監修
横井 彩 先生 (日本橋いろどり皮ふ科クリニック 院長)
ターンオーバーとは、肌(皮膚)が一定期間で入れ替わる仕組みのことです。
皮膚は体の表面を覆って、体内の保護や体温調節などの重要な役割を果たしている臓器です。皮膚の最も外側にある表皮にはバリア機能があり、外の刺激から皮膚を守ったり内部の水分蒸発を防ぐ役割をしています。この皮膚のバリア機能は、正常なターンオーバーにより保たれています。
皮膚は、体の表面から深部に向かって、表皮、真皮、の2層で構成され、ターンオーバーは表皮で起きています。
表皮の一番下には、基底層(きていそう)という、新しい皮膚細胞が生まれる層があり、ここで生まれた皮膚細胞は、時間をかけて徐々に表面へと押し上げられていきます。この過程で細胞は成熟して形を変え、表皮の最も外側にある角層を形成します。そして、古くなると役目を終えて自然にはがれ落ちます。この一連のサイクルが、肌のターンオーバーの基本です。
一般的なターンオーバーの周期は、28~42日間程度といわれています。基底層で生まれた細胞が徐々に押し上げられ、生きていない角質細胞となり、そこから垢としてはがれ落ちる、この周期は年齢や体の部位、肌の状態などによって変動します。
例えば、顔の額や頰、手は比較的ターンオーバーの周期が短い(ターンオーバーの速度が速い)部位といわれますが、腹部や背中はそれに比べて周期が長い傾向があります。
また、年齢もターンオーバーの周期に影響します。年齢を重ねるほど、ターンオーバーの周期が長くなるという研究結果があります。
ターンオーバーが乱れる、すなわちターンオーバーが正常な周期で行われなくなるとは、例えるなら、交通の流れが滞ってしまうイメージです。
基底層で生まれた細胞は、本来ならば、皮膚の表面へと押し上げられてからはがれ落ちるまでの一連の流れが滞ることなく、スムーズに進んでいきます。
しかし、何らかの原因で皮膚細胞に渋滞が生じると、とっくにはがれ落ちて排出されているはずの古い角質が、皮膚の表面に長くとどまってしまうのです。
ターンオーバーが乱れると、以下のような皮膚トラブルが起こりやすくなります。
古い角質がはがれ落ちずに蓄積することで、表面が硬くごわついたり、ザラザラしたりします。古い角質が蓄積している状態だと、塗布した保湿剤や化粧品の浸透も悪くなります。
くすみとは、皮膚に透明感がなく、明るさやツヤが感じられない状態を指します。
古い角質が皮膚の表面にとどまることなどで透明感が失われ、全体的にどんよりとくすんだ印象になります。
ターンオーバーが乱れて、角質層のバリア機能が低下すると、皮膚の内部に保たれている水分が蒸発しやすくなり、乾燥を招きやすくなります。皮膚が乾燥することで、ひびやあかぎれなどのさらなるトラブルが引き起こされることもあります。
皮膚表面に蓄積した古い角質が毛穴をふさいで、皮脂が詰まりやすくなり、ニキビや吹き出物の原因となることがあります。
古い角質や皮脂が毛穴に詰まると、毛穴が押し広げられたり、黒ずんで目立ったりすることにもつながります。
ターンオーバーの遅れは、表皮にあるメラニン色素の排出も遅らせます。その結果、しみや色素沈着が起きやすくなります。
このようにターンオーバーの乱れは、見た目はもちろん皮膚の健康状態にも大きく影響します。そのため、ターンオーバーの周期を正常に保つことは、健やかな皮膚を維持する上で非常に重要なポイントといえます。
ターンオーバーを乱すといわれる主な原因には、以下のようなものがあります。
不規則な睡眠、運動不足といった生活習慣の乱れは、ホルモンバランスや自律神経の働きを狂わせ、皮膚のターンオーバーの周期を左右します。
特に睡眠中には、皮膚の修復や新しい細胞の生成を促す成長ホルモンが分泌されることがわかっています。睡眠不足が続くと、成長ホルモンの分泌が滞り、ターンオーバーが遅れる原因となります。なかでも、仕事や育児などで多忙な現代人は、慢性的な睡眠不足に陥りやすく、それがターンオーバーの乱れにつながることもあります。
運動には血流を高め、皮膚の代謝を高める効果が期待できるのですが、運動不足になると、血行が悪くなり、ターンオーバーに必要な栄養が十分に届かなくなることが考えられます。
その他、喫煙にも要注意です。タバコは血管を収縮させ、血行を悪くするため、肌細胞への栄養や酸素の供給を滞らせ、ターンオーバーの乱れを引き起こす可能性があります。さらに、タバコに含まれる有害物質が活性酸素を増加させ、皮膚の老化を促進する要因にもなり得ます。
偏った食生活により、ビタミンやミネラル、タンパク質など、皮膚の健康維持に必要な栄養素が不足すると、新しい細胞が正しく作られにくくなり、ターンオーバーの乱れにつながります。
極端な食事制限による過度なダイエットも、皮膚に必要な栄養素まで不足させてしまい、ターンオーバーの乱れを招くおそれがあります。
