監修
山王 直子 先生 (品川ストリングスクリニック 院長)
※ マイナビ調べ/19歳以上のマイナビニュース会員・男女309名を対象、2021年10月26日Webアンケート実施
多くの人が経験したことがあるはずの頭痛。一度頭痛が起きると、治まるまで仕事や家事が手につかず、日常生活に支障が出てしまうかもしれません。
実は日本では、成人のうち約4割が頭痛に悩んでいるという報告があります。
また、アンケート調査では、長く続くコロナ禍でのマスク生活で、3人に1人がマスク着用中に頭痛を感じた経験があることがわかっています。「マスク頭痛」という新たな言葉も聞かれるようになり、今まで以上にさまざまなことが要因となって頭痛に陥りやすい状況・環境になっていることが伺えます。
アンケート調査で、頭痛によって仕事に支障が生じるといった声が多く挙がりました。
「マスク着用中に頭痛が起きると、仕事に支障がでるので困る」(25歳・男性・石川県在住)
「会議中、マスクを外せる状況ではなく、我慢するしかなかった」(44歳・男性・栃木県)
「仕事に集中できずにミスばかりで困った」(53歳・女性・東京都)
また、頭痛が起きてもマスクを外しにくいという意見もあり、より頭痛がひどくなったり、ストレスがたまりやすくなっているという現状が浮き彫りとなりました。
では、マスク頭痛はなぜ起きるのでしょうか。
そもそも頭痛には、明確な原因疾患のない「一次性頭痛((慢性頭痛)」と脳や頭部などの病気が原因の「二次性頭痛」があります。二次性頭痛は、脳腫瘍や脳卒中、髄膜炎といった命に関わる病気が要因となっているので緊急性が高く、ただちに医師の治療が必要です。
一方、一次性頭痛には次のような種類があります。
頭部の片側、もしくは両側がズキンズキンと脈打つように痛む頭痛で、4~72時間ほど継続し、吐き気・嘔吐を伴うこともあります(脈打つように感じないケースもあります)。光や音、匂いに過敏に反応することも特徴です。前兆として視野に稲妻のような光を感じる「閃輝暗点(せんきあんてん)」が生じる人もいます。若い女性に多い傾向があり、女性の月経周期とも関連しているとされています。
頭部に締め付けられるような痛みが生じます。頭部周囲・肩・首などの筋肉の緊張やこり、血行の悪化によって起こるといわれています。
特に20~40代の男性に多く、片側の目の奥がえぐられるような激しい痛みが生じます。連日頭痛が生じる期間とまったくなくなる寛解期があるのが特徴です。
「マスク頭痛」といっても要因はさまざまです。マスクの着用が引き金となり、上記のような一次性頭痛が起こりやすくなっていることも考えられます。ここでは、マスクによって頭痛が生じる主な要因をご紹介します。
マスクを着けると、鼻周辺が覆われるため、マスクを着けていないときに比べて新鮮な空気を取り込みにくくなります。さらに、自分が吐き出した二酸化炭素がマスク内にとどまりやすく、それを再度取り込むことにもつながります。
吸い込む酸素の量が減って血中酸素濃度が下がると、脳の血管が拡張します。すると拡張した血管の周囲にある神経が刺激され、頭痛が起こりやすくなるのです。
ある調査では、マスク内では通常の空気と比べて酸素が約9割に減り、二酸化炭素が約30倍に増えるという報告※もあるそうです。
※Fernando Pifarre et al.COVID-19 and mask in sports,Apunts Sports Medicine,Volume55,2020
マスクの紐をかける耳や耳たぶの周辺には、「三叉神経」「後頭神経」「自律神経」という神経が集まっています。耳がマスクの紐でひっぱられたり、圧迫されたりすることで側頭筋という筋肉が凝ってしまい、これらの神経への刺激が生じると、頭痛が起きることがあります。
また、長時間のマスク着用で首や肩に負担が生じて、それが緊張型頭痛の原因になることもあります。
口や鼻の周囲が覆われることで、マスク内の温度は上昇しています。熱い空気を吸ったり吐いたりすると通常より呼吸が荒くなり、酸素が取り込みにくくなります。これによって血中酸素濃度が低下して血管拡張を引き起こし、頭痛が生じることがあります。また、マスクの刺激や高温多湿によって自律神経が乱れることも頭痛を引き起こす原因となります。
マスク内は、呼気に含まれる水分によって湿度が高くなります。その分のどの渇きを感じにくく、またマスクの着脱が面倒なことから、普段よりも水分補給の量・回数が少なくなりがちです。水分補給が減ることで、知らないうちに体が脱水状態に陥ることがあります。
脱水は、片頭痛を引き起こす誘因の一つとして知られています。また、脱水や高温によって熱中症の初期症状である頭痛を引き起こす可能性もあります。
新しい生活様式が求められるなか、それまでとは違った行動を余儀なくされることで、知らず知らずのうちにストレスがたまっていませんか?
