監修
白土 秀樹 先生 (医療法人しらつち耳鼻咽喉科 理事長、九州大学医学部臨床教授)
花粉症の影響によってのどの痛みが現れることがあります。
花粉症によってのどが痛くなる原因は、
鼻や目と同じように、のどにもその症状が現れている
花粉症症状の鼻づまりのために口呼吸をすることで、ウイルスや細菌などが侵入し炎症を起こしたり、冷たい空気などが刺激になったりする
後鼻漏(こうびろう)※で鼻水の一部がのどに回って刺激している
など、さまざまなものが考えられます。
鼻や口腔から入った抗原(体の中に侵入してきた異物)により、のどの粘膜に引き起こされる咽頭アレルギーも、花粉症によるのどの痛みの一因とされています。
また、花粉症によるのどの症状には、のどの痛みの他、口の中の乾燥(口渇)、イガイガなどの異常感、せきなどがあります。スギ花粉の場合、患者さんの5~6割はせきなどを自覚しているという報告もあります。
なお、スギ花粉とヒノキ花粉の両方で症状が現れる患者さんも少なくありませんが、そのような患者さんののどの症状は、スギ花粉の飛散時期よりもヒノキ花粉の飛散時期のほうが強く現れる傾向があると報告されています。
※鼻水がのどへ流れる状態
のどの痛みは、もちろん花粉症以外の疾患でも起こります。代表的なのは、風邪やインフルエンザなどの感染症です。そして、のどの痛みが現れる感染症の中には、新型コロナウイルス感染症も含まれます。
花粉症か感染症なのかを、のどの症状だけで区別することは困難ですが、他の症状や季節などから、ある程度は推測できます。
花粉症と新型コロナウイルス・インフルエンザと風邪の特徴
特徴 | 花粉症 | 新型コロナウイルス | インフルエンザ | 風邪 (インフルエンザ以外) |
|
---|---|---|---|---|---|
症状 | 発熱 | 熱っぽい感じなどの症状が現れることがある | 多い | 多い | 発熱することもある |
くしゃみ・鼻水・鼻づまり | 多い | 少ない | やや多い | 多い | |
目のかゆみ・涙目 | 多い | 少ない | 少ない | 少ない | |
のどの痛み・せき・不快感 | 現れるが、くしゃみや鼻症状よりは少ない | 非常に強い | 強い | 多い | |
上記以外の症状 | 皮膚のかゆみ、下痢などがあらわれることもある | 嗅覚・味覚障害、息切れ、呼吸困難、下痢、倦怠感、脱毛など、多くの症状が現れることもある | 感染したウイルスの種類によって、下痢などが現れることもある | ||
季節性 | 多くは春だが、秋になる人もいる | ない、または、少ない | 冬季中心 | 夏にも流行がある | |
症状の持続期間 | 原因の花粉が飛散している時期 | 急性期は7~10日。急性期以降にもさまざまな症状が続くことがある | 5~10日 | 3~7日 | |
経過 | 花粉シーズンが終われば治まるが、翌年も繰り返すことが多い | 一部の人は重症化して亡くなることがある | 一部の人は重症化して亡くなることがある | 大半は後遺症なく軽快するが、繰り返して感染しやすい |
まれなことですが、のどの痛みの原因が花粉症や風邪などではなく、緊急治療が必要な病気(疾患)だったり、重大な病気が隠れていたりすることがあります。
例えば、急性喉頭蓋炎(きゅうせいこうとうがいえん)、扁桃周囲膿瘍(へんとうしゅういのうよう)という病気でののどの痛みでは、呼吸困難が生じて致命的になることがあります。また、心筋梗塞の発作時に、胸痛よりものどの痛み(関連痛)が強く現れることもあります。これらでは緊急治療が必要となります。
その他、甲状腺疾患、のどのがん、溶連菌感染症、カンジダ感染症(口腔カンジダ症)などもあるので、上の表を参考に、花粉症らしくないと思ったら、早めに受診をしてください。
なお、唾を飲み込めないほどののどの痛みや、口を開けることができないといった症状は、治療の緊急性が高い可能性が高く、早めに受診しましょう。
のどの痛みに関する情報はこちら のど(喉)の痛み
花粉症の原因は、花粉です。そのため、飛散する花粉になるべくさらされないようにのどを守ることが対策の第一です。花粉飛散情報をチェックして、飛散量が多い日は防備体制をよりしっかりとしましょう。
花粉の飛散量の予測は近年、シーズン前からアナウンスされるようになりました。
(例えば、https://tenki.jp/pollen/expectation、https://alinamin-kenko.jp/tokushu/kafunsho/index.html)
