監修
宇井 千穂 先生 (やさしい美容皮膚科・皮フ科 秋葉原院/東京浅草院 総院長)
10代のニキビは、おでこや鼻などの皮脂分泌の多い「Tゾーン」にできることが多いですが、大人の場合は、あごや頬など口まわりの「Uゾーン」にできることが多いことが特徴です。
皮膚には、皮脂を分泌する「皮脂腺」と、汗を分泌する「汗腺」があります。Uゾーンと呼ばれる口まわりやあごは、汗腺が少なく、皮脂腺が多い部位であるため、汗が少なく乾燥しやすい一方で、皮脂量は多くなりやすい場所です。
加えて、口まわりやあごは手で触れることも多く、マスクや衣類など外的刺激の影響を受けやすいもの。肌が乾燥してバリア機能※が低下すると、摩擦や細菌などの外部刺激に敏感になったり、乾燥を防ぐために皮脂を過剰に分泌したりするため、 毛穴が詰まりやすく、ニキビが発生しがちです。
治りにくく、同じ場所に繰り返しできやすいのも、あごのニキビの特徴です。
※バリア機能:ホコリや細菌などの外部からの刺激を防ぎ(外からのバリア)、体内の水分喪失を抑える(内からのバリア)機能。乾燥や加齢、ストレスや疲労で免疫力が低下しているときなどにバリア機能も低下しやすいといわれている
ニキビは、皮脂がたくさん分泌され、毛穴の出口が詰まってしまうことで発生します。

バリア機能に欠かせない皮脂は、毛根の根の部分にある皮脂腺から分泌されています。分泌された皮脂は、毛穴から角質の表面に広がり、皮膚の潤いを保っていますが、皮脂の分泌が多く、毛穴の先が詰まってしまうと、皮脂が毛穴にたまってしまいます。毛穴の中に皮脂がたまった状態は、「面皰(めんぽう)」と呼ばれており、ニキビの始まりの、白ニキビや黒ニキビがこれにあたります。
面皰の中は酸素が少なく、アクネ菌というニキビの原因となる菌が増えやすい環境です。アクネ菌が増えると、毛穴の中で炎症が起こり、赤く腫れたり、膿がたまったりするニキビになります。赤ニキビや黄ニキビはこの状態にあたります。
さらに炎症が進むと、しこりニキビの状態になることも。炎症が強くなると、まわりの皮膚にもダメージを与えてしまうため、炎症が治まった後も、しばらく赤みや色素沈着が残ったり、ニキビ跡として皮膚が盛り上がったりへこんだりする「瘢痕(はんこん)」が残ることがあります。
あごにニキビができたり、悪化したりする原因にはさまざまなものがあり、それぞれの要因が、複合的に絡み合って発生します。あごのニキビを改善するためには、これらの要因を一つひとつ改善する必要があります。ただし、誰しもがすべての原因を抱えているわけではないため、生活習慣などを見直して、該当するものを改善していきましょう。
ここでは、あごニキビの原因として考えられる要因を、以下の4つにわけて紹介します。
あわせて、ニキビの原因や悪化させない生活習慣を確認するセルフチェックも活用しながら、ご自身の生活習慣を振り返ってみてください。

