インフルエンザの症状はのどの痛みやせき、鼻水など、風邪と似た症状もありますが、全身症状や高熱をともなう場合がある点が普通感冒(風邪)と異なります。新型コロナウイルス感染症の流行とともに、インフルエンザの流行は影を潜めているとも指摘されていますが、一説には、数年間流行しなかったために人々のインフルエンザに対する免疫が低下しており、次に流行するときは大きな影響が現れるとの予測もあります。インフルエンザの症状や予防法を、今のうちにチェックしておきましょう。
監修
石田 直 先生 (倉敷中央病院 副院長兼呼吸器内科主任部長 日本感染症学会 インフルエンザ委員会 委員長)
インフルエンザは多くの場合、突然発熱し、38℃以上や、ときには40℃前後まで上がります。
このような急な発熱に続いて、頭痛、のどの痛み、関節痛、倦怠感などの全身の症状が現れます。一方、最初に現れた高熱は2~3日で下がることが多く、熱が下がった頃から、鼻水、せきなど、呼吸器の症状が目立ってきます。なお、下痢や腹痛などの消化器の症状が出ることもあります。
体の中のインフルエンザウイルスは、発症から1週間ほどで排除されます。ただし、鼻水やせきなどの症状は、ウイルスが排除された後も長引きがちです。
インフルエンザの典型的な症状は上記のとおりです。ただし、年齢や感染したウイルスのタイプによって、症状の現れ方が典型的ではないこともあります。
子どもは症状が強く現れやすく、高熱の他に熱性けいれん、気管支炎などを起こしやすいことが知られています。その理由は、子ども、特に乳幼児は初感染であることが多いため、インフルエンザウイルスに対する抗体を持っていないからです。
また、高齢者は一般的に免疫機能が弱いことから、病気が重症化したり、長引いてしまうことがあります。一旦軽快しても、新たな病気「合併症」が起きてしまうことも。インフルエンザが原因となる合併症の中で最も多いのは細菌性肺炎ですが、まれに、若い人でもインフルエンザウイルス自体が直接、肺炎を起こすこともあるため、完治するまで気をつける必要があります。
A型インフルエンザウイルスでは症状が強く現れやすく、B型ウイルスの場合は高齢者などでは軽く済むこともありますが、シーズンによっては大流行することもあります。最高体温も同様に、A型のほうが高い傾向があります。ただし、子どもの場合はインフルエンザウイルスに対する抗体を持っていないことから、B型でもA型と同程度に重くなりがちです。
一方、高齢者がB型ウイルスにかかったときの特徴として、高熱になることは少ないものの、発症初期ではなく少し遅れて発熱したり、いったん下がりかけた熱が再び高くなったりすること(二峰性発熱)があり、注意が必要です。二峰性発熱は子どもでもみられます。
発熱は、インフルエンザ発症時の特徴といえる症状です。ところが近年、インフルエンザを迅速に診断できるようになったことで、感染していても典型的な症状が現れていない人がいることがわかってきました。検査でインフルエンザ感染が確認された人の16%は無症状だった、というデータも報告されています。
ですから、感染していると必ず熱が出るというわけではありません。家庭内の二次感染(子どもから親への感染など)では6割が発熱しないという報告もあります。
インフルエンザウイルスには、A、B、Cという三つの型と、2016年に新たな型として認められたD型が存在します。これらのうち、大規模な流行を起こすのはA型とB型であり、通常はこの二つの型のウイルスによる感染症を、インフルエンザと呼んでいます。
前述のとおり、感染して発症した場合に、症状が強く現れることが多いタイプです。また、A型のウイルスは変異しやすい特徴があります。一度感染してせっかくその抗体ができたとしても、次の年には変異したA型インフルエンザウイルスに感染してしまうことが珍しくありません。
なお、現在、季節性インフルエンザとして流行を繰り返しているA型インフルエンザウイルスは、1968年に発生した香港型「H3N2」というタイプと、2009年に大流行した当時の新型インフルエンザ(現在は季節性インフルエンザの一種)の「H1N1pdm」というタイプが中心です。
さきほども少し解説しましたが、B型はA型に比べると症状がやや軽いことが多い傾向があり、特に高齢者は、高熱が現れることは少なく、反対に子どもではB型でも強い症状が現れやすいため注意が必要です。
