健康な日本人約600名の採血を含む各種検査データを解析した結果、ビタミンB12と葉酸の不足状態を反映する“血中ホモシステイン濃度”が、“疲労”と関係することが示されました。興味深いことに、男性では身体的な疲労、女性では意欲の低下や抑うつ感と関係がありました。今回の研究で示唆された、ビタミンB12や葉酸の摂取不足による血中ホモシステイン濃度の増加と、疲労との関係についての知見、また影響の現れ方が男女で異なる可能性があることは、世界初の報告です。
(Nutrients 2026, 18(6), 941; DOI: 10.3390/nu18060941)
この記事から分かるポイント
- 日本人の血中ホモシステイン濃度に着目し、疲労の自覚症状との関係を解析しました
- 血中ホモシステイン濃度が、男性では身体的疲労、女性では意欲や抑うつ感と関係することが世界で初めて示唆されました
- 血中ホモシステイン濃度の増加を防ぐために、ビタミンB12や葉酸が不足しないよう意識することの重要性が示唆されます
ホモシステインとは?健康への悪影響を解説
ホモシステインとは
ホモシステインは、体内での代謝過程で生成されてしまう悪玉アミノ酸で、ビタミンB12や葉酸の不足状態を反映する指標でもあります。具体的には、食事から摂取する必須アミノ酸であるメチオニンが、体内で代謝される過程で一時的に生成されます。ホモシステインは生成されたあと、通常は速やかに再びメチオニン、あるいはシステインへと代謝されますが、このときに必須なのがビタミンB群。ホモシステインからメチオニンへの代謝にはビタミンB12と葉酸が、ホモシステインからシステインへの代謝にはビタミンB6が必要ですが、この代謝経路においてビタミンB群が不足・欠乏していると、代謝が滞り、血中のホモシステイン量が増加してしまいます。
ホモシステインと健康リスク
血中ホモシステイン量の増加(=高ホモシステイン血症)は、心血管疾患や認知症、骨折などのリスクとなります。主には、活性酸素を発生させて酸化ストレスを高めてしまうことで、血管を傷つけて動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中を引き起こすと考えられています。酸化ストレスや血管傷害は、脳機能にも影響し、認知症(アルツハイマー病)のリスクを高めるとも報告されています。ほかにも筋力低下や骨折リスクとの関連も示されています。また、妊婦の健康問題として、葉酸の摂取不足による胎児の神経管閉鎖障害の発生リスクという課題もあります。
イメージ図:体内でのホモシステイン代謝の簡略図
疲労のメカニズムと評価指標
疲労のメカニズム
疲労の主なメカニズムは、「酸化」と「炎症」であり、最初のきっかけとなるのは「酸化(酸化ストレス)」です。体内の各臓器・組織・細胞では、日ごろの活動に伴う酸化ストレス(活性酸素)によって、酸化(≒錆つき)が生じ、錆つきが増えてくると各細胞に障害が生じます。通常、こうした細胞の障害は日々、細胞内で修復されているのですが、修復にはエネルギーが必要です。ダメージを受けた状態のまま活動が続きオーバーワークとなり、修復エネルギーも不足すると、修復が追いつきません。すると細胞の障害を免疫細胞が感知して炎症反応が起こり、細胞の機能が低下してしまうのです。もしも炎症が長く続き、細胞機能が低下し続けてしまうと、慢性化し、結果として疲労が持続する「慢性疲労」につながってしまう可能性もあります。
図:疲労のメカニズム
図:疲労のメカニズム
疲労の評価指標
疲労の評価指標は、「主観的指標」と「客観的指標」に大別されます。主観的指標は、国際的なChalder質問票やVisual Analogue Scale(VAS)法、大阪大学や大阪公立大学で開発されたCHSI質問票がよく用いられます。客観的指標は、生理学的バイオマーカーとして脳機能、循環動態・自律神経機能、行動量・睡眠態様などを測定評価する方法、また生化学的・免疫学的バイオマーカーとして酸化ストレス、細胞障害、免疫系、修復エネルギー系などを測定評価する方法があります。
なお、疲労の要因には、体を動かすことによる身体的な要因、ストレスや不安による精神的な要因、頭を使うことによる脳の要因などが複合的に関わることが多いため、まずは主観的な指標で状態を確認することが有用です。例えば、質問票では「からだがだるい、重い」といった身体的疲労と、「ボーっとする、意欲がわかない」といった精神的疲労・脳疲労とを、うまく抽出することができる可能性があります。疲労は人間が自ら感じるものですので、まずは主観的な状態を確認することが重要です。
VAS法の一例:
ホモシステインと疲労の関係は?