また、シーズン中の毎日の飛散量は、ほとんどの地域で天気予報とともにアナウンスされています。花粉の飛散が多い時間帯(特に昼前後と夕方)には、できれば外出を避けましょう。
外へ出る際には、マスク・メガネ・帽子の3点セットを忘れずに着用しましょう。帽子はツバの広いものがおすすめです。また衣服は、ウールなどの花粉が付着しやすい素材のものは避けましょう。
帰宅時は衣服をよくはたいてから室内に入ります。そして、うがいと洗顔を忘れずに行ってください。
室内にいるときには、窓を閉めて花粉をシャットアウトするのがおすすめです。換気をする際には、窓を開ける幅を10cm程度にし、レースのカーテンをすることで屋内への流入花粉をおよそ4分の1に減らすことができるとされています。また、流入した花粉は床やカーテンなどに多数残存しているため、掃除を意識的に行い、カーテンを定期的に洗濯すると良いでしょう。
適度に加湿をしたり、空気清浄機を使って室内の花粉の量を減らしたりすることも効果的です。
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風邪や新型コロナウイルス感染症からのどを守る方法は、それらのウイルスに感染しないことが第一。つまり感染症に対する予防を徹底することが重要です。
マスク着用と手洗いが感染症予防の原則です。それに、うがいや鼻うがいも感染予防に役立つ可能性があります。また、新型コロナウイルスパンデミックとともに重要視されるようになった「三密回避」は、風邪の予防にもつながります。
新型コロナウイルス感染症の予防には、ワクチン接種が大切。ワクチン接種によって発症を予防する効果や、たとえ感染してしまっても重症化を予防する効果も確認されています。もちろん、風邪予防と同じように、マスク着用や手洗い、うがいも推奨されます。三密回避や室内の換気も心がけましょう。
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「のどを痛めないためにできること」の項目で解説したことは、のどを痛めてしまった後の対策としても有効です。まずはマスクやメガネ・帽子を着用することで花粉をシャットアウトし、うがいをすることから始めると良いでしょう。うがいは、緑茶や紅茶で行うと有効です。特に、痛めてしまった後は、加湿器や空気洗浄機の使用が、のどをいたわるのに役立つと考えられます。あわせて、こまめな水分補給も行いましょう。
また、睡眠不足やストレスが症状に影響を及ぼすことがあるため、よく眠ってストレス解消を心がけましょう。アルコールの飲みすぎや喫煙は、のどの粘膜を正常に保つためにも控えることが重要です。
花粉症によるのどの痛みやイガイガなどの不快感に対しては、アレルギー反応の原因となるヒスタミンの作用を抑える、抗ヒスタミン成分を含む薬が有効です。
一方、風邪をともなうのどの痛みでは、アセトアミノフェン、またはイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)といった解熱鎮痛成分を含む総合感冒薬も検討できます。
のどの痛みがひどい場合などは、花粉症でない可能性や、さきほど解説した「危険なのどの痛み」に該当する可能性もあるので、医療機関を受診しましょう。
のどの痛みの対処法に関する情報はこちら のど(喉)の痛みを早く治すには? すぐにできる対処法を紹介
ここまで、のどの痛みや花粉症の対策について解説してきましたが、それらの対策がしっかりできているか、自分自身で確認してみましょう。
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花粉症は一度発症すると、残念ながら毎年繰り返します。近年では、舌下免疫療法などで症状を緩和できるようになってきていますが、症状が抑えられるようになるまで3年から5年程はかかるのが現状です。そのため、自分に合ったオリジナル対策を確立して身に付けるのが得策です。
ただし、現れた症状がすべて花粉症によるものとは限りません。例年とは違う時期に症状が現れたり、症状がつらかったり、いつもと症状が異なるように感じたときなどは、医療機関を受診しましょう。
<参考文献>
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会「鼻アレルギー診療ガイドライン―通年性と花粉症」
花粉症環境保健マニュアル2022_環境省
厚生労働省 国民の皆さまへ (新型コロナウイルス感染症)