夏風邪と新型コロナ
ウイルス感染症、
症状をどう見分ける?

急な発熱、のどの痛み、下痢……夏に起きる体の不調。一昔前なら「夏風邪かな?」と少し様子を見ればよかった悩みも、今日では大きな不安の種になってしまっているのではないでしょうか。夏風邪の症状は新型コロナウイルス感染症と区別しにくい点も多く、判断に悩む方も多いはず。そこで今回は、夏風邪とはどのようなものか、その特徴や新型コロナウイルス感染症との違いを解説します。

監修:品田 純 先生(しなだ呼吸器循環器クリニック 院長)

そもそも夏風邪って? 特徴的な症状

夏風邪とは、夏によく見られるウイルス性の感染症のことをいいます。夏にかけて流行する夏風邪は、いわゆる普通の「風邪」(風邪症候群;急性気道感染症)とは原因となるウイルスや症状がやや異なります。

夏風邪の原因となるウイルスは主にエンテロウイルス、アデノウイルスと呼ばれる2つのグループに属するものです。これらのウイルスは1年を通して活動していますが、高温多湿の環境を好む性質があり、特に夏場に流行するとされています。例えば、小さな子どもの病気として有名なヘルパンギーナ、手足口病、プール熱(咽頭結膜熱)などはこれらのウイルスによるもので、子どもの夏風邪の代表格としてよく知られています。主な症状は発熱やのどの痛みといった一般的な風邪の症状に加え、ウイルスの種類によっては口の中・のどの入り口付近や手足の発疹、さらには腹痛・下痢といった症状が出ることがあります。

こうしたエンテロウイルスやアデノウイルスによる感染症には子どもがかかることが多いのですが、大人も油断はできません。家庭内で子から家族へ感染することが多いほか、室内外の温度差や湿度からくる体の不調によって免疫力が低下している場合などには、大人でも発症してしまう可能性があり、高熱、頭痛、のどの痛みを伴うものや、下痢などの消化器症状がみられることもあります。

夏風邪と冬の風邪、新型コロナウイルス感染症は何が違う?

原因となるウイルスが違っても、類似した症状が多い

夏風邪と冬の風邪、そして新型コロナウイルス感染症の間には、どのような違いがあるのでしょうか。3つの感染症の特徴を表にまとめました。
一般に感染症は原因となる病原体(ウイルスや細菌など)によって引き起こされ、病原体によって症状もさまざまです。ところが、夏風邪・冬の風邪・新型コロナウイルス感染症の間には共通した症状が現れることが少なくありません。

夏風邪・冬の風邪・新型コロナウイルス感染症の比較

夏風邪 
エンテロウイルス感染症 アデノウイルス感染症
病原体 エンテロウイルス属 アデノウイルス
感染経路 飛沫感染、接触感染、経口感染 飛沫感染、接触感染、経口感染
感染力 強い 強い
症状の続く期間 数日~7日間程度 数日~7日間程度
特徴的な症状 高熱が出ることがある 高熱が出ることがある
発熱
のどの痛み・咳 伴う場合がある ・のどの痛みを伴う
・咳を伴う場合もある
鼻水・鼻詰まり 伴う場合がある ほとんどない
下痢 伴う場合がある 1週間以上続くことがある
その他特徴的な症状 ・のどや手足に水ぶくれのような発疹が生じ痛みを伴う場合がある。
・食欲不振なども現れることがある
・頭痛や食欲不振などが現れることがある
・眼の充血や痛みなど結膜炎の症状が現れることがある
冬の風邪* 新型コロナウイルス感染症
病原体 ウイルスがほとんど**。細菌が原因となることもある 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)
感染経路 飛沫感染、接触感染 飛沫感染が主体、接触感染もある
感染力 強い 強い***
症状の続く期間 7~10日程度 7~10日前後****
特徴的な症状 38~39℃の高熱が出現することもある 37.5℃以上の発熱がある
発熱
のどの痛み・咳 伴う ・のどの痛みを伴うことがある
・途切れず続く乾いた咳を伴うことが多い
鼻水・鼻詰まり しばしば見られる 頻度は低い
下痢 ほとんどない 伴うことがある(20%弱)
その他特徴的な症状 高齢者でのRSウイルス感染症(入院治療を要した症例)はインフルエンザと同等の致命率を引き起こすことが示唆されている ・筋肉痛・頭痛の症状が現れることがある
・肺炎を合併すると息苦しさ、呼吸困難など起こることがある
・嗅覚・味覚の異常が現れることがある

