長時間にわたりデスクワークをしたり、スマートフォンなどの画面を見続けたりすることで、肩から背中にかけての違和感やこり、痛みが生じることがあります。ここでは、背中の痛みの原因や予防法、改善するための対処法などをご紹介します。
監修
手塚 正樹 先生 (高砂慶友整形外科 院長)
背中の痛みとひとことで言っても、肩甲骨あたりや、みぞおち周辺の背中側など痛む場所は広い範囲に及びます。背中の痛みはこりや筋肉痛などからくるものが多く、大半は気にしなくてよいのですが、なかには脊椎(背骨)や内臓の疾患によるものなど、治療が必要となる重大な疾患につながっていることがあります。
背中の筋肉が過剰な運動によって疲労し、緊張を強いられることで痛みが引き起こされます。背中に無理な力がかかるような動作を行っても、それが負担となって急性の背部痛を招くことがあります。
デスクワークやパソコン作業などで長時間同じ姿勢でいると、首や肩、背中の筋肉に緊張が続き、血行が悪くなることで老廃物質がたまって、こりの症状が現れ、痛みが生じることがあります。
また、姿勢が悪いままでスマートフォンやテレビなどの画面を見続けたりしても、同様にこりの症状から痛みが出てきます。
※以下の疾患は、医師の診断が必要です。
下記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。
骨と骨をつないでクッションの役割を果たしている椎間板に亀裂が生じて、椎間板の中身が飛び出した状態をいいます。
飛び出した部分が神経を圧迫して、主に背中、腰にかけての痛みや足指のしびれ、坐骨神経痛と呼ばれる片側の足の後ろ側の痛みやしびれが生じます。若い人にも比較的多く、動くと背中から腰、足にかけて激痛とつっぱりが起こり、ときには動けなくなることもあります。
自動車の追突事故やラグビーなどのスポーツで激しく衝突したときに起こることが多く、“むち打ち症”とも呼ばれます。
首がむちのようにしなり、それにつれて頭が振られるために頚椎の関節や筋肉が損傷されます。首の痛みや熱感、肩こりだけでなく、背中の痛みや腕の痛み、しびれなどの症状があらわれます。損傷がひどい場合には頭痛や吐き気、めまいなどを伴います。
加齢とともに脊椎(背骨)が変形することで起こります。多くの場合、頸椎の骨と骨の間にある椎間板が薄くなって弾力が減少し、椎間板に接している椎骨がトゲのように変形します。このトゲが頚椎の間から肩に向かって出る脊髄神経を圧迫して刺激します。
主に、腰が重い、だるいなどの鈍い痛みがあり、椎間板の変化が進むと腰や背中の痛み、動きづらさなどの症状があらわれることがあります。ひどくなると、痛みがお尻から足にかけて出ることもあり、特に朝起き上がったり、寝返りを打ったりする際に起こります。腰が冷えることも痛みにつながります。
年齢とともに骨量が減少して骨がスカスカになり、日常のささいな動きで小さな骨折を起こしやすくなります。自分の体重が支えきれず圧迫骨折を起こすことも多くあります。圧迫骨折は背骨が最も多く、腰や背中が痛くなります。背中や腰が痛くなった後には、背中が丸くなったり身長が縮んだりします。
腎臓の働きの一つに、血液中の老廃物や塩分をろ過し、尿として体の外に排出することがあります。血液からろ過されて生じた尿が集まる腎盂という部分や腎臓そのものが細菌に感染して急に発症する病気が急性腎盂腎炎です。頻尿、残尿感、排泄時などの痛みや、悪寒を伴う高熱、むかつき、嘔吐、全身のだるさ、背中から腰にかけての痛みなどがあらわれます。