B型インフルエンザウイルスの特徴として、A型に比べてウイルスが変異しにくいという点があります。子どもを除いてB型の症状がA型よりも軽いのは、ウイルスが変異しにくく、一度感染してできた抗体が働くためです。
C型は感染して発症したとしても、軽い症状で済みます。また、A型やB型のように、大規模な流行は起こりにくいです。ただし、子どもの間では、急性上気道炎、いわゆる風邪として、小規模な流行を起こすこともあります。
D型は2016年にインフルエンザウイルスの一つの型として認められたもので、ウシなどに感染するウイルスです。ヒトへの感染性については、感染性の可能性はあるものの病原性は不明との報告もあります。
風邪とは、主に急性上気道炎(鼻やのどの症状)を起こすウイルス感染症の症候群のことで、「普通感冒」とも呼ばれます。原因ウイルスは、コロナウイルス(新型コロナウイルスでないもの)、アデノウイルス、RSウイルスなどさまざまです。
「風邪とインフルエンザの違いは何?」という質問に対して手短に答えるなら、ポイントは二つ。一つ目は、インフルエンザは発症した場合に発熱などの症状が強く現れること、そして二つ目は、他者に感染させてしまう力が強いということです。
風邪の症状は、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、せき、のどの痛みなど上気道の局所症状が中心で、インフルエンザで見られるような全身症状はあまり現れません。また、それらはどれも比較的軽く、熱はないか出ても37~38℃くらい。強い症状に悩まされる期間も、普通は3日以内、長くても1週間程度です。インフルエンザは自己判断できないため、気になる症状があったり、感染リスクが高い場合は無理せず医療機関を受診しましょう。
〈風邪とインフルエンザ症状の違い〉
かぜ | インフルエンザ | |
症状の経過 | 徐々に悪化 | 急激に悪化 |
発熱 | ない。または37度程度 | 38度以上になることが多い*1 |
悪寒 | 軽い | 強い |
症状の現れ方 | 上気道炎症状*2が中心 | 全身症状が強い |
鼻水 | ひき始めに出る | 後から続く |
合併症 | 少ない | 肺炎などが起こる可能性がある |
発生時期・状況 | 年間を通じて散発的に発生 | 例年12~3月(ピークは1月~2月)に発生 ※4月、5月まで散発的に続くことも |
*1:インフルエンザウイルスの種類によっては微熱や発熱が見られず無症状の場合もある。
*2:上気道とは鼻腔より肺に至る気道のうち、鼻腔・副鼻腔・咽頭・喉頭までをいう。
現在では、多くの医療機関でインフルエンザの診断を受けられます。「迅速診断法」が普及しており、鼻の奥やのどを綿棒でぬぐって検体を採取し、その場でインフルエンザに感染しているかいないか、感染しているならA型かB型かまで、数分で判定してくれます。
インフルエンザの予防法は、ワクチンを中心とする医薬品による予防と、それ以外の予防と大きく二つに分けられます。医薬品によらない予防とは、皆さん一人ひとりが生活の中で気を付けるべきことです。
インフルエンザ予防の第一は、ワクチン接種を受けることです。ワクチンには、感染予防、感染した際の発症予防、発症した際の重症化予防という三つの役割があります。流行するウイルス株がワクチン株とずれてしまい、効果が下がってしまう年もあるものの、ワクチン接種によってインフルエンザの発症を約50%前後減らせることが知られています。
なお、ワクチン接種後に10~20%程度、副反応が現れるとの報告がされていますが、ほとんどは一過性で局所の反応と報告されています。
しかし、インフルエンザワクチンを受けられない人もいます。例えば、現在発熱中の人、急性疾患に罹患中の人、過去接種によってアナフィラキシーになった人などです。逆にいえば、それらの人を除き、インフルエンザの発症や重症化を回避したいすべての人に、接種が推奨されます。
ワクチン接種を受けてから、体に抗体ができて感染予防効果を得られるまでに、2~3週間必要です。流行する前に接種が完了するよう、スケジュールなどを調整しましょう。
