監修
宇井 千穂 先生 (やさしい美容皮膚科・皮フ科 院長)
メラニンとは、動植物界に広く存在する褐色または黒色の色素のことです。
メラニンは、私たちの体の皮膚や髪、眼球などにも存在しています。黒色メラニン(別名:ユーメラニン、真性メラニン)と、黄赤色メラニン(別名:フェオメラニン、亜メラニン)の2種類があり、この比率によって、皮膚や毛髪の色が異なります。例えば、日本人を含むアジア人の髪の毛が黒いのは、黒色メラニンを多く含むためです。
メラニンには、皮膚や髪に色の違いをもたらす以外にも、いくつかの働きがあります。詳しく見ていきましょう。
人体におけるメラニンの主な働きは、以下の通りです。
日焼けをすると皮膚が黒くなるのは、紫外線から体を守るべく、メラニンが増加するためです。眼球では、黒目(虹彩)にあるメラニンによって目に光を取り入れ、うまくものを見ることができています。また、体温調節や解毒作用などの働きもあり、メラニンは私たちの体において欠かせない存在といえます。
メラニンのもとになるのは、チロシンというアミノ酸の一種です。チロシンが、メラノサイトという色素細胞の中で、酵素などの働きにより合成されてメラニンになります。
メラノサイトで合成されたメラニンは、細胞の間をすり抜けて、近くの皮膚細胞など全身へと広がっていきます。そして、紫外線などから体を守る働きをするのです。
細胞核の上に帽子状に集合し、
紫外線などから核を守るメラニン(メラニンキャップ)
メラニンは紫外線から肌を守ってくれるなくてはならない存在ではあるものの、うまく皮膚から排出ができなくなってしまうと、さまざまな皮膚症状を引き起こす原因になります。
メラニンが何らかの原因で減ったりなくなってしまったり、反対に大きく増えたりすると、「色素異常症」と呼ばれる病気と診断されます。
色素異常症になると、視覚機能の低下(弱視)、紫外線による皮膚老化やがんの発生といった、目や皮膚の異常が生じることがあります。ただし、すべての人に起こるわけではありません。また、影響の大きさは人によって異なります。
また、皮膚の特定の場所にメラニンが集中して存在する場合、そうしたメラニンの集合体は、しみ、そばかす、ほくろなどと呼ばれます。なかには、毛穴の周囲に広がって、「メラニン毛穴」とも呼ばれる、毛穴が黒ずんだ状態になったりもします。
メラニンは、皮膚にとって欠かせない存在ですが、場合によっては、しみやそばかす、色素異常症などの原因になることもあるのです。
メラニンに関わる皮膚症状のなかでも、今回はしみにフォーカスしてみていきます。
しみとは、メラニンが増加して生じる、色素増加症の一種といえます。
通常、皮膚に存在する過剰なメラニンは、ターンオーバーという、皮膚が一定期間で入れ替わる仕組みによって、排出されます。
ですが紫外線や皮膚の炎症など、何らかの原因によって、皮膚の一部でメラノサイトの増加やメラニンの合成が進んだり、ターンオーバーがうまくいかなくなったりすると、排出されるはずだったメラニンが皮膚に溜まってしまい、一部が黒く見えることがあります。これが、しみの正体です。
しみは、日常的によく見られるもので、しみがある=病気ではありません。しかし、なかには悪性腫瘍である場合や、色素異常をきたす可能性のあるものが隠れていることもあります。また、体には影響がなくても、しみの存在で人目などが気になり、ストレスになってしまうこともあるかもしれません。
メラニンが沈着してしみになる一因として、ターンオーバー周期の乱れが挙げられます。そのターンオーバーの周期が遅れる理由の一つが加齢です。
年齢を重ねたことによるターンオーバーの遅れを取り戻すには、過剰に生成されたメラニンを排出するには?で解説するスキンケアや内服薬の服用、医療機関の受診などが有効なこともあります。必要に応じて、取り入れていくと良いでしょう。
また、加齢以外でしみの生成に影響しているのが紫外線です。
長年日光を浴び続けていると、皮膚にしみやしわが現れてきます。高齢の方の顔や手の甲によく見られるしみやしわは、一般に加齢による老化と思われがちですが、実は生理的な変化に加えて、紫外線による慢性傷害によって生じる光老化の結果でもあります。光老化は加齢による自然の老化とは異なり、適切な紫外線防御対策により防ぐことができます。
メラニン色素が過剰に生成され、「色素沈着」状態になることから皮膚を守るために、皮膚へのダメージを防ぎ、ターンオーバーが正しく行われるようにする必要があります。
メラニン色素の過剰生成に対処するには、どのような方法があるのでしょうか。日常的にできる対策を中心にご紹介します。
メラニン色素の沈着から皮膚を守るためにまず行いたいのが、紫外線対策です。
メラニンには、皮膚にダメージを与える紫外線を吸収して、ダメージを少なくする働きがあります。しかし、いくら皮膚を守る働きがあるとはいえ、日光を浴び続けていると、メラニンが皮膚に蓄積され、しみなどのトラブルを招くことがあります。
以下に挙げたような、適切な紫外線対策をして、メラニンの沈着への対策をしましょう。
など。
ポイントは、紫外線が皮膚に直接当たるのを防ぐことです。そのためには、衣服で覆ったり、適量の日焼け止めを、2~3時間おきに塗り直したりすることも重要となります。