肌への外的な刺激は、バリア機能を低下させ、ニキビの原因となります。
例えば、頬杖をつく癖があったり、マスクやマフラー、髪の毛などが常にあごに当たっていたりすると、ニキビが悪化しやすくなります。また、産毛剃りや髭剃りなどによる刺激も、毛穴から菌が入りやすくなる原因に。
その他、ニキビを触ったり、潰したりする癖があると、さらに炎症を悪化させる場合もあります。メイクの落とし忘れも、ニキビに悪い影響を与えるため、注意が必要です。
食生活の乱れも、あごのニキビに影響を与えるとされています。
偏った食生活によって便秘になると、便をエサとする「悪玉菌(有害菌)」(以下、悪玉菌)が増え、有害な物質を多く発生させます。有害物質によって腸内環境が悪化すると、皮膚の新陳代謝に悪い影響を与え、ニキビなどの肌荒れを生じさせることもあります。
ストレスの多い生活や、睡眠不足、喫煙といった生活習慣の乱れは、ニキビを発生しやすくします。
皮脂の分泌は、体内のホルモンによって制御されています。睡眠時に分泌される成長ホルモンは肌のターンオーバー※を促す働きがありますが、睡眠不足で成長ホルモンが十分に分泌されないと、古い角質が残りやすく、毛穴が詰まりやすくなり、ニキビの発生につながります。ストレスがかかったときや、睡眠不足のときに放出される、コルチゾールというホルモンは、皮脂腺を刺激し、皮脂の分泌を促進するため、毛穴が詰まりやすくニキビの原因になります。
※ターンオーバー:肌(皮膚)が一定期間で入れ替わる仕組みのこと。一般的な周期は、28~42日間程度
また、喫煙者は非喫煙者と比較して皮脂が多い特徴があります。加えて、喫煙により、抗酸化作用があるビタミンCの体内での利用率が増加したり、皮膚表面の血液の流れを滞らせることによって、皮膚のターンオーバーが乱れます。そのため、喫煙者は、ニキビができやすい傾向があるともいわれています。
女性の場合は、排卵前にエストロゲン(卵胞ホルモン)が増加し、排卵から生理までの黄体期にはプロゲステロン(黄体ホルモン)の量が増え、ホルモンのバランスが急激に変動します。プロゲステロンは、妊娠に備えて体を整える働きがありますが、同時に皮脂の分泌を促進する作用があるため、ニキビや肌荒れといった症状が生じることがあります。
【プチメモ】大人ニキビとは?
一般的に、ニキビは思春期を過ぎると次第に良くなることが多いですが、なかには、大人になってもニキビの症状が続く人や、大人になって初めてニキビができる人もいます。
このような大人ニキビは、医学用語で「思春期後痤瘡(ししゅんきござそう)」と呼ばれています。発症のメカニズム自体は、思春期ニキビとほぼ同じで、皮脂の分泌や毛穴の詰まりが関係していますが、大人ニキビは特に女性に多く、治りにくいのが特徴です。思春期と違い、大人になると乾燥肌の人が多くなるため、治療中に肌が乾燥しやすくなることも多くあります。そうした場合には、治療薬とあわせて保湿剤を使用するようにしましょう。
ニキビができにくい肌を目指すには、生活習慣やケアの見直しが大切です。ここでは、以下の内容であごニキビの発生リスクを減らす対策や改善のために心がけたい習慣を紹介します。
ニキビを予防するために重要なのは、正しいスキンケアです。ただし、肌の状態や肌のタイプなどには個人差があり、適切なスキンケアは異なるため、自分に合った方法を見つけられると良いでしょう。
皮脂が肌に長時間残っていると、ニキビの原因になります。そのため、朝と夜の1日2回程度、洗顔料を使って余分な皮脂を取り除くことがスキンケアの基本となります。しかし、1日に何回も行ったり、強くこすったりするとニキビが悪化する原因になるため注意が必要です。
乾燥肌の場合、洗顔をしたら10分以内に保湿剤を使用するのを忘れないようにしてください。メイクをしていない朝の洗顔は、洗顔料を使用せず、皮脂を落としすぎないことも意識しましょう。

洗顔料は添加物が少なく、自分の肌に合ったものを選びましょう。毛穴が詰まりにくいことが確認されている「ノンコメドジェニック」あるいは「ハイポコメドジェニック」と表示してあるものを使用するのがおすすめです。石鹸をよく泡立ててふんわりした泡をつくり、指の腹を使ってこすらずやさしく洗うようにしましょう。
運動後などで汗を流すだけの場合は、洗顔料を使わず、水またはぬるま湯で洗い流すだけで大丈夫です。洗顔後は、すすぎ残しがないよう、しっかりすすぎましょう。特に、髪の生え際やあごの下は泡が残りやすいため、丁寧に確認してください。洗顔後、タオルで水分を拭くときは、なるべく肌に刺激を与えないように、軽く押さえるように拭き取りましょう。
乾燥は肌のバリア機能を低下させ、ニキビ悪化の原因となるため、洗顔後はできるだけ早く保湿することが大切です。保湿剤も「ノンコメドジェニック」あるいは「ハイポコメドジェニック」と表示してあるものを使用すると良いでしょう。
保湿剤の中でも、まずは「化粧水」で水分を補給し、「乳液」や「クリーム」で水分の蒸発を防ぎましょう。スキンケア用品は、ゴシゴシ塗らず、手のひらでそっとなじませるように使うのがポイントです。乾燥しがちな大人ニキビには、保湿のケアをきちんと行うことが大切です。
マスクやマフラー、毛先などによる刺激は、ニキビを悪化させることがあります。できるだけニキビに触れるような服装は避け、髪を束ねたりして、刺激を避けるようにしましょう。
マスクをしなければいけない場合は、マスクが当たる部分に保湿剤などを塗って油膜をつくると、摩擦による刺激を軽減できます。
不織布マスクは肌への刺激が強いため、あごのニキビが気になる場合は、布マスクがおすすめです。またニキビを触ると、治りにくくなるだけでなく、新しいニキビができる原因にもなりかねないため、できるだけ触らないように気をつけましょう。
あごのニキビを改善するためには、暴飲暴食を控え、バランスの良い食事を規則正しく取ることが大切です。主食・主菜・副菜を基本に、炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルを含めた五大栄養素をバランス良く摂取しましょう。
肌の新陳代謝に関与するビタミンとして、主に脂質の代謝にかかわるビタミンB2、主にたんぱく質の代謝にかかわるビタミンB6などがあります。
ビタミンB2を多く含む食品は鶏卵や牛レバーなど、B6を多く含む食品はさんまやバナナなどが挙げられます。ビタミンCは皮膚や血管を形づくるコラーゲンの生成に欠かせない成分で、肌荒れやニキビで悩む方は、一緒に摂ることが大切です。
ビタミンCはじゃがいもやレモンなどに多く含まれています。忙しくて食生活が乱れがちな人は、ビタミン剤を活用するのも一つの手です。

