ADHD(注意欠如・多動症)の症状に対して、効能・効果が承認された市販薬(一般用医薬品)は存在しません。
ADHDの治療に用いられる薬剤は、いずれも医師の診断にもとづいて処方される医療用医薬品であり、ドラッグストアなどで購入できるものではありません。
また、サプリメントについても、ADHDの症状を改善することが示されているものはないというのが現在の科学的な評価です。
そのため、「ADHDが治る」「ADHDに効く」と紹介しているサプリメントや健康食品などには注意が必要です。
一方で、バランスのよい食事や十分な栄養が、心身の健康を支える土台であることは、ADHDの特性の有無にかかわらず誰にとっても変わりません。
特に、ADHDの特性がある方は、不注意や多動、それに伴う日常生活の困難感から、さまざまなストレスや葛藤を抱えていることも少なくありませんので、日々の栄養補給で健康的な身体作りを意識することが重要です。
そこでこの記事では、ADHDと市販薬・サプリメントの関係を整理したうえで、ビタミンをはじめとする栄養との向き合い方について解説していきます。
ADHDに関する正しい知識を得たいという方は、ぜひ最後までご覧ください。
ADHDに使える市販薬はあるの?

ADHDの薬物療法は、環境調整や行動療法など薬物療法以外の取り組みを行っても十分な効果を示さない場合に使用されるものであり、いずれもADHDに関連する脳のはたらきを整える作用を有する主な薬剤です。
- メチルフェニデート塩酸塩
- リスデキサンフェタミンメシル酸塩
- アトモキセチン
- グアンファシン
これらは医師が診断を行い、本人の状態を確認したうえで処方するものであり、効果の出方や副作用のあらわれ方には個人差があるため、継続的に経過を確認しながら調整していく必要があります。
そのため、ドラッグストアや薬局で購入できる一般用医薬品(市販薬)のなかに、ADHDの症状に対する効能・効果が承認されたものはありません。
ADHDの薬物治療を受けるには、医療機関で適切な診断を受けたうえで、医師に薬を処方してもらう必要があります。
「ADHDに効く」というサプリメントや健康製品には注意
インターネット上では、「落ち着きが出る」「うっかりミスが減る」等といった表現で、ADHDを連想させる製品が紹介されていることがあります。
しかし、こうした表現をうたう健康食品やサプリメントには注意が必要です。
日本において、ADHDに対する効果・効能が承認された医薬品は限られており、市販薬やサプリメントなどでADHDに対する効果が認められたものはありません。
海外の医薬品を個人輸入するのは危険
インターネットなどを使用して、海外から医薬品等を個人輸入するのは危険です。
政府広報オンラインでも、海外からの医薬品の個人輸入については、健康被害などのリスクがあるとして注意が呼びかけられています。
また、海外の健康食品(サプリメントを含む)のなかには、品質管理や製造工程などの信頼性が不十分なものも存在します。
さらに、個人輸入で購入した医薬品による健康被害は、医薬品副作用被害救済制度の対象とならない場合があります。
万が一のときに公的な救済を受けられない可能性があるという点も、大きなリスクです。
適切にADHDの治療を行うためにも、自己判断で海外の医薬品を個人輸入せず、必ず国内の医療機関に相談するようにして下さい。
ADHDに対してビタミンや栄養はどう活用すればいい?

ここまで見てきたとおり、市販薬やサプリメントがADHDに直接的に効果を示すわけではありません。
それどころか、「ADHDに効く」と誇大広告を行う健康食品には十分な注意が必要です。
しかし、栄養やビタミンが健康とは無関係かというと、もちろんそうではありません。
毎日の食事や栄養が心身を作り上げていることは事実であり、ADHDの特性の有無にかかわらず、心身の健康を支える土台として、日々の栄養管理は重要です。
糖質・タンパク質・脂質といった三大栄養素はもちろん、ビタミン・ミネラルの微量栄養素、そして善玉菌を多く含む食品などをバランスよく取り入れることが大切です。
ビタミンB1と神経のはたらき
ADHDの特性の有無にかかわらず、脳と神経が本来のはたらきを発揮するには、エネルギーと栄養素が欠かせません。
たとえばビタミンB1(チアミン)は、糖質からエネルギーを生み出す過程に不可欠なビタミンです。
神経細胞の主要なエネルギー源になるのは糖質(ブドウ糖)であり、ビタミンB1は糖質からエネルギーを生み出す際に必要不可欠なため、神経のはたらきを支える重要な物質でもあります。
また、身体が動くためには、脳から発せられた「動け」という信号が、シナプスという接合部を通じて運動神経細胞から筋肉へ正しく伝達される必要があり、最近の研究では、ビタミンB1がシナプスの形成や維持に関与していることも分かってきています。
ただし、これはあくまで「誰にとっても栄養が土台として大切」という一般的な話です。
ビタミンB1を摂ればADHDの特性が変わる、という意味ではありません。
ビタミンB1誘導体「フルスルチアミン」のはたらきとは?
ビタミンB1に関連して知っておきたいのが、ビタミンB1誘導体である「フルスルチアミン」という成分です。
誘導体とは、ビタミンB1の構造を化学的に変化させることで、体内に吸収されやすくした成分のことを指します。
フルスルチアミンは摂取後、小腸で吸収されたのち、体内でビタミンB1(チアミン)に変換されてはたらきます。
体内に取り込まれやすく、最終的にはビタミンB1として機能する、というのがフルスルチアミンの特徴です。
そんなフルスルチアミンは、主にエネルギー代謝を改善して抗疲労効果を発揮すると考えられてきましたが、近年では、脳への作用に関する研究も進められています。
たとえば、ラットにフルスルチアミンを投与した研究では、身体活動性が高まって運動量が増えること、またそのときの脳内(前頭前皮質)でドーパミンの放出が亢進していることが確認されており、フルスルチアミンが脳内のドーパミン放出を高め、運動量を増やしたのではないかと考察されています。
このほかにも、海外では、幼若マウスにフルスルチアミンを投与して自閉症やADHDに関連する行動特性を評価する研究なども実施されています。
ビタミンB6と神経伝達物質の関係
ビタミンB6も、脳や神経が正常にはたらくために重要な栄養素のひとつです。
その大きな役割のひとつが、神経細胞どうしの情報伝達に使われる「神経伝達物質」の合成を助けることです。
神経伝達物質とは、脳や神経の中で情報をやり取りする際に使われる物質のことで、たとえば気分や意欲、ストレスへの反応、睡眠など、さまざまな身体機能と関わっています。
代表的なものとしては、ストレス時の反応に関わるアドレナリンやノルアドレナリン、気分や精神状態の調節に関わるセロトニン、意欲や報酬などに関わるドーパミン、神経の興奮を抑えるはたらきを持つγ-アミノ酪酸(GABA:ギャバ)などがあります。
ビタミンB6は、こうした神経伝達物質が体内でつくられる過程に関与しているため、脳や神経の正常な機能を支えるうえで大切な栄養素だといえます。
毎日の食事を見直してバランスのよい栄養補給をしましょう

