監修
宇井 千穂 先生 (やさしい美容皮膚科・皮フ科 院長)
一年を通して降り注いでいる紫外線から体を守るため、紫外線対策は、天候、季節に関係なく、日ごろから行っていく必要があります。
そもそも紫外線とは、地表に届く太陽光(紫外線、可視光線、赤外線)のうち、最も波長の短く、強い光のことです。
紫外線は常に降り注いでいるものの、その強さは、季節や時刻、天候などによって変化しています。最も紫外線が強くなるタイミングは、一日のうちでは正午ごろ、日本の季節では6月から8月といわれています。
そのため、紫外線の強い夏場だけ対策をしておけばいいと思いがちですが、それだけでは不十分。紫外線は強さだけでなく浴びる量や時間にも注意する必要があります。
例えば、冬でも雪が積もっている場合、太陽から注ぐ紫外線に、雪の反射による紫外線が加わって、通常の2倍近い量を浴びることになります。また、曇り空の日でも、薄い雲の場合、紫外線の80%以上が通過するうえ、大気中の粒子にあたって散乱し、体にあたる紫外線量を増加させることもあります。
また、弱い紫外線でも長い時間浴びた場合の紫外線量は、強い紫外線を短時間浴びた場合と同じになることもあり、紫外線の強さを問わず対策する必要がありそうです。
これらのことを踏まえて、紫外線対策は特定の期間、時間だけでなく一年中行う必要があるといわれています。
紫外線は、人体にもさまざまな影響を与えます。まず、カルシウムの吸収を促すビタミンDを体内でつくるために、紫外線は欠かせません。
ただし、良い影響ばかりではなく、多くの研究により、紫外線を浴びすぎると人の健康に影響があることがわかっています。
紫外線の人体への影響と聞いて、真っ先に「日焼け」を思い浮かべる人も多いでしょう。日焼けは、紫外線から体を守るための仕組みです。
地表に降り注ぐ紫外線には、UV-AとUV-Bの2種類があります。他にもUV-Cがありますが、空気中の酸素分子とオゾン層で完全にさえぎられて地表には届きません。
UV-Bは、地球上に届く量は少ないのですが、皮膚の細胞のDNAを傷つけてしまいます。そこで皮膚は、紫外線、可視光線、赤外線を吸収する働きを持つメラニン色素を作り出す(日焼けする)ことによってDNAへのダメージを少なくしているのです。
しかし、日焼けは一種の炎症であり、軽いやけどの状態です。日光にあたって数時間後から赤くひりひりとした症状が出たり、あたりすぎたときは、水ぶくれとなって皮がむけることもあります。
その他、しみ、しわといった肌の老化(光老化)などの肌トラブルや、白内障や翼状片(よくじょうへん:三角形の形をした結膜が、角膜の鼻側に侵入してくるもの)などの目の疾患も、紫外線を長年、大量に浴びることで生じやすくなります。
長年日光を浴びすぎて、DNAの傷が大きくなったり、傷が度重なって修復能力を超えたりすると、誤った遺伝情報(突然変異)が生じるなどして皮膚がんを引き起こすこともあります。
したがって、適切に紫外線対策をすることは、私たちの体を守ることにつながるのです。
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今回は、紫外線対策のなかでも基本的な5つの対策をピックアップして紹介します。
紫外線が強い時間帯の外出を避けることは、紫外線対策に大きく貢献します。
同じ気象条件がそろっている場合、太陽が頭上にくるほど、届く紫外線が強くなります。時刻でいうと、正午を挟む午前10時~午後2時くらいの数時間が最も強くなるといわれています。
また、夏場は午前10時~午後2時の間に、一日の紫外線照射量のおよそ70%が降り注ぎます。冬場ではさらに増え、80~85%を占めます。
可能であれば、長時間屋外にいすぎることのないように気をつけてください。もし長時間屋外に出ることが想定される場合は、意識的に紫外線を避けるようにしましょう。それだけでかなりの紫外線対策になります。
屋外にいる場合は、できるだけ建物や木などでできた日陰を活用して、紫外線を避けましょう。
ただし、紫外線は直接降り注ぐものだけでなく、空気中で散乱したり、地面などから反射したりするものもあるため、そうした紫外線の対策を怠らないようにしておくことも大切です。
紫外線対策に効果的なグッズを使用するのも良いでしょう。代表的なものを紹介します。
日傘をさすことで、直接降り注ぐ紫外線から体を守ることができます。日傘の材質によっては100%に近い量の紫外線をカットすることも可能というデータがあります。
ただし、やはり空気中で散乱したり、地面から反射したりする紫外線もあるので、日傘だけに頼らず衣類で覆う、日焼け止めを使うなど別の対策も併用して紫外線を防ぎましょう。
衣服で体を覆って、直接紫外線にあたらないようにすることも大切です。アームカバー、カーディガン、ストールなどを活用して肌の露出を減らす他、帽子をかぶって頭を守るなどしておきましょう。UVカット機能がついたものを選ぶと、さらに効果的です。
サングラスをかけて目を紫外線から守ることも重要な紫外線対策のひとつです。紫外線は目の角膜や水晶体などにも影響を与え、紫外線角膜炎という角膜の炎症や、翼状片といって眼球結膜(白目)が翼状に角膜(黒目)に侵入する症状を引き起こします。ひどくなると視力障害をきたす、白内障になるなどの健康被害も。空気中で反射する紫外線を防ぐためにも、顔にフィットした、ある程度大きなタイプを選びましょう。