暴飲暴食や刺激の強いものの食べ過ぎなどは、腸内の悪玉菌の増加につながります。腸内フローラのバランスが崩れてしまうと、あごのニキビなど肌のトラブルにも。
腸内フローラのバランスを整えるには、腸内の「善玉菌(有用菌)」(以下、善玉菌)を増やすことが大切です。善玉菌は、味噌やしょうゆ、ぬか漬け、キムチ、納豆、チーズ、ヨーグルトなど発酵食品に多く含まれています。オリゴ糖は、善玉菌のエサとなるプレバイオティクスの一種です。オリゴ糖は大豆、たまねぎ、ごぼう、ねぎ、にんにく、アスパラガス、バナナなどに多く含まれているので、これらの食品を積極的に摂ると、間接的に善玉菌を増やすことにもつながります。
食品のみで十分な善玉菌を摂取することが難しい場合は、酪酸菌や乳酸菌などの善玉菌が配合されている、市販のサプリメントや整腸剤を服用し、腸内環境を整えるのもおすすめです。善玉菌には、酪酸菌・乳酸菌・ビフィズス菌などさまざまな種類がありますが、それぞれ働きや作用する部位が異なるため、複数の種類が配合されたものを選ぶと良いでしょう。
睡眠不足やストレスもニキビの原因となるため、注意が必要です。
適切な睡眠時間は年齢や季節、個人差によって異なりますが、6~8時間程度は必要だといわれています。日頃から質・量ともに十分な睡眠時間を確保してみてください。必要に応じて、睡眠の質や肌荒れの改善のための栄養ドリンクなどを、活用するのも良いでしょう。
また、喫煙は肌の状態に悪影響を与え、ニキビの要因にもなるので、できるだけ控えましょう。生活習慣の乱れ・ストレスはホルモンバランスの乱れを引き起こすため、規則正しい生活を心がけ、ストレスは溜め込まず発散するようにしてください。
また、女性は生理周期によるホルモンバランスの変化の影響を受けることが大きいため、生理前にニキビができても、過剰に気にしすぎず、ケアを続けることが大切です。

紫外線は、ニキビを悪化させ、炎症を長引かせたり、シミのような跡が残ったりする原因になります。
天気や季節に関係なく、紫外線は1年中降り注いでいるため、毎日しっかりと対策する必要があります。日常生活では、SPF30程度の日焼け止めを毎日使用すると良いでしょう。外での活動が多い日は、外出する15分前を目安に塗り、2~3時間おきに塗り直すと効果的です。
生活習慣やスキンケアの見直しを行ったうえで、あごなどのニキビの緩和が期待できる成分を含んだ市販薬を取り入れるのも、一つの手です。症状によっては、漢方薬で対処することもあります。
ビタミン剤を服用する場合は内側から肌の調子を整えるビタミンB2、B6、ビタミンCを含むものがおすすめです。
あごのニキビがセルフケアで改善しない場合や、繰り返しできる場合は、皮膚科を受診しましょう。
保険適用での診療では、アダパレン、過酸化ベンゾイル(BPO)、クリンダマイシンが配合された外用薬が処方されることが多いです。しこりをともなうなど、炎症が強い場合は、エピデュオゲルや抗菌薬の内服薬が処方されることもあります。
自由診療の場合の治療には、皮膚に化学薬品を塗り、皮膚を剥がすことで治療を行う「ケミカルピーリング」や、ニキビ跡については、レーザー・光治療などが行われる場合があります。まずは、保険が適用される一般的な治療から始め、選択肢の一つとして自由診療で治療を行う場合は、担当医と相談し、どのような効果や副作用があるのか、治療に必要な期間や費用はどのくらいかなど、十分な説明を受けましょう。

あごにできるニキビは、さまざまな要因が重なって起こる肌トラブル。まずは原因を正しく知り、日々の生活習慣や肌との向き合い方を少しずつ見直していくことが大切です。また、市販薬などを上手に取り入れて健康な肌を目指すことも、あごのニキビへの対策になります。できることから無理のない範囲で始めて、肌をいたわる習慣をつけましょう。
ただし、セルフケアだけでは改善しない場合や、炎症が強くなっている場合には、早めに皮膚科を受診し、専門的な治療を受けるようにしてください。
参考文献
・日本皮膚科学会ガイドライン「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン 2023」