自閉スペクトラム症(ASD)は、人とのコミュニケーションや対人関係の難しさ、こだわりの強さなどが幼いころからみられる発達障害の一つです。
その原因はまだ明らかにはなっていませんが、遺伝や環境の相互作用とされており、子育てやしつけ、「本人のやる気」などによるものではないということを理解しておくことが重要です。
一方で、自閉スペクトラム症のある方には偏食が目立つことが多く、それによって特定のビタミンが不足しやすいことも知られています。
栄養の不足や偏りが体調の崩れを招き、食べられるものがさらに狭まって、それによって心身の調子を崩してしまうという「負のループ」につながることもあります。
また、近年では、ビタミンB群やビタミンDなどの栄養素と、脳機能や自閉スペクトラム症の特性との関係についても研究が進められています。
そこでこの記事では、自閉スペクトラム症の原因について紹介しながら、偏食とビタミン不足の関係、そしてビタミンB群やビタミンDに期待されている作用などについて解説していきます。
自閉スペクトラム症(ASD)とは?

自閉スペクトラム症は、社会的なコミュニケーションや対人的なやりとりに持続的な困難があり、行動や興味、活動に限定された反復的なパターンがみられるといった神経発達症のひとつです。
「スペクトラム」とは、グラデーション(連続体)という意味であるように、特性の強さや困りごとの程度には大きな幅があります。
そのため、特性があまり目立たない状態から、日常生活に大きな支障がある状態までを、一続きのものとして捉える考え方が重要であることからも、「自閉スペクトラム症」と呼ばれています。
以前は「自閉症」「広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」などと呼び分けられていましたが、現在では「自閉スペクトラム症」という一つの診断名に統一されています。
また、同じ自閉スペクトラム症という診断であっても、特性のあらわれ方は人それぞれで、年齢によっても変化します。
言葉の発達に遅れがある場合は、乳幼児期の健診で気づかれることも多いとされていますが、言葉の遅れがない場合は、乳幼児健診では気づかれにくいのが実情です。
そのため、進学や就職など、大人になってから初めて特性に気づく方も少なくありません。
また、注意欠如・多動症(ADHD)や限局性学習症といったほかの神経発達症や、うつ病、不安症などを伴う場合もありますので、一人ひとり特性を見極めていくことが重要になります。
自閉スペクトラム症(ASD)の特性とは?
自閉スペクトラム症の特性は、「社会的なコミュニケーションの困難」や「興味や行動へのこだわり」、「感覚の偏り」としてあらわれることがあります。
社会的なコミュニケーションの困難とは、言葉や視線、表情、身振りなどを通したやりとりが苦手な状態を指します。
たとえば、相手の気持ちを推し量ることが難しい、会話が一方的になりやすい、友達とのやりとりがうまくいかないといったものです。
また、興味や行動へのこだわりとしては、特定の物事への強い関心や、決まったやり方・手順への固執としてあらわれることがあります。
物の置き場所がいつもと同じでないと気がすまない、初めてのことや予定の変更を好まないといった様子がみられることがありますので、環境が変化したり、物事が思い通りに進まなかったりすると、ひどく動揺してしまう場合もあります。
一方、興味を持った物事には深く熱中し、豊富な知識を身につける傾向もみられるように、特定の行動や興味に強いこだわりがみられることがあります。
さらに、音や光、におい、味、触覚などに過敏で、雷などの音に過剰に反応したり、特定の衣類しか着られなかったりするといった、感覚に偏りが生じる場合もあり、こうした感覚の特性は、後ほど解説する偏食とも深く関わっていると考えられます。
自閉スペクトラム症の原因は?

自閉スペクトラム症の原因としては、遺伝的な要素と環境的な要因が相互に関連していると考えられています。
どちらか一方だけで説明できるものではなく、さまざまな要因が重なり合っていると考えられており、まだ明確な原因は明らかになっていません。
これまで、原因となる遺伝子の探索も数多く行われてきましたが、自閉スペクトラム症のすべてに共通して関わる遺伝的な要因は見つかっておらず、ひとつの遺伝子で決まるのではなく、複数の遺伝子が関係していると推測されています。
また、環境的な要因としては、両親の年齢、低出生体重、低酸素、鉛への曝露、妊娠中の母体の感染症などが関係する可能性が示唆されていますが、まだハッキリしたことは分かっていないというのが現状です。
とはいえ、近年では、遺伝と環境の相互作用によって、発達途中の脳の神経のつながり(シナプス)に変化が起きるという仮説もあり、遺伝的要因や環境要因が複雑に関わりながら、発達初期の脳の形成や機能に影響すると考えられています。
子育てやしつけ、本人のやる気が原因ではない
自閉スペクトラム症の原因を理解するうえで重要なことは、特性の発症は子育ての結果によるものではないということです。
こだわりの強さや偏食も、感覚の特性(自閉スペクトラム症の特性)などと深く関わっていますので、本人の「わがまま」や家庭のしつけの問題ではありません。
また、特性が出現する要因は脳の働き方の違いによるものであり、意識や心がけでどうにかできる性質のものではないということを理解しておくことも大切です。
自閉スペクトラム症は、生まれつきの脳の機能の特性によるものであり、発達障害のひとつです。
特性は外見からは見えにくいため、「自分勝手」「努力が足りない」と誤解されてしまうことも少なくありませんが、本人の性格や努力の問題でも、周囲の関わり方によって生じるものでもないという、正しい理解を広げていくことが大切です。
自閉スペクトラム症と栄養素の関係