*インフルエンザを除く
**冬はコロナウイルス(新型を除く)やRSウイルスが多いとされていたが、近年はRSウイルスが 7 月頃から増加傾向となっている。成人のRSウイルス感染症は風邪様症状で自然軽快すると考えられていたが、近年高齢者での重要性も注目されている
***変異株では武漢など初期の株より感染力が増しているとの報告がある
****重症化例では数週間に達することもある

夏風邪と新型コロナウイルス感染症の見分け方

症状だけですぐに見分けることは難しい

夏風邪・冬の風邪・新型コロナウイルス感染症の間には共通した症状が多く、症状から見分けることは難しい場合が多いのですが、夏風邪・新型コロナウイルス感染症には冬の風邪とはやや異なる点も見られます。
例えば夏風邪ではインフルエンザのようにのどの痛みを訴える前に発熱だけが見られる場合があります。ほかにも、高熱が1週間近く続くことや下痢や嘔吐など消化器系の症状が見られることがあります。
新型コロナウイルス感染症も、初期症状は風邪によく似ているため区別が難しい場合が多いのですが、以下のような特徴が存在します。

①インフルエンザの症状に似ており、筋肉痛・頭痛を伴う場合が多く、鼻症状を訴える人は少ない
②嗅覚または味覚(あるいは両者)異常を伴うことが多い
③下痢や嘔吐などの消化器症状の頻度は10~20%

ただし、どちらもこうした特徴的な症状を伴わない場合があり、自分で見分けることは大変難しいといえます。ある感染症にはあまり見られない症状が出ているからといって、「自分はその感染症にかかってはいない」と判断しないようにしましょう。

夏風邪の多くは1週間程度の間に自然と症状が治まるとされており、新型コロナウイルス感染症についても、発症した人の約80%が軽症のまま1週間以内に快方へ向かうとされています(約15%は1週間程度で酸素吸入が必要とされています)。ですから、自分の体調に異変や不安を感じたら、まずは外出や人との接触を避けて様子を見るのがいいでしょう。状況に応じて解熱剤や風邪薬などで症状を和らげることを考えるのも可能です。そして、もし数日たっても症状が改善しない場合は注意が必要です。
新型コロナウイルス感染症が疑われる場合には、かかりつけ医など身近な医療機関へ電話で相談するか、各都道府県が公表している受診・相談センターに連絡しましょう。特に、以下のような条件に当てはまる方はすぐに相談するようにしてください。

  • 息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合
  • 重症化しやすい人※で、発熱やせきなど比較的軽めの風邪の症状がある場合
    ※高齢者、糖尿病・心不全・呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患等)などの基礎疾患がある人、透析を受けている人、免疫抑制剤や抗がん剤などを使用されている人を指します。妊娠中の方も念のため、上記の人と同様に早めの相談が必要です。
  • 上記以外の人で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合
    (症状が4日以上続く場合には必ず相談するようにしましょう。また、症状には個人差があるため、自分の判断で症状が強いと思う場合にも相談が必要です。加えて、解熱剤などを飲み続けていないと発熱がおさまらないという方も同様に相談が必要とされています)

微熱かな? 鼻水、のどの痛み・・・風邪と新型コロナウイルス感染症、インフルエンザの違い

新型コロナウイルスに関する相談・医療の情報や受診・相談センターの連絡先(厚生労働省)

夏風邪の予防法は新型コロナウイルス対策と同じ

なぜ新型コロナウイルス対策が夏風邪予防にも有効?

夏風邪予防に必要なのは、何にもましてウイルスに感染するのを防ぐことです。夏風邪を起こすウイルスの主な感染経路は3つあります。

  • 感染者の咳や発声によって生じるつばや小さなしぶきを吸い込んだりすることによる感染(飛沫感染)
  • そうしたしぶき等に触れた手で口や鼻などに触れたりすることによる感染(接触感染)
  • 何らかの理由(例えば調理する人の手にウイルスが付着していた場合など)でウイルスに汚染されたものを食べてしまったりすることによる感染(経口感染)

そのため、ウイルスを含んだ飛沫やしぶきに接触しないこと、またそれが極力体内に入り込まないようにすることが、感染対策の基本となります。つまり、たくさんの人が集まる(密集)・人とごく近い距離での会話や接触がある(密接)・換気が行き届いていない(密閉)などといった「3密」にあてはまる空間を避けるとともに、マスクの着用や、手洗いによって手指に付着したウイルスを洗い流すといったことが必要になるのです。

こうしたことは新型コロナウイルスに対する感染予防策とほぼ同じです。実際、新型コロナウイルス感染症が蔓延して多くの人が予防対策した2020~2021年にかけての冬には、インフルエンザはほとんど流行しませんでした。
国や自治体から案内されている感染対策を徹底することが、夏風邪予防にもつながります。