栄養を意識するうえで、最初に見直したいのは食事です。
いきなりサプリメントや健康食品を使用するというよりも、まずは1日3食のリズムを整え、主食・主菜・副菜をそろえることが基本です。
たとえば、欠食や偏った食生活が続くと、集中力の低下やだるさにつながりやすく、日中のパフォーマンスにも影響します。ADHDの特性の1つとしても、偏食が挙げられますので、偏食による栄養バランスの乱れが課題となります。
さまざまな栄養素をバランス良く取り入れられるような食生活や献立を意識しましょう。
とはいえ、日々忙しい中、毎日理想的な献立を目指すというのは簡単ではありません。
無理なく継続できるような取り組みのほうが、結果的に体調の安定につながりますので、完璧な献立を目標とするのではなく、できることからゆっくりと始めていくことが大切です。どうしても食生活が乱れてしまうときには、ビタミン類を配合し栄養補給ができるOTC医薬品や医薬部外品等を活用することも有効です。
気になるときは、まず医療機関や相談窓口へ
ADHDの市販薬やサプリメントを探している方の中には、「ADHDの特性を何とかしたいけれど、どこに相談すればいいか分からない」「注意や多動を何とかしたい」という方も少なくないでしょう。
そのような方は、まずは専門の医療機関や発達障害者支援センターなどに相談することが大切です。
まずは適切な診断を受け、そのうえで一人ひとりに合った治療や支援を受けることが、ADHDの特性と上手に付き合っていくためには欠かせません。
ADHDかも?と心配な方も早めに相談することが大切です
近年では、大人になってからADHDや発達障害などの特性に気づくケースも増えています。
就職や転職、部署異動、結婚や育児といった環境の変化をきっかけに、自分の特性を自覚するという方も少なくありません。
だからこそ、ADHDの診断を受けていない段階でも、「人間関係が上手くいかない」「思うように人とのコミュニケーションが取れない」など、不安なことがある方は、早めに専門家に相談することが大切です。
また、ADHDの特性と似た困りごとは、睡眠不足や強い疲労、ほかの体調の問題によって生じることもあります。
何が背景にあるのかを見極めるには、専門家による確認が欠かせません。
そして、早めの相談は、二次的な困難や課題を防ぐことにもつながります。
困りごとを抱えたまま失敗や指摘が積み重なると、自己否定感が強まり、気分の落ち込みや不安といった不調につながることもあります。
将来の不調を緩和するためにも、気になることがある方は早めに専門家へ相談しましょう。
ADHDと市販薬・サプリの関係を正しく理解しましょう!
ADHDに対して効果が期待できる市販薬はなく、サプリメントについても症状を改善することが示されているものはありません。
「ADHDに効く」とうたう製品や、海外からの個人輸入には、健康被害を含む明確なリスクがありますので、自己判断で使用しないように注意が必要です。
そのうえで、バランスのよい食事や十分な睡眠といった生活の土台を整えることは、ADHDの特性の有無にかかわらず誰にとっても意味があります。
特に、エネルギー代謝に関わるビタミンB1を意識的に取り入れることで、健やかな心身を維持するための対策を行うこともおすすめです。
また、ビタミンB1誘導体であるフルスルチアミンは、脳への作用が期待される成分のひとつです。
ADHDの特性に関連する困りごとが続くときは、ひとりで抱え込んだり、市販薬やサプリメントに頼るだけではなく、医療機関や発達障害者支援センターなどの相談窓口を活用してください。
