ビタミンB1は
- ※本記事は、武田薬報webに掲載していた当時の記事に一部加筆修正を行ったものとなります。
ビタミンB1を発見したのは日本人
皆さんは
ビタミンB1発見のきっかけは、1880年代に白米食中心の食事を摂っていた旧日本軍で
ビタミンB1誘導体の発見
1935年米国ミネソタ州で飼育していたキツネに
そうした中、医学者であった藤原元典博士が1951年、食品中のビタミンB1分解因子を研究中、ニンニクでビタミンB1が消失する現象が起きました。古来より滋養強壮のために食べられていたニンニクにビタミンB1分解因子が含まれているとは思えなかった藤原博士は、ビタミンB1が何か別の物質に変化したのではないかと考えました。調べてみると、ニンニクによりビタミンB1(水溶性)が、脂溶性のアリチアミンという物質に変わったことが判明しました。アリチアミンには、ビタミンB1に比べ消化管で吸収されやすいという特徴がありました。これが最初に発見されたビタミンB1誘導体で、後の製剤化へと道が開かれました。
フルスルチアミン(ビタミンB1誘導体)のチカラ
1952年にはアリチアミンの構造が明らかになり、藤原博士とアリナミン製薬(当時の武田薬品)の共同研究により、その化学的構造にさらに手が加えられ、プロスルチアミンという物質ができました。プロスルチアミンはアリチアミンよりも安定性の高いもので医薬品に適した物質でした。後にこのプロスルチアミンは世界初のビタミンB1誘導体製剤「アリナミン糖衣錠」(※現在販売しておりません)として発売されました。
プロスルチアミンは1万人に迫った
ビタミンB1にはエネルギー産生作用および神経機能を維持する働きがありますので、フルスルチアミンを服用することで、肉体疲労時の栄養補給効果や、神経痛や筋肉痛を緩和する効果が得られます。
図1 フルスルチアミンの主な特徴
【特徴1】ビタミンB1に比べ小腸などの消化管からの吸収がすぐれている
A フルスルチアミン服用時のヒト血中ビタミンB1濃度
ビタミンB1誘導体フルスルチアミンは、ビタミンB1に比べて小腸などの消化管からの吸収がよいので高い血中濃度を持続
(出典 糸川ら:ビタミン66(1), 35-52, 1992)
B フルスルチアミン服用時のヒト尿中ビタミンB1排泄量(累積値)
フルスルチアミン服用時の尿中ビタミンB1排泄量はビタミンB1に比べて、24時間累積値が約6倍になる。これはフルスルチアミンがよく吸収された証拠
(出典 糸川ら:ビタミン66(1), 35-52, 1992)
【特徴2】筋肉や神経などの組織へよく移行する
組織・臓器への移行性
フルスルチアミンはビタミンB1に比べ、組織との親和性が高く、組織・臓器へ高濃度に移行
(出典 社内資料(2016))
【特徴3】活性型のビタミンB1を多く生成する
フルスルチアミン服用時のヒト血球中の活性型ビタミンB1(コカルボキシラーゼ)生成量
フルスルチアミンは組織によく移行し、容易にビタミンB1に復元。そこでビタミンB1はリン酸化され、多量の活性型ビタミンB1(コカルボキシラーゼ)となって、作用をあらわす
(出典 阿部:日本臨牀20(10), 107, 1962)
時代に伴って移り変わるフルスルチアミンの用途
ビタミンB1が発見された時代には
現代では「疲労」が社会問題となっています。2004年の文部科学省疲労研究班による疫学調査では、疲労感を自覚している人の割合は55.9%、その状態が半年以上継続している人が39.3%と報告されました*1。
さらに2017年の当社の調査でも、4人に3人が「よく疲れを感じる」「ときどき疲れを感じる」と回答しており*2(図2)、疲労が現代人の間にさらに広がっている可能性が示されました。当社では、時代の移り変わりとともに製品に改良を加えてきました。高度成長期の1965年にはフルスルチアミンにエネルギー産生に役立つビタミンB群を配合した製品を発売しました。1993年にはフルスルチアミンに、ビタミンB6、B12をより多くの量を配合し、ビタミンEも追加することで、眼精疲労、肩こり、腰痛、神経痛など主として神経症状を和らげるのに効果的な製品を発売しました。2005年には現代版に改良した製品を、そして2017年、2019年、2021年、2022年にも製品をコンスタントに発売しました。このようにフルスルチアミンを含むOTC医薬品は、その時代の疲労にあわせた製剤が創られ、社会とともに進化しています。
図2 疲れを感じる頻度
出典:「2017年6月当社調査」より(n=1,200、満20歳以上の男女)
2015年国勢調査より算出
さらなる高みを目指して~フルスルチアミンの最近の研究と展望(超高齢社会における健康寿命との関わり)~
日本は今、世界が経験したことのない超高齢社会を迎えています。具体的には65歳以上の高齢者が人口に占める割合が、2030年には3割になることが予測されています。*3
健康でいきいきとした人生を送ることは、多くの人が望むことではありますが、高齢になるとなかなかそういうわけにいかないのも現実です。それが数値としてあらわれているのは、健康寿命と平均寿命の差です。健康寿命とは、健康で日常生活が制限されることなく生活できる期間であり、平均寿命との差が不健康な期間といえます。その差は男女ともに10年程度あり*4、これが日本社会の大きな問題と考えられています。
当社は、この健康寿命の延伸に貢献したいと考えており、フルスルチアミンがその役に立てる可能性はないかと多方面から研究を行っております。
健康寿命を短縮する要因の大きなものに、生活習慣病があります。これは成人の多くが悩む疾患でもあります。生活習慣病の予防や治療には、その名のとおり生活習慣が大きく関係します。特に食生活、運動の習慣は重要です。そこで、フルスルチアミンがそれらにサポートができるのではないかという視点で現在研究を進めています。
例えば、フルスルチアミンが、身体が痛かったり意欲がわかなかったりという運動を妨げる要素に対して働くことはないかということを調べています。
研究の成果を一部だけご紹介すると、動物実験でフルスルチアミンを摂取すると行動意欲を高める効果が示唆されています。行動意欲の改善によって身体を動かし運動する。運動することによって、健康状態をよく維持できる。その結果、サルコペニアやフレイル※への予防的な効果の一翼を担い、超高齢社会で自立して生活できることと、病気になりにくい身体をつくるという面で健康寿命の延伸に役立つのではないかと考えています。
- ※サルコペニア:筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態、フレイル:加齢に伴い身体の予備能力が低下し、健康障害を起こしやすくなった状態、虚弱
以上、
みなさんにとってフルスルチアミンに対する知見が少しでも深まれば、幸いです。
- 参考文献:
- *1 蓑輪眞澄ほか、疲労の量と質の疫学調査. 科学技術振興調整費 生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する総合研究」平成16年度研究業績報告書, 2005.
- *2 2017年6月当社調査(2015年国勢調査より算出)
- *3 総務省「我が国の高齢化の推移と将来推計」
- *4 厚生労働省 e-ヘルスネット「平均寿命と健康寿命」