新型コロナワクチンとの同時接種はこれまで実施が認められておりませんでしたが、令和4年7月22日開催の審議会(第33回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会)において議論された結果、実施が可能となりました。ただし、インフルエンザワクチン以外のワクチンは、新型コロナワクチンと同時に接種できません。互いに、片方のワクチンを受けてから2週間後に接種できます。
一般に使用されているワクチンは生ワクチンと不活化ワクチンという2種類に分けられます※。インフルエンザのワクチンは通常、不活化ワクチンであることが多いです。不活化ワクチンは接種間隔に制限がないため、医師が必要と認めた場合は同時接種を行うことができます。
※生ワクチンと不活化ワクチン
・生ワクチン:病原体となるウイルスや細菌の毒性を弱め、病原性をなくしたものを原材料とするワクチン。
・不活化ワクチン:病原体となるウイルスや細菌の感染する能力を失わせた(不活化、殺菌)ものを原材料とするワクチン。
家族の誰かがインフルエンザにかかったとき、うつってしまうと重症化リスクの高い人に対しては、インフルエンザの治療薬が予防目的で処方されることもあります。
インフルエンザの感染経路は飛沫(ひまつ)感染・接触感染です。こまめな手洗いや外出から帰宅後のうがいは、感染症対策の基本です。
※飛沫感染と接触感染
・飛沫感染:咳・くしゃみ・会話などに伴うしぶきによって病原体が広まる
・接触感染:手指・食品・器具を介して病原体が広まる
マスクを着けることによって、冷たく乾燥した空気から受けるダメージを抑制でき、のどや鼻の粘膜がもっている感染防御の仕組みを守るのに役立ちます。また、かかった人がマスクをすることで、他の人にうつしてしまう確率を下げることができます。
睡眠不足からくる疲れとストレスは、免疫の働きを弱めてしまいます。質の高い睡眠は、インフルエンザに限らず感染症予防の大切な要素です。インフルエンザにかかってしまった場合も睡眠を十分にとることが必要不可欠です。日常生活から睡眠時間の確保に努めましょう。
栄養の偏りや食べすぎは、体の調子を崩す原因。お酒の飲みすぎも同様です。免疫の力は、体の状態に左右されます。ですから偏食・暴飲・暴食は控えましょう。
また、粘膜の健康に必要なビタミンB群が不足しないようにしましょう。特にインフルエンザなどに感染してしまった場合、体力が消耗してしまうだけでなく、食欲低下により食事だけでは充分な栄養素量を摂れないこともあるため、ビタミンCやB1が配合されたものを補助的に活用するのも良いでしょう。日頃からバランスの良い食事をすることに気をつけ、意識してビタミンを摂取しましょう。
睡眠や食事と並んで、体の状態を整えるために、適度な運動も大切です。
呼吸器の感染症は、ウイルスを持っている人のせきやくしゃみの飛沫を吸い込んでしまったときに、うつることがよくあります。コロナ対策と同じように、「三密」を避けましょう。
インフルエンザウイルスは乾燥に強いため、空気が乾燥していると、インフルエンザに感染しやすくなると考えられています。加湿器などを使って適度に加湿しましょう。また、気温が低いと、鼻・のど・気管などの病原体に対する防御力が低下してしまうため、室温を20~25度に保ち、部屋を暖かくしておくこともインフルエンザ予防には効果的です。
タバコは血管を収縮させ、血液の流れを悪くし、さまざまな病気のリスクを高めます。また、のどや肺に炎症を引き起こし、ウイルスに対する抵抗力を弱めてしまうため、喫煙は控えるのが良いでしょう。
ワクチン接種を受け、予防に努めていても、インフルエンザにかかってしまうことはあります。インフルエンザ治療薬の有効性は、発症から48時間以内に服用した場合に発揮されるため、インフルエンザと思われる症状が現れたら、早めに受診しましょう。
また、インフルエンザにかかってしまった場合、免疫力を高めるために体を温かくして安静に保ったり、熱による脱水症状を防ぐために水分とミネラルを補給するなどのセルフケアを心がけましょう。
日本医事新報社「インフルエンザ/新型コロナウイルス感染症診療ガイド」
日本臨床内科医会インフルエンザ研究班「インフルエンザ診療マニュアル(第16版)」
日本臨床内科医会「わかりやすい病気のはなしシリーズ33 インフルエンザ」(https://www.japha.jp/doc/byoki/033.pdf)