自閉スペクトラム症の特性のひとつに「こだわり」があり、そのこだわり故に「偏食」が出現することも少なくありません。
一般的な好き嫌い以上に、自閉スペクトラム症では偏食が目立つことが多く、それがときに栄養面での問題につながることがあります。
特性やこだわりによって食事が偏り、その結果として栄養が不足しやすくなることで、心身の不調を来しやすくなってしまう可能性もあります。
また、ビタミンなどの栄養素の中には、脳機能との関連が示唆されているものもありますので、これらビタミンが不足することで、より脳の機能を支えにくい状態が作られてしまう可能性もあります。
そのため、自閉スペクトラム症の特性による偏食が目立つ場合には、不足しがちな栄養素を適切に補っていけるような仕組みづくりを行うことも大切です。
偏食による二次的なビタミン不足
決まった食品や献立しか口にしないような極端な偏食が続くと、ビタミンなど特定の栄養素が不足しやすくなります。
そして、偏食によるビタミン不足は、心身の不調を引き起こしやすくしてしまうだけではなく、脳機能や神経細胞のはたらきをも低下させてしまう可能性もあります。
神経細胞の主要なエネルギー源は糖質で、ビタミンB1は糖質からエネルギーを生み出すために欠かせない栄養素として知られています。
そのため、偏食によってビタミンB1が不足することで、体や心、そして神経細胞のエネルギー代謝が機能しにくくなってしまうことも考えられるのです。
また、ビタミンB12や葉酸が不足すると血中のホモシステイン濃度が高まり、疲労と関係する可能性も示唆されています。
さらに、ある国内の研究では、自閉スペクトラム症の子どもがビタミンDを補うことで、お悩みの症状が改善しうることが報告されています。
このように、ビタミンをはじめとする栄養素は、体の調子だけでなく、脳や神経がはたらくための土台としても重要な役割を担っていると考えられています。
偏食によって食べられるものが限られると、こうしたビタミンを毎日の食事から十分に摂ることが難しくなってしまい、その結果、さらなる心身の不調を招いてしまうといった、負のループにハマってしまう可能性があります。
自閉スペクトラム症では、特性による偏食が栄養の不足を招き、その不足がさらに体調や食事に影響するという悪循環が起こりやすいため、毎日の食事や栄養バランスを意識することが大切です。
栄養素やビタミン不足は自閉スペクトラム症の原因になる?
現時点では、ビタミンや特定の栄養素の不足が、自閉スペクトラム症そのものの直接的な原因になるとは明らかになっていません。
一方で、自閉スペクトラム症では偏食などによって栄養素が不足しやすいことがあり、栄養不足が心身の健康状態に影響する可能性があります。
「自閉スペクトラム症の原因」と「自閉スペクトラム症に伴って起こりやすい栄養上の問題」を分けて考えることが大切であり、より健やかな心身を維持するためには、バランスの良い栄養摂取が欠かせません。
自閉スペクトラム症の特性による栄養の偏りやビタミン不足に注意

自閉スペクトラム症の原因は、遺伝的な要素と環境的な要因が相互に関連していると考えられていますが、まだ明確には解明されていません。
はっきりしているのは、子育てやしつけ、本人のやる気が原因ではないということです。
こだわりの強さや偏食には、自閉スペクトラム症にみられる感覚の特性や行動のこだわりなどが関係していることがありますので、ご自身や周囲の方を責めてしまってはいけません。
一方、自閉スペクトラム症の特性による偏食が続くと、ビタミンなどの栄養素が偏ってしまったり、場合によっては不足しやすくなることも事実です。
栄養の不足は心身の不調を招き、それがさらに食事に影響するという負のループにつながることもあります。
だからこそ、日々規則正しい健康的な食事を心がけ、食べられる食材の中で栄養のバランスを整えたり、調理法を工夫したりと、できるところから取り組んでみましょう。例えば、白米に玄米を混ぜてみる(ビタミンB1)、おにぎりに焼き海苔を巻いてみる(ビタミンB12・葉酸)、おにぎりの具に鮭フレークを使ってみる(ビタミンD)など、負担にならない範囲で、試してみるとよいかもしれません。
自閉スペクトラム症の有無にかかわらず、栄養バランスのよい食事は心身の健康維持に重要です。食事だけで栄養素を補いきれないときには、ビタミンB群やビタミンDを含む栄養剤として、OTC医薬品・医薬部外品等を活用することも検討してみましょう。
自閉スペクトラム症の偏食や食事のことで困っているときは、ひとりで抱え込まず、専門家に相談するなど、無理なく栄養バランスを整えていくことを意識してみてください。
