呼吸困難
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呼吸困難

肺や気管支に異常があったり、心臓の機能が弱まって酸素を運ぶ血液が全身に十分に行きわたらなくなると、酸素不足になります。呼吸は普段無意識のうちに行われていますが、酸素不足になると、呼吸に努力が必要になるようになります。これが呼吸困難で、少し時間的に短くやや軽めの状態を息苦しさということもあります。食物や薬のアレルギーによって引き起こされたり、精神的なストレスによって起こることもあります。

井上修二 先生

監修

井上修二 先生 (いのうえしゅうじ) (共立女子大学名誉教授、医学博士)

呼吸困難の原因はストレスやアレルギーなどが考えられる

強い不安や恐怖を感じたことによる精神的なストレス

強い精神的なストレスによって、発作的に呼吸が速くなり酸素が過剰に取りこまれ、呼吸困難を起こすことがあります。また、強いストレスなどが原因で激しい不安感や恐怖感に襲われ、動悸や呼吸困難が起こり、ひどいときは意識障害に陥ることがあります。

換気の悪い室内や気圧の低い高地での酸欠状態

密閉された空間や換気の悪い場所では、空気中の酸素濃度が低くなり、呼吸困難に陥ります。高地などの酸素が希薄な場所では、体がその環境に順応できずに呼吸困難を起こす場合があります。症状には個人差がありますが、一般に血液中の酸素濃度が18%未満になると、息苦しさを覚え、呼吸や脈拍が速くなり、頭痛や吐き気、集中力の低下などが起こるといわれています。

アレルギーを起こしやすい体質とアレルギーの関与

特定の原因物質に対して、体の免疫システムが過敏になるのがアレルギーですが、その反応が強く出すぎた場合に、肺への空気の通り道となる気管支が狭まって呼吸困難が起こることがあります。アレルギーによって起こる呼吸困難としては喘息が知られていますが、小麦や鶏卵、牛乳などの食物アレルギーの強い反応によっても呼吸困難などの呼吸器症状を起こし、生命に関わることもあります。ほかに、ハチの毒、天然ゴムのラテックス、薬などによるアレルギーの強い反応でも呼吸困難が起こることがあります。

タバコの煙、粉塵の刺激、大気汚染による呼吸器へのダメージ

タバコの煙や大気汚染、粉じんは肺や気管支などに悪影響を与えます。タバコの煙や粉じんなどによって気管支や肺胞が刺激され炎症が起き、それが長い期間続くと慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器の病気になることがあります。タバコや粉じんなどを長期間、吸っている人や過去に吸っていた人は、なりやすいことがわかっています。

呼吸困難の原因となる疾患

自然気胸や肺塞栓症などの呼吸器疾患があると、酸素の取り込みと交換ができなくなるために体内に酸素不足が起こり、呼吸困難の原因を引き起します。心臓のポンプ機能が低下する心不全に至ると、肺に送る血液量が減少し、肺での酸素と二酸化炭素の交換が不十分な状態となります。その結果、全身に十分な酸素が送れなくなるため、呼吸困難が起こることがあります。また、心臓の冠動脈が血栓によって血流が完全に途絶えて、心臓の筋肉が壊死する心筋梗塞や心臓弁膜症、心筋炎などの心臓の疾患が悪化して心不全に陥ると呼吸困難を起こす原因になることがあります。

呼吸困難に加えて嘔吐や痛みなどの症状を伴うときに考えられる疾患

※以下の疾患は、医師の診断が必要です。
下記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

過換気症候群(過呼吸症候群)

過剰な精神的ストレスが引き金となって、突然浅く速い呼吸を繰り返す疾患です。動悸や酸欠状態のような息苦しさがあります。呼吸の回数が増えることによって血液中の二酸化炭素が過度に減少し、めまい、手足のしびれや筋肉のこわばりなどが生じます。息苦しさやこのまま死んでしまうのではないかという不安感から呼吸をしようとして、さらに呼吸のスピードが速まる悪循環に陥ることもあります。早まった呼吸を低下させるためには、紙袋で口と鼻を覆い、呼吸をするペーパーバック法が有効です。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

COPDは気管支に慢性的な炎症が起こる慢性気管支炎と、酸素と二酸化炭素を交換する肺胞が壊れて呼吸ができなくなる肺気腫の総称で、長年の喫煙習慣が原因の90%をしめる疾患です。近年増加しており、現在では世界の死亡原因の第4位となっています。喫煙によって慢性気管支炎になり、せきやたん、息切れが続くようになります。30〜40年近くかけてゆっくりと肺の機能が低下して徐々に呼吸が苦しくなり、呼吸困難を起こします。完全に回復することはなく、最終的には呼吸不全になります。