体の中にひっそり住みついていた水ぼうそうのウイルスが、体の抵抗力が低下したときに再び活性化して起こります。神経痛のような激しい痛みを伴う小さな水ぶくれが、体の左右どちらか一方の神経に沿って帯状にあらわれることからこの病名がつけられました。赤い斑点と小さな水ぶくれは胸から背中にかけてあらわれることが多く、帯状疱疹が治っても痛みが残ることがあります。
この疾患・症状に関連する情報はこちら。 帯状疱疹(帯状ヘルペス)(全身)
尿の中に含まれているシュウ酸や尿酸などが結晶化して石のように固まったものを結石といいます。結石がある場所によって、腎結石、尿管(腎臓と膀胱をつなぐ管)結石となります。
結石が腎臓にあるうちは痛みがなくても、尿管まで流れ落ちる尿管結石になると激痛を伴うようになります。冷や汗や吐き気を伴い、背中に鈍い痛みが走る場合や、背中からわき腹にかけて突然激しい痛みが起こる場合があります。また、血尿や頻尿、残尿感などが見られることもあります。
脂質の消化を助ける胆汁が胆道の中で固まると胆石になります。胆石ができた場所によって胆のう胆石、胆管胆石とよばれます。症状がほとんど見られない場合もありますが、胆石発作と呼ばれる激しい腹痛があらわれる場合もあります。
胆石発作では、右の肋骨の下(みぞおち辺り)に激しい痛みや、発熱、吐き気、嘔吐がみられ、代表的な症状としては右肩や背中に響くような痛みが挙げられます。胆汁の流れが悪くなり黄疸が起きると、顔が黄色くなったり、尿の色が濃くなったりします。
狭心症は、心臓に血液を送り込む血管(冠動脈)が動脈硬化によって狭くなり、心臓の筋肉に一時的に十分な量の血液を送れなくなることで発症します。胸が締め付けられるような痛みや圧迫されるような痛み、呼吸困難、動悸などが発作的に起こります。人によっては奥歯が痛くなったり、肩、腕、背中などに痛みを感じたりすることもあります。
心筋梗塞は、冠動脈に血の塊が詰まって血管が完全に閉塞し、血流が途絶えてしまい心筋が壊死を起こした状態をいいます。非常に強い胸の痛みがあり、首や背中、左腕などが痛くなることもあります。
狭心症も心筋梗塞も、胸の痛みだけでなく、背中や肩などにも痛みが生じるという特徴があります。
背骨(脊椎)や脊髄(背骨の中に通っている太い神経)にがんができたり、がんが背中の骨に転移すると背中が痛くなることがあります。また、食道や膵臓などのがんも背中の痛みの原因になることがあります。
食道がん
初期にはほとんど自覚症状はありませんが、がんが進行すると飲食物がつかえる感じや体重減少、胸や背中の痛みなどの症状が出ることがあります。
胃がん
初発症状としてみぞおちの痛みと胃部膨満感が多く見られ、がんが進行してくると吐き気、嘔吐、胸やけ、全身倦怠感などの諸症状にあわせて背中の痛みや貧血などがあらわれることがあります。
膵がん
初期には無症状ですが、進行すると腹痛、食欲不振、満腹感、背中の痛み、短期間での体重減少などがあらわれます。膵臓は血糖値をコントロールするインスリンを分泌しているので、糖尿病になったり、急激な糖尿病の悪化を引き起こすこともあります。
腎がん
腎臓は体の奥深くにあるので、がんが大きくなるまで多くの場合は症状がありません。進行すると背中に鈍い痛みを感じることや、血尿、腹部の痛みなどがあらわれることがあります。
※上記以外のがんでも背中が痛くなることがあります。
デスクワークなどにより同じ姿勢を長時間続けることで背中がこってしまっている場合は、日常生活の中で入浴や睡眠、休養などに十分注意することで、解消できることが少なくありません。なかなか寝つけないという人は、寝室の環境を見直してみることもお勧めです。明るさや気温、騒音など就寝時の環境が眠りに影響を与えることもあります。快適に落ち着いて眠れる環境を考えてみましょう。
また、背中を温めて血行を良くしたり、市販の薬を使ったりすることでも症状の改善が期待できます。