ホモシステインと疲労の関係
「酸化ストレス」は疲労の主要メカニズムであるため、血中ホモシステインの増加が酸化ストレスを高めてしまうということは、疲労とも関係する可能性が考えられます。しかし、これまで健康な集団での血中ホモシステイン濃度と疲労との関係は明らかになっていませんでした。
今回の研究の目的と方法
研究の目的
血中ホモシステイン濃度が疲労や意欲と関係するかどうか、健康な人々の検査結果をベースに、解析することとしました。健康な人々を対象とした狙いとしては、様々な疾病の背景があると検査数値や解析が複雑になってしまうこと、また、まだ病気にはなっていない未病の状態の人々でも関係が示されるのか、すなわち血中ホモシステイン濃度の増加を防ぐことが疲労や疾病の予防策となり得るのか、考察をするためです。
研究の方法
2018年から2020年にかけて、国立研究開発法人 理化学研究所にて実施された「1万人健康計測プロジェクト」のデータを用いて解析を行いました。関西圏に居住する18歳以上の健常成人を対象に行われた、問診や身体計測、採血、生活習慣および疲労に関する質問票などの検査結果、602名分を解析しました。
血中ホモシステイン濃度に関しては、疾患の指標となる明確なカットオフ値が定められていないため、男女それぞれ三分位にグループ化をしました。疲労および意欲の評価は、Chalder質問票、VAS法、およびCHSI質問票を用いました。解析は、男女ごとに多変量解析を行い、年齢、睡眠の不良、労働の多さ、食事の多様性などの影響因子を調整して解析しました。
研究の結果と考察
研究の結果
まず、血中ホモシステイン濃度が高いグループでは、男女ともにビタミンB12と葉酸の血中濃度が有意に低値でした。すなわち、血中ホモシステイン濃度はビタミンB12と葉酸の不足状態を鋭敏に示していると言えます。
疲労との関係について、男性では、血中ホモシステイン濃度が最も低い群(T1)に比べて最も高い群(T3)で、Chalder疲労尺度における身体的疲労スコアが高いことが示されました。すなわち、血中ホモシステイン濃度が高い男性は、身体的疲労を強く自覚していると考えられます。
一方、女性では、血中ホモシステイン濃度が最も低い群(T1)に比べて最も高い群(T3)で、VASによる意欲スコアが低いことが示されました。加えて、CHSI質問票の「不安・抑うつ」スコア、「注意力・認知機能低下」スコアが高い数値(よくない数値)を示しました。すなわち、血中ホモシステイン濃度が高い女性は、意欲の低下、および不安・抑うつ感や注意・認知機能の低下を強く自覚している、と考えられます。
図:血中ホモシステイン濃度と男性の身体的疲労あるいは女性の意欲との関係
結果に関する考察
今回、男女で異なる傾向が示されたメカニズムについては、血中ホモシステイン濃度の増加が疲労という自覚症状として現れるまでの体内での生理的経路が、男女で異なる可能性が考えられます。
すなわち、一般に男性は女性よりも血中ホモシステイン濃度が高い傾向にあり、また女性ホルモンであるエストロゲンによる抗酸化作用が女性よりも弱いことから、血中ホモシステイン濃度の増加に伴う酸化ストレスの影響を受けやすく、身体的疲労感という自覚症状につながったのではないか、と考えられます。酸化ストレスが生じるとミトコンドリアの機能障害が引き起こされ、ミトコンドリア内でエネルギー通貨であるATP(アデノシン三リン酸)の産生低下や修復エネルギーの不足が生じることで、身体的疲労感に直結しやすいと考えられます。
一方で女性は、性ホルモン代謝や神経伝達物質の恒常性維持機構においてDNA(デオキシリボ核酸)のメチル化*需要が男性よりも高いことが知られており、血中ホモシステイン濃度の増加に伴うDNAメチル化能の低下が、性ホルモンバランスの乱れや神経伝達物質の合成低下を通じて、意欲や不安・抑うつ、注意・認知機能といった脳疲労や精神疲労と関係するような自覚症状として現れた可能性が考えられます。
* DNAのメチル化:遺伝子発現を制御して、細胞の増殖や機能維持に関わる仕組み。メチオニンを前駆体として生成されるS-アデノシルメチオニン(SAM)がメチル基供与体となり、DNA配列中のシトシン塩基をメチル化し、遺伝子発現を制御する。血中ホモシステイン濃度の増加(メチオニンへの再代謝の停滞)は、SAMを減少させることから、DNAのメチル化を阻害してしまう。
叶内先生より、実生活に向けた提言
今回の研究結果は、あくまで横断的なデータに基づくものであり、因果関係を明示するものではありません。しかしながら、健康な日本人の対象者において、血中のビタミンB12と葉酸のレベルが低いと血中ホモシステイン濃度が高いこと、血中ホモシステイン濃度が高い男性では身体的疲労が強いこと、血中ホモシステイン濃度が高い女性では意欲の低下や不安・抑うつ、注意・認知機能の低下が生じていること、が示されたことは、非常に重要です。
これまで、血中ホモシステイン濃度は心血管疾患や認知症、骨折、胎児の神経管閉鎖障害などとの関係性の観点で注意喚起されてきましたが、今回の研究結果に基づき、今後は疲労や意欲の面でも留意する必要があると考えられます。血中ホモシステイン濃度が増加しないように、ビタミンB12や葉酸といったビタミンB群を十分に摂取することは重要であり、日常生活から意識していく必要があります。
監修者プロフィール

叶内 宏明 先生
(大阪公立大学 大学院生活科学研究科 生活科学専攻 教授)
徳島大学 医学部 栄養学科を1997年に卒業後、九州大学 生物資源研究科にて博士課程を修了(農学博士)。専門は、ビタミンB6の生理作用、ホモシステインの神経細胞傷害作用、栄養疫学など。日本ビタミン学会 代議員、ビタミンB研究委員会 委員、日本栄養・食糧学会 参与、日本栄養改善学会 評議員などの役職を務めている。