気管支喘息

アレルギーなどによって気管支が炎症を起こして狭くなり、息が苦しくなる発作を繰り返します。喘息の発作時には、のどが詰まる感じがあらわれ、次いでせき、たん、ゼイゼイ、ヒューヒューという呼吸音(喘鳴・ぜんめい)、呼吸困難が続きます。息を吸うときより吐き出すときの方が苦しくなるのが特徴です。

この疾患・症状に関連する情報はこちら。 喘息

肺結核

結核菌という細菌に肺が感染して起こり、せき、たんや肉眼では確認できない微量の血が混じったたん、微熱などの症状が2週間以上続きます。その他、発汗、呼吸困難、食欲不振などの症状があらわれます。結核菌は、せきなどによって感染が広がる可能性がありますが、初期症状が軽いため、感染に気付かないこともあります。感染者数は一時減少したものの、最近では療養施設等でのお年寄りの集団感染や、新しい結核菌の登場によって再び増加しています。

間質性肺炎

鼻から入った空気は気道を通過して最終的には肺胞にたどりつきます。ぶどうの房のような肺胞は、酸素を取り込み、体の中でできた二酸化炭素を交換する役割をしています。この肺胞の壁(間質)に何らかの原因で炎症が起こり、壁がだんだん分厚くなり、ガス交換の機能が低下する疾患です。息苦しさや呼吸困難を引き起こし、さらに乾いた咳がみられ、進行すると呼吸不全に陥るので危険です。原因が不明なものもありますが、抗生物質や漢方薬などの薬の服用によっても起こる場合があります。

自然気胸

胸腔内に空気がたまり、肺が虚脱した状態です。肺内の嚢胞(のうほう)という大きな空気の袋の破裂が原因で、タイヤがパンクしたときのように肺が急速にしぼむ疾患です。その際に激しい胸の痛みが起こり、せきが出て呼吸が困難になり、呼吸不全で死に至ることもあります。片方の肺にだけ起こることがほとんどですが、両方の肺に同時に起こることもあります。20代前後、60歳代のやせ型の人に多くみられます。

肺塞栓症

血の固まりである血栓が肺動脈に流れ込み、詰まった状態です。足の静脈にできた血栓がはがれ、肺動脈に流れ込むことによって起きます。この疾患は肥満や加齢とともに、長時間同じ姿勢で座っていたり、点滴時の大量の空気混入が原因となって起こる場合もあります。急激な呼吸困難や胸の痛み、せき、血たんなどの症状があらわれたり、血圧が低下してショック状態になり、突然死することもあります。

心不全

心筋梗塞や不整脈などのさまざまな心疾患が原因で、心臓の機能が低下し、体に十分な血液を送り出すことができなくなった状態です。全身の血液循環が悪くなるために肺に血液が溜まって急激にうっ血が増すと、肺水腫による重度の呼吸困難やショック症状が起こることがあります。胃腸や肝臓にうっ血が起こると、食欲不振や嘔吐、腹部膨満感などもみられるようになります。

心臓弁膜症

心臓にある4つの弁の中で全身血流に影響の大きい2つのいずれかの弁が十分に開かなかったり、弁がきちんと閉じなくなり、血液が逆流したり、一部が漏れでたりする疾患です。弁が狭まり血液を押し出すために高い圧力が必要になったり、せっかく押し出した血液が押し戻され、効率よく血液を送り出すことができず、心臓に負担がかかり心不全となります。息切れ、動悸、むくみ、脈の乱れや胸痛などの症状があらわれます。

心筋炎(特発性心筋炎)

心臓の筋肉(心筋)が、風邪の原因となるウイルスなどに感染して、炎症を起こす病気です。リウマチなどでも起こることもあります。風邪と似た、発熱や頭痛、だるさ、咳などの症状が1〜2週間続きます。さらに息切れ、息苦しさ、動悸、むくみ、脈の乱れや胸痛などの症状があらわれます。

心嚢(膜)炎

心臓を外側から包む心嚢(膜)に炎症が起こります。細菌やウイルス感染、心筋梗塞や膠原病(こうげんびょう)の合併症として起こることが多くあります。心臓前面の胸骨に沿って、痛みが起こり、息を深く吸ったり横向きに寝たりすると痛みが強まります。心膜腔内に溜まった液が、気管や肺を圧迫するため、呼吸困難やせきなどの症状が出ます。

※以上の疾患は、医師の診断が必要です。
上記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

軽い呼吸困難の対処法は安静、胸の痛みや高熱をともなうときは病院へ

気持ちを落ち着かせる

息が苦しくなると、恐怖や不安によってパニックが起こるなど、症状が悪化してしまうことがあります。そうならないように、気持ちを落ち着かせて、安静にするようにしましょう。このようなときに歩いたり動いたりすると、症状が悪化しますので、急激な動作を避けることも大切です。