紫外線対策は夏場だけでなく、秋や冬にも必要です。紫外線ばく露※は、1年のうちでは春から初秋にかけて強い傾向があります。冬場は夏より弱いものの、紫外線は常に降り注いでおり、雪による反射で2倍近いばく露量となるとされています。特に、高い山では顕著です。また冬の終わり頃、春先の気温がそれほど高くない時期の紫外線の強い時は、特に注意が必要となります。
※紫外線にさらされること、紫外線を浴びること。
紫外線のダメージを皮膚に蓄積し続けて、メラニンを溜めないよう、紫外線が比較的弱い秋や冬も含め、年間を通じてしっかりと紫外線対策を続けていきましょう。
摩擦を減らすことも色素沈着から皮膚を守ることにつながります。摩擦によって皮膚がダメージを受けると、それを保護しようとメラニンの生成が促されやすくなり、色素沈着を招くことがあるためです。
例えば衣服と皮膚がこすれたり、お風呂で体を洗う時に皮膚を強くこすったりすると、摩擦によりメラニンが生成されやすくなります。特に、ナイロンタオルによる皮膚への刺激は強く、「摩擦黒皮症」という後天性の色素増加症を生じさせ、しみをつくることもあります。
強く皮膚をこするのは、できるだけ避けましょう。
多忙による睡眠不足や運動不足、ストレスの蓄積などが続き、生活習慣が乱れてしまうと、ターンオーバーの周期が長くなり、メラニンの排出が遅くなることもあるため、生活習慣に気をつけることも重要です。
皮膚の状態には、比較的最近の栄養状態や体調といった生活習慣が反映されます。表皮のターンオーバーは、28日周期で行われるのが一般的ですが、周期が長くなり正常に行われないと、メラニンが皮膚の内部に残り、しみなどの色素沈着が生じやすくなります。
ターンオーバーをスムーズにするには、十分な睡眠をとる、適度に体を動かす、ストレスを溜めすぎないなど、生活習慣を整えることが大切です。
食事にも気をつけることも重要です。メラニン色素の生成を抑える栄養素やメラニンの排出を助けてくれる栄養素を摂るようにしてみると良いでしょう。
以下に、摂りたい栄養素や食品の例をご紹介します。
メラニンの生成を抑制し黒色メラニンの無色化を促進する働きや、皮膚の弾力・水分量を維持するコラーゲンを生成し、皮膚を健康に保つ働きがあります。また、ビタミンEと協力して、皮膚を衰えさせる活性酸素を消去し、細胞を保護する抗酸化作用も持っています。
<ビタミンCを豊富に含む食材>
アセロラ、ケール、パセリ、煎茶、グァバ、赤ピーマン・黄ピーマン、ブロッコリーなど
体内の活性酸素から皮膚を守るとともに、血行に関与しメラニンの排出を助け、正常なターンオーバーを取り戻す助けとなる栄養素です。
<ビタミンEを豊富に含む食材>
アーモンド、煎茶、ひまわり油など
新しい細胞を作り出す役割があり、皮膚のターンオーバーが順調に行われるために必要な栄養素です。
<タンパク質を豊富に含む食材>
肉類、魚類、卵、大豆製品など
今回紹介した栄養素を中心にバランス良く摂取し、皮膚の状態を健やかに維持しましょう。
メラニンが過剰につくられてしまった場合には、皮膚の外側と内側からそれぞれケアをして、メラニンの排出を促しましょう。
まず行いたいのは化粧水や美容液などを用いて、皮膚の外側からのスキンケアを行い、ターンオーバーを促すことです。
特に、メラニンの合成を抑制するハイドロキノンや、ターンオーバーを促進するレチノールなどの成分が配合された美白化粧品は、使い続けることで、しみを薄くする効果が期待できます。
昨今では女性用だけでなく、メンズ用の美白化粧品も市販されています。日々コツコツと続けて、過剰につくられたメラニンを排出しやすい状態に整えていきましょう。
過剰に生成されたメラニンの排出のためには、肌に良い栄養素を摂って体の内側からスキンケアを行い、ターンオーバーを促すことも必要です。
栄養の摂取は食事が基本です。前述の通り、メラニン色素の生成を抑える栄養素やメラニンの排出を助けてくれる栄養素を摂取することで、メラニンの生成を抑えたり、しみを緩和する効果が期待できたりするため、食事にも意識していきましょう。
食事から十分な栄養を補うのが難しい場合には、市販薬やサプリメントを使用するのも一つの方法です。上手に使っていくと良いでしょう。
<「メラニン対処」を意識した市販薬や、サプリメントに含まれる成分と働き>
医療機関では、投薬によってしみを薄くしたり、レーザーによってしみ治療を行ったりすることができます。
その他、点滴や、成分含有量の多い処方薬を使用できるのも、医療機関ならではの利点です。悩みの度合いや改善までのスピード、費用などに応じて、医療機関でのメラニン、しみ対策を検討するのも良いでしょう。
メラニンは、皮膚を保護する働きを持ち、人間の体にとって大切なものです。ただし、過剰に生成されたり、皮膚のターンオーバーが滞り、メラニンがうまく排出されなくなったりすると、皮膚の内部に溜まり、しみなどをつくる原因になることがあります。
メラニンが皮膚の中に溜まらないようにするには、皮膚にダメージを与える紫外線や摩擦などの刺激を防いだり、生活習慣を整えて、皮膚を健康に保ったりすることが大切です。
健やかで、健やかな皮膚を維持できるよう、日々対策を続けていきましょう。
メディックメディア「病気がみえる vol.14 皮膚科」,2020
環境省「紫外線環境保健マニュアル2020」
日本人の食事摂取基準2020年版
食品成分データベース 文部科学省
「日本化粧品技術者会誌」第23巻第1号, 1989