患部を冷やして炎症を抑える
過度な運動などで背中に急激な痛みを感じる場合や、痛みのある部分が熱を持っていると感じる場合は冷やします。冷却パックやエアゾール剤、冷やすタイプのパップ剤を利用するとよいでしょう。
背中を温めて血行を良くする
背中の痛みがあらわれた直後は炎症を鎮めるために冷やしますが、炎症が軽減してきたら血行を良くして回復を促すために、蒸しタオルや使い捨てカイロなどで温めましょう。ぬるめのお湯にゆっくりと浸かり、しっかり温めるのも効果的です。
ほど良い刺激のマッサージを受ける
ほど良いマッサージは、血行を良くして回復を促す効果があります。周囲の人にマッサージをしてもらう場合や、自分で行う場合は、さする、軽く押す、もむ程度の軽い刺激にとどめておくのがよいでしょう。痛みを感じるほどのマッサージは、筋肉によけいな緊張や局所的な疲労を与えたり、小さな傷をつけてしまったりすることがあります。
市販の薬を使う
背中のこりによる炎症と痛みを抑えるには、鎮痛消炎成分であるインドメタシンやフェルビナクなどを配合した外用鎮痛消炎薬(貼付薬、ゲルなど)を用います。頭痛や頭が重い感じが伴う場合は、イブプロフェンなどの成分が配合された鎮痛消炎薬を服用するのも効果的です。
さらに、ビタミンB1、B6、B12などの有効成分を配合したビタミン剤やこれらにビタミンEを含むものも、肩のこりや背中などの筋肉痛、腰痛、眼精疲労、神経痛、手足のしびれに効果があります。
患部が腫れて熱を持ち痛みが続くときや腰や足のしびれを伴うとき、むち打ち症で首や肩が痛むときなどには、早めに整形外科などの診察を受けましょう。また、胸の痛みや腹痛を伴う背中の痛みは内科、婦人科、泌尿器科などの病気が隠れている可能性があります。一度、医療機関を受診しましょう。
同じ姿勢で長く立ち仕事をする調理台やアイロン台などは、前屈みにならないよう補助台を置くなどして自分に合った高さに調節する工夫をしましょう。
パソコンの画面との距離を40cm以上離し、目線が下になるように位置を調節し、背筋を伸ばして椅子に深く腰掛け、キーボードは自然に手を置いたときに肘の角度が90〜100度くらいになるようにすると体への負担が少なくなります。
日頃から肩から背中の筋肉を鍛える運動を心がけましょう。床にうつ伏せになり、両腕を前に伸ばし(顔も前に向ける)、両腕を床から上げられるところまで上げて数秒間保つ「腕上げ運動」などにより背中の筋肉を鍛えることができます。
ただし、痛みが強いときは決して無理をしないことが大切です。
長時間同じ姿勢でいると、背中や腕の筋肉が緊張してこりを感じます。腕の骨と背中・骨盤をつなぐ広背筋を伸ばすことで、肩を上に動かす筋肉(僧帽筋)がほぐれます。両方の手のひらをデスクにつき、肘を約90度に曲げて、顔は右を向きながら左の肩を前方に突き出した姿勢を10秒間保ち、元に戻します。右肩も同様に行い、左右交互に2,3回繰り返しましょう。簡単なストレッチは筋肉の緊張がやわらぐので続けてみましょう。
入浴はぬるめのお湯にゆったりと浸かりましょう。血行を促進して背中の筋肉の疲れやこりを改善することができます。入浴中に背中を伸ばしてストレッチをすると、さらに血行改善の効果が期待できます。
掃除や洗濯、料理など家事をしているときの自分の姿勢を思い出してください。中腰になっていることが多くありませんか? 中腰は背中や腰に大きな負担をかけるので、背中や腰の痛みを引き起こす大きな原因になっています。
冷蔵庫の下段から食品を取り出すときは膝をつく、掃除機をかけるときは柄の長さを調節するなど、体への負担を軽減できるよう少し工夫をしてみるとよいでしょう。
※画像はイメージです