夏風邪予防の注意点とは

夏風邪の原因であるエンテロウイルスやアデノウイルスでは、飛沫・しぶきによる拡散だけでなく、感染者の糞便から長期間にわたってウイルスが排泄され続けるという特徴があるため注意が必要です。例えば、症状が改善した後でも、長いものでは1カ月以上にわたって便からウイルスが検出されることがあり、経口感染も十分に警戒したいところです。従って、タオル等の使い回しは避け、かつ、トイレの後や多くの人が触れるものに接触した後などには石鹸で念入りに手を洗うようにしましょう。
エンテロウイルスやアデノウイルスはその性質上、消毒用エタノール(アルコール類)が効きにくいという特徴がある点に注意が必要です。これらのウイルスが手指に付着した場合の対策においては、新型コロナウイルス対策と同様に手洗いが重要となることを意識しましょう。

また、マスクの着用が奨励されている昨今ですが、適切に着用することはもちろん、使用中・使用後のマスクの取り扱い方にも気を配りたいものです。使用済みマスクの表面にはウイルスが付着している可能性があります。自分や周囲の方がウイルスを取り込んでしまうことがないように、マスクは1日に1回交換し、使用済みのものは袋に密閉して捨てるなど適切に処理するようにしましょう。また、布マスクのような繰り返し使えるタイプを使う場合も、やはり1日1回の洗濯が推奨されています。

夏風邪になってしまったら。早く治すための対処法

水分を多めにとる

夏風邪は下痢が起きることも多く、症状が続いて水分を多く排出しすぎると、体が脱水症状を起こしてしまうおそれがあります。また発熱がある場合では、汗をかくことによってナトリウムなど体の機能を維持するのに必要なミネラル分が不足してしまう可能性があります。
市販の経口補水液・スポーツドリンクなど、水分やミネラルなどが体に取り込まれやすいものを活用して、こまめに水分補給をするようにしましょう。おかゆや野菜スープなど胃腸にもやさしい食事もおすすめです。
特に高齢者はのどの渇きに気づきにくいので、1時間に1回程度、定期的に水分補給するよう心がけてください。

下痢が起きても、自己判断で下痢止めを使わない

腹痛や下痢などの症状が出ている場合には、夏風邪を含めてウイルス性や細菌性の腸炎にかかっている可能性があります。このとき起こっている下痢は、体が自身にとって有害な異物(ウイルスや細菌)を体外に追い出そうとしている結果生じるものです。そのため、下痢止め(止瀉剤)で下痢を抑え込んでしまうことは、病原体を体内に留めてしまうことにつながるおそれがあります。ただし、下痢の症状が重かったり長引いたりしている場合には、体力の消耗や脱水症状の心配があるため注意が必要です。
夏風邪の疑いがある下痢への対処法としては、やはり不足しがちな水分を補うためのこまめな水分摂取が考えられます。もし生活に影響するほどに症状がひどい、または長引いているような場合には、医療機関を受診しましょう。

食事や休養をしっかりとって体力を養う

ウイルス性の風邪に対しては一部を除いて特効薬がなく、治すためには体自体に備わっている免疫力に頼るほかありません。市販の風邪薬や医療機関で出される処方薬というのは風邪に伴う症状をやわらげるための薬であり、風邪の原因であるウイルスをどうにかしてくれるものではありません。
風邪を早く治すために必要なのは、自分の体が本来持っている免疫力を十分に発揮してくれるように体をサポートすること。安静にし、水分や栄養の補給を通して体力を養うことが大切です。
夏風邪の症状が出てしまったら、まずはゆっくり体を休めながら水分・栄養分をしっかりとり、症状がつらければ自分の症状に合った市販の風邪薬なども活用するとよいでしょう。数日経っても快方に向かわない場合には医療機関の受診を検討するようにしましょう。

参考文献

  • 厚生労働省Webサイト「新型コロナウイルス感染症について」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
  • 国立感染症研究所Webサイト「感染症情報」
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/
  • 国立感染症研究所Webサイト「アデノウイルスによる感染性胃腸炎」
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2538-related-articles/related-articles-494/10295-494r05.html
  • 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部:新型コロナウイルス感染症COVID-19 診療の手引き〔第5版〕.
  • 日本感染症学会・日本化学療法学会 JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会:JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015――腸管感染症.日本化学療法学会雑誌64(1):31-65,2016.
  • 加野・鈴木:臨牀と研究96(7):759-762,2019.
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  • 南波・和田:耳鼻咽喉科展望.51(6):456-461,2008.
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