たとえば、マスクで長時間顔を覆っていなければならない、マスクを外してはいけないというストレスや不快感が積み重なり、そうした心理的な要因で頭痛が起こることも。
また、マスク着用以外にも、コロナ禍で緊張状態が続いたり、慣れないテレワークで姿勢がこわばったりすることで肩や首、背中などにこりが生じ、それが頭痛を引き起こしているケースもあります。
ここまでご紹介してきたように、マスク頭痛の要因は多岐にわたります。また、複数の要因が重なって頭痛が生じている場合も。マスクによる不快な頭痛を軽減するためには、生活習慣の工夫を含めたさまざまな対策を組み合わせて対処していきましょう。
マスクによる不快な頭痛に悩んでいるなら、まずは新鮮な空気を吸うように心がけましょう。周囲に人がいない場所を選んで、一時的にマスクを外して呼吸を。その際、他者との距離が2メートルほどの十分な距離があることを確認しましょう。また、深呼吸をすると血中の酸素量が一気に増え、頭痛を助長することがあるので、通常の呼吸をするようにしましょう。
室内などで周囲との距離が取れない場合は、トイレの個室に入ったときや飲み物を飲む少しの間にマスクを外すだけでも効果があります。
なお、一時的にマスクを外すときは、次のような感染予防を徹底しましょう。
・マスクを外す手は手洗いや消毒で清潔にし、マスクの表面を触らないよう紐を持って着脱する。
・マスクを外している間に顔を触らないように注意する。
マスクによる顔や耳の圧迫が気になる場合は、マスク自体を見直してみましょう。
鼻から顎までを無理なく覆えているか(きつすぎたり緩すぎたりしないか)をチェックし、問題があれば肌に余分な刺激を与えないサイズのマスクに替える
マスクの紐の形状を見直し、不快感があれば紐が太いものや柔らかいものなどを試してみる
マスクの紐につけて耳への負担を軽減する補助ベルト(マスクベルト)を使用する
普段使用しているマスクを使いやすいものに替えると、顔や後頭部、耳への圧迫・刺激が減って、頭痛が軽減することがあります。
脱水による頭痛を防ぐため、こまめな水分摂取を心がけましょう。
また、脳に十分なエネルギーが行き渡ると、血管が必要以上に拡張しにくくなるといわれています。低血糖状態(空腹)が片頭痛を引き起こすという報告もありますので、頭痛がひどいときは、糖分を含む飲料などを適量とると良いでしょう。
長時間マスクを着用することで耳に負担がかかり、冷えて凝り固まっていませんか?耳には多くの神経やツボがあり、マッサージでほどよくほぐすことによって血行がよくなったり、自律神経が整ったりといった効果があります。マスク着用が要因となって緊張型頭痛などに悩まされている場合は、効果が感じられることもあります。
マスク着用が引き金となって頭痛を引き起こしている場合、頭痛薬を適切に利用することで症状が改善することがあります。
市販薬にも配合されている解熱鎮痛成分には、イブプロフェン、アセトアミノフェン、アスピリン、イソプロピルアンチピリン、エテンザミドなどが挙げられます。個人の体質や体調、頭痛の種類によって、効きやすい成分やそうでないものもありますので、自分の症状に合った頭痛薬を見つけることも大切です。
ただし、複数の解熱鎮痛剤を連続して服用したり、連日のように解熱鎮痛剤を服用したりすると、かえって痛みを感じやすくなり、慢性的に頭痛が生じる「薬剤の使用過多による頭痛※」を招くことがあるので注意してください。市販の解熱鎮痛剤を5~6回服用しても症状がよくならない場合やひどい頭痛が続くような場合は、我慢せずに医療機関を受診して相談しましょう。
※月に15日以上の頻度で3ヵ月を超えて解熱鎮痛剤を服用している場合などは、薬剤の使用過多による頭痛が疑われます。
アルコールの摂取によって血管が拡張し、頭痛がさらにひどくなることがあるので、できるだけ避けるのが望ましいでしょう。
また片頭痛では、特にポリフェノールを多く含む赤ワインやおつまみにしやすいチーズ(アミンを含む食物)などが誘発因子になることが報告されています。マスク着用が原因で片頭痛を起こしている場合は、これらを避けることも重要です。
血管の拡張によって頭痛が生じている場合、顔や首周りを冷やすのも効果的です。特に片頭痛では、冷やすことによって血管が収縮し、頭痛が軽減されることがわかっています。
逆に緊張型頭痛の場合には、温めるとよくなる場合もあるので、ご自身が気持ちが良い方を選ぶようにしましょう。
「マスクと頭痛に関するアンケート」調査概要
・調査対象:マイナビニュース会員 19歳以上の男女309名
・調査期間:2021年10月26日(火)
・調査方法:『マイナビニュース』会員アンケート(WEB)
参考
・『きょうの健康 2021年 9月号』NHK出版(2021)
・『クスリの効かない 新型頭痛の治し方』陣内敬文/現在書林(2020)
・『痛み・鎮痛の教科書〈しくみと治療法〉』ナツメ社(2020)
・日本職業・災害医学会会誌第69巻第1号「マスク着用による生理学的負担」
・慢性頭痛の治療ガイドライン2013