楽な姿勢にして新鮮な空気を吸えるようにする

ベルトやネクタイ、ボタンをはずすなど衣類を緩めて、全身をゆったりさせ、楽に呼吸ができるように、頭を高くしてあごをあげましょう。また、空気の良いところに移動させたり、部屋の中の換気を行うなどして、新鮮な空気を吸えるようにしましょう。

鼻づまりやのどの詰まりに注意する

鼻が詰まっていたり、痰や嘔吐物などがのどに溜まっていると、呼吸が苦しくなります。頭を下にして胸をたたいて、のどにつかえているものを取ったり、吸引するなどして、解消するようにしましょう。

病院で診察を受ける

呼吸困難の症状が起こる原因のほとんどは呼吸器の疾患や心臓の疾患が関わっています。胸の激しい痛みをともなう呼吸困難を訴えている場合は心筋梗塞の可能性があります。また、高い熱をともなうようなときは肺炎などの感染症を合併していることが疑われます。そうした状況では、心臓や肺の専門の循環器科や呼吸器科医師の治療を受ける必要があります。一刻も早く受診しましょう。

ストレスのケアや生活習慣の改善で呼吸困難の予防を

精神的なストレスを解消して溜めこまない

精神的なストレスは、呼吸困難を起こす過呼吸症候群の直接的な原因となります。また、気管支喘息を悪化させる要因としてストレスが挙げられます。さらに、心臓の疾患に結び付く生活習慣病は、精神的なストレスが影響します。趣味などストレスを発散できる方法を持つ、リラックスタイムをもうける、相談相手を持つなどで上手にストレスを解消するようにしましょう。

肺の疾患や生活習慣病に悪いタバコを止める

タバコの煙には、多くの化学物質が含まれており、とくにニコチンやタール、一酸化炭素は、健康に悪影響を及ぼすとされています。気管支に慢性的な炎症を起こして傷つけたり、肺胞をこわしたりします。これらの悪影響は、受動喫煙によっても起こります。また、タバコは肺の疾患だけでなく、生活習慣病にも影響を及ぼします。

適度な運動や食生活など生活習慣を見直す

狭心症や心筋梗塞などの疾患は、動脈硬化によって引き起こされます。その動脈硬化は、生活習慣が大きく影響しています。糖分や脂肪分の多い食事やカロリーのとりすぎを改め、バランスのとれた食事を適度にとるようにしましょう。また、適度な運動を習慣にして、肥満を防ぐようにしましょう。

ダニなどのアレルギー源を寄せ付けない、増やさない生活環境をつくる

ダニなどのハウスダストは、気管支喘息などのアレルギーの原因物質となり、発作による呼吸困難を誘発する一因となります。気密性の高い住宅では、とくにハウスダストが発生しやすいため、室内の通気を良くする、掃除機でしっかり吸い取るといった対策が大切です。

急激な温度差、動作を避ける

大きな温度差を急に感じたときには、気管支喘息の発作が起こりやすくなります。寒い場所に移動する際には、マスクをするなどして、冷たい空気がのどを直接刺激しないようにしましょう。また、気温が大きく下がったときには、心臓に負担がかかり狭心症や心筋梗塞を誘引します。とくに夜間のトイレなどは要注意です。部屋と廊下やトイレなどの温度差をできるだけ少なくする工夫をしましょう。

飛行機内では水分を補給し体を動かす

海外出張や旅先での移動手段となる飛行機の中では、長い間体を動かさない状態が続きます。狭い座席で腰にシートベルトを締め、長時間座っていると下半身の血流が悪くなることで血栓をつくり、その血栓が肺動脈に流れ込み血管をふさぐ肺塞栓症を引き起すことがあります。水分を十分に補給し、時どき座席を離れ歩くようにしましょう。下半身の血流を良くすることで、血栓の予防になります。ちなみにこの症状をエコノミー症候群ともいいますが、必ずしもエコノミー席を利用したための特有の症状とは限らないようです。

プチメモ重症の呼吸困難は救急車による搬送を!

重症の呼吸困難は救急車による搬送を!

周りの人が呼吸困難を訴えたときには、まずはどんな呼吸をしているか、胸の痛みなどがないか、意識のレベルなどを確認するようにしましょう。とくに、意識がもうろうとしていたり、呼吸が極端に速かったり浅かったり、苦しくて横になれず、座った姿勢をとりたがるような場合は重症です。そうしたケースでは、ためらわずに救急車を呼ぶようにしましょう。酸素吸入器がある救急車の方が万一の危険性が少ないため、自分の車で運ぶより安全です。