼻水・鼻づまりを改善する、くしゃみを和らげる。 |
局所麻酔成分 | 鼻粘膜の過敏性や痛み、かゆみを抑える。 |
・抗ヒスタミン成分
働き:アレルギー症状を引き起こすヒスタミンの働きを抑える。
鼻水・鼻づまりを改善する、くしゃみを和らげる。
主な成分:クロルフェニラミンマレイン酸塩、ケトチフェンフマル酸塩
・抗アレルギー成分
働き:免疫反応などに関わる細胞からアレルギー物質が出るのを抑え、
アレルギー反応を起こりにくくする。
主な成分:クロモグリク酸ナトリウム
・交感神経興奮成分
働き:交感神経の働きを促し、鼻粘膜の血管を収縮させることで、腫れと充血を抑える。
主な成分:塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン
・殺菌消毒成分
働き:鼻腔内を清潔にし、鼻づまりなどの緩和を助けたり、細菌による二次感染を防ぐ。
主な成分:べンゼトニウム塩化物、ベンザルコニウム塩化物、セチルピリジニウム塩化物
・副腎皮質ステロイド
働き:抗炎症作用により鼻水・鼻づまりを改善する、くしゃみを和らげる。
主な成分:プレドニゾロン、フルチカゾンプロピオン酸エステル
・局所麻酔成分
働き:鼻粘膜の過敏性や痛み、かゆみを抑える。
主な成分:リドカイン
生理食塩水を鼻の穴から流し入れ、反対側の鼻の穴や口から出す鼻うがいは、鼻づまりや鼻水の解消に役立ちます。鼻の中のホコリやウイルスなどを洗い流し、鼻腔内のうるおいを保つ効果が期待できます。
鼻うがいで鼻の中を洗いすぎると症状の悪化を招くことも。1日2~3回程度にとどめておくようにしましょう。
寝る時に鼻がつまっている側を上にして横向きに寝ると鼻の通りが良くなることがあります。ペットボトルなどを使って体の側面を刺激する方法と同様に、下側のわきが圧迫されることで、反対側のつまっている鼻の腫れが引きます。
また、鼻づまりは寝ているよりも起きている方が鼻の血流量が減るため楽になります。寝る時には枕やクッションなどを重ねて、上半身を約30度上げた状態にするのも一つの方法です。
人間は本来、呼吸の大半を鼻で行うようにできているといわれています。鼻づまりが治って鼻呼吸がしやすくなると、爽快ですがすがしい気持ちになるはず。鼻づまりで悩んでいたら、まずここでご紹介したセルフケアをぜひ実践してみてください。
もし、さまざまな方法を試してみても鼻づまりが改善しないという場合は、早めに医療機関に相談しましょう。
日本耳鼻咽喉科学会
http://www.jibika.or.jp/citizens/daihyouteki2/hana_condition.html
アレルギーポータル 日本アレルギー学会・厚生労働省
https://allergyportal.jp/knowledge/allergic-rhinitis/
「病気がみえるV0l.13 耳鼻咽喉科」(メディックメディア), 2020
近藤健二:耳鼻咽喉科免疫アレルギー35(3):261-265,2017.