なお、UVカットレンズであれば色が濃くなくてもOKです。むしろ、色の濃いサングラスをかけると瞳孔が普段より大きく開くため、かえってたくさんの紫外線が目の中へ侵入し、危険な場合もあるので注意しましょう。
衣類などで覆えないところや、空気中や地面などから反射した紫外線を防ぐには、日焼け止めを使うのが効果的です。
この後の章で日焼け止めを使用する際の基礎知識や、塗る際のポイントをご紹介します。
体の外から紫外線を防ぐのに加え、UVケアにつながる栄養素を摂取して体の内側からもケアすると、さらに効果的な紫外線対策になります。
例えば、ビタミンC。ビタミンCにはメラニンの生成を抑制し、肌のしみ、そばかす、日焼けなどによる色素沈着を緩和する効果があります。
また、肌トラブルや老化の原因となる活性酸素が体内で増えすぎないように発生を抑えたり、取り除いたりする働き(抗酸化作用)もあります。
ビタミンCは、野菜や果物などの食べ物に多く含まれるので、これらの食品を積極的に摂ると良いでしょう。
ただし、ビタミンCは熱や酸化などに弱く、調理中に失われやすいことが知られています。したがって、食事でビタミンCを摂取しつつ、足りない分は医薬品やサプリメントによって安定した状態で摂取するのも有効です。
なお、ビタミンCの血液中の濃度は体内で厳密にコントロールされ、極端に上昇することはありません。摂りすぎたビタミンCは、尿中に溶けて体外に排泄されることがほとんどです。ただし、医薬部外品などから摂取する場合は用法・用量を正しく守るようにしましょう。
その他、体内の活性酸素から皮膚を守り、正常なターンオーバー※を取り戻す助けとなるビタミンEや、同じくターンオーバーが順調に行われるために必要な栄養素であるタンパク質、βカロテン(ビタミンA)やポリフェノールなどの抗酸化物質などを摂取するのも良いでしょう。
※表皮の肌の細胞が形をかえながら表面に押し出されて、新しい細胞へと生まれかわること
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日焼け止めは、肌を日焼けから守るのに有効ですが、種類がたくさんあったり、選び方や塗り方が難しかったりして悩ましいと考える人も多いでしょう。
日焼け止めに関する基本的な情報をご紹介します。
日焼け止めの効果は SPF(Sun Protection Factor)と PA(Protection grade of UV-A)で表示されています。
SPFは主にUV-Bを防ぐ指標、PAは主にUV-Aを防ぐ指標です。
SPFは数値であらわされ、その数値が大きいほど、UV-Bを防ぐ効果が高く、PAは「PA+」〜「PA++++」の4段階であらわされ、「+」の数が多いほどUV-Aを防ぐ効果が高くなります。
SPF値が大きく、PAの「+」の個数が多い日焼け止めほど紫外線を防ぐ効果は大きいのですが、その分肌への負担も大きくなります。
紫外線対策の際に肌への負担をなるべく少なくするには、以下のポイントに注意すると良いでしょう。
まず大切なのが、「シーンに合わせた日焼け止め(紫外線防止用化粧品)を選ぶ」ことです。状況に合わせた強さの日焼け止めを使い分けることで、肌への負担を少なくしながら紫外線対策をすることが可能です。
水に浸かるシーンがある場合には、SPF・PAだけでなく、UV耐水性にも考慮し、ウォータープルーフタイプのものを選ぶと良いでしょう。その際、普通に洗うだけでは落ちにくい場合があるため、専用のクレンジングを使用する必要があるかどうかを確認するようにしてみてください。
2層に分かれているタイプの日焼け止めはよく振ってから使用することも大切です。
また、多すぎても少なすぎても製品本来の効果が発揮されないため、製品に記載してある使用量を守って塗るようにしましょう。
最近ではのびが良い日焼け止めが多く発売されていますが、しっかりとした紫外線防止効果を得るには、ムラのないように塗るのに加えて、ある程度の厚みを持たせる必要があります。鼻、額、頬、うなじなどの日焼けしやすいパーツや日焼け止めが落ちやすい場所は特に厚めに塗っておきましょう。見落としがちな耳にも忘れずに。
なお、外出直前に塗って出かけるのはNGです。出かける15分前を目安に塗るようにしましょう。直前に塗ってしまうと、肌に定着していないため、汗などですぐに落ちてしまうこともあります。
そして、一度塗ったからと安心してはいけません。手や衣類に触れたり、汗を拭く行為によって落ちてしまうため、落ちたと思ったときはもちろん、可能であれば2~3時間おきなどにこまめに塗り直せると良いでしょう。
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紫外線を浴び続けると、肌や目などの健康を害することがあるため、適切に紫外線対策をすることが重要になってきます。
衣服で体を覆うといった体の外からのケアに加え、体の内側からのケアも欠かせません。
なお、日本では近年、日焼けを極端に避けたことで、ビタミンDの体内での産生量が減り、ビタミンD不足による健康への影響になることも懸念されています。特に女性は紫外線対策をしすぎるあまり、ビタミンD不足になりがちです。そのため、適度に日光浴をする必要があることも意識しておきましょう。
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適切な紫外線対策を実践して、健康な体を維持していきましょう。
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環境省「紫外線環境保健マニュアル2020」