過度なストレスは、自律神経のバランスを崩し、ホルモンバランスにも影響を与えます。これにより、皮膚のバリア機能が低下したり、血行が悪くなったりして、ターンオーバーの乱れを引き起こすことがあります。
また、ストレスは、皮膚の炎症を促進する物質の分泌を促すことでも知られています。
皮膚の乾燥は、正常なターンオーバーを妨げます。また角質層のバリア機能を低下させ、炎症が起きやすくなります。皮膚に炎症が起きると、さらに乾燥しやすくなり、悪いサイクルとなります。
紫外線は、皮膚の細胞に直接的なダメージを与え、ターンオーバーの周期を乱す、大きな原因の一つです。
通常、紫外線を浴びると、皮膚は自らを守ろうとしてメラニン色素を生成します。しかし、ターンオーバーが乱れると、メラニン色素が排出されにくくなり、しみやくすみの原因となります。
また、紫外線は、コラーゲンやエラスチンといった皮膚の弾力を保つ成分を破壊し、皮膚の老化を促進します。
年齢を重ねるとともに、皮膚の細胞の活動は徐々に低下していきます。
例えば、基底層で新しい細胞が作られる速度が遅くなったり、新しい脂肪が角質層中を移動する時間も長くなったりします。すると、ターンオーバーの周期が長くなり、その結果、肌の透明感やツヤが失われたり、しみやシワができやすくなったりします。
ターンオーバーを整えるために行っておきたいセルフケアをご紹介します。
規則正しい生活を送ることは、ターンオーバー正常化の基本です。ポイントは、睡眠、栄養、運動の3つ。
まずは、毎日同じ時間に寝起きする、6時間以上の睡眠時間を確保するように心がける、寝る前のカフェイン摂取やスマートフォンの使用を避けてリラックスできる環境を整えるなどして、睡眠の時間と質を確保しましょう。
栄養面では、ビタミン、ミネラル、タンパク質をバランス良く摂取し、肌の健康維持に必要な栄養素をしっかりと摂ることが大切です。
そして、適度な運動を取り入れることも大切です。運動を定期的に行うと、血行が促進され、肌細胞への栄養供給がスムーズになります。ウォーキングなど、無理のない範囲で継続できる運動を見つけましょう。
体の内側からのケアもターンオーバーを整えるためには非常に重要です。
腸内環境が乱れると、肌が荒れやすいと感じる人は少なくありません。その場合は、食物繊維を豊富に含む野菜や果物、発酵食品(ヨーグルト、納豆、みそなど)を積極的に摂取し、腸内環境を整えるのも良いでしょう。「善玉菌を増やす」といわれるオリゴ糖などもおすすめです。
食事だけで必要な栄養素を十分に摂取することが難しい場合は、サプリメントなどの活用も検討してみましょう。
肌や体の健康維持に役立つビタミン類(ビタミンC、ビタミンE、ビタミンB群など)や、アミノ酸、ミネラルなどを補給するのも良いでしょう。ただし、過剰摂取は控えましょう。
紫外線は肌のターンオーバーを大きく乱す原因となります。外出時は日焼け止めを必ず塗り、帽子や日傘、サングラスなども活用して、しっかりと紫外線対策を行いましょう。
室内にいるときや曇りの日でも油断は禁物です。
洗顔後や入浴後など、乾燥しやすいタイミングでしっかりと保湿ケアを行いましょう。化粧水で水分を補給した後、乳液やクリームなどで油分を補い、水分の蒸発を防ぐことが大切です。
セラミドやヒアルロン酸などの保湿成分が配合されたスキンケアアイテムを選ぶのもおすすめです。
肌質は人それぞれ異なるため、自分の皮膚の状態に合ったスキンケアを行うことが重要です。乾燥肌、脂性肌、混合肌など、自分の肌質を理解し、適切な洗顔料、化粧水、乳液などを選びましょう。
皮膚の状態は季節や体調によっても変化します。定期的にスキンケア方法を見直すことも大切です。
適度な運動は血行を促進し、全身の細胞の活性化につながります。ウォーキングやストレッチなど、無理のない範囲で体を動かす習慣を取り入れましょう。
血行が良くなると、肌細胞への栄養や酸素の供給が促され、ターンオーバーの正常化をサポートされます。
皮膚のターンオーバーは、健康で美しい肌を保つために欠かせない、肌の生まれ変わりの仕組みです。この4~6週の周期で行われるサイクルが乱れると、肌荒れやくすみ、乾燥などさまざまなトラブルの原因となります。
ターンオーバーの乱れを引き起こす原因は、生活習慣の乱れ、ストレス、乾燥、紫外線、加齢など多岐にわたります。しかし、規則正しい生活習慣を意識し、バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動、適切なスキンケア、そして必要に応じて市販薬やサプリメントを使用することで、ターンオーバーの周期を整え、健やかな皮膚を保つことができます。
もしも、セルフケアを試しても肌トラブルが改善しない場合は、専門家である皮膚科医に相談することをおすすめします。