高齢者の不眠を考える〜その予防と対処法〜

高齢者不眠の予防と対策~『睡眠障害対処 12の指針』~
東京医科大学睡眠学講座  教授
医療法人社団絹和会  理事長
公益財団法人神経研究所
附属睡眠学センター  センター長
井上雄一先生

高齢者での不眠

高齢者で不眠に悩まれる方が多い背景には、若い人にくらべ睡眠のリズムが変化すること、運動量が減ってくることに加え、他の病気の影響も受けるということを忘れてはいけません。高齢者であれば例えば、肩が痛い、腰が痛い、胃が悪い、血圧が高いといったことを1つ又は複数抱えている方が多く、さらにその個数が多いと、不眠になる人の割合が増えます。また、様々な病気を抱えることが多い高齢者では、病気による痛みなどで寝返りをうてなかったりということも睡眠に影響します。また、服用している薬も多く、その中には睡眠に影響するものもあります。

特に高齢者では、「不眠」は眠れないことだけでなく、心身にさまざまな影響を及ぼすことに気をつけなければなりません。例えば、血圧が上がる、血糖値が上がる、気分がうつぎみになるなどの影響があります。せっかく血圧や糖尿病を治療していても不眠があることで悪影響を及ぼすこともあるので、早めに不眠の治療をした方がよいでしょう。寝不足が続いて、集中力、判断力が落ちてきたと感じたり、風邪を引きやすくなったりしたら、それは治療を始めるべきタイミングと思ってください。

慢性的な睡眠不足は心身にさまざまな影響を及ぼします。
・集中力、判断力の低下
・気分がうつぎみになる
・血圧が上がる
・血糖値が上がる
・免疫機能の低下
・食欲が亢進する
・生活習慣病や心疾患のリスクが高くなる

高齢者で特に注意すべきポイント〜睡眠障害対処12の指針より

不眠に悩んでいらっしゃる方に知っていただきたい睡眠障害対処12の指針(睡眠障害の対応と治療ガイドライン)より、高齢者の場合について特に注意すべき点について、ご紹介します。

睡眠障害対処12の指針

8時間寝なければ・・・こだわっていませんか?

睡眠時間については、よく言われる、「1日8時間睡眠」というのは1日を3等分しただけであり、これ以外に意味があるわけではありません。睡眠時間は人それぞれ異なっています。
現在、日本人の平均睡眠時間は、およそ7時間になっており、高齢者の方はそれより少し短くなっています。高齢になると働いているときに比べ運動量が減るため、必要な睡眠量も減ってきます。若い頃の睡眠パターンを考え、年をとった今のほうが活動量が少ないのであれば、睡眠時間が若干短くてもいいのです。
「8時間寝なければ…」と焦れば焦るほど、眠れなくなってしまいますので、昼間元気に、パッチリ目が開いて、いろいろなことができるようであれば、睡眠時間にはこだわらなくてかまいません。

光を利用して体内時計の調節を!

高齢者の体内時計のリズムは前にズレやすく、早寝早起きし過ぎてしまう方が多いですが、これを直すためには、光で調整するのが大切です。光を朝に浴びるとリズムが前に動きます。夕方に浴びると、後ろにズレます。朝の目覚めが早すぎる人は、あまり朝に光を浴びない方がよいといえます。

食事と運動習慣は規則正しく!

食事は3度きっちり食べることが大切です。また運動習慣は体が疲れ眠りやすく、ぐっすり眠れることにつながります。朝散歩したり、走り込んでいるご高齢の方も多くいらっしゃるようですが、朝の目覚めが早すぎる傾向がある方は夕食の前後あたりに移すのがよいでしょう。また、寝酒ですが寝つきは良くしますが、眠りが浅くなり夜中に目が覚めてしまう原因にもなり、かえって不眠のもととなります。寝酒は睡眠薬の代わりにはなりませんので、はやめに医師に相談しましょう。

高齢者での睡眠薬使用上の注意

高齢者での睡眠薬使用上の注意
		・代謝が遅くなっているので、お薬がカラダから抜けにくい。用量調節は医師に相談を
		・ふらつきへの注意が最重要 ⇒夜中にトイレに行く時は、必ず明かりをしっかりつけること高齢者は、お薬の代謝、カラダからの排泄が遅くなっているので、お薬の効果が翌日残りやすい方が多いです。1錠で効きすぎたり、翌日眠気が残る、お薬でふらつきが出る場合は医師に相談しましょう。

睡眠薬に対する認識の混乱
		●不眠治療(特に初期治療)には不可欠
		●習慣性・依存性に対する不安
		このジレンマが、不眠症を慢性化・悪化させる「眠りたいけど、睡眠薬はやめれなくなるんじゃないかと怖い」というように悩むジレンマが不眠症を慢性化させたり、悪化させる原因にもなります。
最近では様々なお薬がありますので、一人で悩まず、医師の指示にしたがって、それぞれにあった方法やお薬で早期に治療することが大切です。

早めに対処・医師に相談を
不眠に悩んでいらっしゃる方は、睡眠障害対処12の指針を参考に生活習慣を見直し、不眠が改善しない場合は早めに医師に相談しましょう。また、特に睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感、十分眠っても日中の眠気が強い場合は早めに専門医に相談しましょう。
睡眠障害対処12の指針

睡眠障害対処12の指針

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